【セミナー】ゲーム業界の分析基盤構築と実用例を公開!「ThinkingData 0→1 Meetup 2023 Spring」の内容をレポート!

GamebizとThinkingDataの共催によるセミナー「ThinkingData 0→1 Meetup 2023 Spring〜ゲーム運営におけるデータ分析基盤の構築から分析事例を大公開!〜」が、4月20日に渋谷ソラスタコンファレンスにて開催された。

本セミナーでは、「どのようにしてゲーム運営にデータ分析を活用するのか」に焦点を絞り、人気タイトルを運営されているWFSの伊豫部羽人氏、ワンダープラネットの開哲一氏が登壇し、各社の戦略や分析事例を語った。

さらに、本セミナーを共催しているThinkingDataの営業責任者の土川真幸氏からも、同社のソリューションであるThinkingEngineの機能や特徴についてが語られた。

本稿では、セミナーの内容を紹介していく。

効果的なデータ分析を支えるのは3つの理解

最初に登壇したのは、株式会社WFSのAnalisys室に所属する伊豫部羽人氏。伊豫部氏は「ゲーム事業におけるアナリストの役割」と題したセッションを実施した。

まず、一般的なアナリストの役割については、データを用いてプロダクトが抱える課題を明確にし、課題解決のための施策を提案していくことにあると定義付けをした。これはゲームにおいても同様ではあるものの、プロダクトの性質や市場を含めた環境への理解が浅いと、どのデータから課題を発見できるかもわからず、効果的な提案につながらないことを懸念になる。

ゲーム事業では、ゲームの面白さやビジュアルの品質など、数値化が困難な要素の影響が大きいため、ゲーム事業を取り巻く環境、他社製品も含めたゲームプロダクトの研究など、ゲーム事業への理解が重要になると伊豫部氏は語る。特に、ゲーム事業のアナリストが理解すべきこととして「事業環境」、「プロダクト」、「組織」の3点を挙げた。


ここで伊豫部氏が言う「事業環境」とは、何がどれだけ、どの期間で売れているのかという売上構造や、長期的な運営計画といった要素を指している。プロダクトが直面している課題を具体的にするためには、こうした要素への理解が必要になってくるとしている。

「プロダクト」への理解という点では、ターゲットユーザーをどこに設定していて、ユーザーからはどういったニーズがあるかを把握する。そして、競合するプロダクトとの比較をして、自社プロダクトの強みだけでなく弱みも研究する。ここでは、数値化できない情報が多く絡んでくるため、数字や分析に強いだけでなく、ゲームの環境への理解も必要になる。

ここでは、WFSで実際に行われた施策から実例もあげている。他社事例を基に提案した施策について、プロダクトのコンセプトと合わないことが問題になり、生産性のない議論になってしまったことを反省点としていた。

成功例として挙げたゲームバランス調整では、ユーザーの進捗状況を整理し、ゲームをどこまで進めたところでユーザーが離脱しているのかを分析したところ、客観的な数値を土台にした生産性の高い議論に発展した事例について語った。

次に「組織」への理解についての話になるが、ここは人間への理解が必要になるため、非常に難しい部分であり、ここが一番重要とも言えると伊豫部氏は発言している。そもそも、プロダクトで表現したいものは何か、スタッフがどういった意図をもって制作しているのかを知ることで、事業環境とプロダクトの理解を深めることにつながるため、組織理解があらゆる理解への前提になるという考え方だ。

以降は、WFSが運営するタイトル『ヘブンバーンズレッド(以下『ヘブバン』)』における実例紹介となる。事例のひとつ目として挙げたのは『ヘブバン』のアクティブユーザーの減少とその解決策だ。

そもそも、アクティブユーザーが減少していることには、デイリーのKPIチェックで確認できていたWFSでは、離脱しているユーザーのペルソナを深掘りしていった。その結果、ストーリーが途中であるにも関わらず、強化用コンテンツも中途のままで離脱していることが判明した。

