【CEDEC 2021】アカツキのシナリオ横串チーム「ROOTS」が多様化するライターへのマネージメント施策を紹介 海外の脚本制作手法「ライターズルーム」をリモートで活用


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、824日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。

本稿では、826日に行われた、アカツキ・ゲーム職能本部 シナリオマネージャーの水野崇志氏による講演「至高のシナリオチームの作り方 ~リモートワークでも導入できる「ライターズルーム」とシナリオ横串チームによるマネージメント~」をレポートしていく。



本セッションでは、ゲームやアニメの制作現場でのチームによる脚本制作の【必要性】と【課題】について説明した。その【課題】の解決方法として、チームで高品質な脚本を作成するために生まれた海外の脚本制作手法「ショーランナー」と「ライターズルーム」の仕組みと導入方法について、リモートワークでの実践例を元に解説。リモートワークでも「ライターズルーム」を実施できるツールの活用法や、チームでの最も大きな【課題】の一つ、メンバー同士のコンフリクトの解決法も紹介している。また、それらを実現可能にしたシナリオ横串チーム「ROOTS(ルーツ)」が4年間実施してきたマネージメントの詳細についても紹介。これら具体例を踏まえて、ゲーム開発でもすぐに活かせる「クリエイティブを高める方法」と「マネージメントによるシナリオチームの安定化」について伝えた。



まず水野氏は、シナリオ横串チーム「ROOTS」について紹介。アカツキだからこそのシナリオチームを目指し、人を大切にする+人の可能性を信じて運営を行っている。この経験を活かして、本講演では、マネージメントとクリエイティブの両面から話を展開した。



シナリオ横串チーム「ROOTS」を立ち上げる際、当時、社内に在籍していた30名ほどのシナリオ担当者に満足度アンケートを実施したと水野氏は振り返る。結果は以下の通りで、ROOTが誕生する前はあまり良い数値ではなかったことが分かる。しかし、ROOTSの活動を3年ほど続けたところ、満足度が急激に増加している。今回は、どのような過程を通じてこのような変化を生み出すことができたのか、満足度の改善に繋がったマネジメント施策を紹介していく。



クリエイティブに関しては、海外の脚本制作術「ライターズルーム」に挑戦。なお、今回はコロナ禍によるリモートワークでの運用となったため、「ライターズルーム」のルールやリモート用のツールなど、そこで培ったノウハウをお伝えしていくとした。


▲先のマネージメント施策がどのようにクリエイティブに影響していくかについても言及していくという。

次に、ゲームシナリオ制作の現状と課題について解説。体制の選択肢として、大きくは内製か外部委託化の2つ分かれる。そんな中、アカツキは開発会社の中にあるシナリオチームとして活動している。では、何故チームが必要なのか。この点に関して水野氏は、ソーシャルゲームが主要になったことで作業内容に変化があったと述べた。膨大な数のキャラクターが存在しているため、それを管理・更新していく作業が発生するうえ、定期的にかなりのボリュームのシナリオをアップデートしなければならず、個人では対応できない作業量となっていると説明した。そのため、ここ数年はゲームシナリオライターやシナリオ制作会社が急増しているという。また水野氏は、業界が広がること自体は喜ばしい一方で、ゲームシナリオライターが多様化したことから課題も発生していると続けた。





そこで、多様化することで起きている課題のひとつとして、背景が異なるメンバー同士でコンフリクトが起きている事例を紹介した。



ここでは、チーム内のライターがお互いのクオリティが低いと言い争っている。これを放置すると、「この人とは一緒に仕事ができない」となり退職に繋がってしまう。


▲メンバーが離脱することでシナリオチームに上記のような致命的な影響がある。こうならないためにも、課題をマネージメント施策でしっかりと解決していく必要がある。

では、実際にこのとき何が起きていたのか。

2人に話を聞いたところ、「クオリティ」という同じ言葉を使っていながら、それぞれ言葉に対する認識や要件が異なったまま議論が行われていたことが分かった。そのため、いくら話し合ったところでお互いに理解できず、問題を解決できていなかったという。こういった背景が異なるメンバーで起きるコンフリクトは非常に多く、例えば「面白い」「面白くない」「普通は~」「当たり前」「~みたいに」といった表現をすると、受け取り方が異なってしまった結果、コンフリクトが発生してしまうとの話だった。



話は少し逸れるが、ここで水野氏は本講演のタイトルにもある「至高のシナリオチーム」に関しても認識が異なる可能性があると述べる。ここでは、「要件を満たすクリエイティブを健全に継続できるチーム」のことを指していると説明した。

さて、お互いに認識が異なる言葉に気付いたところで、この課題をどのように解決していけば良いのか。まずは、自分たちが目指すクオリティ=要件とは何かを擦り合わせることが非常に重要だと水野氏は続けた。そこでライター同士では結論が出しづらいため、シナリオディレクターという存在が必要となってくる。


