【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第14回 インドで一番有名な日本人YouTuber、ヒンディー語で150万登録―日印の懸け橋になる

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
/

YouTube100万人登録といえば、タレントとしての一つの到達点だろう。登録者数152万人という大ヒットチャンネル「मायो जापान Mayo Japan」 を運営する人見眞代はヒンディー語YouTuberという特異点を掘り当て、手越祐也やひろゆき、川口春奈などの超有名タレントのチャンネルをおさえて現在日本で229位のポジションにある。社会人3年目の20代女性がなぜこんなチャンネルを作るに至ったのかについてインタビューを行った。

 

 

■マイナー言語を獲得するために入山した「大阪のチベット」、初のインド留学

――:自己紹介からお願い致します。

人見眞代(ひとみ まよ)と申します。ヒンディー語でYouTuberをしております。YouTubeは3つ運営しておりまして、そのほかはTwitterやInstagram、ブログなども更新しています。

 

1 मायो जापान Mayo Japan【152万登録】-インド向けヒンディー語動画
https://www.youtube.com/channel/UCBjmXe4le5EH7gKrq2UswAQ
2 ナマステMayoTV【1.8万登録】日本人向けのヒンディー語講座
https://www.youtube.com/c/indogirl-mayo/videos
3 Learn Japanese with Mayo & Indu(8.6万登録)インド人向け日本語講座
https://www.youtube.com/channel/UCZuM6j0eQOa9o3AJNNa3zCA

Twitter @mayo_hindi インド人向け
Twitter @MayoLoveIndia 日本人向け
Instagram(mayojapan)【7.2万フォロワー】
インドに恋してブログ 

 
――:大変手広くやられてますね!人見さんとインドとのつながりはどこから生まれたのですか?

最初、高校時代に大学進学の言語専攻をしたところが始まりだと思います。もともと「言語、歴史、海外」が好きで、何か人と違うことしたいなというのがありました。結果大阪大学外国語学部に合格するのですが、ドイツ語やフランス語といった言語で同じようなことをやっている人がいない言語…と探したときにアラビア語、スワヒリ語、モンゴル語、ヒンディー語の4つに絞られました。お恥ずかしながら英語もできない状態でしたが、日本人が活躍できそうで、市場としても大きく、また日本とも関係良好な国という消去法で「ヒンディー語専攻」を決めました。


――:最初は日本の大学で勉強されるのですね!でもそもそもインドって英語でいけるんじゃ…?

そうなんですよ(笑)。大学に入って最初に受けたヒンディー語の授業で先生が放った一言が衝撃で、「あなたたち、よくこのマイナーな言語の専攻とったわね。インド人は、英語が話せるので、ヒンディー語なんて勉強しなくても会話できるのに」と。一体私は何のためにヒンディー語を専攻したのか、と最初から出鼻をくじかれました。ただ、とはいっても大阪大学・外国語学部の校舎は“大阪のチベット”と呼ばれる山の上にあって他にやることもなく、幸い? 3年生のときにインドに留学するまではかなり真面目にヒンディー語の勉強をしておりました。


――:そこまではマイナー言語をただ専攻してしまった普通の大学生、というわけですね。3年生の留学は必須なんですか?

いえ、必須ではなかったんです。交換留学制度がなかったので自分で語学学校を探しました。最初はデリー大学とか有名な学校も申し込んだのですが、そもそも返信がこない。。。ただの学生がいきなりツテもなくメール・手紙だけ送っているわけだから、まあ仕方ないと今だから思いますが、最初は1年間通うつもりでデリーの語学学校に入りました。ただ…レベル別のキャリキュラムがきちんと組まれていなかったり、そもそも先生が授業に来ないなど、問題点があり、有意義な学習ができなかったため、1ヶ月程度で学校に行かなくなり、インド人の彼氏をつくったり(笑)。他にもインド人社員の多い日本企業でインターンをしたり、インド旅行いったりで、英語・ヒンディー語をマスターしようと頑張っておりました。


――:なるほど(笑)草の根で覚えたヒンディー語という感じですね。日本人女性のインド生活はなかなか大変だと思いますが、いかがでしたか?