そこで、プロダクト側から提案されていた解決策のなかから、レベル上限の解放を実施して育成をフォローしながら、離脱しているユーザーの育成状況の調査を続行するという体制をとった。

最終的に、中間層の育成難易度を下げつつ、ストーリーを進行しやすいように改修を加えていったことで、DAUを維持しながら最新のストーリークリアユーザーの増加率を上げることに成功している。焦点を当てるべきユーザーを割り出し、マッチした施策案をデータ分析から割り出したという実例になる。

もうひとつ、WFSが行っている施策としてユーザーインタビューの情報も公開した。これは、インタビュアーが同席している場で数名のカスタマーにディスカッションしてもらうという調査方法である。

過去の分析から、ミドルユーザーが離脱気味であるという問題点が明らかになってきた時期に、WFSはユーザーインタビューを実施している。その際には、アナリストからディスカッションのテーマと質問内容を提示した。

そのインタビューでは、デイリーミッションとしても設定している、ライフ消費が面倒であるというものだった。これに対して、ライフをまとめて消費する機能を早急に実装し、ユーザーからの不満解消につながった。

客観的な視点を得ることで事業環境への理解を深めながら、他部署との連携をするためには組織への理解も必要になる。これらの実例のように、事業環境、プロダクト、組織を理解することで、問題提起と解決へのアクションを取りやすくなる。ただのデータ分析部署ではなく、ゲームアナリストとして働くためにはそれが必要だと締めくくった。



データ分析はアナリストだけのものじゃない

続いて登壇したワンダープラネットの開氏は「データ分析基盤としてThinkingEngineを全社導入した話」というテーマでセッションを実施した。

ワンダープラネットでは、『アリスフィクション』や『クラッシュフィーバー』など複数のタイトルを運営しているが、これまでデータ分析はタイトル別に行なっていたため、過去のタイトルの分析技術を活かしづらいという実態があった。

それに加えて、アナリストとしての造詣が深くないとデータの参照も難しかったため、他のメンバーへの情報共有が困難でることも問題になっていた。

まずは、これらの問題点について詳しく解説してくれた。ThinkingEngine導入以前に使っていたシステムは、BigQueryベースで設計および構築をしていたが、プロダクト毎に別のシステムになっていたため、作業工程を均一化しにくくメンテの手間も多かった。苦労して構築したシステムもサービス終了とともに破棄されていた。

そして、SQLを扱える人材でないと使えないものになってしまうため、アナリスト以外は触らないものになってしまう結果となった。KPI計測には、アナリスト以外にも扱いやすいUIの有料SaaSを利用していたため、売上やDAUの確認はこちらで確認する人が大半だった。

アナリスト以外が参照しにくいデータベースを使用していると、集計をアナリストに依頼するケースが多くなり、集計に追われるアナリストは分析に時間を割けなくなる。集計待ちのために、欲しいデータがすぐに手に入らないなど、何かと手間が多くなってしまう。

これに対し、開氏もプランナーがタイムリーに欲しいデータを収集できるような環境にすべきだと感じながらも、なかなかマッチしたサービスを見つけられずにいた。そんななかで、使用していたKPI計測ツールのサービス終了の煽りを受け、データ分析基盤の見直しに着手することとなり、ThinkingEngineの採用に至ったそうだ。

開氏は、ThinkingEngineを選出した理由としてSQLを書かずに扱えること、幅広い分析を素早く実施できること、為替やタイムゾーンといったグローバル対応もできることなどを挙げた。

SQLを使わずに直感的に触れるUIになっているため、非アナリストにとってハードルが低いおかげで、アナリスト以外が活用できないという問題点が一気に解決に向かったそうだ。SQLを使わなくても触れはするが、SQLが使えないというわけではないため、これまでSQLを使用していたアナリストも抵抗感なく扱える。