▲シナリオディレクターとは、明確な基準をもって、シナリオチームの指針を示す役割である。また、シナリオディレクターのNG行動の一例として「2人ともクオリティが低い!」というように、基準が主観による感想を伝えることを挙げた。

このような点からアカツキでは、多様化するゲームシナリオライター、シナリオディレクターの必要性・育成という観点を非常に重要視してマネージメントに取り組んでいるとまとめた。本セクションの最後には余談としてシナリオディレクションのポイントが以下のように語られた。



課題や現状を確認したところで、次にROOTSで実際にどのようなマネージメントを行っていったのか、その取り組みを紹介した。


▲こちらはROOTS立ち上げ時に作成された資料。「世界で戦える世界観やシナリオ作りを会社全体で目指していく」とかなりクリエイティブ特化な考え方だったが、これを実現するにはマネージメントが重要だと気付き、現在はそちらにも重きを置いて活動している。

チームを立ち上げてまず始めに行ったのは、冒頭でも紹介された満足度アンケートだった。



ここで水野氏は、プロジェクトの満足度が低かった理由について「シナリオを軽視されているのではないか」という不安がこの数値に繋がったと話す。実際にシナリオを書いている人とそうでない人では価値観が異なるため、そこから誤解が生まれてしまったケースが見られたという。また、シナリオチームに関しては、リーダーのディレクションや指示に納得感がいかないなど、「信用」という面に課題があったと述べた。そのため、ROOTSではまずライター全員と1on1で話す機会を設けたという。

解決を目指したポイントや改善した箇所は以下の通り。





さらに、これらの改善を一度に実施すると混乱が生まれてしまうため、フローチャートを作成し、今どういった工程を進んでいるのかを視覚的に分かりやすくして共有。約60工程ある中、半分ほどを埋めながら成長を目指している。



ここで水野氏は、共通言語を獲得するために実施した研修についてさらに細かく言及。順序として、まずはシナリオディレクターのみ研修を実施し、効果測定の期間を設けた。ここでディレクションを行う側から「相手に対してどのように伝えれば良いのかが凄く分かるようになった」という意見が挙がり、効果を感じられたため、当時、最もコンフリクトが起きやすかったシナリオチーム全員で研修を実施。共通言語を得たことで会話やミーティングがスムーズになり、コンフリクトも0になった。ここで非常に良い結果が得られたので、全プロジェクトのシナリオ担当者に研修を受けてもらうという流れだったとのこと。



なお、こちらの研修は強制されるものではなく、今までのノウハウを否定するものではないことも補足した。独自のノウハウや過去の成功体験もひとつの貴重なスキルや経験となっているため、引き続き大切にしてもらいたいという。また、研修内容に縛られる必要もなく、数ある手段のひとつとして理解し、議論のきっかけなどに利用してほしいと狙いを語った。

こうして、ゲームシナリオライターの多様化・シナリオディレクターの必要性という課題には、複数の【結節点】と【共通言語】を獲得することで解決したと話をまとめた。


▲上記の取り組みの結果が先の数字に繋がった。なお、プロジェクトに関して、2019年下期~2020年にかけては数値が15%落ちているが、実際に社員の声を聞いたところ「成長したからこそもっと大きなことをやりたい」というポジティブな不満だったため、数字上とは違った印象を抱いていると説明した。現に2020年の希望退職者は0人だったことも付け加えた。

マネージメントについての挑戦は以上で、続いてはクリエイティブへの挑戦について。

まずは「ショーランナー」と「ライターズルーム」について紹介。こちらは海外ドラマの制作現場で生まれた脚本制作の役割や仕組みのこと。現在はハリウッド映画や大手動画配信サイトの制作でも使用されているという。

アカツキでは、この仕組みがソーシャルゲームのシナリオ制作と親和性が高いと考え、暁USAの映画プロデューサーにもノウハウ共有を依頼するなど、2018年から調査・準備を行ってきたと経緯を話した。


▲役割・仕組み共に各現場で差異があるため、一例として参考にしてほしいと述べた。

「ライターズルーム」を実施するためには、以下のものが必要となる。



また、「ライターズルーム」の形式は大きく分けて2つの種類があることも紹介した。



まずは主にハリウッド映画で使用されている「コンペティション形式」について。脚本家がそれぞれのアイディアを脚本で提出するのが特徴となっており、脚本家同士の繋がりはあまりないのでチームワークは必要ない。そして、最終的にショーランナーが独断でピックアップし脚本を作るという仕組みとなっている。

この仕組みのメリットとして、各ライターが自分の好きなように書くことができるため、ベテランの中で新人が活躍できるチャンスがあることを挙げた。実際にハリウッドでは新人の脚本が映画化されたことが話題になったこともあるという。また、脚本家同士が相談しないため、複数の視点からIP/作品の新しい魅力を発見できる強みもあるという。

