【セミナー】業界交流イベント「Flyers’ Lab #3」をレポート…f4samurai、DeNA、WFSが「神運営」を目指すためのポイントを伝授
グリー<3632>のアプリ開発スタジオ「Wright Flyer Studios」は、12月18日、業界交流イベント「Flyers’ Lab #3」を開催した。
第3回目となる今回は、『アンジュ・ヴィエルジュ』、『オルタンシア・サーガ』、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』の最高マーケティング責任者であるf4samuraiの佐藤允紀氏、『逆転オセロニア』のプロデューサーを務めるDeNAの香城卓氏、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』でプロデューサーを務めるWright Flyer Studiosの野澤武人氏が順に登壇し、「お客さまの心を揺さぶる「神運営」を目指す!~スマホゲームの運営について~」というテーマで講演を行った。
本稿では、当日の様子をレポートしていく。なお、本公演では一部掲載禁止とされていた資料があったため、その点についてはご了承いただきたい。
■「Flyers’ Lab」とは
Flyers(飛行士)たちが、ものづくりにおいて、大空高く離陸するのを夢見て、議論、いじりあい、試行錯誤するLab(実験室)のような場所であってほしい、という想いから命名。あらゆる垣根を超えた学びの場を実現することで、ゲーム業界全体を盛り上げていくことを目的とした業界交流イベントである。
Flyers(飛行士)たちが、ものづくりにおいて、大空高く離陸するのを夢見て、議論、いじりあい、試行錯誤するLab(実験室)のような場所であってほしい、という想いから命名。あらゆる垣根を超えた学びの場を実現することで、ゲーム業界全体を盛り上げていくことを目的とした業界交流イベントである。
●f4samurai
▲f4samuraiの佐藤允紀氏は現在、CMOとしてサービス開発やマーケティングに従事している。
最初に登壇した、f4samuraiの佐藤允紀氏の講演については取材禁止となっていたため詳細なレポートはお届けできないが、「お客様にとっての1番/自分たちにとってのベストを目指す」ことを掲げている同社では、この企業理念がタイトルに反映されている部分も多いという。佐藤氏は、行動指針や社内のチーム体制といった内部事情から、運営のポイントとして「ユーザーへの意識集中」、「ダレないための改善サイクル」、「3年以上の運営を前提としたサービスを設計する」といった面を深掘りして話を展開した。
また、12月3日に開催されたオフラインイベント「f4ファンフェスティバル」を企画したという佐藤氏は、普段は画面を通して触れ合っているお客様と会場で直に接することができたのが非常に良かったと感想を口にした。改めて、日々、お客様に背を向けないようにと心掛けるきっかけとなったとの言葉で講演の締めとした。
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●DeNA
続いて登壇したのは、DeNAの香城卓氏。香城氏は、『逆転オセロニア』の運営が大事にしているポイントとして”コミュニティ”に焦点を当てたゲーム運用についての講演を行った。そのため、ゲームとしての運営ではなく、サービスとしての運営の話が中心となるとのことだ。
▲DeNAの香城卓氏。2011年に入社し、複数タイトルのディレクション・プロデュースを経て、『逆転オセロニア』を企画・開発する。現在はプロデューサーとして同タイトルの事業運用に従事している。
▲事実リリースから11カ月を経て急成長を遂げた『逆転オセロニア』だが、躍進の理由はコミュニティの成長と強い相関があるとのこと。
ここで本題に入る前に香城氏は、今は物事の価値が「集合知」によって作られる時代になっていると話す。例えば、外で食事をする際もレビューサイトを参考にするなど、自分の判断ではなく世の中の集合知に対して自身の判断を預ける傾向にあることはゲームも同様で、コミュニティの中で価値が形成されているとのことだ。こうした分析から、『逆転オセロニア』では”オセロニアン”と呼ばれるプレイヤーたちによる「オセロニアンコミュニティ」をサービスとして大切にしているという。オセロニアン同士の繋がりが作られたことでゲームとしての価値が作られたことが、今の事業成長に繋がっているのではないかと説明した。