そして、ThinkingEngineは分析の内容が幅広く、多種多様な分析内容を参照しやすい点も、採用に踏み切った要因のようだ。こうしたデータが最短1分で反映されるため、情報の鮮度が高く集計内容の信ぴょう性も高くなる。

グローバル展開をしていると、売上データ参照の際に為替レートの考慮が面倒になりやすいが、ThinkingEngineでは、日ごとの為替レートで換算可能になっているため、計上の手間も少なくできる。

そして、ThinkingEngineだけで分析基盤が作れるため、構成がシンプルになるため現場の混乱を回避できる点もやはり大きいだろう。ThinkingEngineの効果について、開氏はプロデューサーやプランナーといった非アナリストの面々の間でも、ダッシュボード作成をするようになり、着実にデータ活用の意識が広まっているとまとめた。

今後目標とする取り組み内容として、より多くの指標を分析するために、ThinkingEngineベースで分析を行える設計を進めながら、基本的なデータ分析は開発と運営のメンバーに任せ、アナリストはより専門的な分析作業やレクチャーに移ることや、エンゲージメント機能の開発など、ThinkingEngineで環境の最適化を進めていきたいと語った。




アナリストがよりプロフェッショナルになる環境作り

最後に、ThinkingDataの土川氏が登壇し、ThinkingDataが提供するサービス内容の紹介とともに、なぜデータ活用は難しいのかというテーマでのセッションを実施した。

まず、データ活用のそもそもの問題点として、独自のデータ基盤を構成することでデータが複雑化してしまうということ。それと、アナリストのなかに分析スキルだけでなく仮説立案をするスキルを併せ持った人材が少ない点にあると土川氏は考えている。これは、開氏のセッション内容ともつながるところがある。

データ分析の現場において、現在はETLやDWHなど、一部の機能に特化したツールを組み合わせて使うケースが多い。そのため、複雑なデータ基盤ができあがってしまうだけでなく、データを活用することではなくデータを集めて保存することが目的になってしまうことが多々あると語る。

まず、複雑化するデータに対するアプローチとしては、データの活用目的を決定しておくことが効果的であり、目的から逆算して構築した分析基盤を提供することで解決できることをアピールした。

開氏のセッションでは、ThinkingEngineをETL、DWHとして活用する例を挙げていたが、BIツールとしても利用可能であると土川氏は解説し、ThinkingEngineで分析を一手に担えるとも語った。

ゲームデータの分析に最適化された基盤を作るために必要な情報として、土川氏はユーザーユニークの担保、すべてのデータをユーザーに紐づけすること、行動シーケンスの取得といった要素を挙げた。

そして、これらのデータを集積して分析するにあたって、エンジニアの工数を抑えられるような環境構築の必要性も説いている。実演においても、煩雑なデータをシンプルに見える形に集計する様子が見られた。こうした膨大なデータ量を短時間で処理できる点もThinkingEngineの大きなメリットだろう。

続けて、分析と立案ができる人材不足については、プロデューサー、ディレクター、プランナーといった立案スキルを持つ人材が、データを活用しやすい環境をThinkingEngineで作れること、ThinkingDataスタッフによるサポートで分析スキルが関与する部分をフォローするという解決策を提示した。

ThinkingData社は、これまでに5,000以上のタイトルを分析支援してきた実績があり、あらゆるゲームジャンルに適したプランを用意できることを強みにしている。集積すべきデータは何か、参照したくなるデータは何かを的確に判断し、少ない操作で必要な情報を見れるダッシュボードを作成してくれる。

最後に、ThinkingEngineのプレローンチプランが無償提供になることをお知らせし、土川氏はセッションを終了した。プレローンチプラン使用にあたっては、適用条件がいくつかあるため、使用を検討する際には詳細を確認してほしい。

3人のセッション終了後は、事前にいただいた質問についての座談会も実施された。3人の発言を抜粋して紹介する。(以下、敬称略)


──:リリース時、拡大時、長期運営時とフェーズによって見る指標を変えているのか。どのようなKPIで分析すべきか?

