『猫と竜』制作陣が明かす舞台裏…担当編集から言われた”ある一言”から第11話は生まれた

小説投稿サイト「小説家になろう」発の人気作を原作に、OLMが手がけるアニメ『猫と竜』。猫の姿を持つ竜「猫竜」と、彼を取り巻く人々の暮らしを通して家族の形を描く本作は、そのタイトル通り優しい世界観で多くの視聴者の心をつかんでいる。

今回、全12話の放送を終えたタイミングで、原作者のアマラ氏、監督を務めたオ ジング氏、プロデューサー・草壁匠氏の3名にインタビューを実施。アニメ化の経緯から、印象に残るエピソードの制作秘話、そして原作誕生のきっかけとなった意外な始まりまで、たっぷりと振り返ってもらった。

■第一印象は「優しい作品」「猫、可愛いな」

――まず、本作のアニメ化が始まった流れを教えてください。

草壁氏:きっかけは、プロデューサーである松﨑さん(松﨑友貴氏)がOLMに企画を持ち込んだことでした。私はOLMに入って丸3年になりますが、入社当時の企画会議で「『猫と竜』をやってみませんか」と振られ、これも何かの縁だろうと動き始めたのがスタートです。

――その時の、作品に対する第一印象はいかがでしたか?

草壁氏:第一印象は「優しい作品」ということでした。転生ものやアクションものが多い中で、猫が主役というのは毛色が違い面白いと感じましたね。ただ正直「四足の動きの再現は大変そうだ」という懸念もありました。
松崎さんとの話し合いの中で、リアルな猫の動きを突き詰めるなら3DCGにしようという案も一度出したんです。しかし最終的には、リアルな動きの再現よりも猫のかわいい仕草や表情を見せることを優先し、2Dで制作することにしました。

オ監督:私も同じく、「猫、可愛いな」というところから入りました。この第一印象はすごく大事だと思っていて、「可愛い」と感じてもらえる作品を作れることに、ちょっとした嬉しさがありました。私は感情移入しやすいタイプなので、もし辛い内容の作品だったら自分が耐えられなかったと思います。その点、みんなが幸せになれる作品を作れるなら、これ以上ないと感じ、迷わず「やりたいです」とお返事しました。

アマラ氏:私はアニメを見て育った世代なので、「OLMさんがアニメ化してくれる」と聞いたときは半信半疑でした。正直、最初はドッキリだと思っていたくらいです(笑)。ですが実際に打ち合わせに呼ばれ、監督やスタッフの皆さんとお会いして、本当に制作していただけるのだと実感しました。皆さんの過去作の映像のクオリティも存じ上げていたので、「うちの作品にはもったいないのでは」というのが正直な気持ちでしたね。宝くじで1億円が当たったような感覚でした。

――アニメ化にあたって「ここだけは失いたくない」と考えていた要素はありますか?

オ監督:最初に原作を通読した段階で、自分がこの作品から感じ取った「家族愛」と、現代的な家族の形というテーマを軸に据えようと決めました。そのテーマを感じられるエピソードを中心に見せていくことを、制作全体のメインテーマにしています。

アマラ氏:私自身は、演出面について特にこだわりはありませんでした。アニメはアニメのプロが作るものですから、口を出そうという発想自体がなかったんです。
シナリオ会議には毎回リモートで参加させていただきましたが、上がってくる資料のクオリティに驚かされてばかりで(笑)。

『猫と竜』にはコミカライズ版もあり、普通はそちらを読めば十分なはずなのに、スタッフの皆さんはきちんと原作小説まで読み込んでくださっていて、自分でも忘れていたセリフを拾ってくださることもありました。「怖いくらいプロだ」と何度も思いましたし、不満を挟む余地は一切ありませんでした。

第1話のアフレコから参加させていただいていますが、映像として動いているものを見ると、イラストや漫画とはまた違った印象を受けます。あるとき収録現場で思わず「へえ、こんな感じになるんだ」と口にしたところ、監督やスタッフの間に一瞬緊張が走ったことがありました。どうやら不満があると思われたらしいのですが、他意はなく、単純に「動く『猫と竜』」を新鮮に楽しんでいただけなんですけどね(笑)。

■アフレコ現場は「命が一つ入る」瞬間だった

――構成面で苦労した点はありましたか?

