【Amazon Game Tech Conference 2022レポート】eスポーツの将来のために業界全体ですべきこと…さらなる普及のために残されている課題と技術革新とは

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS Japan)は、11月10日に渋谷ヒカリエホールにて「Amazon Game Tech Conference 2022」を開催した。このイベントでは、「Amazon Web Services(以下、AWS)」を活用したゲーム開発環境作りなどユーザから関心の高いテーマにまつわるセッションが実施された。

本稿では、パネルディスカッション3「eスポーツのこれから」の内容をお届けする。

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■プロゲーマーや大会運営にライブ配信…eスポーツに関わる人々

パネルディスカッション3「eスポーツのこれから」で登壇したのは、モデレーターとしてアマゾンウェブサービスジャパン合同会社の岩井泰児氏、インテル株式会社の大野誠氏、株式会社KADOKAWA Game LinkageのRetloff 氏、Genvid Technologies Japan K.Kのジョンソン 裕子さんの4名だ。


アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
ゲームエンターテイメントソリューション本部
岩井泰児 氏


インテル株式会社
執行役員 新規事業推進本部長
大野誠 氏


株式会社KADOKAWA
Game Linkage FAV gaming
Retloff 氏


Genvid Technologies Japan K.K
Director of Business, Japan
ジョンソン 裕子 氏

自己紹介も兼ねて、岩井氏より投げかけられたひとつ目の質問は「eスポーツ普及のために何をしているのか?」だった。

まずは、プロゲーミングチームFAV gamingに所属しているプロゲーマーRetloff氏から。彼は、プロゲーマーとしてチームの活動をするほかに、Retloff氏はeスポーツの講師を務めたり、動画配信でゲームの楽しさを伝えるといった活動を続けている。

さらに、チームとしてはただ試合をこなすというだけでなく、地域密着型のeスポーツチームとして、埼玉県所沢市にある複合施設のところざわサクラタウンでの体験イベントを精力的に開催している。

こうしたプロゲーマーたちが活躍する大会のスポンサー側にいるのが大野氏。インテルは、プロかアマチュアかを問わない無差別級の大会も開催している。昨今のゲームユーザーにはモバイルユーザーが多く、いかにして彼らのハイエンドゲームに興味を持ってもらうかという課題に日々苦心しているそうだ。

その活動の一環として、ゲーミングと教育の相性の良さについてもアピールを続けており、実際にプログラミング教育を小中学生対象に実施するといった活動もしている。ゲームを遊ぶだけでなく、作る側になってみることで新たな楽しさを発見してもらい、そこからeスポーツの裾野を広げていくという狙いだ。



ジョンソン氏が所属するGenvidは、 クラウド技術を活用して視聴者参加型のインタラクティブなライブ 配信を提供する企業であり、eスポーツ大会の配信にも応用可能な 技術を開発している。独自のSDKを使うことで、 より多くの情報、様々な視点からの視聴を可能にし、 臨場感や没入感のあるライブ配信を生み出している。 全く新しいタイプの視聴者参加型のコンテンツを制作しており、 このジャンルをMILE(マッシブリー・インタラクティブ・ ライブ・イベント)と呼称している。

視聴者側に情報が送られるだけでなく、視聴者がどのタイミングで誰を応援しているのかといった情報集積も同時に行っているため、選手たちにその情報がフィードバックされる。つまり、自分たちのどんなプレイで観客が盛り上がったのか、どれだけの人が自分たちを応援してくれているのかが可視化されるのだ。

Retloff氏はこの話を聞きながら、選手としては自分たちを応援する声が可視化されるのは単純に嬉しいことだとコメントした。



それぞれの活動内容も分かったところで、次の質問に移る。内容は「新しい技術によって改善した取り組みはあるか?」という、直近の動向に関するもの。

これにいち早く答えたのは大野氏。インテルでは、新たにGPU開発に着手しており、すでにインテルブランドのGPU「Intel Arc」をリリースしている。ゲームの品質が上がるにつれ、要求されるGPUのレベルも年々上がってきている。そこに一石を投じる試みだ。

また、インテルは「Project Endgame」というアーキテクチャの設計にも着手しており、こちらはクラウド上のGPUを使うことで、非力なGPUを搭載しているPCであっても高負荷の描画に耐えられるようになるというもの。

「Project Endgame」を利用すれば、ノートPCであっても「Unreal Engine 5」を使ったメタバースアプリも無理なく動かせるようになる。これはハイエンドゲームの普及だけでなく、メタバースの普及にも一役買ってくれるだろう。



ジョンソン氏は、Genvidが展開する配信サービスの仕組みを再度解説しながら、重要なポイントとして動画とそのうえに乗せるオーバーレイのフレーム同期を行っている点を強調した。

フレーム同期をしていない場合、動画とオーバーレイのタイミングが合わなくなってしまい、場合によっては試合を最後まで見終わる前にオーバーレイで勝敗がわかってしまうというような事態にもなりかねない。つまり、このオーバーレイを使った配信サービスの肝となる要素がフレーム同期と言っても過言ではないだろう。



