【インタビュー】「やりたいことがやれた一年」…NextNinja山岸氏が振り返る『東方LostWord』1周年 同社が考えるゲーム開発と海外展開とは


グッドスマイルカンパニーとNextNinjaから配信されている『東方LostWord』は昨年4月より配信されており、リリース早々に好評を博し、この4月では1周年を迎える。
 
本作はNextNinjaが開発を担っており、同社は『東方LostWord』の他にも、『咲う アルスノトリア』や『グランドサマナーズ』などオリジナル・IP作品と様々なタイトルを手がけており、また自社にて海外展開も積極的に行っている会社の一つだ。
 
そんなNextNinjaがゲーム開発にて意識していることは何か。本稿では、NextNinja山岸氏にインタビューを実施。1周年を迎える『東方LostWord』や同社が考えるゲーム作りに対する想いについて話を聞いてきた。
 

■楽曲やグッズなど作品を広げる様々な取り組みができた一年

 
ーー:まずはじめに、『東方LostWord』がもう間も無く一周年を迎えますが、率直に振り返ってみていかがでしょうか。
 
『東方LostWord』をリリースしたのが2020年4月30日とちょうどコロナ禍にて緊急事態宣言が発令した時でした。その時期でのリリースでしたが、「東方Project」のファン方々の熱量がものすごいあり、立ち上げ時は本当にたくさんのお客さんに来ていただいて、とてもうれしかったです。
 
僕らが今まで出したゲームの中でも勢いがあり、いろいろ盛り上げることができたなと思っています。
 
1年間、運用も頑張りまして、GoogleさんからはGoogleアワードをいただき、このような表彰も僕らとしては初めてのことだったんで、とてもよかったなと感じています。
 
今回で1周年を迎えますが、この1年を通して「東方Project」というIPをお借りして、二次創作としてわれわれが展開させていただきましたが、キャラクターイラストや衣装については200点以上のイラストになるんですね。
 
 
 
あと、グッドスマイルカンパニーさんが窓口となって様々なメーカーさんとグッズ化もご一緒させていただきましたが、グッズの製作数は300種類以上、ゲームにとどまらず様々なコンテンツに関わらせていただきました。
 
ーー:まだ1年ばかりにてグッズも300種類はすごいですね。
 
まだ1年しか経っていませんが300種類のグッズや200点以上のイラストはスタッフや関係者の方々のおかげですし、支持いただいたファンの皆様あってこそだと思います。イラストコンテストも行ったのですが、応募数は1000枚を超える、1398点のご応募をいただきました。
 
 
 
そして、『東方LostWord』のテーマ曲も作ったんですけど、こちらもおかげさまでYouTubeで500万再生を達成しました。アーケードの音ゲーにも入っており、実はカラオケでも歌えるようにもなっています。
 
ーー:すごいですね。本当に様々なことを行なってきたのですね。
 
他にもMVプロジェクトという取り組みも今年の1月から行なっていて、アーティストさん、歌い手さんでMVを作る取り組みにて毎月1曲新曲を出しています。
 
 
 
そして、その新曲の発表やゲームの更新情報を配信する生放送も開始しまして、それも月に大体1回ぐらい行なっています。4月30日に公開する曲は、相川七瀬さんにもご参加いただいています。
 
今後も著名な方々をアサインしていく予定ですが、そういった新曲を作って提供していくというようなことを含め、恐らく僕らが今までやってきた中で、この1年が一番いろんなことがやれたプロジェクトかなと思います(笑)。
 
ーー:本当に多彩ですね。
 
そして1周年では、その相川七瀬さんのボーカル曲を全員にプレゼントします。
BGM設定ができる機能がゲーム内に実装しているので、『東方LostWord』内で相川七瀬さんのボーカル曲が聴けます。
 
他にも、30日ログインしていただいた方を対象に全員もらえるキャンペーンや、『東方LostWord』グッズが、全国のローソンで販売されます。
 
 
 
 
1周年は相当盛り上げようと考えていまして、ゲームを作りながらも、そのゲーム周辺を盛り上げるために音楽をいろんな方と一緒に作りました。
 
グッズもいろんな会社と一緒に作り、イラストもファンの方から集めていただいたりして、恐らく僕たちが当初やろうとしてやりたかったことっていうのを、だいぶやれたなと感じています。
 
何をやりたかったかっていうと、ゲームを作るだけじゃなくて、そこから派生するいろんなクリエイターの人たちと一緒にいろんなものを作っていって、盛り上げたいと思っていたんですね。
 
「東方Project」というIPをお借りして展開する『東方LostWord』では、それをやりたいと思っていて、それが1個ずつ実現できました。本当に僕らとしては、いろいろ楽しんでやれたかなという1年でした。
 
