【レポート】横浜市でeスポーツ活性化プロジェクト「横浜GGプロジェクト」発足! eスポーツの街へと変化を遂げる横浜

プロeスポーツチームを有する株式会社VARRELは、株式会社ピーシーデポコーポーレーション、京浜急行電鉄株式会社と連携協定を締結し、横浜市の協力を得てeスポーツ活性化プロジェクト「横浜GGGOOD GAME)プロジェクト」を発足することを発表した。

本稿では、5月18日に横濱ゲートタワーで開催された記者発表会の内容をもとに、「横浜GGプロジェクト」の概要とともに、狙いや展望についてまとめていく。



「横浜GGプロジェクト」の決起人である株式会社VARRELは、プロeスポーツチーム「DONUTS VARREL」を運営しており、『RAINBOWSIX SIEGE』、『鉄拳7』、『OVERWATCH』など、多数のタイトルに活動の幅を広げている。

この度、株式会社ピーシーデポコーポーレーション、京浜急行電鉄株式会社とともに発足した「横浜GGプロジェクト」は、eスポーツ複合拠点や地域交流拠点を開設し、市場の拡大を狙いながら、選手の発掘育成も視野に入れている。

地域とのつながりを強めていくことで、eスポーツ振興を目指しながら、地域社会の発展貢献を目標としている。


▲20238月に横濱ゲートタワーでオープン予定の、デジタルコミュニティスペース「VASE」における、eスポーツスクールのイメージ図。専門学校のようなものではなく、カルチャースクールのような形式になっており、月4回、月8回のプランが提供される予定だ。

5月18日に開催された記者発表会では、VARREL取締役社長の鈴木文雄氏、ピーシーデポ代表取締役社長執行役員の野島隆久氏、京急電鉄取締役社長の川俣幸宏氏の3名が登壇し、各々の会社のプロジェクトへの取り組み内容の説明を行なった。


株式会社VARRELの鈴木文雄氏。


株式会社ピーシーデポコーポーレーションの野島隆久氏。


▲京浜急行電鉄株式会の川俣幸宏氏。


▲司会進行はeスポーツキャスターのOoooda氏が担当した。

プロeスポーツを運営するVARRELは、横浜全体のコアなeスポーツファンを増やすことを目標にしており、定期的なイベント開催、ライブビューイングの実施を予定している。将来を見据えたeスポーツ選手の育成という観点から、学生大会の開催にも積極的な姿勢をみせている。

ピーシーデポコーポレーションは、前述したようにデジタルコミュニティスペース「VASE」の運営に携わり、そこでのeスポーツを軸としたコミュニティ形成、デジタル格差やサイバーリスクという問題にも明るい人材育成を目標としている。

京急電鉄は、スポーツを核とした街づくりに精力的に取り組んできた実績があり、横浜をホームとするプロ野球、プロサッカーがあることは一般的にも周知されている。そこで積み重ねてきたノウハウを活かし、横浜、川崎、横須賀といった京急沿線地域でeスポーツ振興を図り、品川、羽田という日本の玄関とも繋がるeスポーツ集積地へ発展させる役割を担っていく。

 

これらの活動を総括し、「横浜GGプロジェクト」の今後の活動内容は以下の10項目にまとめられている。

●「横浜GGプロジェクト」の3社連携協定を通じた主な活動内容
① 駅構内等を活⽤したeスポーツ複合拠点開設
(ゲーミング拠点、教室、デジタルライフサポートなど)
② 地域交流拠点を活⽤した⾼齢者向け体験会の開催、eスポーツ学童施設などの開業
③ ⾼齢者、障がい者を含む雇⽤の創出
④ 部活動⽀援を通じた市場拡⼤、優秀な選⼿の発掘育成
⑤ 地域セミナーの共同開催 (eスポーツとの正しい向き合い⽅など)
eスポーツを活⽤した引きこもり⽀援事業
eスポーツを活⽤した地域コミュニティの拡充
⑧ 選⼿や選⼿を⽬指す若者向けゲーミングハウス(シェアハウス)の設置
⑨ 選⼿のセカンドキャリア⽀援
⑩ プラットフォーム参画企業の拡充
⑪ 横濱ゲートタワーに開設予定のeスポーツ拠点、スクールを活⽤した活性化企画の実施
⑫ 京急沿線eスポーツ⼤会(カップ戦、リーグ戦)の共同開催、沿線広域連携

これらの活動内容についてより詳細な説明を求めるため、記者による質疑応答も実施された。ここからは、その内容を抜粋してまとめていく。

まずは、横浜をホームタウンとするにあたって会社の所在について問われた鈴木氏は、株式会社VARRELはすでに横浜にオフィスを移し、選手の合宿所も横浜市内に設置していると発表した。

アリーナやオフィシャルショップの設置を考えているかを問われた際には、まずは横浜ゲートタワーで開催していくイベントに注力しながら、ビジネスが軌道に乗ったあかつきには、より大規模な施設も考慮していくと回答した。付け加えて、イベント内容については、VARRELのファンミーティングから始め、地域とのコミュニティ作成と強化をはかっていく旨も語っている。

京急電鉄の川俣氏は、駅構内や高架下といったスペースを利用した街づくりに貢献するという方針のもと、複合拠点や交流拠点の設置からスタートし、将来的には大会や遠征に関するサポートもしていくことを視野に入れているとのこと。



