「サービス終了タイトルに新たな人生を」 DeNAによるNFT・ブロックチェーンの取り組みと開発中サービスとは...DeNA TechCon 2021 Autumnレポート
DeNA<2432>は、9月29日にエンジニア向け技術カンファレンス「DeNA TechCon 2021 Autumn」をオンライン開催した。
今回は「Modulation”変調”」をテーマとし、昨今注目をされているNFTや、クラウドシフト、データ活用の最大化、ゲームやヘルスケア、ライブストリーミングなど、DeNAが多岐にわたり運営をしているビジネスの裏側で、エンジニアがどんな挑戦や課題解決をしているかについて語る10のセッションを行った。
本稿ではそんな中でも、同社が今年注目のワードNFTについて、語ったセッション「NFTデジタル・コレクティブル市場におけるDeNAの新たなる挑戦」についてレポートする。
▲セッションはDeNA技術開発室の緒方文俊氏が語ってくれた。現在は同社でブロックチェーンの技術開発を専門に行っている。
■NFTとデジタルコレクティブ市場
言わずものがなではあるものの、DeNAはこれまでもソーシャルゲームなどを通じて、市場に多くのデジタルコンテンツ供給してきた企業だ。
そんなデジタルコンテンツ市場は世界各国において年々存在感を増している状況だ。またデジタルコンテンツの需要の高まりとともに、それを支えるバックグラウンド技術も大きなパラダイムシフトを迎えている。「いわゆるWeb3.0と呼ばれるもの」と緒方氏はその状況を説明した。
Web3.0ではブロックチェーンを使って様々なアプリケーションが「より強固な接続性」をもって新しいものを続々作っていくそんな世界になるのだという。
では「より強固な接続性」とはどのような状態を指すのか。緒方氏は「イーサリアムやビットコインといった暗号資産(仮想通貨)は様々な取引所を通じて取引ができる。コインチェックやビットフライヤーといった取引所は、その企業の枠を超えて横に接続できる状態。一方でDeNAのプラットフォームである「モバゲー」内にあるモバコインやモバゴールドは横に接続することができない。」と述べ、これがweb2.0と3.0の違いの1つと説明した。
今回のテーマになっているNFTは、一部の暗号資産(仮想通貨)の中にERC20という規格をもっているものがあり、そこから進化したERC721という規格を指しているそうだ。この規格の登場によって、暗号資産(仮想通貨)にとどまらず、トレーディングカードも横への接続を持つことができるようになったという。
他にもNFT技術によってゲームキャラクターやアイテムといったものが、マーケットに接続して売買できるようになったのはご存知のとおりだろう。
緒方氏は「こういった部分が、NFTが非常に注目を浴びた理由の一つではないか」とし「ERCの技術は今も非常に活発な議論や開発が進んでいる。将来は新しいERCのバージョンでできることが増えていくのでは」と今後の展望を語っていた。
▲NFTを利用したアートやトレーディングカード。トレーディングカードというと紙に書かれた2Dのイラストを想像するが、NBA Topshotでは、モーメントという短い動画になっている。こういったものを総称したのがデジタルコレクティブルマーケットとなる。
■NFTCollectionとクロスアプリケーション構想
ではデジタルコレクティブマーケットに対して、DeNAはどういったアプローチをしているのか。緒方氏は現在の同社の取り組みについて教えてくれた。
その一つがこの「NFTコレクション」だ。「NFTコレクション」というタイトルの通り"NFTを集めて楽しむ"といった非常にシンプルなコンセプトになっているそうだ。特にその第一弾はモバゲーで大流行し、惜しまれながらもサービスを終了した人気タイトル「住み着き妖精セトルリン」のキャラクターを扱う予定であるという。また構想はそれだけにとどまらず、同社で運用中のタイトルやサードパーティのゲームキャラクターにも広げようとしているのだとか。
この過去のIPを利用している背景には、これまで同社が運用してきた様々なソーシャルゲームのサービス終了による無念感があるようだ。ゲームサービスを運用している事業者にとっては避けられない、サービス終了。
緒方氏は「せっかくユーザーさんが作ってくれたキャラクターやアイテムといったものを、サービス終了時に何かしらの形でお返しできないか」と社内で検討していたことがあったそうだ。そう言った過去の課題などについてもNFTは解決できる可能性があるという。
「NFTであれば、デジタルでありながらフィジカルと同じようなオーナーシップが実現できる。アイテムを自分のウォレットで管理できるといった内容は、DeNAにとっては悲願の技術とも言えるのでは」とその見解を緒方氏は述べていた。
また同社では、終了したゲームのタイトルのキャラクターであっても、第2、第3の人生を歩んでほしいとの考えから、今後様々なアプリケーションとのタッチポイントを作りたいと考えているようだ、
