アーケードゲーム先進国の強みを活かしたい 『ポケモンメザスタ』を大ヒットに導いたマーベラス照井慎一氏が語る事業戦略とグローバル展開の可能性

木村英彦 編集長
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アミューズメントゲーム業界が新型コロナによる不振から立ち直りつつあるなか、マーベラス<7844>のアミューズメントゲームの好調ぶりが際立っている。タカラトミーアーツと共同で展開する『ポケモンメザスタ』、そして海外で展開する『ポケモンガオーレ』が好調に推移しており、同社の業績を押し上げた。

同社では、セグメント区分上、「コンシューマ事業」の一部門であったアミューズメント部門が独立したセグメントに昇格することになった。同時に、執行役員アミューズメント事業部長の照井 慎一氏が新たに取締役に就任することになった。

今回、gamebizでは、照井氏にインタビューを行い、アミューズメント事業における取り組みと、新型コロナの影響を引き続き受けた業界動向とともに、今後の事業戦略や抱負について話を聞いた。


――:よろしくお願いいたします。照井さんのキャリアを拝見すると、セガ、アトラス経て、アミューズメント施設運営会社の後、マーベラスに至っています。アミューズメント系のお仕事が中心だったのでしょうか。

一貫してアミューズメント系の仕事をやってきました。アミューズメント機器の販売からメンテナンスやサービス、修理関係、アミューズメント施設のオペレーターなど、メーカーとしての仕事から店舗の運営までを行ってきました。


――:そうなると、今のお仕事はそれまでとは少し違ったものになるのでしょうか。

マーベラスのアミューズメント事業では、これまでの仕事をすべて統合したような感じですね。キッズカードゲームでもプライズ(景品)マシンでもそうですが、マシンを店舗に販売したらそれで終わりというわけではありません。日々の運営も大事です。会社こそ変わっていますが、仕事の内容は以前と大きく変わっていないと感じています。

 
――:今回、独立したセグメントになるとのアナウンスがありました。最近、アミューズメントゲームから撤退したり縮小したりする会社がでているなか、会社として注力するという意思表示だと思いました。これまでも事業部として存在しているわけでしたが、何か変わるところはあるんでしょうか。

事業内容としては、これまでと特に変わるところはないと思います。本当は劇的に変わるとお話できればよかったのですが(笑) マーベラスは上場企業ですから、独立したセグメントになると、売上や利益などの数字が表に出ます。私自身の責任も重くなりますが、それだけにやりがいも感じているところです。


――:とはいえ、事業部のトップが役員になるということで社内における位置づけは上がりそうですね。『ポケモンメザスタ』が大変好調だったとのことでしたが、この1年の取り組みを教えていただけますか。

すでに決算で発表していますが、『ポケモンメザスタ』が大変好調でした。「ポケモン」のアミューズメントゲームは、『ポケモンバトリオ』『ポケモントレッタ』『ポケモンガオーレ』に続くシリーズ4作目となりますが、新作を出すたびに筐体も含めてゲーム内容は大きく進化を遂げており、お客様からもご好評をいただいています。売上を見ると、歴代の作品と比べても最高の実績を上げています。


――:『ポケモンメザスタ』だと2人で並んで遊べるようになっていますが、親子で遊ぶことが多いんでしょうか。

特に土日では、親子で遊んでいただくことが多いですね。筐体が左右に分かれており、2人のプレイヤーが遊べる「ツイン筐体」となっていますので、片方がお子さん、もう片方にお母さんまたはお父さんと、一緒に遊ぶことができます。左右のプレイヤーが協力する「スペシャルタッグバトル」など『ポケモンメザスタ』の新しい機能は、親子のコミュニケーションの機会にもなっているようで、当社としてもとても嬉しく思っています。


――:驚いたのは海外も好調だったとのことでした。

海外に関しては、現在『ポケモンガオーレ』が主力となっていますが、新型コロナの影響を受けつつも前年と比べて伸ばすことができました。新型コロナの影響は、国や時期によって影響の度合いは異なっていたものの、全体としては飛躍した1年だったと言えるかと思います。