では、「コミュニティ」とはどういったグループを指すか。ここで香城氏は、ゲームではよく見られるチーム機能「ギルド」を対比として挙げ、ギルドとコミュニティは似て非なるものであると紹介した。ギルドはシステムやルールを使ってゲーム内で形成される集団のため、集まりは早いが実際にどのような人が所属しているかという部分では雰囲気が掴み辛くなっている。対して、コミュニティは基本的にはゲーム外にある人のグループを指し、強制力がないため少しずつしか形成されないが、リアルやSNS上に存在するためそれぞれの人間性が可視化されやすいといった特徴があるとのことだ。
▲コミュニティでは、「どのような意見が出ているか」という部分が集合知としても可視化されている点が大きな特徴となる。
そうしたコミュニティは、やがて様々な切り口で広がり運営が提供しているシステムの枠を超えて価値を生み出すものになるという。今回挙げられた例の中でも、各自で最大ダメージチャレンジを試みたり、ハッシュタグを使って二次創作を公開したりという点はイメージとして非常に分かりやすいところだろう。
▲今やコミュニティなしには成長できない時代になっていると香城氏は話す。
香城氏はコミュニティが如何に重要なファクターとなるかを述べた後、コミュニティを形成・成長させるための場づくりとしてオフラインとオンラインの両面で行っていると明かす。まずは、主にオフラインでの施策について話を展開していく。
『逆転オセロニア』では、10月~12月の期間、福岡・大阪・仙台・名古屋・札幌・広島・東京の計7箇所で公式オフラインイベント「オセロニアンの宴」を開催。期間中はツアーとしてほぼ毎週巡業しており、場所によって数十名~200人規模で、常に「自分たちが行く」という信念を曲げずに実施してきたという。ここでひとつポイントとなったのは、出演者が中心となるショー形式のイベントではなく、来場者が中心にあるコミュニティのイベントということだと香城氏は話す。そのため、来場者と開発陣が会話できる規模感で実施することが大切であり、オセロニアン同士で交流を育み楽しんでもらう。
続いてはオンラインでの施策について。
▲イベントのお知らせだけでなく、告知に対するプレイヤーの反応や、ゲームとは関係ない話題に関しても丁寧にリプライを送っているのが特徴で、フォロワー数≒アクティブ数のコミュニティを形成できているとのことだ。
▲YouTubeにも担当を立てて情報出しと共にコミュニティを形成している。プレイヤーのアイデアを実際にLINEスタンプに取り入れるなど、声を拾って形にすることが特徴となっている。
また、ここで香城氏よりひとつアドバイスがあり、同一のアカウントを複数のプラットフォームに跨って使用するのではなく、それぞれのプラットフォームに専用の担当を付ける方が、コミュニティ形成には良いとのこと。コミュニティは人に基づく部分があるため、数字としては増えていても実際の参加者(アクティブ)は変わっていないこともあるという。そのため、『逆転オセロニア』ではTwitterとYouTubeの担当を分けているのだと説明した。
さらに、全国大会の中継などを実施しているYouTube LIVEについては、生配信でのコメントにてコミュニティが形成されるため、YouTubeの公式チャンネルとは全く異なるものになるという。扱っているコンテンツが全国大会ということもあり、どんな人が頂上決戦レベルの戦いをしているのかを一緒に観戦することで違ったコミュニティが生まれてくるとの話だった。また、全国大会を中継することでコメントの中で新たな対戦環境の考察が生まれるため、アーカイブではなく配信する方が良いのではないかという話も。
そのほか、配信に特化したアプリとして同社が提供するサービス「Mirrativ」を紹介。プレイヤーが配信を行うことで達成できる連動キャンペーンを実施したり、公式アカウントが放送を見に行ったり、配信者のランキングなども公開している。これによりプレイヤーが初心者プレイヤーに『逆転オセロニア』の進め方を教えるなど、新たな価値が生まれる配信者コミュニティが形成されているとのこと。
こうした経験から香城氏は、コミュニティの場づくりをするためにはニーズに合わせて「いろんな場があること」が最も大事だと語る。いろんな場づくりができることで多種多様なコミュニティが生まれ、ゲームのサービスの価値を広げる結果に繋がるとまとめた。
