【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第4回 恋愛結婚がオワコンになる時代の「推し」ファンたちの生態

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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今回は有限会社インフィニティ代表で世代・トレンド評論家の「おひとりさま」「草食系男子」など時代を彩るマーケティング本を多数出版されてきた牛窪恵氏と、『推しエコノミー』でマンガ・アニメ・ゲームなどのポップカルチャーのグローバル展開について著作を展開した中山淳雄で、結婚・出産・育児について今という時代がどんな時代にあるのかを“社会学的に”対談する企画です。


■学問と経営のハザマで恋愛と結婚を語る
中山氏:今回は『恋愛結婚の終焉~脳と男女のリアルが示す「新型婚」のゆくえ(仮)』で澤口俊之氏(生物学者・脳科学評論家)と共著を出される牛窪さんが、新型婚の調査の一環で中山にインタビューいただく場を、逆提案でgamebizの対談企画にも使わせていただくところから話が始まりました。早速ですが、牛窪さんは大学院の先生が本業かと思っていたら、むしろ最前線でマーケティング会社を経営されているところがメインなのですね。

牛窪氏:そうなんです。最初は普通に会社員をやっていました。新卒で大手出版社に5年いてから、2001年にマーケティングを中心に行う会社インフィニティを興しました。最初の著書が『男が知らない「おひとりさま」マーケット』(2004年)という本で、日経新聞から出して頂いたことと、丁度未婚化の流れもあってそこから様々なマーケティング調査の依頼をいただくようになりました。スタッフ全部合わせても40名弱の小さな会社ですが、消費研究以外にも、私のテーマである恋愛や結婚、出産にいたるまで、女性スタッフばかりなので皆で学びながら、なんとか20年間続けて来られました。

 

中山:なるほど、まさに生ものとしての経営もされながら、社長・研究者を兼ねられている感じですね。

牛窪:今回は、2015年に出版した拙著『恋愛しない若者たち』をベストセラーにしてくださった、ディスカバー・トゥエンティワンの前社長、干場弓子さんが新しい出版社BOW&PARTNERを興されて、「またご一緒しよう」となりました。おもに「恋愛と結婚・出産(性)は、セットで考えなきゃいけないの?」と悩める現代の女性たちにフォーカスを当てて、新しい本を書こうとなりました。その中で、中山さんの著書(『推しエコノミー』)にもあるように、趣味の一環として別モノのように存在していた「推し」が、実は結婚や恋愛のライフスタイルの変化と多分に関係があるのでは、ということでお話ききたいと思ってます。中山さんは、東大社会学で上野千鶴子先生に師事されていたんですよね。

中山:はい、学部時代は西洋史学部でナチスドイツ研究していたのですが他学部としてモグリこんでいて、社会学が生み出す「価値観の転換構造」の研究が面白くて、大学院にあがって上野千鶴子ゼミに本格的に入り、ボランティアの研究などしておりました。最初の5年は人材業界にいたのですが2011年にDeNAに入ったのをきっかけに、ゲーム業界を中心にエンタメに関わるようになった感じです。

 

牛窪:マンガ・アニメあたりは分かるんですが、ゲームの話になると、実は不得意なんです。ゲームメーカーさんとお仕事ではよくご一緒しますが、自分がプレーヤーとなるとあまりにハマってしまうしまうので、一切触らないようにしているんです。ギャンブル遺伝子があるんだと思うんですが、就活のときもテトリスにハマりすぎて、ナイショですが、一度倒れて病院に運ばれてしまいました(笑)。なので、中山さんのご著書にあったゲームについても色々教えてほしいです。

中山:僕は『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(2012年)のなかで、社会学者ロジェ・カイヨワの分析した遊びの4象限を使ってソシャゲを定義したんです。感覚の転倒(イリンクス)と競争(アゴン)が中心の家庭用ゲームに、ソシャゲは仮装・装飾(ミミクリ)で資産の多寡・豪奢さを競う要素をいれ、そこにガチャのような運要素(アレア)を入れた。これでゲームが体系的に遊びの4象限を充足させたのだ、と。簡単にいうと、操作や競争が楽しいではなく、ちみちみ時間を消費してくれて何かが積みあがるというのもゲームなんだと知らしめてくれたんです。

牛窪:なるほど、ソーシャルゲーム時代から実践だけでなく学術的にもアプローチしていらっしゃったんですね!