ーー:なるほど。いわゆる「東方Project」シリーズの作品としてのIPを広げるということがNextNinjaとしてもやりたかったことだったと。
 
貢献できてたとしたら、とてもうれしいですね。
 
ーー:開発前から、そういった構想は持っていたのでしょうか。
 
そうですね。ただゲームを作るだけではなくて、そのゲーム周辺を盛り上げていけるようなコンテンツ作りをやろうと考えていたので、それがだいぶできたかなと思っています。・・・まあやりたいことしかやってないんですけどね(笑)。
 

ーー:(笑)。ユーザーさんにも受け入れられて、IPとしてもすごく広がり持たせることができたのは素晴らしいと思います。様々なことをされていますが、グッドスマイルカンパニーさんとはどういった体制や役割で取り組まれているのでしょうか。
 
もうシンプルに、一緒に考えて一緒に作るという感じですね。もちろんゲームを作っているのは僕たちなので、ゲーム部分に関しては僕たちが主体的に作っているのですが、どうプロデュースしていくのかは毎週グッドスマイルカンパニー(以下、グッスマ)さんと会議をしています。
 
このコンテンツ、このイベントがあるからこういうふうに楽曲を出していくとか、グッスマさんはそのグッズをこういうふうに展開していこうっていうようなことを毎週お話しして、いろんなことを一緒に決めているのが特徴ですね。
 
もちろん得意分野は、グッスマさんはパブリッシングやグッズの展開だったり、僕らはゲーム開発およびWebプロモーションとあるので、各分野にてそれぞれ主体性を持ちつつも一緒に決めて進めていく形ですね。
 
ーー:お互いとして役割分担があるものの、ある種垣根を越えてもう話し合ってやっていくってことですね。
 
そうですね。僕らが知っていることで、グッスマさんが知らないことはないですし、その逆も然りですね。
 
ーー:グッドスマイルカンパニーさんとは良い関係が築けているんですね。規模やクオリティが上がっている昨今のスマートフォンゲームを見ているとパートナー企業との連携が大事に思えます。
 
そうですね。よいパートナーと組むのが一番大事じゃないかと思います。ゲーム開発や運営では厳しい時は必ずあるじゃないですか。悩むときも多々あると思います。開発初期・中期・後期とあると思うんですけど、パートナーとの信頼関係があると、それぞれのタイミングで大変なことがあったとしても、一緒に悩み、一緒に解決していくことができると思っています。
 
1社単独でやる場合は違うかもしれませんが、パートナーと組んでゲーム開発をしていくには、本当に信頼関係を築ける会社さんとやることが、多分、一番重要なポイントかもしれないですね。
 
ーー:本当にしんどいときに一緒に歯を食いしばれるかどうかということですね。
 
おそらく、グッスマさんからも面白いゲームを作る人たちだということは、強く信じていただいていると思います。
 
要は、「ゲームの面白さは任せた」と思ってくださっているかどうかですね。だからこそ、僕ら面白くないゲームは世には出せません。それはつまり、お客さんに対してもそうですが、期待を裏切らないように向き合うことだと思うんですよね。コンテンツに対して真摯でありたいなと。
 
 

■更なる飛躍で二年目は世界に…NextNinjaが考える世界展開の戦略

 
ーー:今後についてどのような展望をお考えなのでしょうか。
 
次の話としては、海外展開の準備もこの1年間行なっており、5月中には、グローバル版として80カ国に出す予定です。
 
そして、年内には中国版をリリース予定としているので、ほとんどの国で僕らが提供している作品を人々に届ける状況が実現できるかなと思っています。
 
要するに、次のステップとしては僕たちが作ったゲームを、本当の意味で、世界中に広げるということをやろうと思っています。
 
海外展開についてもまたある種、NextNinjaの得意分野と言えます。これまで『グランドサマナーズ』(以下、『グラサマ』)でも海外展開を行なってきたので、その経験が生きる形になると思います。その経験をもって、2年目ではさらに東方LostWordを広げていく意気込みですね。
 
 
ーー:『グラサマ』についてもお伺いできればと思います。5年目という長期運営になりますが、いかがでしょうか。

 
5年目に入りましたが、リアルタイムPvPという新機能が国内版で実装されました。5年目でも大きくゲームデザインを変えていこうと、アグレッシブに取り組んでいます。
 
 
年数を重ねると多分、皆さんもありきたりなコンテンツで物足りなくなると思うので、これまでとガラッと違ったリアルタイムPvPを国内に実装して、そして、海外版にも実装していき、「ゲームをより面白くしていこうぜ」といったマインドで開発をしています。
 
