【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第49回 アジアを席巻する東洋BLブームと火付け役アニメイト-アジア/日本、アニメ/ゲーム/VTuber、溶け合う境界でマス化するエンタメ

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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はじまりはBL(ボーイズラブ)だった。ファン集うところにはいったん駆けつける「推し事研究者」の中山が見つけたのはAGF(アニメイトガールズフェスティバル)にて、「アニメイトインターナショナル」と聞きなれない会社がブースに所狭しと並んだ、タイ・中国・韓国など世界各国から“輸入された"BL小説であった。いまだBLについてはほとんど読んだことのない私も、「泰流BLドラマ」として日本で流行を博していることは気になっていた。今回はタイ出張での取材もあわせて、「世界のBL界」がどうなっているかについて取材を敢行した。

 

 

 

■『鬼滅の刃』以降勢いを増したアニメZ世代の胎動。ロックダウン期でも旺盛な“感情の生活必需品"需要

――:自己紹介からお願いいたします。

外川明宏と申します。アニメイトの取締役兼海外事業部部長をしております。2015年に入社するまでは出版取次(卸)のトーハンで20年近海外事業をやってきました。今回のお話しさせていただいているアニメイトインターナショナルという会社の代表も兼任させていただいております。


――:外川さんとはブシロード時代から一緒に「BanG Dream!」や「D4DJ」の海外展開でご一緒させていただいておりました。その節は大変お世話になりました。AGFは今年、コロナロックダウンの影響も平常化して、3年ぶりに大盛況でしたね。その中で気になったのはこのアジアBL本の輸入です。ちょっと日本人がすぐには手が伸びにくそうなラインナップでしたが、これらはどういった意図で展開されたんですか?

いや、中山さん、よくこれ目をつけましたよね。ちょっと実はあまりに目のつけどころとタイミングが良すぎて、弊社でもびっくりしていたところです。実は2023年に向けて弊社で仕込んでいる「東洋BL」で、今中国・韓国・タイなどでのアジアのBLが日本でも需要が高まるんじゃないかと思って試験的にAGFに出していたんです。

このアニメイトインターナショナル も2020年11月に設立した弊社の新規事業で、いままで基本的には日本コンテンツを海外で売る仕事をしてきたんですが、逆にアジア圏で売れているものを日本に輸入するというビジネスを手掛けようとしているところなんです。

 

▲AGF2022で出展されていた「東洋BL」の各種本・グッズの販売


――:おおーそうなんですね!まさにこれから、というブースが中山の「BL欲」とタイミング的に符合したんですね。最近けっこーBLジャンルみて研究してるんですよ。

それ、どんなニーズなんですか笑。実は小売店舗を世界に展開するアニメイトとしてはコロナによるダメージもそこそこあったんですが、逆に“追い風を感じる"ことのほうが大きくて、これからもっと消費者が大きく動くようになるんじゃないかという感覚があるんですよ。


――:これはやっぱりアニメ配信による影響で、マンガ本の海外売上も空前の売上ですし、フィギュアからカードゲームからアニメ周辺商品がバカ売れしているという流れと一緒でしょうか?

はい、まさにそれです。もともとここ5-6年くらいアニメがNetflixとCrunchyrollのお陰で急激にみられるようになったんですが、コロナの追い風は「鬼滅の刃」だったんです。あれで実は海外で10代以下の子供たちが浴びるようにアニメを観る機会が増えて、国内も同じ傾向はあるんですが、アニメイト店舗にくる客層が非常に若い人が増えているんです。


――:それは僕も違う商流でみていて、同じことを感じます。でもアニメイトさんってそもそも小売業ですし、コロナで店舗も休業せざるをえない時期もありましたし、かなり厳しかったんじゃないですか?2020年だけは「鬼滅の刃」と「ツイステッドワンダーランド」の突風が吹いて、すごい好景気だったと思いますが、2021年ですとか。

