【LINE QUICK GAME特集③】『にゃんこ防衛軍』に見られるポノス特有のアートワークとGame Closureのメッセンジャーゲーム開発力を大解剖
LINE<3938>が展開する新たなゲームサービス「LINE QUICK GAME」。ネイティブアプリとは異なりHTML5で開発が行われているため、「LINE」上で即座にゲームがプレイでき、大容量のアプリインストールやダウンロードが発生しない、手軽さが最大の売りとなるサービスだ。
9月18日からは、広告動画やAndroidユーザー向けの課金システムを追加し、いよいよ正式オープンとなった。現在は、『LINEで発見!! たまごっち』や『探検ドリランド ブレイブハンターズ』、『釣り★スタ QUICK』、『LINE みんなでクイズ』など、既に8タイトルを配信している。そこで、Social Game Infoでは、LINE QUICK GAMEに携わる方々を対象に、全6回に渡ってインタビューおよび対談を実施。
第3回となる今回は、「LINE QUICK GAME」プロデューサーの中田陽平氏にインタビュアーを務めていただき、『にゃんこ防衛軍』を制作する、ポノス 代表取締役の辻子依旦氏、Game Closure(ゲームクロージャー) CEOのマイケル・カーター氏を招いて、対談形式でお話を伺っていただいた。
ポノス 代表取締役
・辻子依旦氏(写真右)
Game Closure CEO
・マイケル・カーター氏(写真中央)
「LINE QUICK GAME」プロデューサー
・中田陽平氏(写真左)
■”横スクロールディフェンスゲーム”から”縦スクロールシューティング”へ
中田陽平氏(以下、中田):「LINE QUICK GAME」連載企画の第3回となる今回は、『にゃんこ防衛軍』をディレクションするポノスの代表取締役・辻子さん、開発を担当するGame ClosureのCEO・マイケルさんにお越しいただきました。まずはお二人の自己紹介をお願いします。
辻子依旦氏(以下、辻子):ポノスは、28年前の1990年に父が創業いたしました。私自身は8年前からジョインしていて、2012年にスマートフォン向けアプリのディフェンスゲーム『にゃんこ大戦争』が生まれて今に至ります。
マイケル・カーター氏(以下、マイケル):Game Closure(GC)の創設者兼CEOのマイケル・カーターです。GCを創立する前はHTML5のWebSocketというプロトコルの作成者でした。これは、世界中の何十億人もの人々が毎日使っている現代のインターネットの基本的なビルディングブロックであり、フォーチュン誌が毎年1回発表している、世界中の会社を対象とした総収益ランキングの上位500社のうち90%以上が使用していました。
さらに、初期段階の資金調達として、200以上のスタートアップ企業に直接助言をしたり助けたりしました。これらの企業は現在までに3億ドル以上を調達しています。また、スタンフォード大学出身者による、スタートアップを支援するために組織されたStartXの戦略アドバイザー、非公開VCファンドの創業者でもあります。
中田:そもそも、『にゃんこ防衛軍』の企画が発足したのは、弊社が「LINE QUICK GAME」を立ち上げることが決まった際に運営コンテンツを含めパートナーを探していたことに始まります。
マイケル:「LINE QUICK GAME」の話を聞いたとき、Game Closureでは既にFacebookさんとパートナーシップを組んで『Ever Wing』というインスタントゲームをリリースしていてHTML5での開発経験もありましたので、すぐにパートナーに立候補させていただきました。
中田:『Ever Wing』は素晴らしいタイトルですし、我々としてもその時点で一度は『Ever Wing』を「LINE QUICK GAME」で配信しようかと考えたのですが、より国内に向けたタイトルを作りたいという想いから、ポノスさんの「にゃんこ」シリーズで新タイトルを開発するというのはどうだろうかと提案させていただいたんですよね。
マイケル:はい。日本市場でサービスを展開することにおいて我々はまだ駆け出しですので、日本ではどういったキャラやストーリーが受け入れられるのか、まずは『にゃんこ大戦争』をプレイして理解を深めようとしました。その際、『にゃんこ大戦争』にはアメリカでは見られない非常にユニークなアニメーションやキャラの深みがあると感じたのです。また、社内には元々『にゃんこ大戦争』が大好きな開発者もおりましたので、是非進めましょうということで改めてLINEさんからポノスさんにお話を繋いでいただきました。
中田:ちなみに、日本の中に数あるIPの中から「にゃんこ」を選んだ理由は、Game ClosureさんがこれまでFacebookでサービスを展開されてきたご経験から、ユーザーに対して画像と共にメッセージを送る場面が多いという話を聞いていたからです。繰り返しメッセージが届いてもお客様に受け入れていただける世界観やイラストを考えたとき、「にゃんこ」の世界観はLINEのユーザー層に凄くマッチしているのではないかと思いました。
辻子さんとしては、弊社が最初に「LINE QUICK GAME」の提案したときはどのように思われましたか?
