【第3回 FGO PROJECT対談】情報を届けてお客様に喜んでいただけるまでがディライトワークス「宣伝」の使命…“FGOのある生活”を提供するために
今や国内だけでもダウンロード数が1400万を超えるスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。ノーツ、アニプレックス、ディライトワークスからなる”FGO PROJECT”が手掛ける同タイトルは、今やその活躍を世界へと広げ、これまでに中国、香港、台湾、マカオ、韓国、北米、オーストラリア、シンガポール、フィリピン、ベトナム、タイで配信され、全世界3000万ダウンロードを突破した。
さらに近年は「“FGOのある生活”を、デザインする」というコンセプトを基に、PlayStation VR専用タイトル『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』(以下、『FGO VR』)や、Fate/Grand Order×リアル脱出ゲーム「謎特異点Ⅰ ベーカー街からの脱出」、セガと共同開発の『Fate/Grand Order Arcade』(『FGO Arcade』)、ボードゲームである『Fate/Grand Order Duel -collection figure-』(以下、『FGO Duel』)など、スマホゲームの外へと飛び出した展開でユーザーに驚きを与え続けている。
今回、そんな『FGO』の企画・開発・運営を手掛けるディライトワークスから現場のリアルな声を届けるべく、FGO PROJECT クリエイティブプロデューサーの塩川洋介氏にインタビュアーを務めていただき、全4回に渡ってFGO PROJECTメンバーとの連載対談企画を実施。
第3回となる今回は、同社で宣伝を務める大畑美帆氏を招き、FGO PROJECTに関わることになったきっかけや日々の業務内容、TYPE-MOONやアニプレックスとのやり取り、プロジェクトに掛ける想いについての話を伺ってきた。
ディライトワークス株式会社
クリエイティブオフィサー
FGO PROJECT クリエイティブプロデューサー
大阪成蹊大学 芸術学部 客員教授
塩川洋介氏
ディライトワークス株式会社
宣伝
大畑美帆氏
※なお、大畑氏の本記事中での写真は「マンガで分かる!Fate/Grand Order」シリーズに登場する「女主人公」のぬいぐるみが代役に。
■『FGO』第1部の「終局特異点」に感銘を受けディライトワークスへ
塩川洋介氏(以下、塩川):まずは自己紹介をお願いします。
大畑美帆氏(以下、大畑):ディライトワークスで宣伝を務めている大畑と申します。入社は2018年1月で、最初の業務は2018年4月1日に配信した『Fate/Grand Order Gutentag Omen Adios』(以下、『FGO GOA』)の宣伝担当でした。今もFGO PROJECT関連の宣伝を担当しており、直近ではFate/Grand Order×リアル脱出ゲーム「謎特異点Ⅰ ベーカー街からの脱出」や、『FGO』で第1部に登場した概念礼装のイラストを収録した画集『Fate/Grand Order Memories Ⅰ 概念礼装画集 第1部 2015.07-2016.12』(以下、『FGO Memories Ⅰ』)、全国のゲームセンターにて稼働中の『Fate/Grand Order Arcade』の宣伝に携わっております。
また、7月28・29日に行われた『FGO』3周年記念の大型リアルイベント「Fate/Grand Order Fes. 2018 ~3rd Anniversary~」(以下、「FGO Fes. 2018」)では、アトラクションとして実施したFate/Grand Order×リアル脱出ゲーム「謎特異点Ⅰ ベーカー街からの脱出」出張ライト版「新宿のアーチャーからの挑戦/シャーロック・ホームズからの挑戦」も担当しました。
塩川:ディライトワークスに入社したきっかけを教えてください。
大畑:前職はゲームメーカーでコンシューマーゲームの宣伝担当をしていたのですが、担当していたタイトルのプロモーションが一段落したことから、次の目標や自身のキャリアアップについて考えていたんです。そんなとき、『FGO』で実施されていた第1部の「終局特異点」の展開を目の当たりにし、お客様の反応や盛り上がりをユーザーとしてリアルタイムで体感しまして、「次は『FGO』を仕事にしたい!」と思いました。
塩川:ユーザーとして『FGO』を遊んでいたことや、仕事上のタイミングがきっかけになったわけですね。
大畑:はい。
塩川:これまで担当されてきたプロジェクトについては先ほどご紹介いただきましたが、宣伝業務として日々どのようなことをされているのでしょうか。
大畑:ひとえに”宣伝”と言っても業務内容は、会社はもちろん担当するプロジェクトによっても異なります。ただ、ディライトワークスに関して言えば「お客様に直接お届けする“情報”を作成して発信すること」に尽きると思います。
例えば、「FGO Fes. 2018」のようなリアルイベントの企画や、お客様に情報をお届けするためにイベントやステージ、インターネットの生放送番組を企画・制作したりします。また、公式サイトやプロモーション映像など宣伝関連の制作物のディレクションなどの業務があります。プロジェクトの企画段階から宣伝としての目標地点を設定し、作品の魅力をどのようにお客様にお届けするかを考え宣伝プランを立案。そして、その施策を実行することが宣伝の業務になります。
塩川:ちなみに、具体的に大畑さんはどのような作業を行われているのですか?