はい、その2作品の突風はもちろんあったんですが、アニメイトって「一般化するよりちょっと前」から人気なところがあるんですよ。だから20年秋に無限列車編の後になると、コンビニや駅ナカ店舗にすら鬼滅グッズが並びましたが、作品が一般化するその前から非常にすごかったです。


――:我々の業界は「生活不必需品」ですが、まさかコロナ期にも底堅い需要をむしろ圧倒的に発揮してましたよね笑。衣食住とアニメグッズは「感情の生活必需品」だったのかもしれません。

そうですよね!笑。そうした中で実はさきほどの話につながりますけど、日本のなかでもアニメイト店舗に押し寄せるようになった「アニメを大量に見てアニメイトに行くことが習慣化した若い層」って実は日本のものとかアジアのものとか国籍関係なく消費するようになってきたんです。


――:あ、なるほど!僕にとっては最初に日本で大流行したNeteaseの『荒野行動』(2017年11月)が最初の衝撃でした。「陰陽師」(2017年2月)も日本の声優を使って話題にはなってましたが、そのころからではないのですか?

アジア系コンテンツの商品売上が急騰するのは、明らかに「鬼滅の刃」ブーム以降、「原神」(2020年9月)あたりが一番の分岐点でしたね。年齢が上の層ほど「中国製」「韓国製」という意識があるんですが、若い人はそこに一切のバイアスがなくて、やりはじめてハマってから「え、これって中国のゲームなの?」って気づくような感じですよね。だから偏見なく中国ゲームのキャラクターグッズも買われていくようになりました。「ブルーアーカイブ」とか。Webtoon人気も同じ傾向かもしれませんね。


――:これは確かに、、、日本のアプリゲームの売上でもコロナ前後から3割くらいは中国ゲームがランキング上位を独占するようになりました。それって偏見のない層が純粋にゲームとして面白いほうを選択した結果なんですよね。アニメイトの海外店舗はいまどのくらいあるんですか?国内は100以上ありましたよね。

国内が約120店舗に対して海外は9店舗(台湾3店舗、タイ1店舗、韓国1店舗、中国4店舗)ですが、実は12月と1月にタイと韓国で新規の2店舗をオープンします。来年に入ると、さらなる計画もありそれもあって色々な不動産交渉やらちょっと出張でバタバタし始めてしまっておりました。


――:海外9店舗とこれから数店舗新たに展開されるということですね!これは現地の日本人が結構買っているというのもあるのでしょうか?

いやいや、現地在住日本人の売上割合って5%もいきません。純粋にローカルとしてのニーズが爆発しているから、それに対応して海外店舗を増やしているという状況です。


――:本とグッズの割合ってどのくらいなんでしょうか?やっぱりどんどんグッズが増えてます?

本とグッズでちょうど半々くらいですね。その比率はあまり変わらなくて、安価で毎回コンスタントに新刊が出る本が、海外ユーザーからすると来店理由になるんですよ。やっぱり本が一番安定してます。そこに何度も足を運びながら、ちょっと高額なグッズも買ってくれるようになる、という構造です。


――:コロナ前も各地での展開とか検討されてましたもんね。2年間ストップしていた計画が、ロックダウン景気も受けてより自信を深めて、走りだした感じですね。こういうトレンドの中でいうと、「東洋BL」としてBLが生まれ始めたアジア各国ですが、そもそもBLってアジアでは禁止されている国が多いですよね?

はい、台湾と韓国が一番自由な市場で、昔から日本のBLマンガは入っていました。中山さんも以前行かれてたかと思いますが、台湾アニメイトは入り口からBLコーナーが全面的に展開されてますし、韓国アニメイトは壁面いっぱいBLジャンルです。特にローカライズもなく輸入されてます。

それに対して中国はもちろん完全に違法ですが、実はタイもかなり厳しいんですよ、法律的には。そのまま日本のBLマンガを輸入すると違法になるものが多いので、現地語版を画像の修正も含めてローカライズしたうえで発行しています。我々は日本コンテンツファンが集まる店舗なので、それ以外の書店でアングラで入っていたかどうかは、ちょっとわからないんですが。

――:それが意外でした!そうなると韓国BLはわかりますが、どうして中国BLと泰流BLが日本に入っているのか、というのがますます疑問です。ひとまずタイ店舗できちんとインタビューしてきたいと思います!