――:海外というと、どのあたりが良かったのでしょうか。

東アジアや東南アジアが総じてよかったですね。具体的にどの国や地域が良かったかと聞かれると、お答えが難しいです。というのは、ご存知のように、国や地域によって新型コロナへの対応は大きく異なっていました。かなり厳しく規制するところでは、好調に推移していてもロックダウンが出されると極端に落ちますし、逆に厳しい措置を取らない国は比較的安定しています。月によって上下の落差の激しい国もありますので、俯瞰してトータルで見るようにしています。 


――:アジア圏でも「ポケモン」の人気はすごいですか。

はい。国内と同じく、タカラトミーアーツさんと一緒にやらせてもらっていますが、やはりポケモン人気の高さを感じているところです。弊社では、『ポケモンガオーレ』を海外で展開するにあたって、言語を現地の言葉に翻訳するだけの「ローカライズ」だけでなく、「カルチャライズ」にもかなり注力してきました。

ゲーム名こそ日本と同じですが、システムやゲーム内容についても現地のプレイヤーの好みや法規制などに合わせて変更しています。システムに関しては、見た目は同じであっても遊んでみるとかなり違っていると気づくかと思います。


――:あとは、新しいプライズマシン『TRYDECK』も昨年末に販売を開始しましたが、状況はいかがでしょうか。

プライズゲーム機に限ったことではないですが、日々の運営が大事です。『TRYDECK』に関しては新機軸のプライズマシンですので、導入後、しばらくはオペレーター様にもお客様にも慣れていただく必要がありました。稼働状況のデータを確認しつつ、オペレーター様からフィードバックをいただいたり、情報交換をしたりしながらマシンの運営に関してもより良いものを目指して改善を進めています。


――:アミューズメント施設からのフィードバックも…。

もちろんです。情報交換はもちろんですが、お店からの要望もお聞きしています。『TRYDECK』を発売した際にもお店の方からのフィードバックは大事でした。特にロケーションテストのとき、お客様やオペレーター様からのご意見・ご要望は大変助かりますし、参考となります。フィードバックをもとにマシンや運営方法の改善を進めることができました。


――:ここで少し質問を変えますが、アミューズメントゲーム業界をどうみてらっしゃいますか?

今回新型コロナの影響で多くの店舗が閉店になってしまうなど厳しい状況にあったことは事実ですが、足元はだいぶ回復してきたように思います。当社はもちろん、他社の発表しているIR情報などを拝見する限り、足元では新型コロナ前である2019 年並の水準に数字が戻ってきていると見ています。

中でも、特にプライズマシンやガチャ(カプセル玩具自販機)が人気になっていることが大きいと思います。「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などの作品が人気になりましたが、こうした人気作品を使った景品を提供するプライズマシンが特に好調に推移しているようにみえます。やはり具体的なモノが出てくるジャンルが強いなと感じています。

また、ガチャに関しては、かつては子供だけが利用するものでしたが、大人も利用するようになりました。人気作品の景品だけでなく、色々なアイディア商品が出てきており、国内外で評価が高まっています。国内でもユーザー層が広がっていることで市場が成長している部分も大きいと考えています。


――:運営が大事とのことですが、運営で気をつけていることはありますか。

売上はもちろんですが、それ以上にマシンが安定的に稼働しているかどうかをチェックしています。毎日データをチェックして、もしマシンが止まっている状況があるのであれば、なぜなのかを追求し、対策を考えていきます。特にキッズ向けですと、マシンが止まっていると、遊びにいらしたお子様にとても残念に思われてしまうので、そのようなことがないように注意を払っています。 


――:お聞きしていると、オンラインゲームの運用のようですね。

かなり似ていると思います。キッズ向けのゲームもプライズ機もマシンを販売したらそれで終わりではなく、様々なフィードバックを受けてオプションパーツを作ってみたり、数字が悪かったら運営施策を考えたりしています。当社もマシンから集まってくるデータや、お店やお客様からいただくご意見・ご要望といった情報を活かして、ゲームを盛り上げるために努力しています。

 
――:何らかの手元に残るものがある、ということは、キッズ向けゲームでも同様に大事なんでしょうか。

そうですね。当社でも、「マーベラスを形にする」を掲げていて、コロナ禍前からお客様の手元に残るようなゲームを重視してきました。お客様のプレイデータのフィードバックも含めて考察すると、お客様の手元に何らかのモノが残るようなアミューズメントマシンが求められているのではないかと思います。


――:市場回復につながっている要因として他にはありますか?

