サイバーエージェント藤田社長、第2四半期は一時要因なくなり「好調な状況に戻った」 ABEMAはW杯効果で赤字急減、"周年"でゲームも大幅増益

木村英彦 編集長
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サイバーエージェント<4751>が4月26日に発表した第2四半期(23年1月~3月)の連結決算は、売上高1956億5700万円(前四半期比2.4%増)、営業利益187億8600万円(前四半期は12億5500万円の損失)、最終利益79億円(同50億0200万円の損失)と増収・黒字転換に成功した。決算説明にあたった藤田晋社長(写真)は、「(赤字だった)第1四半期ではサッカーワールドカップという一時的な要因があったが、この四半期では好調な状況に戻った」とコメントした。

 

■ABEMAを取り巻く環境はW杯で一変

収益改善の主な要因として、まず、先行投資を続けているABEMAを展開するメディア事業の赤字が前四半期の93億円から5億円に急減したことだ。サッカーワールドカップの配信権料や配信にかかわる諸費用が発生し、巨額の赤字を計上したが、一転して収益貢献も視野に入る水準まで大きく改善した。

 

売上は、ワールドカップ後ではあるものの、広告や月額課金の収益が高水準をキープした。同社が重要指標とするWAU(週次アクティブユーザー数)をみると、ワールドカップ後も高止まりを続け、1600万~1900万の水準をキープしている。

 

藤田社長は「ワールドカップ後、取り巻く環境が大きく好転した」とし、「視聴者からの好感度が向上し継続的な利用に繋がり、広告主からも好感度の高いABEMAに出稿したいと引き合いが増えるなど好循環が生まれている」と述べ、「完全に成功」と総括した。そして、有力な出演者の出演希望や、優良なコンテンツの持ち込み・企画提案が増えるなど、ABEMAで配信する番組の質向上にもつながっていることも明かした。

 

さらに競輪やオートレースの車券販売を行う「WINTICKET」も成長を続けている。周辺事業という位置づけながら、ABEMAの売上の半分近くを占めているのだが、その取扱高は右肩上がりで伸びている。ABEMAでレース中継を行いつつ、シームレスで車券が買えることを強みとして生かす。「Watch & Betの強みを証明した」。後発ながらサービス開始からわずか3年で40%とトップシェアを獲得した。

 

 

■「周年」効果でゲーム事業も大幅増益

ABEMAが急成長しているとはいえ、最も大きい収益改善の要因はゲーム事業だ。『ウマ娘 プリティーダービー』や『グラブルーファンタジー』『プリンセスコネクト!Re:Dive』『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』など複数の主力タイトルが「周年」を迎えて売上を伸ばした。前四半期においては52億円だった営業利益が、この四半期では152億円と急激に改善した。

 

藤田社長によると、『ウマ娘 プリティーダービー』と『グラブルーファンタジー』のイベントが特に盛況だったとのことだった。いずれも中核子会社Cygamesによる作品だ。

 

スマートフォンゲームは、コンテンツの追加やイベント開催などの運営で継続的に売上を出すことができるものの、どんなヒットタイトルであっても、経年による売上低下を避けることは難しい。多くの会社は、新作を出すことで「ミルフィーユ」のように売上、利益を積み上げていく。同社も当然、新作を用意している。

藤田社長は、2023年中のリリース予定のタイトルとして、『FINAL FANTASY VII EVER CRISIS』と『呪術廻戦 ファントムパレード』をあげ、「十分期待できる水準に仕上がっており、私もこの2タイトルには非常に期待をしている」とコメント。いずれも家庭用ゲームと人気アニメ・マンガという有力IPを活用したタイトルだ。

『FINAL FANTASY VII EVER CRISIS』は、スクウェア・エニックスとアプリボットの共同開発タイトルで、今夏にクローズドβテストを開催する予定だ。また、『呪術廻戦 ファントムパレード』は、サムザップと東宝の共同開発タイトルとなる。

 

 

■祖業のネット広告は過去最高売上も先行投資で横ばい

サイバーエージェントの祖業であるネット広告は、過去最高の売上を計上したが、営業利益はほぼ横ばい(微減)だった。この四半期は、例年、顧客企業の多くが3月期末で予算消化のための出稿需要が多いため、大きな売上が出る時期なのだが、営業利益に関しては意外な結果だった。この要因については、採用の増加や技術への投資など先行投資を行っているためと藤田社長は説明した。

 

これまでの説明会でも触れていたことだが、ネット広告では、現在、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI領域への投資を強めているとのこと。DXやAIについてはこれまでも取り組んでいることだが、新たにリスキリングやChatGPTなど、新しい領域に着手したことを明かした。「新しいものにいち早く着手し事業を模索している」。

 

 

■中長期戦略達成が視野に 新しい戦略も注目

サイバーエージェントは、ネット広告とゲームで稼いでいるうちに新しい柱としてABEMAへの投資を十分に行って育てていくという中長期の戦略があったが、いよいよABEMAの収益化も見えるようになってきた。まだまだ赤字が継続しており、これまでの投資回収という視点からも本格的な収益貢献には時間を要するのだろうが、"次の一手"を期待する、気の早い声もでそうだ。

 

ネット系の企業の多くは、国内で育成したサービスの海外展開を行ってきたが、藤田社長は、過去の決算説明会において、ABEMAの海外展開については難しい、との見方を示している。海外ではすでに有力な動画配信サービスが定着しており、ABEMAと同規模の投資を行っても海外市場に食い込む余地は大きくない、ということだろう。

ABEMAなどで配信したコンテンツの海外企業への提供が一つの方向性としてあり得る。すでに連結子会社BABEL LABELがNetflixと5年間に渡る映画・ドラマ製作と、世界190か国への配信を目的とした戦略的パートナーシップを締結した。第1四半期の決算説明会において、「自分たちで作ったコンテンツをネットフリックスを通じて世界の人に見てもらうことで、この動きは今後も強化していく」とした。

また、ゲームの中核子会社Cygamesがオリジナルアニメの製作も強化していることも注目すべきだろう。これまで自社ゲーム・作品のアニメ化を中心に行ってきた同社だが、アニメ「アキバ冥途戦争」や、現在放送中の「THE MARGINAL SERVICE」などを用意している。ゲームと同様、アニメ作品に対する評価も高い。

「最高のコンテンツを作る会社」とは、Cygamesのビジョンだが、アニメ制作会社のCygamesPicturesや、電子コミックサービス「サイコミ」の運営など、ゲーム会社に縛られないコンテンツ創出活動を展開している。これ以外に、サイバーエージェント本体も様々なアニメへの出資やプロデュースに取り組んでおり、アニメがゲームに並ぶ事業に育ってくる可能性も十分ある。

株式会社サイバーエージェント
http://www.cyberagent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
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