 

■アニメイトバンコクに突撃取材、タイでBL文化はどのように醸成されたのか

――:今回は「アニメイトバンコク」に突撃して、店舗管理をされているPさんにお話お伺いしました。Pさんはどのくらいこちらで働いているんですか?

アニメイトバンコクは2016年に開店しました。オープン当初から働いていますので、もうかれこれ6年でしょうか。私自身は強いBLファンというわけではなく、あくまで売れ行きなどから把握しているだけですので、そこの要素は加味して聞いていただけると幸いです。

 

▲タイのMBKセンターにあるアニメイトバンコク。平日でも11時開店前には行列が!

――:はい。タイのBLが来ている!“泰流"ドラマの時代だ!など方々で言われています。もともとタイではLGBTをテーマにした素材はありました。ちょっと似ているようで異なるのが「異性愛者の女性が主に読者・視聴者層になるBLジャンル」です。

昔からBL小説・漫画・ドラマはそれなりにありました。でも「エロ」と近しいジャンルになっていて、法律的にはダメだったんです。私が隠れて読んでいた最初のBL作品は日本のBLマンガ『ファインダーシリーズ』(やまねあやの、リブレ出版のコミック誌『BE×BOY GOLD』で2003~掲載中。2012年にOVAでアニメ化も果たしている)ですね。

――:タイでは黎明期の2000年に『アタックナンバーハーフ』というゲイ男性のみのバレーボールドラマがありました。このあたりからLGBT親和性があったのかと思いますが。

そのタイトルは知りませんでした笑。そもそも最初に日本にいったのも2010年くらいのことでしたし、読み始めたのもそのころからで、たとえば『世界一初恋』(中村春菊、角川書店『Emerald 』で2008~掲載中。小説やWebラジオにもなり、シリーズ累計1300万部)などが好きでしたが、これはロングセラーで今も売れている作品ですね。

 

▲入場口に大きく取り上げられているファインダーシリーズ

――:おそらく、その後の2010年前後くらいから「BLマンガ」が日本から多く流入していたんじゃないかと思うのです。ただそれが顕在化したのは近年の「BLドラマ」ブームなのではないか、と。2016年『SOTUS』で初めて大衆に受けたBLドラマがあり、なにより2020年『2gether』がコロナ禍で爆発的な人気を博しました。


2gether(GMMTVのBLドラマで“泰流"を世界中に広める結果になった作品)
 

・5話以降全話でTwitterのグローバルトレンド1位獲得
・社会現象としてタイのBCCニュースで取り上げられる
・エンディングテーマがSpotifyバイラルチャートでグローバルランキングに3週間インし続けた(最高位13位)

そうですね、SOTUSや2getherとBLモノへの温度感が最近急激にあがっていきましたけど、実はそれ以前の5年くらいで徐々に影響力は増していた感じです。BL“小説"の最初のヒットでいうと、『魔道祖師』(2015年に生まれたオンライン小説で古代中国を舞台にした妖魔・邪鬼を祓う「修士」たちの物語)で、そのアニメ(テンセントピクチャーズ:2018年~)なども入ってきました。


――:『魔道祖師』は日本でもファンが結構ついてますよね(アニメTwitterフォロワーは9.6万人、完結編は23年1月~放送)。今棚をみていると、BLジャンルは日本のBLマンガが独占かと思いましたが、結構中国・韓国のものもいっぱいタイにはいってきているのですね。全体的に棚としては8割日本BLマンガで2割が中国・韓国・タイのBL小説、という感じですね。

はい、中国と韓国から様々なバリエーションのBLが入ってきています。BL“マンガ"となると基本的には日本からしか入って来ません、他の国ではこれだけ漫画家がいませんから。ただ、ご覧のように中国・韓国からはBL“小説"の形をとって輸入されてきています。

