【Sp!cemartゲームアプリ調査隊】目指したのは「リアルなミニ四駆体験の追求」…『ミニ四駆 超速グランプリ』ヒットの背景を分析
スマートフォンゲームの日々の運用とその効果をリサーチし、ゲーム関連企業へマーケティングデータを提供するSp!cemart(スパイスマート)。ゲームアプリの運用情報をいつでもウォッチできる「Sp!cemartカレンダー」や、毎月発行しているレポートを提供している。
なかでもカレンダーは、セールスランキング上位のモバイルオンラインゲームのゲームシステム・運用施策をダッシュボード形式のWEBツールとして提供。ゲーム内プロモーション施策の効果測定やセールスランキングと運用効果の相関関係を時系列で分析できる。
本連載記事ではSp!cemart協力のもと、カレンダー機能を用いた、ランキング上位タイトルの直近のゲーム内施策を分析。今回はバンダイナムコエンターテインメントの『ミニ四駆 超速グランプリ』の施策をピックアップする。
(以下、Sp!cemartゲームアプリ調査隊より)
■セールスランキングでは最高15位にランクイン
提供:バンダイナムコエンターテインメント(共同開発:ディンプス)
リリース日:2020年1月16日
『ミニ四駆 超速グランプリ』は、ミニ四駆ライフをアプリで体験できるタイトルです。プレイヤーはミニ四駆のカスタマイズや、白熱のレースを楽しめます。
ゲーム内では、徹底的に再現されたミニ四駆パーツを集めて、こだわりの一台をセッティングしていきます。軽量化したり、耐久性を上げたり、さらには「メッシュ加工」や「カラーリング」などの見た目までも、自分好みにカスタマイズできるのが醍醐味。
また、「ダッシュ!四駆郎」や「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」など、多数の漫画キャラクターたちが登場するほか、オリジナルコースを作って周りの友人たちと一緒に走れるなど、ミニ四駆の魅力を最大限に詰め込んだアプリとなっています。
同作は、2020年1月16日にリリースされました。アプリストアのセールスランキングにおいて、リリース当初から堅調に推移していましたが、2月5日のタイミングで急浮上し、一気に15位にランクイン。
『ミニ四駆 超速グランプリ』がヒットした背景には、どのような要因があるのでしょうか。本稿では、「Sp!cemartカレンダー」を用いたランキング推移の動向、マネタイズ、マーケティング施策までを調査しました。まずはリリース前の施策について調べました。
■ブレない「リアルなミニ四駆体験の追求」
【リリースまでの流れ】
■ 2019年4月9日の「ミニ四駆 メディアミーティング2019」にて制作発表
■ 同年9月14日「東京ゲームショウ2019」にて出展及びステージで新情報発表
■ 同年10月30日からAndroid版を対象としたクローズドβテスト実施
■ 同年11月5日に事前登録キャンペーンを開始
■ 同年12月24日に公式Twitterでクリスマスプレゼントキャンペーン開始
■ 2020年1月16日に正式サービス開始
上記が『ミニ四駆 超速グランプリ』のリリースまでの流れですが、他社作品と比較すると、特段奇をてらった施策は展開していませんでした。またデジタルマーケティングでは、主にTwitter施策を中心に行っていました。
公式Twitterは「東京ゲームショウ2019」の開催前である2019年9月12日に開設し、キャンペーン施策はもとより、リリース前のゲーム情報を定期的に投稿していました。
2020年2月10日時点でフォロワー数は2.6万人、同時期にリリースされたスマッシュヒット中の新作タイトルと比較しても、まずまず(メダロットS:9.3万、アークナイツ:22.5万)。なお、ミニ四駆【タミヤ公式】の公式Twitterは、2009年頃から始めており、フォロワー数は4.9万ほどです。
『ミニ四駆 超速グランプリ』の事前登録では、報酬設計を下記の6段階に設定。
最終的な事前登録者数は公開されていないものの、6段階目の87,600(ばんなむ)人を突破し、さらに追加の達成人数及び報酬を設けなかったことから、事前登録者数は10万人前後であることがうかがえます。IPタイトルであることを考慮すると、こちらもまずまずな数値です。
ただ、事前登録者数は、主にApp StoreとGoogle Playの予約注文における数字を基にしています。気軽に登録できるTwitterやLINEなどSNSのフォロワー数を合算するのではなく、純粋に本作に興味を持っている方たちが数値に表れているということです。
加えて『ミニ四駆 超速グランプリ』は開発段階からメインターゲットに向けた発信まで、実に一貫しており、たとえ事前登録者数が10万人前後とはいえ、熱量の高いユーザーの期待値を上げることに成功しています。その背景には、以前この連載でも言及しましたが、ここ最近、過去に一世を風靡した子供向けコンテンツのスマホゲーム化が相次いでいることにも通じます。