楽しかったですよ!あっちにいくと人格変わるんですよ。しゃべっている時も割り込んでいかないと発言権も得られないですし、バスを降りようと扉が開いた瞬間に乗り込む人もドバっと入ってくるから、「全員が我先に」降りるか乗るかの空間をとりあうバトルみたいなところでした。つらいはつらいですが、私は意外とそういった環境で楽しんで過ごせるほうでしたね。


――:日常の部分でもそうですし、ちょうど2014年ごろに行かれていたということで、当時は集団強姦事件でセクハラとか治安とかいろいろ悪いうわさも聞きました。

お財布は一度盗まれたことはありますが、基本的に露出の多い服着たり、夜中出歩いたりしなければ問題はなかったです。日本人は危機管理能力が低いことが多いのでいろいろ事故も多いのですが、気を付けるべきところだけ気を付ければ、皆さんが思うほど危なくはない場所なんです。女性1人でタクシー乗りながら寝ちゃったりとか、インドだとありえないです。


――:ではわりと「楽しいインド生活」だったわけですね。その後、日本に戻られて、普通に就職されたんですよね?

はい、ヒンディー語が使える仕事をと総合商社を主に受けていて、TPP関連プロジェクトとか電力事業とかそういったものに興味あったのですが、最終面接で落ちてしまって、失意のなかで機会をいただいたPwCコンサルティングに入社します。


■外資系コンサルがヒンディー語YouTuberになるまで

――:コンサルからの社会人スタートなんですね。そこでは普通の社会人だったんですか?

ヒンディーは一切使わなかったです(笑)。新卒の下っ端だったので、毎日毎日議事録をゴリゴリとっていたり、力技の分析データ作成をせざるを得ず、実はコンサルタントはあまり向いていないのでは…という思いが捨てきれませんでした。ヒンディー語の能力も落ちてきてましたし、このままじゃマズイ!と思って、日本向けにヒンディー語を教えるチャンネルを始めました。


――:会社からは許可をえてはじめるんですか?

一応上司にも伝え、まわりは応援してくれていました。毎朝7時に会社下のカフェで企画書書いて、つくりこんで、仕事おわってから撮影して、というのを繰り返してました。そうするなかで「あれ、私この動画を作る仕事は全然嫌じゃない」ということに気づくんです。毎日反応みながら投稿するのが楽しくて。


――:そうはいっても人気商売だから数字が伸びないと苦しいは苦しいですよね?どうやってこんな多くの人気を集めたんですか?

インド向けにチャンネルを開設したのは、2019年1月なのですが、何度か大きなヤマがありました。最初にバズった動画は19年3月22日に西葛西であったホーリー祭という色を掛けあうお祭りを特集したんです (現在は186万回再生)。西葛西、普段は“中華街”みたいにその国の文化を主張した作りをしていないのであまり知られていないんですが、実はコツコツと家で働いているインド人エンジニアがたくさん住んでいて、こうしたお祭りのときに西葛西中のインド人が集まって公園の中は99%がインド人でした。そこで文化的なお祭りを紹介したことで、その時に1日に5万人登録者が増えました。


――:確かにこの動画みると、まさか日本で撮影しているとは全く思えないような光景ですね。知らなかった。。。

2回目の大きなバズは、その半年後にやった「What do Japanese think about India(日本人はインドをどう見ているか)」 (現在は694万回再生)という動画です。渋谷の街でいろんな日本人にインドの印象を聞いていくのですが、「カレー、ガンジー、タージマハール」とか日本人からみた典型的なインドで印象的なものをあげてもらった動画が、多くの視聴を集めました。結果2019年の1年間で30万人登録くらいまでいったかなという記憶です。

 


――:MayoJapan、こうしてこれまでの成長を数字にしてみたんですけど、意外に「何か1つが大きく跳ねた」というより、コツコツと、しかもエンドレスに上がっていくんですよ。

わー!すごいですね!!実は自分では、普段データはあまり気にしていなくて笑。バズる動画を追い求めるより、誰かの役に立つ動画を作りたいので、データドリブンにならないようにしてるんです。こうやってみると、ホントにコツコツと上がってきた感じですね。50万突破が20年2月で1年強経ったところ、100万突破が21年6月11日で、このあとGoogleから金の盾が送られてくるんです(関連)。

 
――:それ、僕の誕生日です(笑)

わー偶然ですね!そうです、あまり伸び悩んだことはなくて、毎日コツコツ千人ずつ増えるみたいなことをやってきました。


――:いや、ホントすごいですね。コンスタントに、月10本くらいの動画を上げ続けてますよね。こちらお仕事とはどう両立されたんですか?