 

▲アニメイトBangkokの「BLゾーン」、手前1段は中・韓・タイのBL小説、向こう3段は日本のBLマンガが占拠している。ただ前述のように台湾・韓国アニメイトでのBL取り扱いはこの数段大きなもの。

――:中国はBLへの寛容性は低いですよね。よくこれだけの作品が中国で生まれているなと驚きます。

そうですね。ただオンラインでの自由投稿サイトの存在が大きくなってきていて、そこで勝手に育ったBL小説家たちの中から人気作品が出版される事例はむしろ多くなってきている印象です。国内では正規に売れないので、最初から海外市場目当てで展開されています。中国でいうと晋江文学城(2003年からある中国の小説自由投稿サイト、中国本土の女性向け書籍市場はこのサイトがシェア8割となっている)で先述の『魔道祖師』もここから生まれてますね。タイにもreadAwriteという自由投稿サイトがあり、こちらでもBLは一大テーマです。

 

▲タイの「なろう系小説サイトreadAwrite」、アプリだけでも150万MAUを超える

――:これは日本でいう「小説家になろう」ですね。日本だと約200万人登録、80万件近くの作品が掲載され、「Re:ゼロ」や「転スラ」など多くの作品が生まれましたが、中国・タイそれぞれのBL作家インキュベーションサイトになっているのですね。日本側からは「泰流ドラマ」の成功ばかり目につきましたが、意外に「輸入・自国モノのBLノベル/マンガ」の浸透も大きく作用した結果の、ドラマと言えそうですね。

基本的にBLドラマって原作が小説が多いんですよ。ですので、小説の流行がそのままドラマの流行につながっている気がします。ドラマ単体で作られたわけではなく、そもそも流行のBL小説があって、そこから大きな予算でBLドラマが作られるという順番ですね。


――:2020年の2getherがあって、どんな風に変わったんですか?

全般的にコロナもあって上がりはしたんですが、あいにくアニメイトは日系中心の品ぞろえなのと、何度か数か月単位で店舗休業をしなければならないタイミングでしたのでBLドラマ・BL小説が流行っていてもそこまでその受益をうけられなかった気がします。その分、予約販売をしていた出版社などが大きく売上を伸ばしました。この2022年になって明確に回復してきていますので、小売店でも2019年並みに売れるようになってきましたが。


――:それは他のアプリ開発している会社からも聞きました。タイは薬局以外本当に全部閉鎖となったので娯楽が一気にゼロになり、配信系アプリはMAUが10倍になったとか。最近はOpenになって店舗やリアルに戻ってだいぶ落ち着きましたが、基本的には2019年よりはデジタル系サービスは伸びたままという状態のようですね。

はい、逆にその部分が書店やグッズにも戻ってきたのが2022年という感じでしょうか。


――:“泰流"がはやっているという感覚はあるのでしょうか?

そうですね、一気に流行が来たというよりは徐々にあがってきた感じですが、どちらかというと取り扱う出版社がどんどん増えてきているという感覚はありますね。


――:結構日本にも浸透していて、Twitter「タイBLに恋したい!」は2.2万人フォロワー、SOTUSのメインキャストのKRIST&SINGTOはこの5-6年の間、ずっと日本にファンミーティングを開催しており、毎回ライブでもないのに全席指定で2万円とかでやってるんですよ。かなり高額だなと驚きました。

そうですね、BLグッズはこちらでも売れてはいます。BLファンは客単価が高い、というのは確かにそうですね。

 

▲BLグッズコーナー。中国のBL小説キャラが多いのは日本と違うところか。

――:中山は2019年にタイに来たときは一大アイドルブームでした。BNK48が流行し、2番手で吉本のアイドルグループもデビューしており、全部で40組くらい乱立してました。

よくわからないのですが、アイドル系は厳しそうですね。タイは流行が早くて、アイドルブームは全盛期に比べて数は減ったと思います。特にコロナで大きなダメージを負ってますと思います。タイでは男性がゲームにしかお金使わない傾向があって、むしろ女性向けのほうがこうして本やグッズなどで長く残る傾向があります。


――:いま現在で売れているものはどういうものなのでしょうか?