大畑:行程的に述べると、まずは社内でプロデューサーやディレクターから「こういうゲームを作ろうと思います」という話が挙がった際に、そのゲーム自体がどういったものか、どういう想いで制作されているか、お客様にどういった体験をお届けしたいのかということをヒアリングすることから始まります。そこからゲームのどの部分に魅力があるかを分析し、どのようにお客様に情報をお伝えすればより発表自体を楽しみにしていただけるかを考え、宣伝プランを提案し、その施策を実施していくという流れになります。なお、FGO PROJECTの宣伝プランニングを行ううえでは、TYPE-MOONさんに確認や監修をしていただきながら進行しています。こうして、公式サイトや公式Twitterの更新を行ったり、イベントやステージの企画・制作を行ったりしています。
具体的な作業としては、『FGO GOA』を担当していた際のある1日を例に挙げると、午前中に4月1日の配信に向けてどの情報をどういった順番で公開していくかというプランニングをまとめた資料を作成した後、プロデューサーやディレクターとのミーティングを経て展開内容のすり合わせを行い、休憩を挟んで午後からは具体的な施策を立案し、その後は制作物に着手したり、本作でイラストを手掛けてくださったリヨさんへお送りするプロモーション用イラストの依頼内容をまとめたりしています。これは一例ですので、まったく同じような作業をしている日はないです。
塩川:いろいろな作業が並行して動いているというイメージでしょうか。
大畑:前職までの経験では、一つのタイトルを集中して担当することが多かったのですが、業務内容が日によって大きく異なるというのは様々なジャンルにわたって多数のプロジェクトが同時進行しているディライトワークスならではの特徴といえるかもしれません。
■宣伝の役割は、満足いく“FGOのある生活”を届けること
塩川:大畑さんは、これまでもゲーム業界で宣伝業務に携わられていたわけですが、このように他社とディライトワークスで異なる特徴は他にもありますか?
大畑:ディライトワークスでは、FGO PROJECTがお客様に“FGOのある生活”を届けようという想いのもとさまざまなジャンルに幅広く展開しているので、『FGO』のみならずリアル脱出ゲームやアーケードゲームなど過去に担当をしたことがないプラットフォームや作品までさまざまなタイトルの宣伝業務を、同時期に複数並行して担当できるという点が大きく異なります。
先ほどお話したリアル脱出ゲームや『FGO Memories Ⅰ』、『FGO Arcade』がその例にあたります。これまでゲームメーカーに勤めてきて、まさか画集の宣伝を担当することになるとは思いもしませんでしたが、新しいチャレンジとしてとても勉強になりました。こうした経験が自分のキャリアにとってもプラスになっているという印象があります。
塩川:実際に入ってみて、『FGO』ならではの特徴や入社前の印象から変わったところなどはありますか?
大畑:もともと『FGO』というコンテンツに関しては、既に多くの方に知っていただけている状況でした。では、その中で私がFGO PROJECTの宣伝として何を頑張っていかなければならないのかと考えていたとき、Fate/Grand Orderマーケティングディレクターである石倉(石倉正啓氏)の考えや想いを聞いて、FGO PROJECTの宣伝で心がけること、大事にしたいことが自分の中でより明確になりました。FGO PROJECTを通じて「お客様にもっと『FGO』を楽しんでいただき、満足いただけること」。宣伝は、そのための力添えとなることだと感じました。
宣伝における目標は会社によっても異なるとは思いますが、FGO PROJECTは宣伝の主眼を売り上げに置くのではなく、お客様がどれだけ喜んでくださっているか、楽しんで話題にしてくださっているかということを大切に考えているところが印象的だと感じます。
塩川:そうした想いを感じた宣伝施策はありますか?
