【セミナー】ブシロード・木谷高明氏が「バンタンゲームアカデミー」で講演…『ガルパ』の事例から”大ヒット”コンテンツを生み出すための秘訣を伝授

 
バンタンゲームアカデミーは、7月16日、『BanG Dream!(バンドリ!)』や『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』などを手掛ける、ブシロード・取締役の木谷高明氏による特別講演会を開催した。

本講演会では、トレーディングカードゲーム事業から始まり、モバイルオンラインゲームやアニメーション、ライブステージまで、ひとつのメディアに捉われず幅広く展開する”メディアミックスプロジェクト”を生み出してきた木谷氏より、どのように作品の魅力を維持し続けているのかについての話が語られた。また、さまざまなプラットフォームが混在する現代において、木谷氏が描く理想の人材やスキルなど、今後の展望を交えながら学生に向けて講演を行った。本稿では、その模様をレポートしていく。
 
 

1.「バンドリ!」の魅力を維持し続ける開発・運営手法とは


まず登壇した木谷氏は、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、『ガルパ』)の概要を紹介。併せて、どのようにして『ガルパ』の企画を立ち上げたかの経緯を説明した。
 

 
木谷氏が「バンドリ!プロジェクト」の企画を思い付いたのは、2014年2月末~3月初旬ごろとのこと。現在、Poppin'Partyでギター・ボーカルを務める声優の愛美さんが、当時さいたまスーパーアリーナで参加したライブでの演奏が凄い盛り上がりを見せたという報告を受けたことがきっかけとなる。その背景には、当時はまだ声優が楽器を演奏することが珍しかったことや、別タイトルでギターを特技とするキャラを演じていたことへのシンクロに”驚き”があったのではないかと木谷氏は語る。
 
その頃、既に『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』で成功を収め、音楽コンテンツに可能性を感じていたという木谷氏は、これをコンテンツ化することを思案。今の時代、アニメがヒットしても、制作するにはどうしても時間が掛かってしまうため、その期間をライブやイベントで繋ぐことができる音楽要素は必須になると話す。さらに補足として、モバイルオンラインゲームがヒットしていれば、毎日、触れてもらえる機会があるためよりコンテンツを保ちやすくなると言及する。
 
その後、木谷氏は楽器を演奏できる声優を探すことから始めたが、これが中々見つからずに苦戦を強いられることになったと当時を振り返った。特に、ドラムやベースなど、リズム隊と呼ばれるラインは演奏を行ううえでもしっかりとしていなければならないが、弾ける声優が見つからない……。そのため、現在Poppin’Partyでドラムを担当している大橋彩香さんや、ベースの西本りみさんの存在には非常に助けられたと話す。また、Poppin’Partyのキャラクターが担当声優に近い印象があるのは、先に声優が決まっていたからという話も飛び出した。
 

 
そうして1年後にライブをやると決め動き出した「バンドリ!プロジェクト」。当初から、アニメ化やゲーム化についても予定が立てられてのスタートとなったという。このような動き方について木谷氏は「僕が担当しているコンテンツは、何かがヒットしたからアニメ・ゲーム化をしているのではなく、最初から十何億を掛けるつもりで動いています」とコメント。それほどの覚悟がなければ、大ヒットは生み出せないと話した。
 
しかし、立ち上げ時の段階では周囲から「無理ですよ」と反対されることも多かったのだとか。楽器を弾くとなれば必然的に練習量も増えてしまうため、多忙な声優さんの負担になって成り立たないというのが周囲からの主な意見だったようだ。ただ、この「声優が実際に楽器を演奏する」という部分が本プロジェクトの肝になると木谷氏は熱弁。今も、リアルライブを行う3バンドはどのバンドも毎週・毎月のペースで集まって練習をしているという。さらに、何よりも実践が1番の経験になるため、演者からは「もっとライブをやらせてほしい」という主張をされることも多いとのことだ。木谷氏は、向上心を持って取り組んでいるメンバーが多く、今や単なる声優バンドの域を越えて実力的にもプロのアーティストに近付いていると述べた。
 
2015年には、イラストストーリーやコミックを展開。アニメ化するにあたって、キャラクターの服装・物語ともに現在に近い形にシフトチェンジしていったという話も。ライブに関しても、最初は実験的な試みを持ちながら取り組んでおり、観覧を着席にするかスタンディングにするかで話し合ったこともあったとか。新しい取り組みであるため、その中で今までは想像もしていなかったことが起こることもしばしば。2016年に「BanG Dream! First☆LIVE」を敢行、アニメ化など、この辺りのスケジュールは企画立ち上げ時から想定していたものであると明かした。
 