その他、コミュニティが生まれることの副次効果として、直接コミュニケーションする機会が増えることでプレイヤーの反応がダイレクトに感じられ、どう思っているかが伝わりやすくなるという。画面を通して数字でプレイヤーの増減を確認するのではなく、実際にユーザーの顔を見ることで誠実な姿勢になっていくのだと述べた。
最後に香城氏は、「コミュニティが生まれることで運営の想像を超えた価値が生まれること」、「コミュニティを意識した運営を行うことでプレイヤーと運営が密な関係になり誠実さを持ってサービス運営ができること」などを今回の講演のまとめとして発表した。そして何より「コミュニティは人の繋がりが作り出すものなので、長い時間をかけて少しずつ拡がっていくという認識が重要」ということを伝えて講演の締めとした。
●Wright Flyer Studios
最後に登壇したWright Flyer Studiosの野澤武人氏は、「運営する準備はできているか!?」というテーマで、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』(以下、『ダンメモ』)開発時のエピソードを交えながら講演を行った。
▲2012年にグリーに入社した野澤武人氏は、プロデューサーとして複数のゲーム開発を経て現在は『ダンメモ』のプロデューサーを担当している。
▲2017年6月にリリースされた『ダンメモ』は、リリース後すぐにApp Store売上ランキング(ゲームカテゴリ)でTOP10以内に入るなど、好調なスタートを見せた。直近でもクリスマスイベントを開催しユーザーから好評を得ている(関連記事)。
まず始めに野澤氏は、『ダンメモ』は800万部を売り上げたライトノベル「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」を原作とするIPタイトルであると紹介。アニメ放送なども経て、今、非常に人気が高くこれからも成長を続けるIPであることは間違いないが、現時点で世の中の誰もが知っているタイトルとは言い難いと話す。
今回の講演では、そうした規模のIPを扱うにおいて、限られた時間・限られたリソースの中で如何にして運営に耐え得るプロダクトを生み出すかについて、特に重視した2点「開発体制+α」と「迷わないターゲティング」の話を展開していくとのこと。
現在、スマートフォンゲームの運営は、ゲーム性・演出手法・ビジネスモデル・プロデュースなど、多様な視点が求められ、ハードルは上がり続けていると野澤氏は語る。ひとりのキャパシティでは掌握し切れない広がりを見せていることから、『ダンメモ』では三権分立で開発に臨んでいると体制を明かした。
▲開発当初よりプロデューサーとディレクターに加え、「運営プロデューサー」というリーダーを立て、それぞれ「集客」「開発」「運営」に注力できるよう役割分担をしたと説明。
続いて、こうした開発体制を組むことでどういったメリットが生まれたかの具体例として、バトルユニットの仕様が下記の流れで決められていったと紹介した。なお、先ほども話にあった通り、『ダンメモ』はIPタイトルなので、やはりキャラの豊富さというところがひとつ大きな魅力となっていたという。
▲まずは開発の視点で、原作では戦闘しない神様や街の住人を活躍させるため、冒険者とは別に「アシスト」という枠を作成して非戦闘キャラもアサインできるように。
▲続いて集客の視点で見たとき、アシスト枠に人気キャラがセットされるケースもあるため、アシストに入るキャラがしっかりと目立つようバトル開始時にボイスが聴ける、リザルトでも存在感を出すといった工夫が試みられているという。
▲最後に運営の視点で見たとき、バトルのメインはあくまでも冒険者であり、アシストは補助的な役割となっていたため「アシストキャラが今後も価値を保ち続けられるのか」という不安が挙がる。そこで、演出上の価値は冒険者が担保できていると判断し、アシストには性能UPを大きく寄与することで永続的な成長の軸を増やすことができ、どちらの価値も創出することに成功したと経緯を説明した。
また、ノベルパートに関しても多角的な視点を持ったがゆえの特徴が表れているという。
『ダンメモ』では、「交流パート」ではキャラが動くようになっているが、「ノベルパート」ではキャラは動かず話が展開するようになっている。この結論に至ったのには、それぞれ3者に下記のような思惑があったからだと野澤氏は話す。
▲開発や集客としてはテキストやボイスを大量に実装したいが、運営的な面から考えると容量が重くなってしまい、現実的ではない。そこで、「交流パート」でキャラの表現力を担保しつつ、「ノベルパート」で大量投下と実装工数のバランスを取れるような仕様になっていると紹介した。