辻子:我々としても、「LINE」でサービスを展開したいという想いは持ち続けておりましたし、「LINEで何ができるだろう?」と模索している中でご提案をいただけたのでありがたかったです。原作の『にゃんこ大戦争』は横スクロールのタワーディフェンスゲームになりますが、「LINE QUICK GAME」のお話を最初に伺ったとき、「にゃんこ」の世界観を活かしてさらに手軽に遊べるものが作れるのではないかという印象を受けました。
マイケル:カジュアルという意味では、原作で見られる横スクロールのタワーディフェンスから、縦スクロールのシューティングに変更したのは非常に良いアイデアでした。
中田:そこはやはり『Ever Wing』があったからこそで、これをさらに日本向けにカルチャライズできないかと考えた結果ですね。縦スクロールシューティングという新ジャンルへの挑戦に関しては、ポノスさんの中で懸念されることなどはありましたか?
辻子:弊社としても、これまでと違う形でキャラクターを展開して今までリーチできていなかった層にもリーチしていきたいと考えておりましたし、国内で多くの方が使用しているLINEというコミュニケーションツールで隙間時間を使ってプレイするという形を考えた結果、今回の選択に至りました。なので、懸念というよりは純粋にどういったものが完成するかという興味の方が強かったです。
■”HTML5”の先駆者Game Closureの技術力とは
中田:HTML5での事業展開についてはどのようにお考えでしょうか?
辻子:カジュアルゲームとは相性も良いので前々からやってみたいと思っていました。ただ、新しい技術になりますので「ノウハウがない」、「エンジニアがいない」、「何から始めればよいか分からない」という課題も同時に存在していたんです。そこに今回、経験豊富なGame Closureさんとタッグを組んで、互いに足りないところを補い合いながら開発を進められるということで不安を払拭できました。
マイケル:確かにHTML5は全く新しいテクノロジーになります。例えば長いアニメーションもスムーズに動かすことができたりと、これまでにはなかった技術で、開発に多額の投資が行われています。我々は、ゲームデザインに関して、既にあるテクノロジーよりも野心的なゲームを作ろうとしており、それを第1に優先しています。そのため、『にゃんこ防衛軍』には新しいアニメーションを含め様々な機能を盛り込んでおりますので、ネイティブアプリと比較してもクオリティの高い作品に仕上がっています。HTML5でこれを実現するには多くの条件を満たさなければいけなかったため、大きな努力した点でもありました。
中田:具体的にはどういった技術が取り込まれているのでしょうか?
マイケル:我々はネットワークテクノロジーに関する企画を10年以上手掛けていたため、HTML5の技術的な知識を所持していました。先に説明しておくと、HTML5で最も特徴的なのは、これまでのようにダウンロードやインストールが不要で、ネット上でデータをダウンロードしながらゲームを遊べるストリーミングサービスであるという点です。
今までのネイティブアプリとは異なり、ゲーム自体は非常に小さなスペースにダウンロードされており、ユーザーは新しい機能を使用する度にプログラムコードをダウンロードすることになります。こうした造りは今までになく、その中ですぐにゲームが遊べるよう、上手く動かすための技術などが取り入れられています。
中田:マイケルさんからは技術的な側面からお話いただきましたが、アート面に関して辻子さんから力を入れた部分を教えていただいてもよろしいでしょうか。
辻子:『にゃんこ大戦争』を担当しているアートディレクターやデザイナーが、本作『にゃんこ防衛軍』のアートも担当しています。彼らが生み出す世界観をDNAとして周りが少しずつ汲み取っていくことで「にゃんこ」の独特な世界が作り上げられているんです。
「にゃんこ」にはまだ色々な可能性が秘められていると考えておりますし、実際にネイティブアプリ以外の展開もさせていただいており、今回の「LINE QUICK GAME」も含めて各所で新しい「にゃんこ」の世界を作ることができるように尽力しています。
中田:今回の座組として、企画や仕様開発をGame Closureさん、アートやゲームシステム設計をポノスさんにご担当いただいたのですが、ご提供いただいたものからこだわっておられることがひしひしと伝わり、熱意を感じられたのは非常に有り難いところでした。
ちなみに、『にゃんこ防衛軍』というタイトルはどのようにして決まったのでしょうか?
