【CEDEC 2021】サイバーエージェント海老沼氏が明かす、3D美少女キャラのダンスをより魅力的する方法…能登有沙さん、宮崎あゆみさんによるダンス実演も
コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月24日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。
本稿では、"3D美少女キャラのモーションキャプチャによる「かわいい」動きへのこだわり ~ダンス編~"と題したセッションの模様をお届けする。
これから新しく3D美少女キャラによるダンスコンテンツのモーキャプキャプチャーをディレクションする業務に携わる人に対して、視野が拡がるような入門的な内容となった本セッション。
サイバーエージェント ebi tec labo 3Dディレクターの海老沼宏之氏と、エルアンドエル・ビクターエンタテインメントの能登有沙さん、宮崎あゆみさんの3名が登壇した。
モーションキャプチャーのダンスを3D美少女キャラに落とし込む際に、どのような工夫をしているかを、モーションアクターの能登さん、宮崎さんと共に海老沼氏が解説していった。
▲左から、宮崎あゆみさん、海老沼宏之氏、能登有沙さん。
「ある日突然、3D美少女キャラのダンスコンテンツの担当になった時、どうしますか?」と切り出した海老沼氏。ダンス経験もなく、アイドル知識もない。さらに自分が所属する組織にそういうノウハウがなかったり、詳しい人が周りにいないと大変だという。
そういう人が、どうやってダンスや振り付けをディレクションすればいいのか? どうやって見ていけばより良くなるのか? という問題の前に、まずダンス制作におけるモーションキャプチャーの収録までの基本的な流れを海老沼氏は解説していった。
▲実際にはもっと細かいそうだが、ざっくりとこのような流れになる。
モーションキャプチャー収録後のカメラやライブ演出も重要だが、「かわいいダンスを作るには、ベースとなる振り付けが非常に重要」と海老沼氏。
まずステップ1として、アイドル(人間)のダンスと3D美少女キャラのダンスそれぞれの特徴について解説。
アイドルの場合、ハートという歌詞の時に手でハートの形を作るなど、「ダンスと歌詞がバランスよくリンクしているのが一番の特徴」と海老沼氏。加えて、ライブを見ている人が真似できるような簡単でキャッチ―な振り付けも特徴だとした。
一方、3D美少女キャラのダンスの特徴は、後から修正が可能であること。頭の角度やポージングなどの細かい部分を綺麗に調整できたり、別テイクをつなげたりと、様々な修正ができる点を挙げた。また、コピーもできるので、複数人で同じ踊りをさせるのも得意としている。
そして動きに制約があるのも特徴。キャラクター同士の接触、衣装のめり込みなど、「コンテンツによってさまざまな制約があると思うが、これもCGならでは」(海老沼)とのこと。
では、これらを踏まえたうえで、振付師に振り付けを依頼する際に事前に何を準備すべきなのか? 能登さん、宮崎さんも「これらは振り付けする側からすると、意外と大事なこと」だという要素が以下のスライドだ。
・曲と歌詞…できるだけ変更がない完成されている状態が望ましい。曲と振り付けが同時進行という場合もあるが、仮歌でもいいのでなるべく用意したい。
・衣装…長いスカートだからあまり大きく動かないでほしいなど、動きの制限に影響があるため衣装情報は必要。
・キャラ情報…その曲を踊るのはどういう人なのか。性格やキャラ同士の関係(幼馴染、ライバル等)などがわかるとそれを振り付けに取り入れてもらえる。
・歌割(複数で歌唱する場合)…フォーメーションダンスで必要な情報。歌割まで決めた状態の資料があると振付師としては助かるという。
・ステージ…階段や花道など形状によってできることが異なるため、それら情報があると振り付けに反映されられる。
・プロップ…は小物のこと。マイクや扇子があるかないか、持ち替え可能かなどの情報も必要。
・テーマ、イメージ…誰がメインの曲なのか。または曲のテーマはかっこいいのか可愛いのか。既存の曲でイメージが近いものがあると、よりお互いがわかりやすい。
・動きの制約リスト…しゃがまないでほしいなどのリストがあると振り付けの戻しが少なくなる。また、動きの制約はCGならではなので、ダンサーからするとわからないことが多いという。
海老沼氏は「これだけの情報が振り付けを作るときに必要になる」とコメントした。
ここからは、能登さん、宮崎さんのダンス実演や動画を交えて、かわいい振り付けの10のポイントを解説。先に紹介した準備すべき情報を振付師に渡し、出来上がったダンスを見て、どのように良し悪しを判断すればいいのか?
