2023年 年頭所感(株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 松田 洋祐社長)

株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
代表取締役社長 松田 洋祐


謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

2022年は、年初から始まった米国におけるテーパリングの前倒し、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した地政学リスクの高まりによる資源高や物流の混乱などを主因に、世界各国において急激なインフレが進行しました。さらには、FRBをはじめとした各国中央銀行の急ピッチな政策金利引き上げが長期金利の大きな上昇をもたらし、ハイテク企業を中心とした大幅な株価下落やIPOの停滞など、現在に至るまでグローバル資本市場に大きな影を落としています。日本においても、急激な円安による輸入原材料価格高騰をトリガーとしたインフレが進行するなど、日常生活への影響が日増しに強まっています。

新型コロナのパンデミックから3年が経過し、世界各地でアフターコロナへと進む明るい兆しが見えてきた矢先に発生したマクロ経済環境の急激な変化は、デジタルエンタテインメント業界においても、様々な形でリスクとして顕在化しています。特に半導体不足に起因するハードウェアの供給不足問題は、当社グループの事業運営にも少なからぬ影響を与え、不確実性と向き合いながらの難しい舵取りが続いています。しかしながら、このような状況も春先に向けて緩和されてゆくとみており、中期事業計画達成に向けた追い風となることを期待しています。
こうした環境認識のもと、現行の中期事業計画最終年にあたる次年度2024年3月期に向けた地ならし期間、さらにはその先をにらんだ構造改革の年と2022年を位置付け、既存中核事業であるデジタルエンタテインメント事業を中心に、開発体制・パブリッシングの両面から大幅な見直しを実施してきました。

開発体制については、ゲーム開発の高度化・複雑化に伴う開発投資の大型化に対応すべく、経営資源の一層の集中をはかるため、昨年8月にCrystal Dynamics、Eidos-Montréal、Square Enix Montréalの3スタジオと関連IPをEmbracer Groupに譲渡しました。この施策は上記構造改革の一環として、スタジオポートフォリオの抜本的見直しを企図したものです。

また、グループ全体の中長期タイトルポートフォリオ再編成にも着手するとともに、その具現化に向けた社内開発リソースの更なる拡充による内製開発力強化、グローバルで競争力を持つタイトル開発への資源の集中投下を加速してゆきます。大型化が著しい現代のゲーム開発において、開発チームの練度向上とコミットメント強化は、かつてないほど重要になってきており、内製開発力強化はそのために必須の要素です。

スタジオ売却と内製開発力強化、これら二つの施策は一見相矛盾するように見えますが、中長期タイトルポートフォリオとその主体となる開発スタジオの見直しは、環境に合わせ柔軟かつ不断に実施すべきものであり、新しい時代にふさわしいエンタテインメントを当社グループが提供し続けるためにはいずれも必要不可欠なものです。今後も開発体制のレビューを継続して行うとともに、M&A等の手法も用いることで、オーガニック・インオーガニック両面からスタジオポートフォリオの最適化を通じた内製開発力強化を推進してゆきます。

また、パブリッシング体制についても、日本・欧米それぞれが独立して運営されていた従前のエリア別・機能別体制を見直し、One Square Enixのコンセプトのもと、グローバルに一気通貫するパブリッシング体制の構築を進めてゆきます。新たに設置した2名のCPO(Chief Publishing Officer)の緊密な連携のもと、既に昨年末より新体制が始動しています。特に欧米においては、組織体制を抜本的に見直し、海外3スタジオ売却後の新たなスタジオポートフォリオに最適化したセールス・マーケティング体制を導入するとともに、コロナ禍以降勢いを増すデジタルシフトのアップサイドを最大限取り込むべく、機能拡充を実施しています。

このように、開発体制強化とパブリッシング体制強化を同時に行うことで、グローバルパブリッシャーとしての当社グループのプレゼンスを更に高め、既存中核事業であるデジタルエンタテインメント事業の新たな成長を実現してゆきます。

新規事業分野においては、中期事業計画における3つの重点投資領域の中でも特にブロックチェーンエンタテインメントにフォーカスし、積極的な投資・事業開発を進めてきました。

