XFLAGは11月22日、ゲーム業界関係者向けセミナー「XFLAG Meetup モンストのマーケティング・PR編 5周年ヤバババーンの裏側」を開催した。本イベントは、マーケティングプランナーやPR担当者に向けて、『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)でこれまでに開催したキャンペーンの裏話に関するセミナーである。本稿では、当日の様子をレポートしていく。
■認知度とともに変化するプロモーション・PR施策
本セミナーには、人気タイトル『モンスト』のマーケティング・PRに携わった3名が登壇した。
▲マーケティング本部マーケティング戦略室室長の岡野吾朗氏。
▲モンスト事業本部マーケティング部部長の米田陶哉氏。
▲マーケティング本部マーケティング戦略室PRグループマネージャーの下田健二朗氏。
『モンスト』は、利用者が4500万人を突破した人気のスマホ向けアクションRPG。このたび5周年を迎え、それを記念したキャンペーンが世間を賑わせたばかり。その際に使われたキーワードが「ヤバババーン」である。
『モンスト』では毎年周年企画として、印象に残るテレビCMや大胆なイベントを開催してきた。まずは、これまでに行ったキャンペーンについて振り返る。
▲認知度と興味度の推移。
上記グラフの大きな山が、3年目にあたる。この際、「3周年企画をどうしようかと考えていた」と岡野氏。それまで、多数のテレビCMを仕掛けていたのだが、認知度が上がり難くなっていると感じたとのこと。そして、もしかしたらまだ接触していない人がいるのではないかという疑問を持った。そこで試しに地方でCM投下量を増やしたところ、あまり変化が見られなかったという。
それでは逆に、『モンスト』を知らない人というのはどんな人なのだろう。そのような疑問を抱いた岡野氏は、アンケートでまったく『モンスト』を知らないと回答した人を呼んでインタビューを行った。結果として、『モンスト』そのものはみんな知っていたのだという。「『モンスト』を知らない」と答えた人でも、『モンスト』というタイトル名は聞いたことがあるほか、中にはゲームの簡単な概要までは知っている人もいたのだとか。
このことから、とりわけ日本には真面目な人が多く、知っている知らないの区別が"自分できちんと語れるまで"になっているかどうかを基準としているようだという気付きを得た。そうなると、テレビCMで『モンスト』というものを伝えていくのは難しくなるのではないか。そう感じ、3周年では考え方を変えたとのこと。
3周年以前は「集まったらモンスト!」というブランド作りをテレビCM中心に行ってきた。3周年以降は、起動を促す販売促進。テレビCMはあくまでアテンションであるとした。
■ユーザーを3分類から2分類に振り分け
また、以前はユーザーを「新規」「既存」「離反」の3つに分類していたという。定義にもよるが、例えばテーマパークに1年に1回行く人をユーザーと呼ぶだろうか。頻度によってユーザーを分類するのは、どう定義したら良いのかが難しい。特に「離反」が扱い難かったという。そこで、3周年で作った考えは「離反」をどちらかに振り分けてしまうことで、ユーザーを「新規」と「既存」の2分類ということにした。
「離反」の中にも種類がある。過去に『モンスト』をプレイしていたが頻度が下がっている人、遊ばなくなった人。さらに細分化すると、プレイしてみても肌に合わなかったという人がいる。この場合、『モンスト』の楽しみ方を訴求しても合わないという正解が出ているので、もはや「新規」であるといえる。
『モンスト』を過去に楽しんでプレイしていたことがある人は「既存」に振り分けられる。この場合、ゲーム内要素のインセンティブを伝えれば戻ってくるのではないかと考えられた。「既存」ユーザーは、起動するとキャラが当たるかもしれない……といったようなアプローチで戻ってくれそうな人。「新規」ユーザーは、ゲーム内要素を伝えただけでは難しい。リアルなインセンティブを用意して起動を促そうと考えた。ここから着想した施策が、起動すれば何かが当たるかもしれないという「くじ」の仕組みである。
■ユーザーが結果に納得感を持てる施策とは
インセンティブでユーザーに楽しんでもらおうと実施した「くじ」。しかし、ここからも反省が生まれた。岡野氏は、くじは多くの人に自分が期待するものとは異なる結果をもたらしていることになるのではないかと反省。ユーザー自身が、結果に納得感が持てるようなものを作れないだろうか。そこで考えたのが、外れたら自己責任と感じられる「予想」である。