大畑:冒頭にも話題にでた『FGO GOA』がまさにそのケースでした。そもそも、1日限りのゲームをリリースするというのは普通の会社では中々できないことだと思います。ですが、ディライトワークスでは「お客様に楽しんでいただきたい」という想いによって、多くのスタッフが協力しあい、全力で取り組みます。1日限りではありましたが、お客様に楽しんでいただければ、これほど嬉しいことはありません。
塩川:今、大畑さんの話を聞いていて、リアル脱出ゲームを開催した際に、開催地を回って会場でトークイベントを行ったときのことを思い出しました。そのとき、SCRAP代表の加藤さんから「『FGO』はここまでやるんですね」と言われたんです。普段、自分たちとしては当たり前に感じていることなのですが、数十人から百人規模のイベントにも直接足を運んでトークイベントを開催して、お土産をご用意するということ。これはひとえにお客様に喜んでいただきたいという想いからです。こうした積み重ねをこれまで続けてきたのだなと感じました。
大畑:セガさんと『FGO Arcade』についてお話していたときのことなのですが、宣伝としてお客様に単に情報をお届けするだけでなく、ゲームへの想いを継続して持っていただきたけるよう、ゲームの外の部分も含めた支援となるようなエンターテインメント形式で情報をお届けしたいという想いからファンミーティングが実現したというエピソードもあります。
塩川:協業している会社というところでは、TYPE-MOONさんの印象はいかがでしょうか。
大畑:リアル脱出ゲームを作っていたときの話なのですが、SCRAPのディレクターさんも物凄く『FGO』が好きで、こだわりを持って制作されていたので、ギリギリまでクオリティを高めたいとなりました。そうすると、台本が完成してから奈須さんの監修を短期間でお願いするとことになってしまったことがありました。そのような状況の中でも『FGO』や関連する作品を遊んでくださるお客様に、よりよいものをお届けしたいということでご対応をいただけた奈須さんをはじめTYPE-MOONのみなさんには本当に頭が上がりません。
また、台本は監修前と監修後に私も内容を確認しているのですが、監修を経て返ってきたものはやはり『FGO』らしさが増しているんです。それを見て「TYPE-MOONさんと一緒に作り上げるからこそ、すべてのFGO PROJECTが『Fate/Grand Order』で在れるんだ」と改めて感じました。そうした“ものづくり”を目の当たりにできる環境にいることが幸せだと思いました。
塩川:FGO PROJECT において、宣伝業務はどのような役割を担っていると思いますか?
大畑:我々はお客様に情報をお届けするだけでなく、その情報からどうやって『FGO』をもっと楽しんでいただけるかを考えています。
情報は宣伝を通じて届けられることが多いです。例えば、リアル脱出ゲームや『FGO Memories Ⅰ』など、「事前に知っていたら欲しかったのに、気付いたときには売り切れていた」となると、お客様に満足いただける“FGOのある生活”をご提供することができません。ですので、様々な媒体を通じてお客様に情報をお届けし、“FGOのある生活”を楽しんでいただけるためのお手伝いができればと思っています。
■歓喜の瞬間から苦労話まで、宣伝業務のやりがいとは
塩川:宣伝の仕事をしていてこれまで1番嬉しかった瞬間を教えてください。
大畑:『FGO GOA』をリリースし終えた瞬間です。私自身、入社直後ということもあり、右も左も分からない中で周りのスタッフに本当に助けてもらいました。特に、スマートフォンゲームはコンシューマーゲームと違って、AndroidとiOSで配信タイミングに差異が生まれる可能性もあるので一斉にリリース告知ができません。そうした条件がある中で、いくつも情報発信のパターンを作り、発信方法に不備がないかを何度も確認して当日のリリースを迎えました。結果、多くのお客様にお届けできたということがすごく嬉しかったです。リリース後にはたくさんのお客様がゲームの機能を使って撮られて写真をSNSにアップしてくださり、そうした光景を見ていたら喜びと安堵で力が抜けました。
塩川:では、1番大変だったという宣伝業務はありますか?
