【CEDEC 2018】DeNAが「2次元キャラが3次元にやって来る! ~歌マクロスでのAR施策~」で語るAR施策がもたらす最大のメリットとは?


ディー・エヌ・エーは、8月22日から3日間に渡ってパシフィコ横浜で開催された国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2018」(CEDEC 2018)にて、「2次元キャラが3次元にやって来る! ~歌マクロスでのAR施策~」と題したセッションを、開催初日の22日に実施した。

このセッションでは、ディー・エヌ・エーが運営するリズムゲームアプリ『歌マクロス スマホDeカルチャー』(以下、『歌マクロス』)に導入された、"ARモード"がプロモーションの観点から、どのようなメリットがあったのか。また、導入及び運用にあたっての問題点がどこにあり、それをどのように解決してきたかが発表された。

本セッションで登壇したのは、ディー・エヌ・エーの、小野良憲氏と北林達也氏のおふたり。それぞれ『歌マクロス』のアシスタントプロデューサーとディレクターを務めている。


▲小野良憲氏(写真左)と北林達也氏(写真右)。

まずは、セッションを始めるにあたり『歌マクロス』の概要紹介と、セッションのテーマについての解説が行われた。ここで小野氏は、ARの魅力「2次元の俺の嫁が次元に出てくる」ことにあるとアピールする。

 
▲実際に、ゲーム内に導入されているARモードの使用例も公開した。『マクロスΔ(デルタ)』のヒロインのひとり、フレイアがダンスをしている。

そもそも、『歌マクロス』にARモードが導入された経緯は、「歌姫のダンスを見たい」という、ユーザーの要望に応えるためだった。本作では、リズムゲームをプレイしている際に、歌姫たちがダンスをしているが、演出のためにカメラの位置が頻繁に変わるため、ダンスの細部や全体像を確認できなかった。

その需要を満たすための機能を検討した際に、他のゲームとの差別化を図るため、個性的なプロモ施策が行えるARに目を付けた。




ARモード採用のメリットとして、小野氏は4つのポイントを挙げた。拡張現実としての元々の効果に加えて、SNS投稿機能との相性、プロモーションとの親和性といった面でも大きな効果が期待できるというところから、AR実装に本格的に乗り出した。



▲ちなみに、現在はARモードとは別に、リズムゲームをプレイせずにダンスだけを見れる"S-LIVEモード"も実装されているが、カメラアングルは変えられないため、「ダンスを覚えたい」、「色々なアングルから見たい」という要望に応えるためには、やはりARモードの方が適している。

ARモードを実装するにあたり、開発チームはARモードへの誘導方法に注目したようだ。『歌マクロス』では、ARを単体のプロモーションアプリにするのではなく、ゲーム本体に追加実装している。これはゲーム起動の契機にするためだ。

しかし、ARモードをタイトル画面から直接アクセスできるようにしたことで、ゲーム起動時のダウンロードや、チュートリアルといった手順を踏まずにARが楽しめるようになっている。


▲しかし、完全にゲームと切り離されているわけでなく、ARマーカーの読み込みによってゲーム内の称号が手に入るといった連動も行われる。発表では言及していなかったが、こういった連動の簡単さも、ひとつのアプリに機能が集約されているからなのだろう。

ARの代表的な問題点として、マーカーの読み込みがスムーズにできないといったものがある。読み込みにはどうしても時間がかかってしまうため、ユーザーが不安になり、カメラを動かしてしまい、読み込みに失敗してしまうという悪循環がどうしても発生してしまう。

そこで、『歌マクロス』のARモードでは、マーカーの読み込みがスタートすると、認識中アイコンが表示されるようにすることで、ユーザーの不安を払拭した。認識できていない場合にも、マーカーを探すように注意を促すことで、ユーザビリティを向上している。


▲カメラ制御については、カメラとオブジェクトの衝突を防ぐためのアラート。下着を覗くような、極端なローアングルにカメラが回り込むと、モデルを一時的に消すようにするといった機能がついている。

ここからは、ARモード実装以降に行なわれた、AR施策の実施例と、そこで判明した問題点に話題が移っていく。最初にAR施策が実施されたのは、『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』公開の際に、映画前売券の販売サービスを行うムビチケとの連動だ。

これは、購入したムビチケカードに描かれたイラストを、『歌マクロス』ARモードで読み込むと、フレイアがダンスを披露してくれるというもの。好きなところでダンスを一時停止し、撮影した写真をSNSに投稿できた。

これの施策の成功を機に、スカイツリーで行われた『マクロス』35周年イベント「マクロス BLUE MOON SHOW CASE IN TOKYO SKYTREER」や、ライブ会場、AnimeJapan2018の株式会社サテライト出展ブースなど、様々なイベントでAR施策を展開した。Blu-rayやプラモデルといったグッズの特典としても使われている。


▲スカイツリーのイベントでは、パンフレットやカフェのコースターのイラスト、会場に設置されていた等身大パネルがマーカーとして読み込めた。


▲『マクロスΔ』に登場する音楽ユニット、ワルキューレの3rdライブ「ワルキューレは裏切らない」では、等身大パネルを会場の外に設置。会場内ではないので、チケットを持っていなくても撮影できた。