オ監督:シリーズ構成については、初期段階で提示された構成案がほぼ完成された内容で、こちらから注文をつける必要がほとんどありませんでした。
自分が入れたかったエピソードもすべて含まれており、原作サイドからの変更要望もなかったため、「これで行きましょう」とすんなり決定に至りました。 アニメ化においては原作のどの部分を見せ、どの部分を削るかの取捨選択が最も難しい工程になるものですが、今回はその選定が非常にスムーズに進んだため、構成面での苦労は特になかったというのが実感です。

アマラ氏:削る部分についても、不満はまったくありませんでした。先ほどお話ししたとおり、スタッフの皆さんの原作理解の解像度が非常に高かったので、「これだけの方々が選んでくださった構成なら間違いない」と、安心してお任せできました。

――アマラさんとしては、アニメ化によって新しい発見もあったのでは?

アマラ氏:それはもう第1話から常にありました。私は文章として書いて、読んでくださった読者に満足してもらうことを念頭に置いて書いています。「アニメになるための資料」として書いているわけではないので、監督やスタッフ、イラストレーターといったプロの方々が形にしてくれたものを見て、「ああ、面白い」と感じるばかりです。

一番衝撃を受けたのは、アフレコ現場で「声が入る」瞬間でした。ベタな言い方で恐縮ですが、「命が一つ入る」ような感覚です。映像だけ、音楽だけを別々に見せていただいた時は断片的な印象なんですが、両方が合わさった瞬間にグッと世界が立ち上がる。「アニメってすごいな」と素直に思いました。映像と音がぴたりとはまり、一つの世界が生まれる瞬間を目の当たりにして、原作を書いていた時とは全く違う体験をさせてもらったと感じています。

――制作スタッフとしては、原作の小説だけでは分からない部分もあると思いますが、どのようにキャラクター像を膨らませていったのでしょうか?

オ監督:小説は、読む人が100人いれば100通りの世界観が広がるものだと思います。それがコミカライズになるとある程度像が限定され、アニメーションにするということは、そこで一つの答えを出す行為になります。
監督としては原作者の方も含めて、これまで思い思いの世界観を思い描いていた読者に対して「この世界です」と一つの答えを提示するのは、正直少し怖い行為でもあります。 文字や絵は読者それぞれのタイミングと解釈に委ねられますが、アニメを作る側は「間」「色」「空気感」「音」まで含めて一つの答えとして提示することになります。それが多くの方に受け入れてもらえる答えであってほしいと考えながら作りました。

■原作誕生のきっかけは「息抜きの短編」

――そもそも、この作品はどういった着想から書き始めたのでしょうか?

アマラ氏:これは明確に覚えています。私は「小説家になろう」を中心に活動していて、長編と連載という2つの執筆スタイルを並行しているのですが、時々別の作品の息抜きとして短編を書くことがあるんです。
『猫と竜』はまさにその息抜きの短編として、第1話2~3万文字程度、1~2日で書けるボリュームを想定して書き始めました。 ネタを考える際、大きな起伏がなく説明も少なくて済む「転生ものではない話」の方が気楽に書けるだろうと考えました。アクションものも書くのが大変なので避けようと。ならばほのぼのしたファンタジーがいいなと思い、私自身ずっとファンタジーを書いてきたので、「ファンタジーといえば竜」「猫はかわいい」というシンプルな発想で「猫と竜」というテーマに行き着きました。黒猫と魔女では普通すぎるので、ファンタジーの二大巨頭を組み合わせれば面白くなるだろう、というくらいの軽い気持ちでした。

――アニメ化など全く想定していない、軽い気持ちからのスタートだったんですね。

アマラ氏:執筆は毎晩0時から朝6時ごろまでが作業時間で、書き上げてそのまま投稿し、就寝しました。起きてパソコンを開き「小説家になろう」を見たら、感想が異様な数届いていて驚きました。当時、投稿から6時間程度で1作品に50件も感想がつくことは珍しく、慌てて一件ずつ返信している間にもさらに感想が増え、結局その日だけで100件近い感想をいただくことになりました。

――アニメが実際に放送され、執筆時と比べて印象が変わったキャラクターはいましたか?