こういったタッチポイントを増やすために、Token Parameter Hub(トークンパラメーターハブ)といった、開発者が一行呼ぶだけでアイテムのパラメーターなどを呼び出すことが出来るアーキテクチャーも研究開発しているという。ブロックチェーンゲームの元祖、いわゆる一般のゲームにおけるインベーダーゲームとも例えられる「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」では、そのネコのキャラクターをベースに、ゲームやその他のコミュニケーションサービスでも利用しているKittyVerse(キティバース)などの事例を参考にしているようだ。
■PICKFIVEとOracleを通じた未来予測市場
続いての事例は、バスケットボールチームの川崎ブレイブサンダースのブロックチェーンを活用した新感覚カードゲーム『PICKFIVE』についてだ。同タイトルの開発は川崎ブレイブサンダースとその運営母体であるDeNAが担当し、5月の2試合限定で試験提供を行なった。
ゲームのコンセプトとして、ファンタジースポーツを掲げており、選手のカードを使って試合の行方を予想するといった遊びができるのだという。ただし緒方氏が言うには「NFTとファンタジースポーツに何のつながりがあるのか」という疑問の声が社内外から届いたそうだ。
その答えを理解するために、まず知っておきたいのが以下の内容だ。
ブロックチェーンでは、未来予測市場という未来を予想して報酬分配するといった古くからの研究テーマがあるそうだ。その中でも非常に有名なのがAugur(オーガー)というブロックチェーンプラットフォームだという。
「"未来型予測市場"なんて言葉を使うと自分の生活にはあまり関係ないと思いがちだが、保険に入っている人は多いのでは。自分が将来怪我をする、事故に遭かもと予想してベットする。これが予測市場」と緒方氏は説明した。
そんな未来型予測市場について、緒方氏は「最も脅威となるのは過去のデータを不正に変更されてしまいその内容を下にリワードを受給されてしまうこと」ことを挙げた。ブロックチェーンの対改ざん性の高さはここで重要なポイントになるという。加えてスマートコントラクトという人の手を介さず報酬の支払いにつなげる、というのが重要な点した。
『PICKFIVE』でも上記のような事例全てを網羅しているわけではないものの、会場の IoT 機器などから吸い上げたstats(統計)をブロックチェーン上に反映させ、そのデータを使ってユーザーへの報酬の支払いができるようにしていきたいそうだ。
またDeNAでは、StatのデータをBasketball Open Stats Standardとして規格化し様々なアプリケーションからの接続できるよう検討しているという。
そんな未来予測市場で重要な要素となるStatのデータだが、用途は多岐にわたっているというのが緒方氏の談だ。プレイヤー同士がフィードバックを交わすアプリ、試合中の接触で怪我の可能性を伝えるヘルスケアアプリ、スポーツストリーミングサービスの「DAZN」でも視聴者の視覚情報を助けるような仕組みがあるがそう言った活用が事例として挙げられていた。
さらにStatのようなデータはデータが誰のものであるかというのが曖昧な部分があるという。そこでブロックチェーンを利用することで明確化と見える化、使用した分だけチームやリーグ、選手に還元していきたい、それが重要なテーマであるとし、これがNFT(ブロックチェーン)とファンタジースポーツの繋がりになると緒方氏は理由を説明した。
■ブロックチェーンテクノロジーの選択
緒方氏は、ブロックチェーンはとっつきにくいという話をよく見聞きするそうだ。その難解さの理由として同氏は「チェーン戦国時代」と「ブロックチェーン基盤の将来性を見据えた選択の難しさ」を挙げていた。
「チェーン戦国時代」は、昨今様々な機能特徴をもつブロックチェーンが世の中に出てきていることに加え、そのチェーンに接続するためのアプリケーションやSDKがチェーンごとに存在。選択肢の豊富さが故に難しくなっている状況だという。
もう一方の「ブロックチェーン基盤の将来性を見据えた選択の難しさ」では、ブロックチェーンの基盤やSDKを開発するにあたって、ホワイトペーパーを作成、ICO(※)を行うというのがセオリーだ。
(※)新規暗号資産(仮想通貨)を公開して資金調達を行うこと。
そんな背景のため、自分たちでサービス作ろうとした際に、基盤技術としてまだ半分ぐらいの機能しか作られていないということも多々あったそうだ。そのためサービスを作っていくのと同時に自分たちも成長しつつ、基盤技術の2、3年〜10年後を見据える選択の難しさと、それ故の楽しさを抱えているのだという。