伊豫部:リリース時は、広告宣伝費の決定のために継続率を見ることから始め、その後は離脱ポイントを分析していきます。拡大時には、コアユーザーの定着率を確認しながら、新規ユーザーをコアユーザーに成長させていくためにも、コアユーザーに至らず離脱する理由を調査していくのがいいと思います。

開:伊豫部さんと同じような要素になりますね。ひとつ付け加えるのであれば、長期運営のタイミングでは、復帰ユーザーが定着しているかを気にします。新規を獲得して継続してもらうことと同時に、イベントやキャンペーンのタイミングで復帰したユーザーを定着させることも重要になってきます。

土川:データ見ていくにあたって、継続率や定着率を見ていきますが、これらの数字に一定のラインを設定しておき、そのラインを超えるかどうかで拡大や縮小の判断をするといった手法をよく提案させていただきます。

──:なぜThinkingDataを選んだのか?

開:プランナーに分析をしてもらいので、専門知識がなくてもデータを見やすいサービスを選びました。また、KPIの集計結果を別のツールとも共有しやすいのも助かっています。グーグルスプレッドとの連携もできるそうなので、今後実施していきたいと考えています。

また、リリース直前に分析基盤を作る時間が捻出できず、過去に使っていた基盤をなんとかして使いまわそうとすることが多かったんです。なので、基盤作成をお任せできるThinkingEngine導入に踏み切りました。

──:ユーザーごとにポジション振り分けをして、アプローチやシミュレーションを立てていますか?

伊豫部:セグメントに分けての分析は常にやっています。それと、コンテンツの進捗度も見ていますが、それに合わせた課金メニューの変更までは至っていません。初期ユーザーに課金してもらうと継続率が高いことはわかったので、初期ユーザーに少額でも課金してもらいやすいメニューは作るといった施策は実施しました。

開:細かく分類しながら需要の分析はしていますが、あまりシミュレーションはしていません。最初のガチャの結果が良いと、継続しやすいといったデータは弊社も得ていますので、それ合わせた施策や改修を考えたりはしています。

土川:同じタイトルでも遊び方は人それぞれで、放置ゲーのように遊ぶ人がいれば、進化を楽しみにしている人もいて、遊び方が異なっています。その遊び方によってセグメント分けてKPIを設定して分析を進めることで、ターゲット層に向けて最適化した施策をうてるようになっていきます。

──:ゲームのアナリストに今後求められるものは?

伊豫部:アナリストとして、プランナーの仮説や疑問に答えて施策につなげるためには、ゲームの知識や業界の情勢に明るくないといけません。ひとりのプランナーのような意識を持って能動的にゲームを変えていく姿勢は必要になってきます。スキルとしてはSQLを書けること、因果推論、記述統計で望むデータを得られるようにはしておくべきです。

開:レポートを出すだけでなく、ユーザ-がもっと遊んでくれて、売上の向上につなげていけるよう、タイトルの知識を増やしていって提案していくという働き方ができた方がいいですね。

土川:ビジネス状況やユーザーを理解したうえで、よい仮説を持って分析していくスキルは必須です。ただSQLを書ければいいというわけではなく、大量のデータのなかからプロダクトの発展に役立つ黄金のレシピを発見していくことが必要で、そこは専門的な知識が活きてくる場所です。こうした、データ分析に関与するスキルセットの価値が上がってくるのではないでしょうか。

セミナーでは懇親会も実施され、参加者からの質問などにも応えていた。各ゲーム会社、同じ悩みを抱えていることも多く、盛んに情報交換を行なっていた。

なお、ゲームのデータ分析においては、以下の特設ページでも様々な情報を紹介している。過去のセミナーレポートも掲載されているので、気になる人はチェックしてみよう。