アマラ氏:そりゃあ、猫竜じゃないですか。だって子安武人さんですよ?これで印象が変わらないと思う方がいたら、逆にお聞きしたいくらいです(笑)。

――(笑)。制作陣として、キャスティングにはどのようなこだわりがあったのでしょうか?

オ監督:猫竜については、強さと優しさを同時に持つ声を探していました。オーディションでは100本近いテープを聴き、印象に残った声を絞り込んでいき、最終的に「この声だ」と確信できる一本に行き着きました。スタッフの意見もほぼ一致していたと記憶しています。
ママニャン役についても同様に、先入観を持たずにさまざまな声を聴いた上で、猫竜に合う声、印象に残る声という基準で候補を絞りました。今回初めてご一緒した井上さんには、収録を重ねる中で自分の中に「この人がママだ」という感覚が生まれるほど、素晴らしいキャスティングになったと感じています。

アマラ氏:私も原作者として気を遣っていただき、オーディションの選考会議に同席させてもらいました。とはいえ実際は端の方で聞いているだけで、候補者一覧を見た瞬間、知っている声優さんばかりで内心驚いていました(笑)。
監督たちが「〇〇さんで大丈夫ですよね」と確認し合う様子を、ただただすごい世界を見ているような気持ちで眺めていました。「大丈夫ですか?」と意見を求められるたびに、「イメージとズレていません」とお答えしていましたが、内心はただただ制作の凄みに圧倒されるばかりでした。

■担当編集から言われた「アマラ先生、猫を殺していただけませんか」の一言――鍵となった第11話

――12話までが放送されたタイミングで、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

オ監督:作る側としてはすべての話数に関わっているので、正直どの話数にも別々の意味で愛着があります。制作中はずっと「これでいいのか」という不安の中で作っていますが、納品してからは180度違う視点で、愛着を持って見られるようになるんです。なので「この話数です」とは言いづらいのですが、あえて一つ挙げるなら11話ですね。
広田さん(※シリーズ構成・広田光毅氏)が構成案を持ってきた際、「終の寝床はぜひやりたいです」と言いました。「このエピソードさえ入れていただけるなら、他は皆さんの好きな話数に異論はありません」と話ししたのを覚えています。そこから最後まで作り上げられたという意味で、自分の中では特別に大事にしている話数です。

アマラ氏:『猫と竜』は家族や生き方をテーマにすることが多い作品なんですが、小説では11話にあたるエピソードは実はかなり後半の話でした。ただ漫画版では、担当編集さんとの打ち合わせで早めに描くことになったんです。
コーヒーチェーンで「どんな話を描きましょうか」と相談していたときに、担当さんから唐突に「アマラ先生、猫を殺していただけませんか」と言われて、一瞬「正気か」と思いました(笑)。

要するに、それまで「生きる」「生命」を描いてきたので、そろそろ「死」を扱ってもいいのではという提案でした。「猫と竜」は明るいエピソードが多いのですが、かといって悲しみが存在しないような都合のいい世界にはしたくない。命の営みを描くためには「死」は避けては通れないでしょう、という意図だったようです。「じゃあどんな話にしましょう」と聞かれ、「幸せな死であってほしい」という唯一のオーダーを元に5分ほど必死に考えて出したネタがその場で採用され、生まれたのが第11話のエピソードです。