ーー:『東方LostWord』同様に、常にゲームを面白くしていこう、作品を広げようという考えで運営しているんですね。
 
おかげさまで、海外でもどんどんお客さんが増えてきています。5年目に入ってまだまだDAUが伸びる作品も中々ないじゃいないですか。
 
ーー:長期運営で大型アップデートは中々ないですね。
 
その増えていくお客さんに対して、コンテンツをどう届けているかっていうのを常に考えてやっています。
 
ーー:作品を広げていき、世界中で遊ばれていく。コンテンツの理想形じゃないですか。NextNinjaではゲーム開発やマーケティングの他にも海外展開も自社で行われていますが、国内拠点から配信する狙いや戦略というものはあるのでしょうか。
 
まず、今の時代、海外ブランチをつくらずとも世界中に対して、僕らのようなデジタルエンターテインメントの場合は、日本にいながら世界中にサービスを提供することができる時代になったと思います。
 
必ずしも海外ブランチが必要なわけではない。なので、NextNinjaは基本的に日本で作って世界に提供しています。
 
社内には国内チームと海外チームというのがあって、海外チームは日本語を母国語とした人と、英語や他の言語を母国語とした人。要は、英語ネイティブの人と一緒にローカライズ、開発運用をやっています。なので、海外チームの中には英語ができる人が何人かいる体制です。
 
ーー:日本語ネイティブの人と英語ネイティブの人の混合のチームにしている訳ですね。
 
混合にすることで向こうの文化もすごく理解もしやすいですし、かつ、日本の文化もいろいろと把握しやすいメリットがあります。
 
なので、ローカライズするときも、「これこのまま出して通じる?」とか、「ニュアンスは伝わる?」とか、「宗教的な問題はない?」など、文化的な背景もネイティブのメンバーがいるので、適宜考えながら展開ができるという形ですね。
 
ーー:やはり、各地域の対応は臨機応変にできるのは強みであって、そういったものを社内で完結できるようにしているのですね。
 
そのポイントは、コミュニケーションがやっぱり大事だと思っていて、その海外チームを運用しているメンバーの半分以上は日本人なんですよ。中には海外に行ったことがない人もいます。

そして、英語ネイティブの人は日本語も話せるメンバーです。つまりどういうことかと言うと、楽天さんの逆のような形ですが、社内共通言語を日本語にしているんです。だから、日本語が得意な海外ネイティブの人に参加していただいています。

 
ーー:英語ネイティブの方でもあえて社内共通言語を日本語、ということでしょうか。
 
なぜなら、運営チームの半分以上は日本人ですから、そのメンバーとコミュニケーションができないと何も進まないからです。日本に拠点がある場合、英語ができてゲームが作れる人ってかなり少ないはずです。逆に、日本語がしゃべれる英語が母国語の人は国内にはたくさんいるはずです。
 
ーー:そうですね。日本に来ている以上、多いはずです。なるほど、ゲーム開発やコミュニケーションにおいては共通言語が重要であり、だからこそ海外展開においてもその共通言語の一つとして、日本語と定めているということですね。
 
はい。日本だから日本語という訳でなく、コミュニケーションを大事にしているから共通言語として日本語を採用しているんです。だからこそ海外展開チームも日本語を共通言語としているんです。なぜならコミュニケーションが大事だから。
 

世界展開するときに僕が思ったポイントとしては、英語はできるが日本語は不得意という方ですと、その人とコミュニケーションができないので、結局うまくいかないことが多いんですよね。
 
ーー:言われてみると合理的ですね。やはり最終的に目指すべきは、コミュニケーションロスを極力減らして、いかにコンテンツ制作に専念できるかということでしょうか。
 
はい。世界展開をする場合、現地にまずはブランチをつくって、現地の社長を雇って、現地で行う形があると思いますが、僕の考えでは、まず初めにやることは、日本語が得意なネイティブの方を雇う(笑)。なぜならコンテンツ作りにはコミュニケーションが大切だから。
 
そして僕自身は、各国担当の人がNextNinjaで活躍できるようにしたいと思っています。今は、イタリア、フランス、スペイン、中国、英語圏の担当がいます。今後は、ポルトガル語、ロシア語圏みたいに増やしていきたいんですよ。そうすると世界中のマーケティングができるようになります。そうすると会社の規模もどんどん大きくなっていき、より新しいゲームやエンターテインメントコンテンツを作れるようになります。
 
ーー:それだけチャレンジできる場所も増えるってことですし、遊んでもらえるチャンスも増えるということですね。
 
 
 『東方LostWord』や『グランドサマナーズ』を通じて独自の考えでゲーム開発や海外展開を進めるNextNinja。同社では現在、様々な職種にて募集中だ。
 
NextNinja 採用ページ
また、後編では山岸氏が考えるゲーム作りにおいて大事にしていることについて話を聞いてみた。
後編はこちら


©上海アリス幻樂団  ©GOOD SMILE COMPANY, INC. / NextNinja Co., Ltd.
※東方LostWordは「東方Project」を原作とした二次創作作品