【インタビュー】シナリオライターが継続的に活躍できる環境を…アカツキゲームスシナリオチーム「ROOTS」の取り組みとは

最近のゲームではゲーム性のみならず、その世界観の醸成もユーザーから支持される重要な要素となっている。

各社シナリオ制作においては力を入れているが、アカツキゲームスでは、「ROOTS」というゲームシナリオのスペシャリストが集う職能集団を立ち上げており、ゲームシナリオライターがより活躍できる環境づくりを行っている。

他にも、昨年からCEDECでの講演や日本ゲームシナリオライター協会(以下、JASGA)との取り組みなども通じてゲームシナリオライターの認知拡大も行なっている。

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今年もCEDECでも登壇し、引き続きゲームシナリオライターの地位向上に取り組む「ROOTS」が見据えているものは何か。

今回、gamebizではCEDECでも登壇した大竹氏にインタビューを実施。立ち上げからこれまでの取り組みや今後について話を聞いてきた。


横軸組織によるマネジメントとクリエイティブの向上を

 

株式会社アカツキゲームス
大竹直紀氏

2019年シナリオディレクター/シナリオライターとして株式会社アカツキゲームスへ入社『八月のシンデレラナイン』のシナリオチームリーダー、およびシナリオディレクターを担当。2020年よりROOTSにも所属し、シナリオ職の採用面接などを担当。現在は新規プロジェクトのシナリオディレクター、及びリードシナリオライターも兼任中。

 
――:昨年は水野氏にインタビューさせていただきましたが、改めて「ROOTS」という組織体制についてお教えください。

大竹:ROOTSは、2017年に株式会社アカツキゲームスで、プロジェクトを横断した横串組織として発足しました。元々は、シナリオを担当する有志メンバーの集まりからスタートし、個人個人の積極的な思いから活動を開始したのですが、発足から5年目となった現在では、シナリオ職(ROOTS)という職種のひとつとして扱われています。

体制としては、ROOTSリーダーである水野を筆頭に、各プロジェクトのシナリオチームリーダー、ないしそれらを管掌するシナリオマネージャー陣によって構成されています。主な活動内容は、社内の各プロジェクトにおけるシナリオチームメンバーの採用および業務サポート、プロジェクト間を横断したノウハウや事例共有、そして新規プロジェクトのシナリオ領域におけるリードを担っています。

――:取り組まれている事例についてお聞かせいただけますか。

活動内容は、クリエイティブ関連とマネジメント関連の大きく二つに分けられます。

まずマネジメント関連ですが、社内の各プロジェクトに所属するシナリオメンバー同士が横の繋がりを持ちやすい環境づくりを意識しています。ゲーム会社は一般的にプロジェクトごとで縦割りの構造が多く、他との交流が少なくなりがちです。

特にシナリオライターという職種は個人作業も多いため、しばしば周囲から孤立してしまう状況も発生してしまいます。そのためアカツキゲームスでは、シナリオに携わる全メンバーを集めた集会と、ROOTSリーダーとの1on1を半年に一度実施しています。

また社内で定期的に行なっているノウハウ共有会【Rally】や、外部講師の方と一緒に実施している【シナリオディレクション研修】では、雇用形態にかかわらずメンバーが参加し、プロジェクトを跨いで交流や顔合わせができる機会を提供しています。

▲シナリオ研修も用意し、交流しやすい機会を会社としても用意している。(CEDEC2021講演資料より)

他にも、各プロジェクトのシナリオリーダー同士で横の繋がりを持っているため、なにか現場で問題が発生した場合、すぐに他プロジェクトのリーダーを巻き込んで相談、問題解決を図れるような関係性を構築しています。

さらにそのリーダーメンバーにおいては、全社で行っているリーダー向けの各研修にシナリオ職として枠を用意してもらい参加しています。そういった意味で、マネジメントに注力する側、クリエティブに注力する側の両者に対し、十分なサポート体制を構築することに努めています。

――:マネジメントですと、形骸化してしまい難しい部分もあります。「ROOTS」として工夫している点や意識している点はございますか。

できる限り、可視化することを継続的に取り組んでいます。

例えば1on1の場合、実施においては事前にアンケートを記入してもらい、それに対して面談を進めていきます。アンケートの質問項目には、担当している業務内容、役割といった基本的なことのほか、その半期で印象に残っていることをポジティブ、ネガティブ両面から聞いています。また、所属するプロジェクトに対する満足度、シナリオチームに対する満足度、会社自体に対する満足度を段階評価で質問しています。

これらを継続的に数値として記録し、変化の推移を見ることで、マネジメントが正しく機能しているかを客観的にチェックしています。たとえば満足度に対する数値が下がったとしても、社内で一時的にプロジェクト異動が多く発生したことが要因である、といったことも可視化することができます。こういった取り組みが功を奏し、ROOTSでは長期的な人材育成が可能となっています。