重くなりすぎず、楽しんで見てもらえる着地点をその場で探りながら、ほぼプロット通りに描いた回になります。 小説では「暗い気持ちにさせてはいけない」という制約があるのですが、漫画ではその制約がなく、佐々木先生(※コミカライズ担当の佐々木泉氏)が非常に丁寧に描いてくださいました。佐々木先生のフィルターを通ることで余計な要素がそぎ落とされ、透き通った物語になったものを、監督や広田さんがさらに練り上げてくださった、という流れです。

オ監督:非常にいい題材をいただいたと思っています。アニメーションの監督として「死」というテーマをこういう形で表現できる機会はなかなかありません。このチャンスを逃したら二度とないかもしれないと思い、ぜひこのエピソードを入れたいと考えました。
重くなりすぎない範囲で、でも世の中のどこかで日々起きていることを、猫の視点を通して淡々と語る。それがすごく印象に残っています。ただ、自分の中では11話の重みは他の話数と同じで、「表現するチャンスがなかなかないから思い入れが強い話数」ではあるものの、他の話数も同じ熱量で作っているということはお伝えしておきたいです。

アマラ氏:これは順番の妙で、広田さんの構成の技術によるところが大きいと思います。それまでの10話分の積み重ねがあるからこそ11話の重みが生きるのであって、単体で抜き出しても同じようには響かないはずです。そのあたりの積み重ね方は、やはりプロの技術だと感じました。

オ監督:本当に、あの構成には助けられましたし、すごく良かったと思っています。

草壁氏:制作の観点からお話しすると、11話は原作の中でも特別な、大切にしている話数だと感じていましたし、個人的にもなかなか出会えないテーマだと思っていました。
次に控える12話が一番大変な回でもあったので、コンテマンから演出・作画スタッフのアサインまでバランスを考えて11話に人員を充てました。結果的にどちらの話数とも良い仕上がりになったのではないかと、手前味噌ながら思っています。

――最後に、今後見返す方や一気見する方に向けて、注目してほしいポイントを教えてください。

オ監督:この作品はオムニバス形式ですが、1つの大きな時間軸の中でいろいろなエピソードが最終的に1つにまとまっていく作りになっています。全12話を見終えた後にもう一度1話から見返すと、初見とは違う見え方が楽しめると思います。 もう一つは、話数を重ねるほどオープニングとエンディングが好きになる作りになっている点です。オープニングとエンディングには、猫たちのエピソードの一場面をそれぞれ盛り込んでいるので、全話を見終えた後に見返すとまた発見があると思います。 それと、どの話数から見ても、1話だけでも『猫と竜』の世界観を体験できるように作っているので、その点も楽しんでいただければと思います。

草壁氏:原作の魅力の一つは、点と点で描かれていたエピソードが、物語の進行とともに線で繋がり、面を形作っていくところにありました。アニメでもそこを再現しようと努めていて、12話だけでは描き切れていませんが、狙いとしては意識して作り込みました。そこを気にして見ていただけたらと思います。

アマラ氏:1つの世界の歴史の一部分を、それぞれの話数として切り取っている構成なので、どこから読んでも見ていただいても、それぞれの短編として楽しんでいただけると思います。それを非常に高いクオリティで作っていただいたので、好きなように楽しんでいただければ嬉しいです。

実は担当さんと冗談で「アニメのエンドカードに小説を書いたら面白いのに」と話していたことがあったのですが、それを監督が聞いていたらしく、「いいですね、それ」と本当に実現することになりました。エンドカードというと文字だけのポエム的な演出になりがちですが、今回のものは全て繋がっていて、12話の最後のエピソードの続きとなる短編小説になっているので、これも注目してもらいたいですね。

初めてアニメーション制作に関わらせていただいて驚いたのは、アフレコの現場ですでに全話分の絵ができ上がっていたことです。
1話から12話まで、テレビで流れるのと同じ映像を見ながらの生アフレコで、私と担当編集はただ「すごい!面白い!」と言いながら見学させてもらっていました。本当に安心してお任せできる、素晴らしい現場でした。

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©アマラ・宝島社/「猫と竜」製作委員会