ではDeNAではどのような視点でチェーンの選択を行っているのか。同社では「User Delight」(ユーザーの喜び)という非常に明確な言葉あるという。緒方氏は私の想像と前置きながらも「元々モバゲーのサービスはPCゲームをスマートフォンへ移植したことで多くの人が触れた。こういった体験がコンセプトしてあるのではないか」と語った。同氏によれば、ブロックチェーンも同様で一部の人だけではなく、様々な人が使ってもらううことが非常に重要だとした。
そういった背景から緒方氏はテクノロジーの選択肢を3つの観点から見ているという。
まず1つ目は「使いやすい UXであるべき」。これはウォレット問題と呼ばれる長らくブロックチェーン界隈では悩んでいる内容だ。やはりDeNAも同じような問題と対峙していたそうだ。
そんな時、「LINE Blockchain」から声かけがありクローズドベータテストから参加する運びになったそうだ。「LINE Blockchain」の特徴として、LINE の IDがあれば、NFTを非常に簡単に扱うことができるのだという。そのため『PICKFIVE』でも基盤技術として利用しているのだとか。
ただ「LINE Blockchain」のシステムだけに固執しているわけではなく、他のウォレットに関しても研究を重ねているそうだ。例えばSNS の IDでトークンを送付できる「TORUS WALLET(トーラスウォレット)」や、「Web 3 JS」を用いてDeNA専用のゲーム向けウォレットの開発といったものがそれにあたる。
2つ目は「購入しやすい価格帯」だ。ブロックチェーン技術は元々マイクロトランザクションに非常に有利であると言われていたそうだ。ところがイーサリアムのガス代の高騰によって、手に届きにくい価格帯になってしまったため、テクノロジーの力でお小遣いでも利用できるような価格帯を実現したいという。
最近ではイーサリアムの「Layer2 Solution」が活発化しており、DeNAではリサーチを進めているそうだ。また「Gas-Less Transactoin(ガスレストランザクション)」において、ユーザーがガス代を気にすることなく、これまでのクライアント・サーバー型のように利用できるような仕組み、さらに「Flow」といった新しい基盤技術を利用して、ガス代の低減なやスピードの高速化を検討しているという。
最後は「新しい体験」だ。今まではリサーチ部分が主であったものの、この点がDeNAとしての開発の中心になっているそうだ。ブロックチェーンの世界では相互互換性(Interroperabilty)を通じて、新しい体験が提供できると言われている。ただしこの部分はものづくりをしてみると、非常にハードルが高い事に気づいたそうだ。
というのも、オフチェーンのデータをどうやってオンチェーンに乗せるか、他のアプリケーションで管理しているトークンを、自分たちのアプリで利用する際のパラメータ設定であるといった様々な課題が出てきたのだそう。
そこでDeNAでは「Oracle Network」と「Standard」を利用して解決を目指しているようだ。
さらには自律分散型組織(DAO)的なアプローチとして、トークンがもともと持っているの価格やオーナー情報、発行枚数といった内容を正規化し、パラメータの自動生成につなげるといった実験も行っているそうだ。
緒方氏は「もちろん100%問題の解決ができるものではない」とした上で、これらの挑戦を通じてアプリケーションが繋がるそんな世界のきっかけになれればよいと
最後に緒方氏は「人はなぜNFTが欲しくなるのか」に触れ、「希少価値」「経済合理性」「まだ見ぬ新しい機能」との考えを示した上で、「DeNAでは、そういった今後のNFTの新しい開発と言ったところもキャッチアップしながら我々の新しいテクノロジーにつなげていきたいというのも考えているとし、大きな試みは自社だけはなし遂げられないと思っているので、興味のある人は気軽に問い合わせして欲しい」と述べ、セッションを締めくくった。
なおセッションでは、視聴者からの質問に答えるQ&Aコーナーが設けられていたので、その内容も紹介しよう。質問は「ゲームにブロックチェーンを導入するのはどれくらい大変か」という内容だ。
緒方氏は色々な考え方があるとした上で、プロトタイプのゲームを全てスマートコントラクトを使って開発した経験があるそうだ。同氏いわく「これはめちゃくちゃ大変だった」のだという。最近ではオフチェーンとオンチェーンをわけようという動きが業界の中であるのだとか。
つまりゲームは通常通りで、マーケットに出す際にオンチェーンにするということだ。ただしこの点はよく議論になるそうだ。例えば「ドラゴンを討伐した人にだけ与えられる剣」を証明したい場合は、ゲーム内にもコントラクトを設定した方が、討伐者としての表現ができるのではないかという内容だ。そのため「ブロックチェーンでどこまで管理するかによって大変さは変わってくるので、ゲームの設計による」と緒方氏は回答していた。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432