2.ゲームから新日本プロレスまで幅広い事業の戦略と展望


ここからはゲームに関する具体的な数値を発表。『ガルパ』は、2019年7月16日時点で国内950万人、講演会後の2019年7月29日には国内ユーザー数1000万人を突破しており(関連記事)、海外にも数百万のユーザーを抱えている。SNSにも力を入れており、常に遊びに来てもらえることを意識して運営をしているという。その甲斐もあり、『ガルパ』の公式Twitterフォロワー数は、日本のモバイルオンラインゲーム業界において『モンスターストライク』『パズル&ドラゴンズ』『Fate/Grand Order』に次いで4番目の多さであると話した(※2)。
※2…2019年6月20日時点
 

 
続いては、『ガルパ』オリジナルの4バンドに関するCDの売り上げランキングを発表。上記の数値から分かる通り、特にRoseliaはデビュー以来、TOP10に入らなかったことがないほどの人気を博している。なお、プロジェクトスタート時は無名なところから始めているため、最初期のPoppin'Partyは順位が振るわない結果になっていると木谷氏は補足した。
 

 
さらに、2019年2月にはCD6タイトルを同時リリース。全てのタイトルがTOP10入りを達成した。このことから、「ニュースはあるものではなく、作り出すものである」と聴講者に解説した。では、どのようにしてバズる事象を起こせばよいのか。そこに対しては、話題作りを常に意識することが大切であると話した。さらに、これはゲームにおいても同じで、ちょっとした捻りから、キャンペーンの見せ方ひとつで話題になることもあるとのことだ。
 

 
ライブでは、3日間で3万3503人を動員。これに関して木谷氏は「もうちょっと話題になると思った」とコメント。このことから、世の中全体が保守的になっており、新しいものに飛びつくことに対して慎重になっていると分析した。
 

 
その主な要因として、人間の情報の受信量は昔からほぼ変わっていないのに対して、世の中の情報量が莫大に増えているためだと話す。これらの情報をひとりで受け取るのは不可能なため、頭が自然と情報量をセーブしているのではないかと木谷氏は考えている。そのため、昔に比べて考察をする人が減っていたり、制作者が仕込んだ小ネタまで気付いてもらえないことも増えてきていると話した。そうなると、世間は新しいものを開拓するのではなく、まず周りで流行っているものに乗っかるという流れができてくる。これは、既に勝っているコンテンツがさらに大きくなれるチャンスということであり、ヒットではなく圧倒的な大ヒットにならなければ長く続かないと木谷氏は警鐘を鳴らした。
 

 
その具体例として、昨今「名探偵コナン」の映画が大ヒットを繰り返していることを取り挙げた。既にメジャーなものが習慣化している現れであり、新規コンテンツを大ヒットさせるのは非常に難しいとのこと。また、これはアニメ業界に限った話ではなく、ライブシーンなども共通で、例えば東京ドームを満席にできるアーティストにしても、若手ではなくベテランの方が多いと話す。このように、マイナーなものはよりマイナーに、メジャーなものはよりメジャーになる傾向があるため、続いているものを大事にしなければならないと語った。そのため、昔はバリューがあって今は埃を被ってしまっているものの中にも、綺麗に磨けばもう一度出てくるものを探すべきだと結論付けた。
 
また、大ヒットさせるにおいて1番大事なのは「時代性」だと木谷氏は述べる。例えば、自身は歴史やシミュレーションゲームが好きだが、時代に合わせてアレンジを加えながら、これらのジャンルを好きでない人にも受け入れられなければならないという。さらに、人口の年齢分布が少子高齢化傾向にあるため、大ヒットを狙うのであれば中学生くらいの10代~50代まで幅広い年齢層の方が楽しめるコンテンツである必要があるとも語った。
 

 
しかし、子供の数は減っているものの、学生の口コミ力は凄まじく、それまではクラスで0人だった『ガルパ』のユーザーが、誰かが「面白いよ」と始めたことで3日後には20人にまで膨れ上がったこともあると自身の身近な人の体験談を語った。このことから、新しいエンタメを広げていくのは若い世代になると話す。一方で、しっかりとお金を使ってくれる、遠方まで足を運んでくれるのは20代~50代の年齢層の高い世代になってくる。これからは、縦にマーケティングしていくことが重要になるとまとめた。
 

3.学生のQ&Aタイム


ここからは、学生からの質問に答えるコーナーへ。その中からいくつかの回答を以下でお届けしていく。
 
Q.コンテンツ作りにおいて、プレイヤーが求めているものをどのように調べますか?
A.ヒットを作るのはマーケティングを見るとできるが、それでは大ヒットは作れないと思います。アンケートを取って出る意見は先に事例があるため、現状における最適解でしかない。本当の大ヒットは、表に出ていない潜在需要を汲み取ったもの、もしくは需要を作り出したものであるから。
 