Retloff氏は、チームのデータ分析も担当しており、過去の試合を振り返りながら作戦立案をしている。そのデータの収集方法は、かなりアナログな方法で続けてきていたが、動画や画像の分析サービス「Amazon Rekognition」を遂に導入。これまで複雑なデータ入力をすべて手作業でやっていたところを、大幅に時間短縮できたそうだ。

eスポーツの将来のために業界全体ですべきことは

続いて、3つ目の質問は「eスポーツの将来のためにはどのような取り組みを業界全体ですべきか?」という、かなりマクロな視点での話に転換。

ジョンソン氏は、通常のスポーツとはマネタイズの形式が全く違う点について話し始めた。通常のスポーツのビジネス規模は、プレイヤーの用具などを売るビジネスより、スタジアムに集客してグッズやチケットを買ってもらう方が大きく、より多くの人々に見せるための放映権はさらに巨額になってくる。

これに対して、eスポーツの場合は全く逆になり、プレイヤーにゲームを売るのが最も大きなビジネスであり、その次が試合観戦、さらに規模が大きいはずの配信になると、マネタイズが未熟な状態になっており、最も規模が小さい。ここを成長させていくことが今後のeスポーツ業界のためには必要なのではないかと語る。

そのためには、もっと視聴者と選手の距離を近づけていく必要があるとし、ルールがわからないプレイヤーが見てもわかるような動画オーバーレイの作成や、視聴者の応援の声が選手に視覚化されて伝わる仕組みを作りこんでいくといったことも必要になるのではないかと提案をする。



これにはRetloff氏も賛成しており、Retloff氏が取り組むべきだと思っている地域密着型にも近い思想があるとして、自分の考えについても語り始めた。

Retloff氏が想い描く地域密着型は、他スポーツのサポーターと同様に、自身が属する地域のチームを応援するために地元のホールに集まってくるようなイメージだと言う。このとき、それぞれの地域のサポーターの数が可視化されることで、モチベーションにつながってくるのではないかといった考えを述べた。

ジョンソン氏もRetloff氏の意見を聞きながら、視聴者をグループ分けするような機能を付けることで、現地で集まるだけでなく、オンライン上でもバーチャル応援合戦のようなこともできるし、オンラインの方が盛り上がっているとなれば、現地はもっと盛り上げようといったようにサポーター同士を刺激させ合うといった手法の可能性も提示している。

サポーターの盛り上げ方、地域密着型のチームといった話に大野氏も関心を示しながらも、eスポーツ大会における最大のボトルネックが遅延にあるのではないかという、懸念点について話し始め、何msecという世界で勝負しているプロにとって、遅延問題についてどう考えているかRetloff氏に問いかける。

この質問に、Retloff氏は「3フレーム(1/20秒)であっても許されないぐらいになってくる」と、かなりシビアな数字で返答。

大野氏は当然そういった答えが返ってくることは予測しつつも、現在はまだまだ遅延の問題が解決しきれていないことを説明する。過去に開催した大会のひとつに、地区大会を経てから東京で決勝大会をする予定だったものの、コロナウィルスの蔓延により、遠方から人を集めて大会を開くことができず、決勝大会が開催されずに終わってしまったことがあり、大きな反省点となっている。

もし、通信の問題や圧縮技術が安定していけば、遠隔でのeスポーツイベントが可能になってくる。その時こそeスポーツの世界が大きく広がる契機になるのではないかと、大野氏は今後の展望についても語った。



最後に、本ディスカッションの締めくくりとして、3名の登壇者がそれぞれの「eスポーツと技術の将来への期待」を語った。

大野氏は、eスポーツの世界は多様なニーズが増えてきている業界であり、マルチデバイス、マルチプラットフォームは当たり前の世界になってきている。それどころか、デバイスに依存しないクラウドゲーミングの普及も始まってきているなか、レイテンシをどこまで少なくできるかが今後も大きな課題になると予測し、現在NTTと共同開発中の次世代通信「IOWN(アイオン)」への期待を口にした。

Retloff氏は、eスポーツのアナリストの世界はまだまだアナログな部分があるという話を振り返りながら、AIも進歩はしてきているが、いまだ目視でしか確認できない部分があることも事実であると認めた。

eスポーツの現場のデジタル化をさらに推し進めていき、より質の高いデータを録れるようになれば試合の質も上がっていくであろうこと示唆しながら、eスポーツプレイヤーに優しい世界を作るための分析技術も上がっていくことを願いながら話をまとめた。

ジョンソン氏は、大野氏の「デジタル化への敷居が高い」という発言を受け、日本国内ではゲームの地位が低いように感じているという本音を吐露した。

しかし、メタバースへの期待が高まっていくことで、バーチャルが近づいてきている感覚もあるため、デジタルに触れ合うことが普通の世の中になっていくことで、ゲームの楽しさをみんなが再認識してくれるようになってほしいという願いとともに、ただ視聴するだけでなくバーチャルな世界での熱狂を味わってもらうための仕組み作りに今後も取り組んでいきたいと意気込みを語った。