具体的に影響度を示すのは難しいですが、いわゆる風営法の2016年の法改正も大きかったように思います。18時以降は保護者同伴でも未成年はゲームコーナーに立ち入ることはできないとなっていましたが、法改正で保護者同伴であれば可能となりました。少子化という厳しい環境下でも市場規模が堅調に拡大できた要因として大きかったと見ています。

例えば、家族で買い物に行って夕食を食べた後、ショッピングモール内のゲームコーナーに寄っていこう、ということが以前はできませんでした。法改正によって、それが可能になりました。


――:海外市場はいかがですか? 国内にいると、海外のアミューズメント業界をどうみたらいいのか、わからないところがありまして。

海外市場については、新型コロナへの対応によって大きく変わってきています。例えば、アメリカなどは良くなっていると聞きますし、新型コロナに対して厳しい措置をとる国の多いアジア圏だと、感染者数と政策対応によって良くなったり悪くなったりして、ぜんぜん異なる市場環境となっています。アジア圏でも、withコロナになっている国はだいぶ良くなってきています。


――:ざっくりとした聞き方になってしまい恐縮ですが、海外のアミューズメントゲームの遊ぶ場所は日本とは違いますよね?

国によってかなり違うのですが、日本のように駅前型のゲームセンターというものが本当に少なくて、基本的にはショッピングモール内にあるお店で遊ぶことが多いですね。家族連れで買い物のついでに遊んでいくという方が多いですね。

 
――:ショッピングモール内のゲームコーナーは日本でも増えていますね。今後についてはどうみていますか?

これからも広がっていく、拡大傾向は続いていくと考えています。特に東南アジアと東アジア圏には注目しています。コンソールゲームやオンラインゲームに関しては海外の会社が多く競合も厳しい状況ですが、アーケードゲームに関しては日本が最も先進的ではないかと思います。

やはり日本のように全国各地にゲームセンターがある国というのは、なかなかないです。一説では国内では数千店舗あるとも言われます。一時に比べるとだいぶ減ってしまったとはいえ、まだまだ駅前に多数存在していて気軽に遊べます。

日本のアーケードゲーム市場は非常に成熟していて、広がっている市場であると言えます。海外市場は日本とは異なる発展をするかもしれませんが、エンターテインメントの一つとして広がっていく余地は大きいと考えています。


――:駅前ゲームセンターの違いは大きいですね。他に特徴的な違いはあるんでしょうか。

日本と海外での大きな違いの一つとして、「リデンプション(redemption)」と呼ばれるマシンが主流になっていることです。簡単に言えば、モノと交換できる仕組みです。お金をトークンなどに交換してゲームで遊ぶとチケットが出てきます。そしてそれをいっぱい集めると景品と交換できる、というものです。その部分に関しては日本だとプライズゲーム機が担っている部分がありますが、日本でもそのあたりの規制が緩和されてくるともっと市場が広がっていくのかもしれません。


――:最後に取締役に就任されての今後の抱負をお聞きしたいのですがいかがでしょうか。

新しいものを生み出していきたいと思っています。アーケードビジネスに関しては、冒頭にもありましたが、力を入れている会社が減っている状況でもありますので、強力に推し進めていきたいと考えています。そして、海外も含めてワールドワイドに事業を展開していきたいですね。

業界的な部分でいうと、キャッシュレスも大きなトピックスになっていくだろうと思います。まだ状況が不透明な部分がありますが、当社としてできることがあれば貢献していきたいです。大きな変革が生まれるところかなと期待しています。


――:ありがとうございました。

株式会社マーベラス
https://www.marv.jp/

会社情報

会社名
株式会社マーベラス
設立
1997年6月
代表者
代表取締役社長 執行役員 兼 デジタルコンテンツ事業本部長 佐藤 澄宣
決算期
3月
直近業績
売上高294億9300万円、営業利益24億1500万円、経常利益30億200万円、最終損益5億1700万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
7844
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