やっぱりVTuber一色になりましたね。現在もアニメイトバンコクでは「にじさんじ」「ホロライブ」の勢いがすごくて、そのなかでも特にENが人気です。実はタイ発のVTuberも生まれてきていて、Aishaというのですが登録者をどんどんの増やしています(20年3月に開始したAishaはタイ語で発信するVTuber、2年半が経過し、現在は50万人登録、月間200万再生を担保している)。


――:『SOTUS』(2016)や『2gether』(2020)ほかにも『Theory of Love』(2019)や『Dark Blue Kiss』(2019)などタイ最大手の音楽レーベル・事務所GMMがBLドラマを伸ばしたのはYouTube戦略もありました。すでにタイでは地上波は総崩れしており、基本映像をそのままYouTubeにも流し、かなりの視聴量を保っています。何社かタイで会社をまわりましたが、女性社員の半分は普通にBLドラマをみている状況でした。

ここは日本のテレビ局とも違いますよね。基本的に皆、ドラマはYouTubeでみれば、というところがあります。BLドラマを普通に誰もがみている、という点は日本とちょっと違うかもしれませんね。


――:日本は『人間・失格』(1994)とか“要素"はありましたが、ちゃんとそれをテーマにしたのは『おっさんズラブ』(2016)でテレビ局のBL文化取り入れがあまりに足りない、と感じます。そもそも日本のドラマがASEANで流行している話は聞きませんし、J-POPでのタレントそのものが厳しいんですかね。街中を走っているトゥクトゥクも広告をみるとほとんどK-POPでした。

そうですね。J-POPアイドルは・・・ちょっと聞いたことないですね。誰がいるかと言われても、思いつかないくらいです。

 

▲トゥクトゥク(タイ3輪バイク)の裏側広告にはKPOPアイドルやそれによく似たタイアイドルが多く掲載されていた。こちらはNoeul Nuttarat(タイのプロダクションMe Mind Y 所属のタイと韓国ハーフの俳優。韓国で育成され、例に漏れずBLドラマ『Love In The Air』(2022)で人気を博しTwitter18万、Instagram93万を誇る)

 

■海外展開の20年-Z世代からアニメ/ゲーム/タレントの境界が溶け、急激にマス化しているエンタメ世界

――:日本に戻ってまいりました。改めて外川さんにトレンドをお聞きしたいと思います。ちょっといまさらなんですけど、外川さんはトーハンの時代もどんなふうに海外と関われていたんですか?

トーハンでは海外向けブックフェアの日本事務局をやってたんですよ。だから現在お付き合いしている出版社さんのライセンス窓口は、ほとんど当時から関わりをもっていました。そのうち、フランスのジャパンエキスポ(毎年7月に開かれ、アメリカのAnimeExpoと並ぶ一大国際アニメイベントでフランス・パリで20万人以上も集客する)日本窓口業務を委託される ようになったんです。


――:あ、外川さんがジャパンエキスポの窓口をやってたんですね!今もKADOKAWA・講談社・集英社・小学館とアニメイトでJMA(ジャパンマンガアライアンス)を結成されてその窓口をされてますが、そういう「取りまとめポジショニング」ってもう20年単位くらいでやられているんですね。

私が最初に2007年にジャパンエキスポに出てた時なんて、もうひどいもんでしたよ。1人座れる小さなスペースで、これは売れるだろうと思われるファッション誌やアニメ誌を持ち込んで売り子からのスタートでした。誰も一緒にきていないからトイレにも立てず、取引先の方々も挨拶に来られるので、ずーーっと座って売り込んでました。そのうちに、きゃりーぱみゅぱみゅが有名になったり、徐々に日本のコンテンツ会社がアメリカのAnime Expoだけじゃなくて、フランスのJapan Expoにも出展していくようになっていきました。


――:当時は「クールジャパン」という言葉も作り始められたタイミングでしたけど、日本コンテンツが盛り上がっていく気風はあったんでしょうか?