▲記憶に新しい「十二支再競争」の企画は、こうして生まれた。こちらの企画は、十二支の動物たちを集めてリアルにレースを開催し、1位と2位を当てたユーザーに3億円を山分けするというもの。
岡野氏はくじを実施する際、宝くじを買った時の「当たったらどう使おうか」という類の会話が起こってくれたらいいと思っていた。しかし、結果としてその狙いは外れてしまったという。では、予想から会話を生むことができないだろうかというところから、「十二支再競争」の企画が生まれた。
この企画は、本物の動物を扱うだけに苦労があったという。岡野氏は「走るのか走らないのか、そもそもどうやって動物を集めるのか」と、企画段階の苦労を振り返った。また、米田氏は「レースとしての見応え、参加型コンテンツとしての公平性などを考慮する必要があった。虎の隣にうさぎを置くと怯えて走らなくなってしまう……といったような検討を繰り返し、とにかく大変だった」と語った。
■そして5周年「ヤバババーン」の誕生へ
周年企画は、毎年企画に大変頭を悩ませるものであったという。そこで米田氏と岡野氏で協議し「合宿」形式での企画会議を開催。合宿には役員、プロデューサー、そして代理店のクリエイティブチームや営業を集めて行った。
▲実際の合宿中に撮影された写真。
合宿ではブレストの格好で、さまざまなテーマに対して楽しみながら意見を出していったという。この合宿での収穫のひとつとして、代理店のクリエイティブチームがどのような思考で動いているのかを学べたということが挙げられた。代理店からは、このような企画の過程を見せるのは初めてだと言われたとのこと。そして、この合宿を通じて生まれたのが「ヤバババーン」という言葉だった。
ここで、「どうやって合宿を結論に導いたのか」という質問が挙がった。質問者も合宿を開催したことがあるが、意見が揺れてしまったという。これに対して米田氏らは、「決まらないと帰ることができない」というルールを全員にあらかじめ周知しておいたという。また、「絶対に決めること、決まらなくてもOKなこと、決めなくてよいこと」を明確にし、いかに参加メンバーの目線を合わせておくかが大事だと回答した。声の大きい人だけで決めるのではなく、社内外の視点や個々人の意見を尊重し、フラットに課題に向き合っていたのが成功の要因であったとのことだ。
■5周年におけるPRの役割
5周年企画開催時に、どのようなPRを打ち出すべきか。これに対して下田氏は、あらゆるメディアをミックスさせながら話題にできたらいいと語りつつ、裏テーマとしていかに広告色をなくして触れさせるかを検討したという。
▲多くの企業が「ヤバババーン」を使って発信を行った。
いくつかの企業とコラボを実施。それぞれの企業のユーザーにも「ヤバババーン」という言葉が届く。企業側から見ると、モンストユーザーが各企業の発信を見に来るというメリットがある。相互Win-Winの関係になるのではないかと考えたのだ。
また、「ヤバババーン」という言葉は勝手に使ってもいいという座組みであった。そのためのツールもホームページに用意された。例えば、地方の居酒屋などが許諾申請などを必要とせずに活用することが可能だったのだ。最終的に、参加した企業は30社以上。期間中のツイート数は今までのキャンペーンで最も多かった。
注目すべきは、コラボ依頼の仕方である。あらかじめコラボを依頼した企業には『モンスト』という言葉は一切使う必要がないと伝えてあったという。「ヤバババーン」という言葉だけを使って欲しいと依頼したのだ。逆に企業側から、本当にそれでいいのかと心配されることもあったという。
各企業がツイートするタイミングにはこだわりがあった。また、ツイートした後にどのタイミングでリツイートするのが良いのか。そのようなこだわりで、広がりをつくっていくというストーリーを描いていたという。ただ数多くコラボをすればいいというわけではないと下田氏はまとめた。
講演の後は、参加者と登壇者がコミュニケーションをとる時間が設けられた。開催日の11月22日はちょうどサンクスギビングデーだったこともあり、会食では七面鳥も振る舞われた。美味しいピザや七面鳥を片手に活発な情報交換が行われ、本セミナーは盛況のうちに幕を閉じた。
(取材・文 ライター:岩崎ヒロコ)
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121