逆に、ショーランナーの独断で決定するため個性が失われてしまう可能性があることや、脚本家同士で認識の齟齬が生まれやすいことを注意点として述べた。 



2つ目に主に海外ドラマで使用される「ブレーン・ストーミング形式」について。こちらはまずショーランナーがパイロット版を制作し、これを基に複数の脚本家が集まってブレストを行う。その中でショーランナーは意見を言わず、提案を引き出して選択するという進め方となっている。その後、全員で全体構成を作成し、担当話数を決定する。ここで担当話数を決める前に全体構成を作成している理由について水野氏は、先に担当話数が分かっていると脚本家がそこに全力を注いでしまい、エゴが発生してしまうためであると解説した。また、映画でもシリーズ化が増えたことで使用されるケースが増えており、現在は「ブレーン・ストーミング形式」の方が主流になっているかもしれないと述べた。

こちらのメリットは、まず脚本家全員が同じ方針を持つことができること。誰かに何かトラブルが発生した際にも別の脚本家がフォローできるケースもある。また、先ほども述べた通り、全員でアイディアを出すため、多様でクオリティの高い全体構成が完成できる。

ただし、その際にショーランナーがどのようにアイディアを選んでいくかというところでスキルが問われる。如何に全員が納得する形で説明できるかがショーランナーの腕の見せ所となる。さらに、発言力のある人物がメインとなり、発言者が固定される場合があると懸念点を述べた。この点に関しては、各脚本家の得意・不得意や適性を理解し、参加者の役割を明確にして全員が平等に発言できる機会を作ることである程度防ぐことができると対策を述べた。最後の注意点として、自分のためではなく作品のためにアイディアを出すというスタンスが生まれにくい状況になりやすいため、如何にして全員が全力で全体構成を作っていくかが大切になると話した。



ここから水野氏は、「ブレーン・ストーミング形式」の仕組みがゲームシナリオに活用できると話を展開していく。しかし、「ライターズルーム」を実施するための課題に直面することに。

例えば、ハリウッド映画には何分にこれをやるといった共通認識やノウハウがあるため、話し合いがスムーズに進む。しかし、日本ではまだ共通認識となるノウハウやチーム執筆の経験が不足していることが挙げられた。また、これまで個人ライターが主体の業界だったため、「ショーランナー」という役割を担えるスキルが必要になる。ただし、これらの課題は先に紹介したマネージメントでの挑戦に近い部分が多く、シナリオディレクターの育成や、シナリオライター間での結節点や共通認識の獲得を行ってきたことが解決の糸口となった。



ここからどんどん挑戦していくぞという良い空気の中、ここでコロナ禍により多くの作業がリモートワークへと移行してしまう。そのため、ミーティングルームでの全体会議などができなくなってしまった。

こういった状況を踏まえて、次にリモート環境でどのように「ライターズルーム」を実行していったかを紹介した。


▲リモート環境での「ライターズルーム」に関して、ルールはそのまま使用できるが、ホワイトボード・付箋・会議室といった要素をPCの機能で代替えしなければならない。


▲こちらの「ライターズルーム」のルールを適用することでブレーン・ストーミング形式をスムーズに進行することができる。


▲講演では実際に使用した資料も公開。先にルールを決めておけば、アイディアにダメ出しがあったとしても理不尽に感じないため、先に提示しておくことが重要となる。

ルールがあることで、講演の最初に問題となっていた、ゲームシナリオライターの多様化によってコンフリクトが発生するという点も逆に多様化こそがそれぞれの役割を担う長所となる。

そして、リモートワークでは、参加者が同時に編集できる環境が必要となる。そこでROOTSは、「Googleスライド」と「ライターズルーム用テンプレート(自作)」を作成することで解決した。


▲こちらがライターズルーム用のテンプレート。見た目的には付箋を使ったものと遜色がない形となっている。

また、「Googleスライド」と「ライターズルーム用テンプレート(自作)」が予想以上に快適だったと水野氏は語る。理由として、オフラインではホワイトボード前に人が集まり、付箋の移動などをさせにくかったり、ホワイトボード全体を見られない、付箋の文字が小さくて読めない、途中で剥がれることがないという問題を解決できる。そのほか、テンプレートを用意することですぐに議論を始められるうえ、画像なども資料としてすぐに共有できることを挙げた。

ただし、「ショーランナー」という役割の難易度が高いという今後の課題についても言及。アイディアは多数出てくるため、結論を出すタイミングが難しいという。この点に関しては、時間を決めるなど別の判断軸を用意することでスムーズになっていくのではないかと考えているという。

このことから、適切なルールやツールで運用すれば、リモートでも十分な成果が可能であると水野氏は結論づけた。ROOTSでは、今後もライターズルームを活用し、クオリティを上げてそれぞれが納得いくものを作っていきたいとして講演の締めとした。


(取材・文 編集部:山岡広樹)

株式会社アカツキ
http://aktsk.jp/

会社情報

会社名
株式会社アカツキ
設立
2010年6月
代表者
代表取締役CEO 香田 哲朗
決算期
3月
直近業績
売上高310億9600万円、営業利益112億9400万円、経常利益111億5200万円、最終利益63億4500万円(2021年3月期)
上場区分
東証一部
証券コード
3932
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