【CEDEC 2021】ソシャゲと何が違う? ブロックチェーンゲーム運営のプラチナエッグが語る「ゲーム内経済と報酬設計」



コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月24日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。

2021年は各社がNFTという言葉に反応し、相次いで事業参入を行う中、同技術の基盤となるブロックチェーン技術についても注目が集まってきた。CEDEC2021においてもブロックチェーン技術を利用したゲームの講演が行われた。

本稿ではそんなブロックチェーンゲームの開発・運営を行うプラチナエッグの竹村也哉氏による「ブロックチェーンゲームにおけるゲーム内経済・報酬設計について」についてレポートする。


■ソーシャルゲームとブロックチェーンゲームの違い

まずはブロックチェーンゲームと呼ばれるゲームカテゴリーに関してだ。ブロックチェーンを利用していれば、ブロックチェーンゲームと言ってしまうと、かなり広い範囲に渡ってしまう。そこで竹村氏は狭義の意味でブロックチェーンゲームとしてNFTとしてゲーム内をアイテムをオンチェーン(ブロックチェーンに記録する)で取引できるゲームを「ブロックチェーンゲーム」と定義した。



これまで数々のブロックチェーンゲームが登場したが、プラチナエッグの『CROSSLINK』は第3〜4世代にあたるブロックチェーンゲームだという。


▲『CROSSLINK』は「稼げる放置ゲー」で、片手間にゲームをプレイしてお小遣いも稼げる放置型GPS連動ブロックチェーンゲームとなる。


■ゲーム内の経済報酬とは




稼げる放置ゲーとしている『CROSSLINK』だが、実際にユーザーへの報酬設計はどうなっているのか。竹村氏はユーザーがゲームをプレイすることで得られる報酬の仕組みを以下のように紹介した。



例えばレイドで勝利することで、ビットコイン(BTC)が手に入るなど、ゲームをプレイすることでユーザーは報酬が得られるようになっている。またゲーム内アイテムをマーケットで売買することが収益を得ることもできるというわけだ。

ではユーザーに支払う仮想通貨の原資はどこから捻出するのか。その内容が以下の通りなっている。



ただし注意したいのは、ゲーム内で課金をせずビットコインを取得するフリーライダーの存在だ、と竹村氏は言う。『CROSSLINK』は原理的に課金をしなくてもBTCの取得が可能であるため、フリーライダーが一定数以上に増えない対策などを試行錯誤しながら行っているそうだ。



続いてはブロックチェーンゲームを運用する際の経済設計に関して。ブロックチェーンゲームの運営を行うにあたっての根幹とも言える非常に重要な項目と竹村氏は言う。

「ブロックチェーンゲームは、ソーシャルゲームとは異なる要素が絡む、内容としてはMMOに近い設計になるのでは」というのがその見解だ。ゲーム内のアイテム、それがどうやって課金が回していくか。ソーシャルゲームでままあるゲーム内サイクルをさらに拡張し、仮想通貨やお金の要素が混ぜ、まさに経済を設計するというイメージになるという。例えばプレイヤー側のモチベーションを考えた際に、どこでお金を獲得するか、獲得したお金を再投資してもらい更に稼いでもらうようにする、そういった要素も影響してくる。

またゲームと経済の仕組みが一緒になるため、ゲーム内でランキング1位になることと、現金なり仮想通貨を獲得することどちらが重要になってくるのかといった点も、ソーシャルゲームとは異なる視点が必要なる。つまりこのゲームサイクルに現金の要素を盛り込んだものを経済設計と呼んでいる。



加えて「ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内の要素に価値をつけられることもソーシャルゲームとは異なる点だ」と竹村氏は指摘する。そのためランキング1位の報酬や無償の石はお金で換算するといくらになるのかといった点も重要とした。

ソーシャルゲームにおいても似たようにイベントやスケジュール、ガチャなどの設計をしているが、ブロックチェーンゲームではここからさらに様々な要素に対しての価値設計をするイメージになるという。



そんな設計を下にブロックチェーンゲームの運営を行っていくとぶち当たるのが、「価値とは何かと」いう哲学的な内容になるのだという。この価値部分はゲーム内の報酬を設計するにあたって必ず必要とのことだ。



これについては「作ってる方もわからない時が多い。」と竹村氏は述べていた。例えばNFTアートで成功しているクリプトパンクだが、「なぜ何千万円〜何億円もの価値がついているのか、わからないというのが実情」だという。

そこで竹村氏はあくまでも「金銭に換算できるものを価値として扱う。」として話を進めていた。



実際に「CROSSLINK」ではどのような運営を行っているか。同タイトル内では各種装備のレアリティに応じて価格を設定しているそうだ。

ではその価格計算はどのように行っているか。「CROSSLINK」では基本時給という値を設定している。プレイヤーは基本時給いくらでプレイしているので、1時間で数個獲得できれば、この武器はいくらになるという計算の仕方だ。

また先に述べたとおり「CROSSLINK」ではゲーム内の報酬にビットコインが存在している。こちらもゲーム内の経済に大きく影響する仕組みだ。ビットコインに関してはもともとゲームの外部に相場があるため、そちらで換算を行っている。



続いては消費アイテムの価値だ。「CROSSLINK」にはゲーム内マネー(ダイヤ)があり、消費アイテムが買える。1ダイヤ10円で100個で買えるなら1000円という計算をしている。(実際にはプラットフォームの手数料や無償配布分を想定した係数をかけているとのこと。)

ここまで細かく各価値の設定をすることで、ゲーム内の報酬を設計することができる。

 