■失われた情緒―先行KPIがなくなった自由すぎる恋愛と出産目的のファーストSEX時代
※注)ロマンチックラブイデオロギー(RLI)とは「恋愛と性愛と出産が、『結婚』を媒介に一体化された概念(恋愛=性愛=結婚=出産)」として学術的に語られている。すなわち「結婚につながる恋愛が正しい」もので、結婚というゴールに到達できない恋愛は間違ったものになる。

牛窪:以前、山田昌弘先生がロマンチックラブイデオロギー(RLI)について、「男女7人夏物語」(1986年、TBS系)を契機に大きく変わったと言われていました。それまでは一生面倒見るという約束がないとSEXすべきではないという時代だったのに、このドラマは、さんまさんと大竹しのぶさんが「朝起きたら、知らない異性と同じベッドに入っている」という、自由恋愛を想起させるシーンから始まります。そこから、結婚に縛られない恋愛や性が肯定され始める。70年代に放映された「寺内貫太郎一家」(1974年、TBS系)を見直すと、樹木希林さんと浅田美和子さんが週刊誌を見ながら「うそー、結婚前にホテルに行く男女がいるんだって」「ふしだらねー」みたいな会話で盛り上がるシーンがあり、その価値観の変化に驚きました。

中山:それが「東京ラブストーリー」(1991年、フジテレビ)の赤名りかのような「SEXしよう」と、女性側から誘いかけるようなキャラクターが生まれてきた。恋愛婚がお見合い婚よりも多数派になったのはすでに1965年ですが、そこから20年かけて恋愛=性愛/結婚=出産時代でRLIに部分的に亀裂が入り始めたわけですね。

牛窪:それでもまだ80~90年代は、一般的に「告白」とか付き合うといった前提のプロセスがありましたよね。まずは、おもに男性が奢る、エスコートするという行為があり、女性もそこで奢られたり、デートに連れて行ってもらったりするうちに自分が“本名感”であることを自覚し、段階を経て告白と結婚への約束に至る。でも最近だとカップルの7割以上が割り勘という時代ですし、セフレやレンタル彼氏・彼女も出てくるし、一体誰が本命の彼女彼氏なのかがわかりにくくなってます。

中山:サルのグルーミングから始まり、仲良くするために動物はプロセスをもっている。でも今はセフレもソフレ(添い寝フレンド)もあるし、性愛があっても恋愛していなかったりするし、告白や一泊旅行の誘いのような「先行KPI」がないから、一体「付き合う」ってどの段階を言うのかがわかりづらい。結婚につながっている感じも希薄化してしまった。

牛窪:恋愛も曖昧なら、出産も「飛び級」が出てきて、だいぶ進化しています。私が2008年に『草食系男子』の本を書いたころから、キャビンアテンダントなど忙しい職種の女性たちが「地上勤務や9時5時の業務になって落ち着いたとき、子作りできるように」と、卵子を冷凍保存できる病院の存在を口コミし始めていました。保存しておいたものをここぞというタイミングで使って、出産まで一気に駆け抜ける。

先日も、ある女子大の学生さんが「私は仕事に打ち込みたいけど、そうなるとたぶん恋愛する余裕がなくなるから、いまから冷凍保存しちゃいました」と発言し、周りの女子大生も「すごーい」「私もやろうかな」と羨ましがるシーンを目にしました。今は30、40代の夫たちも、妻に「今日は排卵日だから飲んできたらコロス」みたいなLINEやメールを送られて、子作りプレッシャーの中で戦っている。勝負の日は、朝からウナギとレッドブルがフルセットで出てくる、なんて話も聞かされました。

中山:僕もリクルートの営業マンだった時に、会議設定のように計画妊娠するカップルいました。今日はここしか時間あわないからと公共トイレで待ち合わせて“致した”事例など。妊娠というゴールを追求しすぎると、そこに情緒ははぎ取られ、交尾と妊娠という非常に動物的な感じがしました。出産目的で、安い早いウマいなファーストSEXですね。

牛窪:すごい!それ、子供さんに後から、どこで生まれた命だよって説明するんですかね?