他には、社内の制度を整えるだけにとどまらず、社外にも積極的に発信しています。代表的なものとして、2021年のCEDECでは水野が【ライターズルーム】について、それに引き続き2022年は私が『八月のシンデレラナイン』におけるシナリオ制作のノウハウについて、登壇させていただいています。こういった取り組みは、業界への認知拡大といった目的のみにとどまらまず、ゲームシナリオ業界そのものの発展に寄与することも目標としています。

登壇後に業界の方々からリアクションやご連絡をいただくこともありますし、その登壇を見て採用枠にご応募いただく方もいるなど、自社で培ったものを伝播し、共感いただける方との繋がりも意識して広げていっています。また自社のオウンドメディアである【VOICE】にも、ROOTSメンバーに関する記事を掲載していますので、そういったコンテンツもぜひご覧いただけると幸いです。

▲CEDECでの講演内容。また同社のオウンドメディア「VOICE」でも一部掲載されている。

――:クリエイティブについてはいかがでしょうか。

先ほどのマネジメント部分をしっかりと確立することで、シナリオ担当者がクリエイティブ作業で活躍できるようにしています。たとえば、これは私の事例なのですが、あるプロジェクトでチームリーダーとしてマネジメントを請け負いつつ、別の新規プロジェクトでは、リードシナリオライターとして、新たなIP創出に向けてクリエイティブ業務に携わっています。

社内でこういった横断的な動きができるのも、シナリオ職のメンバーひとりひとりが、どのプロジェクトでどのように活動するかを、ROOTSが各プロジェクトと連携して自立的にサポートすることによって実現できています。そのためメンバーはしっかりとした後ろ盾がある中で、それぞれのスキルやクリエイティブ性を十分に発揮できる環境が作られています。

また先述した社内の勉強会【Rally】は、雇用形態を問わずすべてのシナリオ担当者が参加できる自主的なノウハウ共有の場となっており、ここではクリエティブにまつわる実践的な内容や事例を学ぶことができます。アカツキゲームスには、ゲーム業界以外にも様々な経歴のシナリオ職の方々が在籍していますので、大いに刺激を受けるお話を聞くことができるかと思います。

――:クリエイティブ向上における、横断的に取り組む点については具体的にどのようなメリットがあるとお考えでしょうか。

大きくは2点ありまして、1点目は他プロジェクトでのノウハウや経験を転用できるという点です。新規プロジェクトに参加した場合、たとえば前の現場ではこのようなフローでシナリオを安定して制作していた、であるとか、呼称表(※キャラクター同士の一人称や他称をまとめた一覧)はこういったフォーマットを活用していた、あるいはシナリオスケジュールの管理はこのツールで行っていた、などを比較して、それらの手法を取り入れることができるようになります。

▲『八月のシンデレラナイン』におけるシナリオの制作フロー(CEDEC2022講演資料より)

複数のプロジェクトで有効活用ができれば、それ以外の現場での有用性も高いことになりますので、将来的に会社やROOTSのノウハウとして蓄積することができます。

2点目は、いざというときに他プロジェクトをサポートし合える人脈や関係性が構築できる点です。ゲーム開発やその運営においては、どうしても一時的に工数が不足したり、なにかの問題が生じて外部から人材のヘルプを必要とする場合があります。新規採用や社外への発注によって問題を解決する場合もありますが、それらは非常に時間もかかりますし、また即戦力としてご活躍いただけるかどうかも未知数になります。

しかし以前に同じプロジェクトで働いていて、顔も人柄も実力もよく知った関係性であれば、信頼してすぐに業務をお願いすることができます。こういった横のつながりを活かした人的リソースの活用により、緊急時でもできるだけクリエイティブの質を落とさず、維持向上させることができると考えています。


質の高いクリエイティブを継続的に提供できるチームに

――:御社含めてシナリオに力を入れる会社が増えてきた印象ですが、大竹氏からみていかがでしょうか。

ソーシャルゲームは従来のコンシューマゲームと比較し、シナリオにまつわる作業内容も大きく変化しました。たとえば膨大な人数のキャラクター設定やシナリオを継続的に管理・更新し続けたり、あるいはメインシナリオ、イベントシナリオ、季節シナリオ、キャラクターシナリオ、フレーバーテキストなど、膨大な物量のテキストを継続的に制作、リリースしていくことが必要となります。それらは個人では対応できない作業量となるため、社内で安定して活動できるシナリオチームの組成が必要となった、という状況があります。

▲CEDEC2021講演資料より。

一方で、それらを担うシナリオライターも、異なる背景や経験を持った方が集まりやすいということにも繋がりました。それにはメリットとデメリット両面があるのですが、デメリットの面で言いますと、マネジメントのしづらさが挙げられるかと思います。実際弊社でもROOTSが発足する以前は、社内のシナリオチームは適切にマネジメントされているとは言えない状態にありました。