外部環境に目を向けると、「Web3.0」という言葉がビジネスパーソンの新たなバズワードとして市民権を得るなど、当該領域の認知が大きく向上した1年であったと思います。しかしながら、冒頭に述べたマクロ経済の急激な変動に連動する形で仮想通貨・NFT(非代替性トークン)マーケットがボラタイルな動きとなったことに加え、昨年11月にはFTXがスキャンダラスな形で破綻するなど、特に後半はブロックチェーン関連の暗いニュースが相次ぎました。

こうした状況を受け、一部の国では当該ビジネスに対する規制強化の動きが顕在化しつつあるという話を仄聞する一方、こと日本においては、昨年6月に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた重点計画』の中で「ブロックチェーン技術を基盤とする NFTの利用等の Web3.0 の推進に向けた環境整備」が盛り込まれるとともに、デジタル庁が「Web3.0研究会」を立ち上げるなど、政府を中心に後押しする動きが活発化しています。

新しい技術や仕組みは、革新をもたらす一方で様々な混乱も生み出します。こうした社会のうねりを経ながら、徐々に人々の生活に根付き、やがてその中から新しいビジネス・成長が生まれてゆきます。一昨年のNFTやメタバースに対する熱気、狂乱から一転、昨年のブロックチェーン関連業界はボラティリティが非常に激しい年となりましたが、このようなプロセスを乗り越え、ルールが整備され、より見通しのよい事業環境が提供されることとなれば、ブロックチェーンエンタテインメントの成長にとって望ましいことであるのは間違いありません。

こうした環境変化を見据えつつ、より俯瞰的な視座からWeb3.0・ブロックチェーンエンタテインメントの本質とは何かを考えてみると、単に技術的要素や投機的要素にフォーカスした時とは異なる景色が見えてきます。昨年の年頭所感に記したように、従来のゲームの在り方を中央集権型とするならば、ブロックチェーンゲームは自律的な分散型モデルであるべきです。そのコンセプト、思想こそが重要であると考えています。

換言すれば、自律的分散型というコンセプトのもと、ゲーム開発をはじめとした当社が提供するデジタルエンタテインメント事業がお客様にどのような新しい体験や新しい面白さをお届けすることができるかが極めて重要である、ということです。

直近海外で実施されたいくつかのブロックチェーンゲーム関連イベントにおいても、ゲームの面白さやユーザーコミュニティの在り方が今まで以上に活発に議論されていました。一昨年までの状況は、ゲームユーザーよりも投機筋ユーザー主導の市場、いわば「ブロックチェーンやNFTでのマネタイズありき」で作られたコンテンツが主導した状況であったと言えます。しかし、先述した仮想通貨業界の混乱などを経て、改めてブロックチェーン技術は「手段」でしかなく、お客様に新しい体験、面白さを届けるという「目的」を達成するために、実現すべきことは何かを議論する動きが出てきている昨今の潮流は、今後の業界の成長のために大変好ましいことであると捉えています。

当社グループも、昨年発表したタイトルも含めた複数のブロックチェーンゲームを現在開発中であり、今年中にさらに多くのタイトルを公表すべく準備を進めています。また、投資に関してもグローバルにソーシングを実施し、国内外を問わず有望な事業体への出資を継続してゆきます。2023年は、ブロックチェーンゲームが、狂乱から混乱を経て、新しい成長のステージへと移行してゆく年となることを期待します。

最後に、本年2023年はエニックスとスクウェアが合併してから20年となる節目の年です。この20年の間、当社を取り巻く事業環境が目まぐるしく変化する中、そこで発生した様々な機会を糧に大きな成長を実現してきました。そしてこれからの10年、さらにはその先の時代の変化を見据え、当社グループも自律的に進化・変革し続けることで、より一層の成長を実現させてゆく所存です。この2023年は、大きな進化の年・変革の年とすべく、事業に邁進してまいります。

本年もよろしくお願い申し上げます。

株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
企業データを見る
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
https://www.hd.square-enix.com/jpn/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス
設立
1975年9月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高3432億6700万円、営業利益443億3100万円、経常利益547億0900万円、最終利益492億6400万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9684
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