こうして、3者が均衡した関係を築いたことで、多角的にプロダクト状況を見極めることができたと野澤氏は振り返った。
続いては「迷わないためのターゲティング」について。今回の開発では、ターゲティングを非常に重視したという。ターゲティングをするためには市場調査が必要となるが、今回はそうした難しい話ではなく、シンプルでも十分開発に役立つ話になっているとのこと。
▲上記3点から得られるインストール見込み数がビジネスの可能性に直結する。
野澤氏は、『ダンメモ』においては、具体的な数値こそ発表できないものの、リリースから半年でユニークのインストール数が当初の見込み数と同等になるところまで伸びていると明かした。ファンにターゲットを絞っても事業が成立することを最初から確信していたからこそ、「ダンまち」を知っている人に喜んでもらうだけで十分と割り切れたことが、その後の開発に影響を及ぼしたという。
▲また、ユーザーを対象に『ダンメモ』に求めるものを調査したところ、世界観を求める意見が多く、バトルにはそれほど票が集まらない傾向となった。そこで、バトルよりも成長に寄せたゲーム性にた。また、男性ファンが多かったことから、男性向けにプロモーションを行っていく方が良いという方向性が決まったとのこと。
なお、同社の掲げるエンジン戦略により、『ダンメモ』は『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)と技術的な基盤を共有している。しかし、完成したゲーム体験は全く違うものに仕上がったと野澤氏は語る。
『アナザーエデン』のバトルは、RPGのコアファンをターゲットにしているため、コマンド選択が必須となっており、前衛・後衛の入れ替えなどによる戦略的な部分が非常に重要なものとなっている。一方、『ダンメモ』は上記のアンケートからバトルより成長に重きを置いた方向性となったため、オート機能が付いていたり、前衛が倒れると後衛が自動で出撃する仕様など、バトルに関してはシンプルで難易度を抑えた遊びやすいものとなった。
▲ターゲットを見据えられたからこそ、迷わずに仕様を調整できたところが開発においても大きなポイントとなったとの話だった。
その他、プロモーションに関しても情報発信や攻略を主とした「ダンまち情報局 オラジオZ」と、ゲームの話は一切せず「ダンまち」ヒロインの2人が配信する「水瀬いのりと大西沙織のPick Up Girls!」など、番組によって役割をはっきりとさせているとのこと。
そうした施策を経てユーザーに調査を行ったところ、「ダンまち」非認知でプレイ継続ユーザーが14.2%、女性ユーザーが27.9%と、元々は狙っていなかった層にも普及していることが伺えたという。この結果から野澤氏は、ターゲッティングを重視したことで、迷いのない開発を実現し、プロダクトとして一貫性のある作品となったとまとめた。また、その成果はユーザーに広く受け入れられる結果となり、IPを知らない人や女性にも受け入れてもらえるものとなったのではないかとして講演の締めとした。
その後は、モデレーターとしてWright Flyer Studiosの下田翔大氏が登壇し、佐藤氏、香城氏、野澤氏の3者による座談会なども行われた。
座談会では、「長期運営を支えるための工夫」や「何をもって「神運営」が実現できていると言えるのか」など3つのテーマで各担当タイトルをベースに話が展開された。中でも、絶対にしないことについては、3者共通で「売り上げのために施策を行わない」という点が共通していたのが非常に印象的なポイントだった。これは香城氏の講演にもあった通り、現在は数字偏重ではなくコミュニティ重視の時代となっているため、売り上げサイクルに追われて無理をしていては本当にやりたいこと、ファンが喜ぶことができなくなり良い結果が出ないということだそう。
なお、「Flyers’ Lab」は第4回の開催も予定されている。日程や登壇者については未定となっているが、決まり次第、下記のページにて情報が公開されるとのことなので、興味がある方はチェックしておこう。
(取材・文 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432
会社情報
- 会社名
- 株式会社WFS
- 設立
- 2014年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 柳原 陽太