気になるのは報酬設計をし実際にイベントを行った際、売上が悪かった場合どうするかという点だ。イベントの売上が想定が大きく下回った場合、赤字になる可能性がある。そのため、同社ではイベントのダイヤ消費数が増えるほど、報酬が上がる仕組みになっているそうだ。例えばレイドボス戦においてダイヤの消費が多ければ多いほど、報酬が高くなると言った仕組みで、リスクを下げている。



続いてブロックチェーンゲームでユーザーへの支払いに関してだ。支払いには大きくわけて「直接的に懐が懐が痛む支払い」「間接的に懐が痛む支払い」の2つがあるという。こちらも経済設計を行うにあたっての重要なテクニックの1つのようだ。報酬として必ず現金でで払い出す必要があるか?答えはNOだ。

支払いにはいくら相当の「ゲーム内アイテム」であったり、ビットコイン+ゲーム内アイテムといった組み合わせで支払うといった方法も取れるため、赤字の回避方法の一つとして利用できると竹村市は説明した。





ただし注意点はある。例えばゲーム内マネーの配布やレアな武器をばらまき続けることで、売上やアイテムの価値が下がり、短期中期長期的に売上が減る状況になるため、あくまでも負債として考えるべきだとした。使い勝手が良いのでついつい利用してしまうため、注意して利用する必要があると竹村氏は話した。

次にユーザー側からの視点で見てみよう。「ブロックチェーンゲームのプレイヤーはお金を稼ぎたくてお金を払っているはずなのに、1万円払って5千円しか返ってこないゲームをプレイするのか?」というのが次の問いだ。この考え方で言えば、使用したお金以上に返ってこないと割に合わないことになる。かといって売上の想定を上回る支払いを設定することは可能なのか。

「結論から言うと可能」というのが竹村氏の主張だ。



その理由は以下の通りとなる。




▲法律とも密接な関係になる仮想通貨的のものの創造。ただし設計するには弁護士との相談を含め細心の注意が必要。





特にブロックチェーンゲーム内では、ユーザーが経済活動できるようにすることだけでインセンティブに与えることができるというのが竹村氏の主張だ。

この経済活動ができるかという点においては、ユーザーに対して報酬を支払ってるのに近いことが実現できる。例えばユーザー内がゲーム内で会社を作り、その会社が成長すれば利益がある。これは報酬設計ともゲーム内経済とも言え、それの要素を含めた報酬がブロックチェーンゲームでは重要だとした。

ブロックチェーンではDAO(※)という組織が度々話題になる。ユーザーが自主的に行動できて活動し、プロダクトの価値が上がり、報酬も得られる仕組みを作ることでモチベーションも上がる。運営もそのことで価値が上がりWin-Winの関係になる。「CROSSLINK」もその状況を目指すために試行錯誤しているという。

(※)Decentralized Autonomous Organizationの略で自立型分散組織と訳される事が多い。特定の管理者や主体を持たない分散型の組織をいう。(編集者注)



竹村氏は報酬設計のまとめとして、以下の内容を挙げている。

・関係者皆に報酬を配る。
外部から広告を出してくれた人やゲームプレイヤーなど様々インセンティブを配る。

・経済を作る
上記の関係者へのインセンティブを支払うための経済を作る。

・経済的報酬と社会的報酬
上記の経済的報酬に加え、社会的報酬も組み込めればなお良い。ここでいう社会的報酬とは、ある行動に対してお金を払うと価値を感じなくなってしまうというものだ。これは相手のためを思ってした行為に金銭が絡むと価値がなくなったと感じるようになるという。人間の本能的なところで、お金を払う行動と払わない行動が存在している。その報酬(※)もそれぞれある。社会的報酬は感謝の意といったようなものであり、ブロックチェーンゲームにも必要になってくるとした。

ただし善意の行動にお金を払うとやめてしまうので、扱いには注意が必要と竹村氏は補足を加えていた。竹村氏は最後にブロックチェーンゲームはこれから伸びてくるジャンルであると思うので、興味を持って作ってくれる人が増えれば幸いとして講演を締めくくった。


▲彼氏彼女の関係でのセックスに金銭が絡むことに対する違和感。母親が作る朝食に金銭が発生することへの困惑といった内容が挙げられた。




なお、余談としてブロックチェーンゲームに利用するチェーンの選定についても竹村氏は語っていた。ブロックチェーンは現在数百にも及ぶ様々なチェーンが存在している。(イーサリアム、nem、ビットコインなどなど)がある。ただし選択したチェーンによって報酬としての選択肢が変わってくるため、ひいてはゲームの設計に関わるというのだ。

そんな中プラチナエッグではiostを利用しているという。その選択理由の1点目としては自由度の高さにあるという。例えばスマートコントラクトを発行しても、修正してアップロードが可能であることがその理由とのこと。もしイーサリアムを使用していた際に、スマートコントラクトでバグがあると、修正を行うことが非常に困難だという。修正自体できないわけではないが、現実的にはかなり困難であるという状況だそうだ。

iostはそういった環境に比べれば柔軟であり、機能追加なども比較して容易としてゲームには向いているではないかと説明していた。(竹村氏)

また2点目はガス代(手数料)がほぼ無料であることだ。NFTを発行する際には、ガス代何千円になる場合がある。そういった意味でiostを利用すればガス代がかからないため、アイテムを発行するなどの際には他のチェーンと比べて有利になる。

ただし竹村氏によるとイーサリアムを使っている企業も多いそうだ。というものIOSTのホルダーが少ないため、経済圏が小さいためにマーケットが小さくなる可能性があるというのがその理由だ。最終的には自分たちの運営するゲームはどのユーザーを見て設計するかチェーンを使うのかというのがチェーン選択の本質になるはずと竹村氏は述べていた。


(9月14日13時30分修正)