ちょうど1年くらい勤めてPwCは退職したんです。本当にやりたいことはこっち、というのがあって専業YouTuberとなりました。あとちょうどそのタイミングで結婚したこともあって、夫がインドネシアに赴任になったので移住しています。直後にコロナになってしまったので、そんなに楽しめなかったのですが。


――:2020年に入ると、ロックダウンの中で1人自宅色掛け祭りをやったり、だんだん料理やダンス、あとは会話形式でのライブ配信が増えていきますね。ここはインドネシアからの配信なんですね。逆にロックダウンで登録者が伸びたりといったことはありました?

それはあまり関係なかったですね。ロックダウンだからというよりは、やはり面白ければ伸びるし、そこもコツコツと、という感じでした。

 
■登録者100万人越えでも儲からないヒンディー語動画。その爆発的影響力をもって伝えたいこと

――:実際21年6月に100万人を越えてから見える景色は変わりました?世間でいう100万人登録って、月1000万円の広告費とか、大型の広告協賛案件とか、いわゆるセレブな世界に突入すると思うのですが。

それがほぼインドユーザーというのもあり、そもそも広告費の単価も桁違いで低いんです。月給分も稼げていないくらいです(涙)。企業協賛も、インドに進出する企業や商品が少ないので、そんなに多くはないです。この前はインド人学生を集めるために、桜美林大学さんの協賛案件を頂いたり、といったものもありましたが、日本企業でインドに積極的なBtoCのサービスってユニクロ、無印とか。少しずつ増えているものの、まだまだ少ないのが現状です…。


――:なんと!100万登録といっても、そういうものなんですね!あとはインド人がたくさんいるチャンネルを戦略的に使いたい企業自体もまだまだ少ない、というところがあまりに勿体ないですね。でも、そもそもヒンディー語でしゃべれるというだけで、なぜこんなにMayo Japanにインドユーザーが集まったんですかね?

ちょっとそれは私も分析してみたんです。「そもそも日本が国・文化として好かれ、尊敬されている」「ヒンディー語を使う人があまりに少ない(マイナー言語のため話せるだけで強い親近感をわいてくれる)」「アニメがインドで大人気」という環境部分が整っていたけれど、誰もそれをやる人がいなかった。私自身がやったオリジナルなものって「日本人である私が、ヒンディー語で日印のコンテンツを取り上げた」くらいなんです。そのくらいニーズだけはありながら、誰もやっていないということで、こんなに150万人も集まってしまったというのがあります。


――:強い需要に対して、あまりに供給が少なかったということですかね。そうですね、英語とヒンディー語、かつ日本人女性で、しかも毎週コツコツ動画を上げる着実さ、あたりも加味しちゃうと日本には人見さん以外いないのかもしれませんね。人見さんはどうやってあげるコンテンツを決められているんですか?

実はジレンマもあって、上げたいコンテンツと、人気になるコンテンツにはギャップがあるんです。私としては異文化ゆえの“常識”を壊すような、お互い学びになるような動画があげたいんです。日本のリクルートスーツでの就職とか、LGBTの問題とか、先日は日本向けに、日本人がからゆきさんとして100年前にインドで売春婦として送られていた歴史などを取り上げました(関連)。

2時間かけて撮影したものを、30分ずつの2本立てにするのに、編集には20時間以上かかったりします。でもここまで苦労してあげても、「教養的」な内容になると、ほとんど見られません。こういったものは視聴数度外視で、伝えるべきことだからと割り切って作ります。

人気になるコンテンツは、むしろパッとみてわかるダンスだったり、むしろお互いの偏見を助長するような動画です。寿司ゲイシャ侍みたいな世界観だったりとか、逆にインドのターバンだったりとか。でもそうやって「おべっかを使ってView数だけ稼ぐ」というのがむなしく感じて、あまりやりたくないんです。


――:そうですね、そういえば約1年前にも日本の有名Youtuberが「カレーポリス」で偏見をあおる動画をあげて、炎上してましたね。

はい、在インド日本大使館が謝罪を発表する騒ぎにまで発展してしまって、すごく残念な事態になりました。基本的には外国語のチャンネルは、その国の文化や歴史にリスペクトがあることが前提で、ある程度「日本を背負ってやっているんだな」と帯を引き締める必要があります。私が150万人に向けて放った言葉は、ある意味「“日本人”が発言した内容」になってしまうので、私の発信をもってより日本を好きになってもらったり、日本人によりインドを理解してもらったりするように、気を付けて内容精査しています。

