
壽屋(コトブキヤ)<7809>は、プラモデルやフィギュアを中心としたホビー企業から、IPを軸に事業領域を広げる企業への転換を進めている。中期経営計画では「自社IPの拡充」「海外展開・EC機能の強化」「サプライチェーンの拡充」「新領域の確立」を掲げており、こうした事業戦略に合わせて人材戦略も変化している。
同社は人材戦略について、これらの戦略を実現するために必要な「組織・人材の姿」を定義し、現在の人員構成や保有能力との差分を人的資本上の課題として整理している。そのうえで、社内外からの人材確保、等級・役職・部署ごとの能力要件の明確化、教育・評価制度の運用、働きやすい職場環境の整備を進めている。
ここで注目したいのが、中途採用比率が73.7%に達していることだ。同社は新卒採用を中心に人材を長期間かけて育成することだけを前提としているわけではなく、事業に必要な能力を持つ人材を社内外から獲得する考え方を明確にしている。
これは、壽屋が今後目指す事業領域を考えると合理的だ。従来のプラモデルやフィギュアの商品企画・開発、生産などに加え、自社IPのプロデュース、アニメ・ゲーム、海外展開、EC、デジタルマーケティング、新規事業など、求められる能力は広がっている。つまり、「プラモデルを作る人材」を増やすというより、「ホビーを起点にIPを育て、複数の領域へ展開できる組織」を作るための人材ポートフォリオへ移行していると見ることができる。
■『アルカナディア』は戦略を体現するモデルケース
その方向性を具体的に示すIPの一つが、美少女プラモデルシリーズ『アルカナディア』だろう。『アルカナディア』はプラモデルだけで完結するのではなく、フィギュア化などの商品展開に加え、アニメ化やゲーム化といったクロスメディア展開にも取り組んでいる。
一つのIPをプラモデルという単一の商品カテゴリーに閉じ込めず、フィギュア、グッズ、アニメ、ゲームなどへ広げていくことで、IPそのものの価値を高めながら複数の収益機会を生み出すモデルだ。これは、壽屋が従来から持つプラモデル・フィギュアの商品開発力を起点にしながら、新しい事業領域へ進出していく戦略とも重なる。
また、同社はテレビ朝日との資本業務提携を行い、アニメなど映像領域を含むIP展開の可能性も広げている。自社だけですべてを内製化するのではなく、外部企業が持つ映像などのノウハウやネットワークも活用しながら、IPを多方面へ展開する考え方が見て取れる。
■「プラモデル屋」から「IPを生み、育てる会社」へ
こうして見ると、壽屋の事業転換は単純に「プラモデルからアニメへ」といったものではない。むしろ、プラモデル・フィギュアでIPを生み出し、IPを育成する。そして、アニメ・ゲーム・フィギュア・グッズなどへ展開するほか、海外・ECなど販売領域の拡大、そしてIP価値と商品・ライセンス収益を拡大する…という一連の循環を作ろうとしていると考えられる。
このモデルを実現するには、従来型のホビー商品の企画・開発能力だけでは足りない。IPプロデュース、映像、ゲーム、ライセンス、海外、ECなど、それぞれの領域に知見を持つ人材が必要になる。だからこそ、人的資本戦略でも「必要な組織・人材の姿」を定義し、現在との能力差を把握したうえで、社内育成だけでなく社外からの人材獲得も重視していると考えられる。
中途採用比率73.7%という数字は、こうした事業構造の変化を人材面から支えるものともいえる。
■人的資本の「多様性」も事業戦略の一部に
同社は人的資本について、女性、外国人、中途採用者に限らず、多様な人材が中核として活躍することを掲げている。管理職に占める女性比率は17.0%で、30%を目標としている一方、中途採用比率や外国人比率については特定の目標値を設定していない。
これは「中途を増やす」「外国人を増やす」といった属性そのものを目的にしているというより、ジェンダー、国籍、職歴にとらわれず、事業に必要な能力・知見を持つ人材を登用するという考え方と見ることができる。給与についても、担う職務・役割の重要度や発揮された能力・成果を反映する体系を基本方針としている。
壽屋が今後、プラモデルやフィギュアという既存の強みを維持しながら、IP、アニメ、ゲーム、海外、EC、新領域へと事業を広げていくのであれば、必要な人材の姿も変わっていく。その意味で、『アルカナディア』のようなクロスメディア展開は単なる一つの商品・IPの成功事例ではなく、壽屋が今後目指す「ホビーを起点としたIPビジネス」の一つのモデルケースと位置付けることができそうだ。そして、それを支える人的資本戦略もまた、従来の「ホビー商品の作り手を育てる」ものから、IPを作り、育て、外部とも連携しながら多方面へ展開できる人材・組織を作るものへ変わりつつある。
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会社情報
- 会社名
- 株式会社壽屋(コトブキヤ)
- 設立
- 1953年1月
- 代表者
- 代表取締役社長 清水 一行
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高165億200万円、営業利益16億1000万円、経常利益15億8500万円、最終利益10億9100万円(2025年6月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 7809