高齢者、障がい者を含む雇用創出、eスポーツを活用した引きこもり支援事業については、ゲームを通したコミュニケーションの場を提供するため、プロゲームプレイヤーに依頼がきている実績を提示しながら、活動範囲をより地域にフォーカスしていく意図があるという説明がされている。

高齢者のアクティビティとしてもeスポーツの可能性は見直されており、若年層とのコミュニケーションツールのひとつとしてeスポーツがあり、コミュニティを広げるのに活用できると鈴木氏は解説した。付け加えて、eスポーツは健常者と障がい者が垣根を越えて対戦をできる点も魅力であるという見解についても鈴木氏は語っている。

最後に、「横浜GGプロジェクト」立ち上げに際して、ピーシーデポ、京急電鉄の2社が新たにVARRELのスポンサーとなったため、2社のロゴを追加した新たなユニフォームが披露され、記者発表会は終了した。


この日登壇した選手は、DONUTS VARREL PUBG MOBILE部門のNaoto選手(写真左)、OZISAN選手(写真中央)、Kazemaru選手(写真右)の3名。



ここからは、記者会見後に行われたパネルディスカッションの内容を抜粋する。なお、パネルディスカッションでは、記者会見で壇上に上がった3名に加え、ゲストとしてeスポーツメディアやプロチームを運営する株式会社SWELL代表取締役の管野辰彦氏、横浜マリノス株式会社経営企画部の武田裕迪氏の2名が加わった。


記者会見から引き続き登壇するOoooda氏(写真左)と、パネルディスカッションから登壇した武田裕迪氏(写真中央)、管野辰彦氏(写真右)。

株式会社SWELLは、プロeスポーツチーム「BC SWELL」を運営する会社で、エンターテイメントとしてのeスポーツを追求する会社であると、菅野氏みずから紹介している。「BC SWELL」も横須賀、横浜といった地域とのコミュニティ形成に注力しており、VARRELとはチームとしてはライバル関係にありつつも、eスポーツをともに盛り上げていく身近な仲間といった関係性になっている。

横浜マリノス株式会社は、プロサッカークラブの運営会社として有名だが、2018年からeスポーツにも参入している。eスポーツもスポーツのひとつとして、健全な生活、心身の活力に寄与するものであるという考え方のもと、eスポーツに活動の幅を広げている。

eスポーツが健康な街づくりに寄与する方法として、利他的な動きの必要性についても武田氏は語っている。具体的な取り組み方として、eスポーツがプロであり憧れの存在であるうちに、中学、高校のeスポーツ部における指導といった次世代の育成をするといった方法を挙げている。

また、2022年に山形県が豪雨の被害を受けた際、所属する選手の地元であることから、復興支援のための募金活動を実施した。当初はマリノスのホームではない地域であること、eスポーツに興味のない人たちからすれば縁遠い話ではないかといった不安もあったそうだが、実際にはマリノスのサポーターから多くの支援を受けることができたという実例もある。



eスポーツを活⽤した引きこもり⽀援事業についても、サッカーのように学生時代から打ち込んだ人たちがプロになっていく世界ではなく、学校を中退した人たちのチャレンジの場となっていたり、会社員から転向してきた選手もいたりと、多様なバックグラウンドを受け入れられる場がeスポーツにはあると菅野氏は語った。

ピーシーデポコーポーレーションの野島氏は「他にもスポーツがあるなかで、なぜeスポーツに注目したのか?」という質問を受け、ゲームもひとつの学習ツールとして大きな可能性があり、それを伝えていく重要性について言及している。

ゲームに熱中している子供を見ると、心配になってしまう大人は多いが、熱中できるものがあるということはひとつの素養を身に着けている証拠でもあり、大人がその文化への理解が薄く、良さを見抜けないでいることにこそ問題はあると語った。

 

「横浜GGプロジェクト」への京急の関わり方に話題が変わると、管野氏からは京急沿線のチーム対抗戦を提案し、川崎、横浜、横須賀という近隣地域をホームタウンとするチームがあることが稀有な例であることを強くアピールしている。

ここから、話はゲームとリアルの親和性についての話へと展開していき、川俣氏はららぽーとで取り組んでいる、若い世代向けのスポーツ体験アクティビティを例に挙げながら、eスポーツがリアルでどのような展開をしていけるのかを尋ねる。

この問いに対し、菅野氏は幕張でも4,000人が集まる規模のイベントを鈴木氏が主催している実績を紹介しながら、サブスクリプションで音楽を楽しんだ人たちがライブを求めていくように、オンラインでゲームを楽しむ人たちが行き着く先もリアルにつながっていくものなのだという考えを披露した。

鈴木氏もこの話を聞きながら、ゲームのイベントというとやはり千葉県のイメージが強くなってしまうが、これからは横浜に流れを引き込んでいけるように自分たちが努力していくべきなのだと口にした。



事実、今年9月にはパシフィコ横浜にて、『ポケットモンスタースカーレット・バイオレット』、『ポケモンカードゲーム』、『ポケモン GO』、『ポケモンユナイト』の世界チャンピオンを決めるポケモン総合世界大会ともいえる「ポケモンワールドチャンピオンシップス」が開催されることが決定している。

日本のeスポーツの最前線が横浜になる。これは決して大げさな話などではなく、着実に実現へと向かっている話なのだ。日本のeスポーツ振興に「横浜GGプロジェクト」がどのような影響を与えていくのか。各社の動きに注目していきたい。

(取材・文 ライター:宮居春馬)