イベントプロモーションの施策として、大いに機能してきたARモードだが、実施してから浮上してきた問題点も少なくはなかった。スカイツリーで設置した等身大パネルは、ライティングが強すぎるためにパネルが光を反射してしまい、イラストを正しく認識できなくなるという問題が発生した。



これらの対策として、設置前に会場の環境を徹底的にチェックすることが重要となる。マーカーが床から高すぎれば、モデルも床から浮いてしまうし、カメラとマーカーの距離を十分にとるための広さがなければ、マーカーの読み込みが上手くいかなくなる。



マーカーのデザインにも注意が必要となる。カフェで配布されたコースターは、既存のイラストを使用しているため、スカイツリーのイラストを加えることで差別化を図った。しかし、このスカイツリーのイラストが全てのコースターで同一のものだったため、誤認識が増えてしまう結果となった。



AR用に新たなイラストを逐一用意するわけにもいかないので、必然的に既存のイラストをマーカーとして使用することが多くなる以上、意図していないものがマーカーとして機能してしまうこともある。


▲手前の等身大パネルが、本来意図的に置いたマーカーだったが、その後ろにあるイラストを別のマーカーと誤認識してしまった。

技術的な面の問題として、ローアングル対策をしたことにより、ステージ上に表示させるのが難しくなってしまったという点がある。ステージライブの様な形式でのAR施策を考えたことがあるそうだが、この問題が発生し、今のところは実現には至っていない。



『歌マクロス』のダンスは、フルモーションキャプチャーによる激しいものになっている。それが作品の魅力となっている反面、ダンスをそのままARに落とし込んでしまうと、モデルがマーカーから大きくずれて、それをカメラで追いかけたときにマーカーがカメラからはずれてしまうといった問題も発生した。



イベントにおける等身大パネルの展示は、AR展示だとわかりにくいことも問題にあげられた。AR展示をしているという旨を記載したポップを用意したり、スタッフが実演するといった工夫も必要となる。



これらの問題以外にも、ゲーム中のダンスでは、モーションが完全につながっていなくても、カットの切り替えで辻褄を合わせられたが、ARでは全体を表示するためにリテイクが必要となる。等身大パネルなどの大きなマーカーは、QAチームに持ち込んでデバッグを行なうのに手間がかかるといった、工数に関するデメリットも発生する。


▲スカイツリーで展示した巨大な壁面イラストも、同じものをQAチームの部屋に貼りつけてデバッグが行われていたようだ。

最後に、ここまでの内容を踏まえつつ、AR施策のメリットとデメリットをまとめた。CGのモデルを現実に落とし込むという性質上、3Dタイトルとの親和性が高い。プロモーションにも大きな効果を発揮することは、『歌マクロス』の施策でも証明されている。

ネガティブなポイントとして、マーカーに厳格な独自性を持たせることが難しいということが、この施策の難しさであると示唆した。画像さえ同じであればマーカーとして機能してしまうので、ネットでマーカーのイラストを配布されてしまえば、現地に行かなくてもARだけを見ることができてしまう。

しかし、それは悪いことだけではなく、マーカーイラストがネットに流れてしまったとしても、それをもとにARを利用する人が増え、SNSにまた拡散されるのであれば、それもプロモーションの一環と考えられると締めくくった。



セッション終了後には、余った時間を使って質疑応答も行なわれた。その内容を紹介していく。
 
Q.ARマーカーの認証には何を使っていますか?
A.実装の都合上分けざるを得なかったので、OSによって使い分けています。Android向けはVuforia、iOS向けはソニーさんのSmartARを使っています。

Q.ARマーカーによるプロモをゲームを連動させて、特別なアイテムの配布はしていますか?
A.ゲームの中で特殊なアイテムを配布はしていません。ゲームの進行に影響しないような称号の配布をしています。

Q.ARを導入したことで、ユーザーが増えるといった効果はあったと言えますか?
A.測定が難しいので断言はできませんが、施策を実施する前日と当日の比較によって一定量の効果はあったと思っています。どちらかと言うと、イベントの盛り上げやブースへの誘導を主な目的としていて、新規ユーザー獲得は重要視していませんでした。

Q.複数の端末でARの同期は可能ですか?
A.ステージダンスの際にアイディアとしては出てきて、検証もしました。同期するためにサーバー側からの調整なども発生するので、現状の実装は断念しています。

Q.ARモードを実装する際、どのように周知させたんですか?
A.この機能が入るということは、ゲームの公式Twitter、公式LINE、プレスリリースといったものを活用しています。さらに、版元の協力も得て告知を行っています。

以上で、セッションの内容は全て終了した。『歌マクロス』におけるAR施策は、ゲームのユーザー増加よりも、イベントのプロモーションを通して、『マクロス』というIPの成長を狙ったものだった。正確な数字としてはわからないが、過去のイベントが盛況であったことを考えれば、プロモーションとしてのARの活用は大成功だったと言えるだろう。

大型のAR特有の問題をクリアしながら、あらゆるイベントでAR施策を成功させてきた『歌マクロス』。このセッションの中では、ARの同期やステージイベントなど、今は断念しているという施策に関する発言もあった。それらの問題をクリアし、更なるAR施策を打ってくるのか。今後の動向も気になるところだ。

 
(取材・文 ライター:宮居春馬)


 
■『歌マクロス スマホDeカルチャー』
 

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会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
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