コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月2日~4日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2020」(CEDEC 2020)を開催した。
本稿では、9月4日に実施された講演「監修を素早く正確に - 複雑なIPプロジェクトの効率化事例」のレポートをお届けしていく。
セッションには、ドリコム第1プロダクションよりゲームプログラマの二宮一樹氏、デザイナーの松原由香利氏、同じくデザイナーの太田美由紀氏が登壇。プロジェクトで起こったIP案件固有の課題と、その解決手法についての紹介が行われた。
【登壇者情報】
▲松原由香利氏。2013年にドリコムに中途入社。演出周りやUIのデザイナーとして新規開発や運用に携わる。現在はクオリティを担保した運用リソースの自動化など運用改善を主とした仕組みづくりなどを担当。
▲二宮一樹氏。2017年ドリコムへ中途入社。ゲームプログラマとしてプロダクトの開発、運用に携わる。監修作業においては、効率化のための諸処開発を担当。
▲太田美由紀氏。2015年新卒でドリコムに入社。デザイナーとして大小様々なチームを経験し、現在は主にデザインリソースの管理や2Dグラフィック制作を担当。
▲左から二宮氏、太田氏、松原氏
●監修資料作成の手順について
IP案件の監修作業において、重要となるのが監修資料の存在だ。従来のソーシャルゲームの監修では背景透過の立ち絵やカード絵のみの監修がよくある形だが、ゲーム以外の版元だとイラストの見え方など全体像が必要になる場合があるという。
監修資料を作成する手順について、松原氏は以下のように段階に分けて説明してく。
①管理画面から該当のキャラクターをアカウントに付与する。
管理画面から対象のキャラクターを、アカウント全て付与していく。確認環境によってはエラーが出てテストユーザーを作り直したり、ゲームを進める上でデータが揃ってない場合もこの時点で待ちの状態が発生してしまうこともあるそうだ。その後、Unityからアプリを立ち上げてアプリを起動していく。
②該当の画面を全て撮影
キャラクターが登場する動きのない部分について撮影を行っていく。中には最初は解放されてない画面とかクエスト中でしか見れない画面なども多くあるため、実際にゲームを進行して、スクショを撮るという作業が必要とされている。
環境によっては、データ不整合などの理由からユーザーの作り直しが発生してしまうこともあるそうだ。その度にユーザーを作り直し、管理画面やデバッグツールからロックされた画面を解除するといった、手間が掛かる作業になってしまう。ゲームのカットシーンなど演出についても同様に、指定のフレームで停止してスクショを撮影。Photoshopを用いて必要な部分だけトリミングしていく。
③版元・作品・キャラクター別に画像を保存
必要な画像がすべて揃っているか、不備がないかを改めて確認。用意が出来た画像をExcelに貼り付けて資料を製作していく。手作業になるため、画像の順番やアスペクト比がズレないようにするなど注意が必要となる。
④日付、版元名などを確認し保存
最後に、日付や版元名、作品名に誤りがないかを確認し、保存を行う。①~④の作業を味方キャラクター・敵キャラクター・シナリオイラスト用に行っていく。松原氏は変更や修正があれば、①の工程からやり直しになってしまうため、なかなか根気が必要な作業となってしまうと説明した。
●監修資料作成の自動化について
手作業であればどうしてもミスが発生してしまうため、資料作成を自動化して手順の簡略化に努めたという松原氏。自動化後は監修するキャラクターのチケットを作成し、Unityから監修ツールのボタンを押すだけの作業となったと話した。
そんな自動化のシステムの詳細について、ゲームプログラマーである二宮氏が説明する。二宮氏はまず、各作品の監修は「REDMINE」、ゲーム画面のキャプチャーは「Unity」、資料の作成は「Ruby」を使用していると紹介。特にREDMINEは複数の版元・作品ごとの分類や複数の会社からの状況確認、フォーマットの統一ができるなど使用するメリットが大きいツールだと続けた。
▲チケットの監修状況のイメージ図。UI画面が監修NGとなってしまった場合、再度キャプチャーを撮り資料化し、先方に送信するというフローになっている。
▲チケットを使った管理では、トラッカーによるソート・抽出が実施可能に。ステータスでの抽出で今何が監修NGになっているのかが把握できる。
Unityで監修の選択とキャプチャ開始ボタンを押下すると、キャプチャフォルダに画像が出力されていく。続いてRubyがキャプチャフォルダを参照し、Excelを出力する形となる。このツールの中では、Unityで監修対象の選んでキャプチャ開始ボタンを押下してから資料をフォルダに作成されるまでの全てが自動化に成功。工数削減・ヒューマンエラーを回避するかという所に意識がされている。
▲監修資料作成ツールには、キャプチャー撮影、EXCEL資料化というボタンが用意されてある。キャプチャー撮影では作品名、タグの指定など細かい指定ができるように実装がされている。
キャプチャーでは実際にゲームが動いているような擬似的な画面を作り出して、その全容を撮影した後に必要な部分を切り取るという仕組みになっている。擬似的とはいえ実際に現場で使っている新ファイルやプレハブを使用しているため、キャラクターのプレハブやシーンの中のレイアウトに変更が加えられたとしても、疑似的とはいえ変更に追いつけるように作成されている。
太田氏は監修資料作成手順の自動化について、プロダクトへツールをそのまま他のプロジェクトに使い回すことはできないため、社内での情報共有、ヒアリング環境を整えることで対応していると説明。ツールメンテナンスが属人化してしまう問題には、資料化して2人以上にツール内容を伝えるなど引継ぎの輪を広めるといった対策をとっていると続けた。
また、急なスケジュール変更があった際に監修に必要なマスターデータの設定が期日に追いつかないといった問題には、テスト用のブランチ、サーバーを使用するといった対応が行われていると話した。
最後に、太田氏がCSVによるチケット、Unity、提出用データに整形する作業の自動化を行うことで、コスト削減とヒューマンエラーの防止に繋がったことを改めてまとめ、セッションを締めくくった。
(取材・文 ライター:島中一郎)
会社情報
- 会社名
- 株式会社ドリコム
- 設立
- 2001年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 内藤 裕紀
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3793