例えば、先に述べたような異なる背景が原因で、シナリオライター同士が対立したり、シナリオを監修しフィードバックを出すシナリオディレクターと十分な信頼関係が構築できなかったことがメンバーの離脱という現実問題として発生していたこともあります。それらは当然のことながらシナリオというクリエイティブに良い影響はもたらしませんし、継続して大量のシナリオをリリースし続けるソーシャルゲームの運営体制上、非常に大きなリスクとなります。

こういった問題を解消し、改善し、シナリオのクオリティアップと安定した制作体制を実現するため、アカツキゲームスではマネジメント領域とクリエイティブ領域の両軸を担える組織として、ROOTSは現在も多岐にわたる活動を続けています

――:ちなみにですが、現在、ROOTSに所属しているメンバーはどういった人が多いでしょうか。

現在在籍しているメンバーの経歴は非常に多彩で、特定の傾向の方が多いということはありません。もちろんシナリオ職ですので、シナリオライターとして豊富な経験がある方は多いのですが、それ以外にも、プランナー出身の方、あるいはソーシャルゲームではなくコンシューマゲームを開発してきた方、映像業界のご経験がある方、あるいはライトノベルなどで作家活動をしてきた方もいらっしゃいます。

マインド的なものについていえば、他者や成果物に対してリスペクトができる方が多いです。シナリオ職というのはどうしても感性に左右される成果物や、それらを生み出す繊細なクリエイターの方々と接することが多い職種のため、それらに向き合う真摯さと丁寧なコミュニケーションができる方が自然と多く集まっていますね。

――:ROOTSとして今後目指していることは何でしょうか。

これは社内でも掲げている目標なのですが、「要件を満たす、より質の高いクリエティブを健全に継続できるチーム」の構築を目指しています。どういうことかと言いますと、アカツキゲームスのシナリオ領域では、自社のオリジナル、または他社様との協業を問わず、IPやキャラクターを扱う技術を極めたいと考えています。

そのためには、再現性(継続性)のある開発運営能力を持ったシナリオチームが必要となります。それぞれのゲームにおいてシナリオに求める要件は異なります。それらに応えた上で、よりお客様にとって価値のある、そしてゲーム体験を向上させるシナリオを作ること、そしてそれを一過性のもので終わらせず、ソーシャルゲームの運営が3年、5年、10年と続いていったとしても再現し続けることができるシナリオチームと、そのためのスキルを持った人材の育成を目指したいと考えています。

――:そのために必要としていることや求めている人物像についてお教えください。

大きな点としては、やはり個人主義ではなく、チームで力を発揮できる人材を求めています。ソーシャルゲームのシナリオは往々にしてボリュームが非常に膨大となり、チームでの総合的なアウトプット力が必要となってきます。

また、シナリオ職という職種自体、ゲーム制作という大きな枠組みの仕事のなかで、単独で成果を上げられるものではありません。そういったことを意識し、他のシナリオ職のメンバー、あるいは他セクションのメンバーや外部のクリエイター様と「共創」できる方を求めています。もちろん、その上で個人としての強みや特長を持った方であれば大いに歓迎しています。

また、担当するIPを愛することができる方を求めています。世界観やストーリーはもちろんなのですが、ソーシャルゲームでは、コンシューマと比べてもキャラクターの登場人数が非常に多くなる傾向があります。キャラクター全員と向き合い、真摯にシナリオを創っていける方は大変嬉しいですし、また原作となるIPが外部に存在する場合、ゲームを開発・運営している間にもIPは変化し拡大していきますので、そういった意味でもインプットを熱量をもって継続できる方も、アカツキゲームスのシナリオ職では歓迎しています。

――:最後に、読者に向けてメッセージをよろしくお願いします。

アカツキゲームスのシナリオ職能組織ROOTSでは、一緒にゲームづくりをしていただける新たなメンバーを募集しています。ROOTSのビジョンには、「人を大切にする、そして人の可能性を信じる」というものがあります。

ゲームやそこで描かれる物語を作るための源は、それに携わるひとりひとりの能力であり、努力であり、個性です。それらを十分に引き出し、またそれを健全な状態で継続させることで、初めて最大のポテンシャルを発揮したゲーム、そして物語を提供できると考えています。

ROOTSは2017年に発足し、今年で5年目を迎えました。

ここまでご説明したとおり、組織として充実してきた部分もありますが、まだまだ発展中の部分も残っています。マネジメント領域、あるいはクリエイティブ領域において少しでも興味を持ってくださった方がいれば大変光栄です。そしてもちろん、お客様として私たちの作ったゲームを遊んでくだされば、この上なく嬉しく思っています。

――:ありがとうございました。