「10つの項目を意識すれば、3D美少女キャラのダンスがより魅力的になる」(海老沼)とのことだ。
1つ目のポイントは、全体構成がテンション付けされているか。テンションとは、振り付けやダンスの激しさのこと。重要なのはサビで一番テンションが上がっていなければいけないとのこと。
宮崎さんは、「振り付けは、曲の印象的な部分やサビなどテンションを上げたい部分で一番盛り上げるように作ります。ダンス全体を通して、動きに起伏があるか、どこで盛り上がればいいのかを確認して、その上で大事なパートが目立っているかを見てください。もっとサビを盛り上げたい、もっと起伏を激しくしたいという場合は、振付師に相談していただければ、より良い全体構成を考えてくれると思います」とアドバイスした。
▲横軸が曲の流れ、縦軸が振り付けのテンション、つまり激しさ。こちらはあくまで例で、頭にサビが来る構成の曲もある。
▲ここから能登さん、宮崎さんが実際にダンスを披露しながら、ポイントを解説していった。
ポイント2は、歌詞どりのバランスが良いか。曲に対して、歌詞をとっていくというのはアイドルのダンスの特徴だが、ダンサー経験者は歌詞のない曲に振りを付けることが多いそうだ。
従って、アイドルのダンスを作る時に歌詞どりに慣れていないダンサーは戸惑うため、依頼した側もそのバランス感をチェックすべきとのこと。歌詞どりの解説ダンスを披露した能登さんは、「バランス感は、ちょっと工夫するだけでだいぶ変わるので、ディレクションする方は注目してほしいです」とコメントした。
▲とある曲のAメロの歌詞。全部の歌詞をとった場合は動きが重いが、テンションを低めにすると全体的な体の使い方がおとなしくなりAメロに適した振り付けになる。
次のポイントは、キャッチ―な動き・ポーズが入っているか。こちらもアイドルダンスに不可欠なもの。単純な動きだが、ダンスができない人でも真似しやすく、見ている人に対して強く印象付けができるため、このような振り付けを取り入れることも重要とのこと。
▲真似しやすいダンスについて、ゲーム映像とダンス実演を交えて紹介。
視線誘導がされているか。これが4つ目のポイントだ。これは画面上に複数人がいる場合、周りのキャラが歌い手を引き立てる振り付けが入っているかをチェックするという。
能登さんによると「先ほどの歌割がここで大事になってきます。また、踊りだけではなく、歌っている人を前に立たせるなど、フォーメーションチェンジでも視線誘導を意識している」そうだ。
▲視線誘導について実演。歌っていない人が、歌っている人を引き立てるよう視線や立ち位置などを意識させるのが重要。
続いてのポイントは、衣装を活かした振りが入っているか。衣装はスカートやマントなど様々なものがあり、振付師はそれら衣装の特性を振りに入れてくれる場合があるという。
せっかくかわいい衣装にするなら活かしたい、というのが振付師側の意見。衣装を活かすことは表現の1つになり、ダンスの魅力が増すそうで、振り付けの中に一ヵ所でもあると、それがアクセントになり表現が豊かになるわけだ。
▲ひらひらのスカートの揺れを活かしたダンス。
次のポイントは、本当に歌えるようになっているか。一見当たり前の事のように思えるが、「CGの場合は呼吸する必要がないので、気を付けるべきポイント」と海老沼氏。ダンス中、息継ぎのタイミングが入っていないと一気に嘘くさくなってしまうというのだ。
例えば、ロングトーンの時に動きが細かいと歌いにくそうに見えたり、スタンドマイクなのにターンしているなど。つまり、リアリティが損なわれてしまうので、「極力嘘のないようにしてあげたほうが説得力が出る」と海老沼氏は語った。
続いて、繰り返しのバランス感が良いか。同じ動きの繰り返しは覚えやすく、見ている方も真似しやすいため、アイドルのダンスで多用することは効果的だ。反面、あまりにも同じだと単調になり、CG的には固くなって見えてしまうので、そのバランスをチェックする必要があるという。
▲この映像では、4回同じパートを歌っている。カメラワークは異なるが3回目までは同じ振り付けで、4回目は振り付けを崩している。
8つ目のポイントは、カメラワークを意識しているか。「振り付けをもらったその時点で、なかなかカメラワークまで決めるのは難しいと思う」と海老沼氏。曲の内容、曲調、歌詞、振り付けから決めポーズが出てくると思うので、「そこをアップカットにしようなど想像してほしい」と続けた。
また、その際に決めのポーズや動きの時に、なるべく顔の近くに手を置いてほしいとも。海老沼氏は「アイドルものは、顔をアップで映すことが多いので、手を顔の近くに置いた振り付けをすることで画面が映える」とした。
▲アップになった時に、顔の近くに手を置いてウインクなどすると表情が豊かになる。
次に、キャラらしさが入っているか。こちらは、振り付けの中に各キャラの個性を演出することで、ダンスの魅力が増すそうで、「このような工夫を入れてみるといい」と海老沼氏はコメントした。
最後のポイントは、動きが3Dキャラ映えしているか。動きにメリハリがきいているか、身体を3Dに使い末端の角度が曲線かを意識するといいそうだ。
メリハリとは緩急、強弱をつけるようなイメージ。身体を3Dに使うとは、「頻度にもよるがあまりダンスが正面向きばかりだと固い印象になるので、斜めにすることで女性の曲線を表現したり、空間も生まれて平面的ではなくなる。また頭や腕の角度を曲げると一気に女性らしさ、身体が細く見える」(海老沼)とした。
最後に海老沼氏は、「モーションキャプチャの収録をうまく進めるために、リハーサルをしましょう」とアドバイス。振り付けが出来てもすぐに本番ではなく、リハーサルをして気になる所は潰しておく。本番で何度もリテイクすると、ダンサーの体力がなくなり、それがデータにも影響すると説明した。
さらに、「意見する人の代表を決める」というアドバイスも。収録現場は参加人数が多く、色々な人がチェックしてそれぞれがバラバラに意見をすると混乱してしまうという。振付師やダンサーも、不明点は代表者に聞けばわかる、という環境を作ることもディレクションの役割だとまとめた。
会社情報
- 会社名
- 株式会社サイバーエージェント
- 設立
- 1998年3月
- 代表者
- 代表取締役 藤田 晋
- 決算期
- 9月
- 直近業績
- 売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 4751