大畑:大変だったのはリアル脱出ゲームです。先ほどお話した『FGO GOA』も大変ではありましたが、これまで担当してきた「ゲーム」という領域での知見がありました。しかし、イベントや公演形式の宣伝を担当するのは今回が初めてだったので、最初のうちはどのように情報をお届けするのが良いのかという部分で悩みました。その後、塩川さんから「このリアル脱出ゲームは、FGO PROJECTのひとつとして『FGO』のようにお客様に楽しんでいただきたい」という言葉を聞いて「イベント・公演といった形であるものの、ゲームの『FGO』と同じように実施すればいいんだ」と考えられるようになり、宣伝のプランニングを進めることができました。
塩川:ご自身の仕事に対してこだわっている部分を教えてください。
大畑:宣伝の仕事をしていると、公式サイトやプロモーション映像、店頭販促物など、製作物のディレクションを行う機会が数多く訪れます。その中で、絶対に大切にしようと思っているのは「ゲーム制作者の方々が、どういった気持ちで、お客様にどのような体験を届けたくてこの世界観やゲームを作ったのか」ということの“芯”をぶらさないことです。
例えば、広告やプロモーション映像などの宣伝のクリエイティブがぶれてしまえば、ゲームの魅力を誤ってお伝えすることになります。その状態では、作品を遊んでいただいたお客様に「思っていたものと違う」とゲーム自体の印象を損ねてしまうことにもなりかねません。しかし、我々が制作者の想いをしっかりと理解できていれば、ゲームそのものと同じ情熱を持ったものをお客様にお届けすることができますので、「作った方の想いやこだわりをぶらさずお客様にお届けする」というところを最も大切にしています。
■最も必要なのは何にでも興味を持てる”好奇心”
塩川:では、ここからは会社についても伺っていきたいのですが、大畑さんから見てディライトワークスはどのような会社でしょうか。
大畑:仲間に対して“思いやり”をもった人が多い会社です。困ったときに助けてもらえることも多く、ありがたい環境でのびのびと働いています。
あと塩川さんからは「自分の仕事のひとつは、関わってくれる人たちに少しでも多くのチャンスを与えること」というお話を聞いていました。「だから、こんなにも我々にチャンスが巡ってくるんだ!」と思います。これまでの経験に関わらずリーダーを任せてもらえるのは他の会社では中々ないことだと思います。自分が好きなことに挑戦できる自由度の高さ、はディライトワークスで働く魅力のひとつだと思います。
塩川:では、そんなディライトワークスの宣伝担当というのは、どのような人が向いているのでしょうか?
大畑:何にでも興味を持てるという好奇心の強い方にとっては魅力的な職場だと思います。日々、新しいプロジェクトが発足しており、それに対して新たに宣伝の担当者も着いていますので、身軽で好奇心が強いというのは大事です。
塩川:大畑さん個人としては、今後どのように働いていきたいのでしょうか?
大畑:自分が今後どうなりたいかという質問に対しては、「ありません」というのが私の素直な答えです。ゲーム業界に長く携わっていますが、根底は好きな作品の力になりたい、という気持ちで働いているので、自分がどうなっていきたいという考えではなく、今後も自分の好きなタイトルの力になることができたらそれだけで幸せだと思っています。
塩川:では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
大畑:私は元々コンシューマーゲームがメインの会社に長く勤めていたのですが、そこから転職をするという話をした際、周りからは「え!スマートフォンゲーム中心の会社に行くの!?」と驚かれることが多かったです。確かにビジネスモデルやプラットフォームの違いはありますが、実際に中に入ってみて感じたのは、ものづくりにおいてお客様にコンテンツをお届けする気持ちには何も差がなかったということです。実際、私もリアル脱出ゲームや『FGO Memories Ⅰ』などの宣伝を担当させていただきましたが、元々エンターテインメントが好きだったということもあり楽しくお仕事ができました。これはエンターテインメント業界全般においても言えることだと思いますので、例えば今はアニメや漫画の業界に在籍しているという方も、エンターテインメントのコンテンツが好きであれば一緒に楽しく働ける環境だと思います。
塩川:本日はありがとうございました。
【バックナンバー】
・【第1回 FGO PROJECT対談】塩川氏が「プロジェクトマネージャー」の戸田氏にインタビュー…チームを支える”縁の下の力持ち”の役割とは
・【第2回 FGO PROJECT対談】ディライトワークスの「広報」は本も制作する!?…メディアを通じた情報伝達の醍醐味も
(取材・文 編集部:山岡広樹)
(撮影:藤井洋平)
(撮影:藤井洋平)
会社情報
- 会社名
- FGO PROJECT
会社情報
- 会社名
- ディライトワークス株式会社
- 設立
- 2014年1月
- 代表者
- 代表取締役 庄司 顕仁