中山:新橋の公共トイレよ、とかになるんですかね笑。

牛窪:私もそういう種馬みたいな感覚ってどうなのかな?と思って、調査の際に質問してみたんですが、男性側もある程度は容認してるんですよね、実は。「下手うって確率低い時期に頑張るよりは、(排卵日前後に)集中して取り組むほうが効率いい、ラクだから、まあやりますよ」といった具合。「選択と集中」ですよね(笑)。アプリが出てきた段階で、奥さんの排卵日なども夫婦でシェアする方が増えましたし。

■恋愛における自由主義の敗北とAI化するお見合いおばちゃん
中山:結婚や出産が「恋愛」ではなく実利・効率・計画と近づいていく。皆がそれを容認している。僕はある意味、「自由主義の敗北」だと思ってます。お見合い婚から恋愛婚になって、皆「自分が自分で選択した恋愛=結婚」だと思っていた。でも自分の選択が結構ミスが多いと。

牛窪:おお、それ面白いですね。

中山:近代家族で人口を増やす前提で管理をしてきた国家やイエは、RLTに“乗っかった”。見合婚ほど管理できないが、それでも人口を増やし、イエが保全されるように形を変え、「自由恋愛だけどどんどん家族は作ってね。家族で育児から介護まで面倒見てね」と近代家族をなんとか維持しようとした。でも個々人にとっては、選択の結果としての自由恋愛の後の結婚が、それでも離婚率は全然高いし、パラダイスではない、ということに気づいてしまった。

牛窪:そうなると、恋愛しなくても親が容認する相手ならそれでいい、といった感じになる。眞子さんと小室圭さんのご結婚が物議をかもしたのも、ひとつはそうした時代の流れに「逆行」する形だった(親の反対を押し切った)せいもあるのかなと。民間の調査でも、20代女性は彼らの結婚に「容認派」が多く、むしろ憧れるとの回答も目立った。いわゆる「カリギュラ効果(禁止されるほどやってみたくなる)」というか、「これはダメ」と枷をはめられた特異な人達だけが、「自由」の魅力や幻想を追い求める時代なのかもしれません。

中山:選択肢が無限だと「勘違い」することも自由主義の限界かと。10人中何人目に選ぶのが合理的かという実験もありましたよね。3-4人目までは見送れ。だがそれ以降で今まででベストという相手がいたら、確率上それが最適と。でもそれが10人じゃなくて「いくらでも選べるんだ」という無制限のように感じてしまうと、見送りすぎて決断を誤る。ペアーズやタップルでアルゴリズムのフィルターにのっかってしまったほうが、条件もある程度固定していて「正しい選択」ができる。

牛窪氏:AIが進化してくると、人のぬくもりがなくても「誰かのお墨付きがほしい」という集団アルゴリズムが働きますよね。リモート婚活の取材でも、痛感します。

中山:昔のお見合いおばちゃんがAIになっているんです。おばちゃんも相場的にちゃんとその人見てるから「あんただとだいたいこの人だと、できすぎるくらいだから」とジャッジが入る。あれ自体が最適なアルゴリズムになったと思うんですよ。就活なんかもそうなんですよね。自分の限られた合理性で就職先選んでいると、実はその選択が正解じゃないということを我々も自覚している。どこでもエントリーシート送れるから、どこにも受からない。こうした「選択のための間接コスト」がRLIには考慮されていなかったんじゃないかと思うんです。


■「反抗」自体がアート化する時代-確執がなくなった親世代にパラサイトするシングル達
牛窪:私の会社も以前、積水ハウスさんとご一緒に、団塊世代の母親とその娘さんたちを、200組400人、2年間かけてインタビュー調査したんです。「娘と暮らす家 カーサ・フィーリア」という住宅開発のための研究だったんですが、初めに積水ハウスの担当者さんが「一緒に開発したい」とお電話くださったときは、「おひとりさま」向けのシングル住宅かと思ったら、団塊世代の建て替え住宅としてのパラサイト住宅(母娘が中心になって建て替えを考える)だったんですよね。

中山:それメチャクチャ面白いですね!