辻子:ネーミングに関してはアートディレクターが発案し、スタジオ長が承認しました。誰が1番面白い案を思い付くか、常に社内で大喜利が行われています(笑)。
中田:両社がタッグを組むのは今回が初になるのですが、お互いの印象はいかがでしょうか?
マイケル:ゲーム開発に対して、クオリティの高いものを目指しているという姿勢を感じました。また、メッセンジャーゲームに関してはクオリティが高いだけでなく、新しくてこれまでとは異なるゲームを作らなければなりません。そうしたところで新たなユーザー体験を届けるために、我々としては先ほどもお話した通りユニークな機能を盛り込みました。ただし、これはゲームの仕組みだけで成し得ることではなく、コンテンツが伴わなければ意味がありません。そういった意味で『にゃんこ防衛軍』はキャラや音を含め非常にユーザーから愛されているタイトルです。我々は常にゲームとテクノロジーを融合させることを中心に考えてきた会社ですので、こうしてキャラにこだわっておられるというところは学ぶところが多かったです。
辻子:ポノスとしては、そもそも海外企業と共同開発をすること自体が初めてになるのですが、よく挙げられる言語や文化の壁を感じさせない魅力がある方々だと感じました。また、HTML5に関してはまだまだ安定した技術を供給できるところが少ないと思うのですが、その点、Game Closureさんのエンジニアリング能力は非常に優秀です。「LINE QUICK GAME」のテスト段階の検証でも最初から安定していて、バグチェックやQAにも問題がなかったことから改めて業界の先駆者だということを思い知らされました。
■メッセンジャーゲームは友だち招待で続々と広がる
中田:そんな『にゃんこ防衛軍』は7月30日からサービスを開始したわけですが、完成した作品は我々から見てもゲームの仕組みとキャラが非常にマッチしていると感じました。
ゲームの仕組みの部分では、それを裏付ける要素として友人招待で遊んでいただけるケースが非常に多いというデータがあります。この辺りは、やはりGame Closureさんがメッセンジャーゲームの仕組みをよく研究されていて、その結果がゲームデザインにしっかりと落とし込まれているからだと思いました。
一方、キャラに関しては、毎日ユーザーに向けてメッセージを発信しているのですが、通常であれば警戒してしまうような頻度でも、「にゃんこ」という魅力的なキャラが備わっていることによりユーザーから嫌われないという傾向が数字に表れているという話があります。
中田:実際にサービスを開始してみて、両社の印象はいかがですか?
辻子:原作の『にゃんこ大戦争』もかなりカジュアルなゲームにはなっているのですが、横持ちであるなど、ある程度は普段からゲームをプレイしている層に遊ばれているのが現状です。その辺り、縦持ちで遊べる『にゃんこ防衛軍』は、ランキングなどを見ていてもよりライトなユーザー層に遊んでいただけているという実感はあります。
マイケル:各種SNSをモニタリングしていても、「新しい体験ができる」、「中毒性がある」、「友達と一緒にプレイしたい」など、かなり多くの方々がエキサイティングな反応を示しておりましたので、感覚としては非常に手応えが良かったと思います。統計的なデータからユーザーのリテンションや成長率もかなり良い結果が出ています。ゲームの開発状況としては、まだ成長段階で現在30~40%というところですので、これからもポノスさんと協力して開発を続け、お客様に新しい驚きや発見を与えていきたいです。
中田:ちなみに、Facebookと「LINE QUICK GAME」で反応の違いはあったりするのでしょうか?