▲左から『デュエル・マスターズ プレイス』(配信:2019年12月18日)、『ミニ四駆 超速グランプリ』(配信:2020年1月16日)、『メダロットS』(配信:2020年1月23日)
各タイトルともその原作は長年愛されているものではありますが、主に90年代~2000年代を中心に大ヒットしたものばかりです。そんなタイトル群が2020年に次々とスマホゲーム化。当時遊んでいたユーザーも成長し、現在は20代後半、あるいは30代、40代など年齢層も高い。数は集まらなくとも、過去に一度はお金を支払ったコンテンツであれば、ロイヤルユーザーとしての期待値もあります。
実際に『ミニ四駆 超速グランプリ』では、開発段階から徹底したこだわりを見せています。たとえば、ミニ四駆のパーツは3Dスキャナで実物をスキャンし、走行音などのSEは 実際の音を収録するなど、レースも、マシンセッティングも、リアルなミニ四駆体験を追求。
▲『ミニ四駆 超速グランプリ』のパーツ強化画面(左)では、実写さながらのパーツを調整するシーンが挿入されます。また、ヘルプ画面(右)では、子ども向け漫画雑誌のようなレイアウトと、紙質の色合いまでも再現するなど、一度でもミニ四駆を遊んだことのあるユーザーにとっては、思わず目が止まる魅力的なシーンが随所に散りばめられています。
初出となる制作発表段階でも、前述した「リアルなミニ四駆体験の追求」を積極的にアピールしており、同作から発信されるあらゆる情報は一貫してここの思想に詰まっていると考えられます。
一見して子ども向けのコンテンツ・IPではありますが、実際に遊んでいるのは年齢層の高いユーザーであり、該当の層に訴求できるようなマーケティング施策、ゲーム仕様(デザイン)などをきちんと講じており、徹底した市場及びコンテンツ分析を経て、こんにちのヒットにもつながっています。
マーケティング施策についても具体的に言及していきましょう。
ことデジタルマーケティングでは、クリスマスのタイミングで実施した定番のTwitterフォロー&リツイートキャンペーンで拡散・露出に努めていました。
内容は対象ツイートのフォローとリツイートを行うとキャンペーンに応募でき、総勢49名にTAMIYAグッズやミニ四駆など豪華なプレゼントが当たるものでした。また、アプリストアでの事前登録が完了している場合は、ストアのスクリーンショットとハッシュタグをつけたツイートで当選確率が2倍になりました。
ゲーム内アイテムの報酬は事前登録キャンペーンに任せて、クリスマスキャンペーンでは、リアルインセンティブを報酬に設け、過去にミニ四駆を遊んだことのある潜在的なユーザーに向けて訴求していることがうかがえます。
▲現役ミニ四駆ファンにとってはお馴染みのアイテムのため、あくまでもターゲットはミニ四駆のいわゆる休眠ユーザーであることが考えられます。
続いては、『ミニ四駆 超速グランプリ』のマネタイズをはじめ、直近におけるランキング推移と施策について、「Sp!cemartカレンダー」で調べてみましょう。
■ガチャから排出されるさまざまなパーツ
本作のマネタイズは、有償アイテムのスターコインや商品パックの販売です。スターコインは主にガチャなどに使用します。スターコインのラインナップは以下の通り。
【スターコインのラインナップ】
・スターコイン24個(120円)<単価:5.00円/割引率:0.0%>
・スターコイン147個(490円)<単価:3.33円/割引率:33.4%>
・スターコイン390個(1,220円)<単価:3.13円/割引率:37.4%>
・スターコイン1004個(2,940円)<単価:2.93円/割引率:41.4%>
・スターコイン1743個(4,900円)<単価:2.81円/割引率:43.8%>
・スターコイン3918個(10,000円)<単価:2.55円/割引率:49.0%>
ガチャでは、ミニ四駆のパーツが排出されますが、その種類はボディからモーター、ギヤ、タイヤ、ステー、ローラー、ウイングローラーなどなど、多岐に渡ります。そのため、ガチャの種類にも新登場パーツはもとより、特定のパーツが排出されるピックアップガチャも頻繁に開催しています。
なお、ガチャは1回でスターコイン100個(約500円)、10連は1回分がお得となり900個(約4,500円)です。また、1日1回有償50個限定でガチャも引けます。
プレミアムショップには、前述したスターコインに加えて、セット商品やマシンを好みの色に染められるスプレーなども販売。セット商品では、育成に特化したアイテム詰め合わせをはじめ、特別ログインボーナスを付与できる商品など、10種類以上ものラインナップがあります。
そして、ショップにて商品を購入した際には、プレミアムポイントを獲得できます。これは一定量のポイントを集めることによって、ランクに応じてさまざまな特典を受け取れる、いわゆるVIPシステムのような役割を担っています。たとえば、毎日スキップチケットがもらえたり、スタミナの回復回数上限を上げたりと、継続的にゲームを続けるユーザーにとっては嬉しい特典があります。