牛窪:その時点で、30代の未婚女性の約75%が、まだ親御さんと同居していました。そもそも団塊世代と団塊ジュニアは、日本で一番&二番目に人口が多い。しかも、90年代後半から「仲良し母娘」や「一卵性母娘」と呼ばれ、仲がいいとされてきた。ただ、例えばコネクティングドアという、2つの部屋を行き来できるドアを付けるか否かでは、娘さんが「母親に入って欲しくない時もあるので、時には鍵をかけたい」としながらも、「でも鍵をかけると、お母さんに嫌味な印象を与えるかも」と洩らすなど、微妙な関係性もいろいろ明らかになりました。
また、このあたりから自由主義といいながら、金銭的に独立できない男女も増え、国も団塊ジュニア夫婦で共働きがスタンダードになると、その親世代を「子(孫)育て資源」と表現したり、2025年の親世代の介護問題を意識して同居や近居を推奨したりする時代に入ってくる。

中山:明確に親がプレッシャーにならなくなってきているから。いまや戦後で最もヤンキーが少ない時代になってるんですよね。

牛窪:1980年代前半が、暴走族の数のピークなんですよね。昔はヤンキーにとっての卒業式ってやんちゃで暴れて教師への犯行を示す場だったのに、いまは学ランに「ママ、ありがとう」と刺繍する注文が増えてます、と新聞報道にありました。いわゆるマイルドヤンキーの人たちですら、長ランはコスプレ感覚になっていて、権力にあらがうという感じではない。

中山:ルーズソックスや東京リベンジャーズなんて完全に「ビンテージ消費」ですよね。あの時代はよかった的な。もはや反抗すべき親世代が、自分たちを容認しているから、そうした反抗の道具が単なるアートになっている。


■無理ゲー社会において「裏切らない」推しという存在が自己を回復させる
牛窪:まずAKB48のシステムが画期的だったなと思います。総選挙で競い合わせて自民党の総裁選のように争わせる一方で、内部は結束させて、ファンじゃない人もそのバトルショーに巻き込まれて、いつのまにか参加意識をもつように作られている。「参加させる」という画期的な本当にウマい仕組みを、さすが秋元さんマーケティングの世界もご存知なので、以前から分かっていた。90年代まではマスメディアが人物像を作り上げて発信していく時代だったが、SNSが出てきた段階でニッチなファンが市場を大きくしていくということを、すでに2000年代半ばからおっしゃっていたんですよね。

中山:プロデュースしていく。恋愛感情じゃないんですよね。NTTグループで中年男性が服を一般女性にコーディネートしてもらうサービスを開発してるんですが、実はお金払う男性側ではなく、「プロデュースしている」女性側がすごい盛り上がっている。だんだん男がイケてる感じになるのが面白い、と。女性って男性より生まれながらのプロデューサーなんですよ。恋愛相手の獲得のために自分プロデュースに邁進し、結婚・出産すると子供プロデュースに邁進、その対象がだんだん推しメンになっていく。メスを競争で獲得するオスと、選ばれることで獲得していくメスとの違いですよね。

牛窪:それ納得です! インスタやTikTokも、自己プロデュース能力がないとダメですよね。とくにZ世代の女性は、自分自身の「自撮り」より、自分がプロデュースした独特の雰囲気や「自分ワールド(世界観)」に共感して欲しいし、同じような価値観の人と、有名どころよりむしろニッチな趣味やアイドルなんかを一緒に育てていきたい。マーケティングで言う「共創」ですが、それが中山さんのおっしゃる「推し」につながっていく、と。

 

中山: 僕はゲーム事業を10年やってきましたが、「ゲームに無理ゲーはない」んですよね。いま現実のほうが圧倒的に無理ゲー化している。この大学でるとこの就職先で、など情報が見えすぎているし、親ばかりが裕福なのに自分たちは貧しいままで。結婚後もいつごろ借金がどのくらいになるかわかるし、これ攻略不可能だろうと。それに対して、二次元でもアイドルでも、ある程度規則性があって、やったことに対してきちんと成果もみえる。

牛窪:無理ゲー?よく聞く言葉ですが、ちょっと詳しく説明してもらえますか?