マイケル:違いはあります。数字的なところで述べると、リテンションはFacebookの倍ほどあります。これは期待以上の数値で、ゲーム事業においては非常に素晴らしいことです。また、ユーザー属性にも違いがあり、Facebookは幅広い範囲で直接関わりがない人、例えば友人の知人などとも繋がることが多いですが、「LINE QUICK GAME」は友人や家族、同僚など親しい間柄で遊ばれていることが多いです。その点はデータでも裏付けされています。
■事業展開の肝は「あっ!」という驚き
中田:今回、両社の代表にお越しいただけたというところで、今回の取り組みに限らず事業を展開するうえで大切にしているポイントについてもお聞かせいただけますでしょうか。
辻子:弊社は「求められるモノは創らない、それ以上を創り出す。」という方針を掲げています。これは例えば、誰もが想像できる範囲のものを作ってしまっては「こういう感じね」という特に印象のない感想だけで終わってしまいますし、全くお門違いのものを作ってしまっては誰にも興味を抱いてもらえません。ゲーム事業に限らず「あっ!」と驚いていただけるエッセンスを入れようとしています。
中田:それを実現するために工夫されている点はあるのですか?
辻子:仕事をするうえで多くの経験をすることが大事だと思います。ゲームを作り続けるだけでは気付けないような部分を察知できるようにするためにも人との接点が要になると考え、弊社では社内交流を活性化する取り組みを行っています。社内で世代を超えてアイデア出しをするだけでも「こういう考え方の人もいる」と知ることができますし、オフィスの設計に関しても振り返るとすぐに全員が話せるようなレイアウトを心掛けています。あとは、気軽に繋がりを持てるという部分で部活制度があったり、カフェやバーが入っていたりします。
中田:マイケルさんはいかがでしょうか?
マイケル:メッセンジャーゲームに関して言えば、ビジネスプラットフォームとして非常に大きなものだと捉えています。また、日本で「LINE」を使用している方はとても多いです。この「LINE」上で友だちと一緒にゲームを遊べるなど、「LINE」ならではのユニークな機能を引き出して、ユーザーにとって興味深いものを提供することができれば、ビジネスとしてもさらに大きく成長していけるのではないでしょうか。弊社としても、ゆくゆくは100人がリアルタイムで強大なボスと対戦できるようなシステムも考えておりますし、LINEならそれが可能だとも感じています。このようにクリエイティブなゲームを作っていくことが事業を展開するうえでは重要だと考えています。
■まだまだ進化する『にゃんこ防衛軍』の未来
中田:今後の展開についてはどのように考えておられますか?
辻子:先ほどGame Closureさんが仰られた通り、まだ未実装の部分が残されておりますので、そうした機能を実装したときのお客様の動向を見て、デザインに返還していければと考えています。
マイケル:『にゃんこ防衛軍』はまだ始まったばかりですが、既に想定していたものよりも良いものが出来上がっています。なので、今後も大きなリソースを投下して開発を続け、まだ他のゲームにも使っていない新たな機能を導入していきたいです。
具体的なところではふたつの目標がありまして、ひとつはお客様のためにより良いサービスを提供することでマネタイズを行うこと。そのために新しいキャラを出したいと考えています。そうした収益によって、3社のパートナーシップがLINE QUICK GAMEをしっかりとサポートし続けられるようにしたいということです。
ふたつ目はよりソーシャルなゲームの仕組みについてです。例えば、20人の友達と同時に同じ目標に向かってプレイできるようにすること。さらに、一緒に遊ぶことが自分自身を含め周りの手助けにもなるという形を考えています。こうした機能が充実すれば、お客様にも喜ばれると思いますし、ソーシャルネットワーク上にも良い効果が出るのではないでしょうか。
中田:では最後に、お二人から読者の方々へのメッセージとして意気込みをお願いします。
辻子:『LINE レンジャー』を超えます!
マイケル:電車の中やレストランなど、普通の人が『にゃんこ防衛軍』を通して人と出会い、『にゃんこ防衛軍』について語り合うことができれば、弊社としてもひとつの大きなマイルストーンを達成できることになると考えています。特に、海外企業でこれを達成できたところはまだ多くないと思いますので、今はこれを夢に掲げています。
中田:LINEのユーザー層を考えたとき、LINE QUICK GAMEのカジュアルゲームのひとつに「にゃんこ」のようなタイトルが欲しいと思っていましたので、今、一緒に展開できていることが非常に嬉しいです。今後、『にゃんこ防衛軍』が『にゃんこ大戦争』と同じくらい人気のタイトルになっていけるように頑張っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- LINE株式会社
- 設立
- 2019年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 出澤 剛/代表取締役 慎 ジュンホ
会社情報
- 会社名
- ポノス株式会社
- 設立
- 1990年12月
- 代表者
- 辻子禮子、辻子依旦
- 決算期
- 11月
- 上場区分
- 非上場