そういった意図があって、YouTubeもインド人向け、日本人向け、また要望が多かったのでインド人向けの日本語講義の3つのチャンネルを運営しているんです。


――:確かにインドで想像をこえて日本コンテンツを味わいたいユーザーがいるのはわかります。僕も以前かかわったクレヨンしんちゃんのアプリや、最近リリースした新日本プロレスのアプリでもインドからの流入が凄いです。ただ「市場になる」手ごたえがないのが現状ではあります。

インドはあっという間に海賊版が展開されてしまうんです。中には、熱心なファンが制作したヒンディー語吹替版が、流通しているものもあります。、ヒンディー語吹替版は、コアなアニメオタク以外からも好まれるので、海賊版を入り口にアニメを好きになる人もいっぱいいるんです。そこに対してやはり公式がきちんとヒンディー語を展開していく必要があります。

大量の海賊版を生み出している背景にあるものは、インド人若者の優れたテック能力、日本コンテンツへの猛烈なパッション、そして法的意識の低さ。これは市場参入のバードルでもありますが、逆にいざ浸透させた時に実はそれを加速させるものにもなりえるんです。

 
――:そうした中で、日本コンテンツがインドで展開していくには、どうすればよいのですかね?

インドは英語だけで通じるでしょ?と言われますけど、やっぱり母語、第一言語が大事なんですよ。英語だと見ないというインド人も多くて、昔からずっと人気があるドラえもんやクレヨンしんちゃんはヒンディー語の字幕ではなく吹替で流れてます。

最近だとPokemonがヒンディー語で配信を始めて、あっという間に127万登録までいきました(関連)。

一方で、すごく人気があるけどまだ英語字幕だけ・英語吹き替えだけ、という作品も多くて、「鬼滅の刃」や「進撃の巨人」あとは新海誠監督の作品ですね。「君の名は。」も人気でしたけど「天気の子」は5万人の署名活動があって劇場公開されることになり、実際に新海誠監督がインドに訪れてくれました。他にも、本当に数多くのアニメがインドで人気ですし、アニメ好きの私が知らないコアなアニメのファンも多く、インドアニメオタクの底知れなさを感じています。


――:今後はこのYouTubeを使ってどうしていきたいですか?

さきほどは儲かっていないみたいな話もしちゃいましたが、それでも150万人の威力は大きくて、人気な方々とコラボしたりするときにすごい信用してもらいやすいんです。最近京友禅でサリーをつくるプロジェクトの取材などもしたんですが、そういった「ぜひ話聞きたい」といったときに、私自身を信用してもらいやすい。

インドは私のライフワークなので、ぜひもっと日本企業にはインドに展開させてほしいです。そういったときのユーザーアンケートをとったり、マーケティングしたり、私自身が発信者となってという協賛的な動きはどんどんお手伝いしたいです。また、私自身も実はヒンディー語だけじゃなくて、実はインド古典舞踊も本格的にやってるんですよ。


――:確かに、踊りのレベルがどんどんあがってますよね?これはどういうダンスなんですか?

インドには5大古典舞踊というのがあって、その中で一番人気なものがカタックというぐるぐるまわるやつなんですが、私はその中でもオリッシーというダンスのプロダンサーになりたいんです。昔バレエをやっていたこともあって、競技人口の少ないこのダンスなら日本人でもトップになれる(かも)!と思って、20年インドで修業した日本人の先生についていて練習しています。今後も日本人のインド理解を加速させるべく、YouTube動画、そしてオリッシーをどんどん発信していく予定です。


※後日談:中山個人的には、Mayoさんの「マイノリティー志向」に加えて、肝の太さと柔軟性、とにかくこれが150万登録を築き上げた凄さだと感じました。写真撮影の話をお伝え漏れしており、すっぴんで来られた人見さん。当日そのことを伝えると化粧室を使う間もなく「あ、写真も撮るんですね!了解です、ちょっと3分もらっていいですか?」とその場にあった鏡を使って、目の前でささっと化粧を始めました。文化人類学で「ブリコラージュ(Bricolage)」という言葉があり、その場で寄せ集めて自分で作り変える、ということを異文化との融合の中で行われます。人見さんは普段の生活のなかでも、ブリコラージュが身体化されているな!と、そのクイックさと柔軟性に惚れ惚れするような、印象がありました。

 

Re entertainment

会社情報

会社名
Re entertainment
企業データを見る