いやいや、アニメに関していえば今と違って、まだ「スカスカ」な感じでしたよ!2007~10年あたりだとDVD・BDも売れなくなっていきましたし、クールジャパンだ!と国内では言われてましたが、最前線で売りに行っているときには、そこまで手ごたえを感じられるものじゃなくて。


――:やっぱりこの傾向をかえていってくれたのが・・・

アニメに限定して言えば、手ごたえ明確に感じた瞬間ってコロナの後なんですよ。それはやっぱりNetflixとCrunchyrollが大きなトリガーだったと思います。2010年代前半もクランチなんて50万人登録もいってませんでしたもんね。2010年代後半になってぐんぐん伸びてきて、コロナ時期に爆発したというのが前回もお伝えした経緯だったかと思います。

そして配信がきて、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などが一気にきました。それまで5年くらい海外ファンを牽引していたのは『進撃の巨人』だったんです。『NARUTO』や『BLEACH』もすごかったですがそれでも20年経っていたので…。新しい作品がたくさんにみられるようになったのは非常にうれしいことです。



――:やはりZ世代へのアニメ浸透が大きな変化といえますね。

「アニメ」の境界がZ世代以降から大きく揺らいでいる気がします。以前はアイドルとアニメって志向としては分かれていたじゃないですか。でも今って「KPop大好きでライブも行く野球部」とか「韓国BLみながら2.5次元舞台・宝塚ファン」とか。エンタメはエンタメとして、国籍やジャンル関係なくマス層が味わうものに変わってきたんだと思います。


――:ゲームの影響もモバイルであがりましたよね。アニメイトでもモバイルゲーム作品の商品をたくさん見ます。

アニメイトのユーザーも以前は6-7割アニメファンでしたが、最近はアニメ4割、スマホゲーム4割、VTuber2割みたいな割合で、その境界がどんどん溶けてきています。


――:BL自体はどう変わっているのでしょうか?

日本国内でいえば最近はライトBLが作品としてもファンとしても増えてきました。逆にレディースコミックとかでBLが好きだった日本のBLファン"にとっては、最近は日本のものよりも、中国やタイから輸入された「文学性や歴史ストーリーBL」のほうが満足がいくという傾向があるようです。ストーリが非常に骨太で作りこまれてる作品。だから今回のように「東洋BL」をもっと日本で普及させていきたいなと思っています。私も難しくて読めないのが多いですが(笑)。もちろんライトなものもあるみたいなので、それも挑戦したいなと。


――:こういう市況になってきて、アニメイトの役割も変わってきますね。我々日本のIP展開する立場ですと、海外に10店舗以上あって、各国のアニメ・ゲーム感度の高いユーザーを集める“メディアとしてのアニメイト"が非常に大きいと思ってます。前職のときもまだ普及度合いがわからないタイミングで在庫リスクも抱えながら、一緒に展開していただいたな、と。

これは僕自身のポリシーでもありますが、「プラスマイナスでゼロ以上なんだったら、とりあえず普及させる方向でいこう」と思ってます。だから、海外でやることは非常にコストかかるのですが、いわゆるリスクは全部版元側にもってもらう受託型の小売企業にはならないですね。

あの時も面白かったですよね。店舗にコーナー作って、まだアプリ展開前のコンテンツを海外に普及できるかブーストしていったり。「海外に持っていきたい!」という野望ある会社さんがいるといいですよねー。こちらもリスクとって進出している甲斐があります。


――:この先の海外展開もワクワクします。アニメイト池袋本店も2023年3月16日に拡張されますし、東洋BLの日本普及も、日本コンテンツの海外普及も、ぜひよろしくお願いします!

 

▲“牛乳パックビル"と呼ばれるアニメイト池袋本店を右手に、池袋区役所やBrillia HALLやオフィスビルが立ち並ぶ池袋Hareza周辺。池袋本店は現在拡張中で2023年春に新装開店。

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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