Q.ゲームを作るにあたって気を付けなければいけない点は?
A.いろんな知識を持っている人間は意外とヒットを出せない。自分の知っているものを避けてしまうため、どんどんニッチな方向に行ってしまう。逃げれば逃げるほど王道ではなくなってしまうため、自分の作りたいものを勝手に作っている方がヒットに繋がりやすい。ただし、異なるものとの摩擦が新しいものを生み出すため、歴史や文化を含め、いろんな経験をしておくことは大事。
 

 
あとは、堂々と真似ること。どのようなクリエイティブにおいても、何かしらはモチーフにされているため、特許に触れない範囲、常識の範囲内でウケそうなものを創造すれば良い。歴史や文化も全く新しく創造されているのではなく、連続性がある。前の時代から良いものを残しつつ、ダメなものを排除していき堂々と王道をいくべきである。
 
Q.プロデューサーとして最も重視していることは?
A.プロジェクトに関わっている人のパッション。または突き抜ける力。また、IPものとオリジナルコンテンツにも差があり、原作がある作品は迷った際に原作者(神)に聞くことができる。しかし、オリジナルコンテンツは神を創るところから始まるため、立ち上げ時にはそれぞれの正義がぶつかることも多い。何が正しいという正解がないため、会社を辞める人や病んでしまう人も出てくる。それを上手くマネジメントをするのがプロデューサーである。最初は版権ものを経験して創ることに慣れる方が良いと思います。
 
Q.自分が作ったゲームを発展させていく方法
A.『ガルパ』の特徴としてカバー楽曲が収録されている。当時、スタッフから「曲が足りないのでライブができません」と言われたが、そもそも自身が知らない曲を聴くのが好きでなかったのでカバー楽曲を勧めた。知っている曲を聴いていただけたことでお客様にも盛り上がっていただけ、それを見ていたCraft Eggの開発者から『ガルパ』にもカバー楽曲を入れたいと打診された。そもそも、ブシロードとしては既にTCG「ヴァイスシュヴァルツ」で、人気があるタイトルがお客様を連れてくるというビジネスモデルがあったため、大賛成をした。
 
Q.次のゲームを作るにあたっての目標は?
A.縦に年齢層を取るものを作りたい。
 
Q.声優が実際にライブをやることの大変さを教えてください。
A.合わせの練習をしなければいけないので練習時間が中々取れないことが大変。ただし、どんどん上手くなっている。短期的に目の前のことに取り組むのは女性の方が向いており、広い視野を持って取り組むのに向いているのは男性であるという特徴がある。
 
Q.世界展開はこの先どうなりますか?
A.アジア圏に関しては日本の延長線上にある。英語圏も着実に広がってはいるが、さらに「演奏力」「歌唱力」「英語力」が必要になってくる。
 
Q.カバー楽曲を選ぶ基準を教えてください。
A.スタッフみんなで集まって相談し決定する。カバー楽曲を決める基準は、演奏するユニットのイメージに合うかどうかを重視している。
 
Q.学生のうちにやっておいた方が良いことは?
A.ひとつはいろいろな経験をしておくこと。海外に行ったことがない人は、電車だけでどこにでも行けて日本食も豊富なシンガポールがオススメ。近場だと韓国や台湾。あとは、何かしらアルバイトを経験して社会のルールを知っておいた方が良い。特に、頭を下げる仕事から入るべき。自分を売り込むことをやってみてほしい。
 
Q.新卒に求められるスキルは?
A.コミュニケーション能力・リーダーシップ・気が利く人間は重宝される。また、返事が元気なだけで好感度が上がる。あとは報告、連絡、相談がきっちりとできること。身だしなみがある程度整っていること。
 
 
講演の最後に木谷氏は、人口は減っているが情報量が増え、新しい作品を創ることが難しいという前提はありつつも、新しいものが出てこなければ世の中が停滞してしまうとコメント。ただし、人の労働時間はどんどん減っており、エンターテインメントにあてられる時間は増えているため、エンタメやスポーツは成長産業であると考えているという。是非、みなさんの力で新しいものをどんどん生み出していってほしいと期待を込めて話を締めた。
 


 
(取材・文 編集部:山岡広樹)

 
 
■『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』
 

App Store

Google Play

公式サイト


 
©バンドリ! プロジェクト ©BanG Dream! Project © Craft Egg Inc. ©bushiroad All Rights Reserved. 
株式会社ブシロード
http://bushiroad.com/
IPディベロッパー、それはIPに翼を授けること。 オンラインサービス充実へ
IPディベロッパー、それはIPに翼を授けること。 オンラインサービス充実へ

会社情報

会社名
株式会社ブシロード
設立
2007年5月
代表者
代表取締役社長 木谷 高明
決算期
6月
直近業績
売上高462億6200万円、営業利益8億8200万円、経常利益18億9800万円、最終利益8億400万円(2024年6月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
7803
企業データを見る