中山:うちの嫁が整理大好きな人なんですが、整理整頓や掃除終わった後に、ふー疲れたとドクターマリオやるんですよ。パズルゲーム。でどんどんバグを消して全部きれいにするとすごい達成感あるようで、それでやる気とりもどしてまたリアルでも掃除する。「整った状態」というゴールは同じなんですが、ゲームのほうが正確にわかりやすくその状態を見せられている。ゲームの「支配できている」瞬間に自己の回復を行って、そこから再びカオスのリアルに立ち向かう。AKBでいう「CDの枚数は裏切らない」に近いかもしれません。

牛窪:ランニングや筋トレにハマるサラリーマンのような感じがしますね。カオスな上司と向き合ってつらい現実に対峙しても、真っ当な評価が得られるとは限らない。でも、筋肉は数値で見えるし、頑張れば確実に成果が見えていく。「裏切らない」というのは本当に共感ワードですよね。

中山:まあ二次元キャラと違ってアイドルの「推し」は裏切りもあるので、多少現実に近いところもありますけどね。

牛窪:課金のリミッター(解除)などはどうなのでしょうか?一部では、キャバ嬢にお金をつぎこむオジサマのような、おバカな現象として見られている風潮もありますが。

中山:皆極端な事例をあげつらいしすぎている印象もありますね。『モバマス廃人』という痛烈な本もあったりしましたが、僕もソシャゲのユーザーを調査していた時は月5千円とか、ほとんどの人は可処分所得の中で限られた中でやっている。使いすぎている人はその人本人の問題もあるし、数%もいかないごくわずかな比率で存在する。女性ファンのほうが、同じ推しのグループの中で争わずに社会化している傾向も見られますし、想像されているよりは非常に秩序ある「社会」がそこにあると感じます。


■冷静な恋愛・結婚と情熱の推しのあいだで―国策から離れた「新型婚」の時代

牛窪:「推し」が無理ゲー社会に向き合う精神安定剤になる中で、中山さんは今後恋愛・結婚ってどうなっていくと思われますか?

中山:個人的には『推しエコノミー』でも書いたように、恋愛/性愛/結婚/出産はそれぞれ分断していくと思います。セフレもいいし、でも結婚は別腹の安定した相手。「恋愛」は妄想による異常状態でもあり、メディアに作られたものだと感じます。1980年代に雑誌やマンガの役割が大きくて、自分の10歳の娘もいま「ちゃお」を読んでいて、恋愛気持ち悪い~といいながら、ちらちらみて何か気になっている。皆、恋愛も結婚も出産も「幸せになりたい」ための手段でしかない。その手段が目的化してたけど、目的から遠ざかってるなと思ったらそれはRLIを捨てて、よりよい選択をすればよい。

牛窪:やっぱり、そうなっちゃいますよね。もう恋愛がデフォルトではなくなるんですかね。

中山:10億人から70億人に増える、家族計画が最大の関心事だったのが200年の歴史ですが、もう家族を増やすことが国策ではなくなってきている。石油をガンガン炊き上げていくような皆結婚出産システムが、エンジンとして劣化していてきている現代に、じゃあ勝手に恋愛して結婚してって放置プレイになっている。もう先行KPIもないわけだし、結婚というより出産・育児はめちゃくちゃハードル高い作業だから、それはそれを完遂できるよきパートナーを「冷静に」選べばいいんだと思います。

牛窪:私も韓流オタクですが、専業主婦も多くが、韓国ドラマで観賞用のイケメンを見れば満足と言います。推しの対象が「愛の不時着」(ネットフリックス)だろうとBTSだろうと、非日常に自分を解放していたら、リアル恋愛に走らずともパワー全開になれますよね。ますます恋愛に価値を感じない時代になっていく。若い世代でも、例えば今秋の「メンノン(MEN'S NON-NO)」(集英社)によるアンケート調査を見ると、18~20代女子で「(女子に)告白される男子はカッコイイ」が6割以上、男子でも同様の回答が7割以上もいた。さらに、男子の「告白されたい」派は約8割で、そもそも「告白は男性から」とのプレッシャーを感じない男子も6割以上。この10年あまりで、なぜこんなに変わったのかと驚きます。「草食系男子」の本を書いたときは、さすがにここまでじゃなかった。