『ミニ四駆 超速グランプリ』【調査期間:2020年1月16日~2月10日】
▲Sp!cemartカレンダーより(画面上部はストアのランキング推移、下部はゲーム内施策を確認できる)
Sp!cemartカレンダーでは、リリースから直近の施策及びランキング推移として、2020年1月16日(木)~2月10日(月)を抜粋しました。ランキング推移を見てみると分かる通り、セールスランキング(オレンジ色)とダウンロードランキング(青色)が垂直立ち上がりに。
無料ダウンロードランキングは1位を継続し、セールスランキングも右肩上がりで推移。なかでもセールスランキングでは、リリースから一度も100位以下に落ちたことなく、好調に売上を伸ばしていることがうかがえます。
最高順位である15位を記録した2月5日(水)には、「パーツピックアップガシャ」とブロッケンギガントをピックアップ対象とした「超速ガシャシリーズ2」を開催。この時期は、ガチャタイトルにもなっている通り、ランキングバトル「超速グランプリシーズン2」の開催タイミングでもあります。
「超速グランプリシーズン2」のコースでは、ドラゴンバックが数か所設置されているため、コースアウトしやすい設計になっています。従来のスマホゲーム同様に、期間限定イベントに合わせて、攻略しやすいアイテムが排出されるようです。
■ユーザーはコンマ数秒の走りをとことん追求
本作の基本的なゲームサイクルは、パーツを集めて⇒セッティング・強化⇒ステージ攻略(走りの追求)が中心です。なかでもゲームの多くの時間を割くのは、セッティング・強化のシーンではないでしょうか。組み合わせの妙で熟考したり、テスト走行で結果を見て分析したり、単純な作業ながらも行っていることはリアルのミニ四駆そのもの。
冒頭でもお話している通り、本作には“ミニ四駆らしさ”が随所に散りばめられています。それがスマートフォン端末特有のインタラクティブ性と、ライフスタイルにもマッチしているのも強みではないかと思います。
▲レース直前のワンシーン。リアルのミニ四駆同様に、ボディ裏のスイッチを横に動かす演出に加えて、シグナルに合わせてマシンを離すという一連の動作を徹底的に再現。
▲レース中は、3つのカメラ視点で自分のマシンを見ることができます。実際のレース中は、とくにやることはありません。ただ見守るだけです。ミニ四駆を経験していない人にはピンと来ないかもしれませんが、ここもリアルのミニ四駆シーンと同じです。
ゲーム中には、「ダッシュ!四駆郎」や「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」といった、ミニ四駆を題材とした人気キャラクターたちが登場しますが、あくまでもメインに据えているのは、繰り返すようですが“リアルなミニ四駆の体験”です。
一見漫画IPの世界のようですが、現実世界のコースで走らせている感覚も同時に味わえるなど、恐らくゲームアプリ界においても唯一無二の存在ではないでしょうか。
▲リリースしてからすでに2つのコラボ施策を展開しています。「パックマン」とヒップホップグループ「スチャダラパー」のコラボが同時に行われているゲームは、本作ぐらいではないでしょうか。そして、本作で行われていても全く違和感ありません。
今後パーツやステージの追加もありますが、なにより前述したコラボ施策の妙や、『ミニ四駆 超速グランプリ』のリアル大会など、多角的な展開が見込めるでしょう。走りを追求した自慢のマシンを、どこかで披露できる場があれば、本作独自のブランディングにもつながることが考えられます。
■執筆 <株式会社スパイスマート>
スマートフォンゲーム内運用に関する調査・分析を行うリサーチ事業とコンサルティング事業を展開しており、「Sp!cemart」というサービス名称で各種ソリューションを提供。
コーポレートサイト:http://corp.spicemart.jp/
Sp!cemart 商品に関する問合せ:info@spicemart.jp
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会社情報
- 会社名
- 株式会社バンダイナムコエンターテインメント
- 設立
- 1955年6月
- 代表者
- 代表取締役社長 宇田川 南欧
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2896億5700万円、営業利益442億3600万円、経常利益489億5100万円、最終利益352億5600万円(2023年3月期)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スパイスマート
- 設立
- 2015年7月
- 代表者
- 代表取締役 久保 真澄