中山:面白いですね。競争がないから、同性もモテる相手に嫉妬したりしないし、フェアな目で評価できる。

 

牛窪:澤口先生はもともとメスが雄を選ぶのが生物学的には正しいから、別にそれ自体は不思議ではないと言っています。代表的なのが、メスのほうが寄生者に強いオスを選ぶというパラサイト仮説。一般論でも、「ボスザル」と見られるような第一位のオスは、メスをめぐる争いで他のオスの交尾を邪魔できるので「力を持つオスがメスを選べる」みたいなイメージが強いとされますが、実はメスは、必ずしも第一位のオスと交尾するわけじゃないんですよね。

中山:男女が適正に配分されてるとケンカ無くなりますよね。生存率も加味したオスメス比率はチンパンジーが10:1、ボノボが3:1で人間が1:1。一夫一妻制で誰もがメスをあてがわれる社会になったときに、オスの争いはなくなって社会はめちゃくちゃ安定した。江戸時代も治安悪化は江戸にでてくる嫁のいない次男坊たちでしたし、明治維新興した英雄たちも次男が多かったっていいますよね。すでに世界人口は7倍になったし、平和になった。むしろ人々は出産・育児という最難関の課題に直面している。これだけは、夫婦2人で乗り越えるには重すぎるタスクです。

牛窪:団塊世代以降、核家族が定着して、出産・育児が夫婦の最大テーマになったわけですよね。逆に言えば、子どもがいればカップル解消が責任問題に発展しますが、恋愛と結婚だけなら、いつ解消しても社会への影響は少ない。ということは、子作りを前提としない恋愛や結婚は、ほとんど推し活と変わらないですもんね。極端に言えば、性的行為が発生するかどうかの違いぐらいで、いつ始めてもやめても許される、みたいな。

中山:RLIまでの200年間は家庭をリ・プロデュースするための国策システムとして「恋愛=結婚=出産」がフィーチャーされてましたが、もはや目的は果たされた。恋愛とは違いますが「推し」も自己を回復させる誠実なゲーム空間のようなところがあり、あくまで個人的な活動。そうした中で「育児」というタスクに、選択肢が多すぎるなかでどうAI・アルゴリズムも含めてベターな選択をして、かつ核家族の少ない兵力で向き合っていくか、そういう時代になったのではないかと思います。

牛窪:「ホンマでっか?!TV」(フジテレビ系)という番組で長く共演させて頂いてる明石家さんまさんは、「女が変わるのは分娩室だよ」と仰います。出逢ったころ、男性にとってどんなに情熱的な恋愛相手だった女性も、結婚はともかく、出産を経て、まったく別の生き物に変わるんだと。つまり、恋愛と結婚は似た線状にあったとしても、出産・育児でまったく違うステージに移る、そこを分かったうえで結婚すべきだという理論です。

そう考えると、政府の少子化対策は理に適っていない気がします。「恋愛結婚」と「出産」を相変わらずセットにして「産めよ、増やせよ」と言っても、若い世代は「なんかモヤる」と釈然としない。子作りに対する社会的責任は必要ですが、中山さんが言うように、恋愛/性愛/結婚/出産を切り離して多様なパターンを認めていくことで、むしろ時代に即した「新型婚」が定着して、結果的に子どもの数も増えるんじゃないかなと思います。

 

■著者経歴
牛窪恵:
世代・トレンド評論家。マーケティングライター。立教大学大学院・ビジネスデザイン研究科客員教授。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に5年間勤務したのち、2001年4月にインフィニティを設立、同代表取締役。企業との商品・サービス開発を行なう一方で、マーケティング関連の著書などにより多数の流行語を世に広める。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。2019年に立教大学大学院にてMBAを取得。現在はテレビのレギュラー番組出演や講演活動も行う。近著は、「若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる」(日経BP)。

中山淳雄:
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷も決定した。

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