【年始企画】アドウェイズ・横田氏が語る“RPG三世代”から読み説く2014年のスマホアプリ市場。そしてIP化を意識した「愛のあるクリエイティブ」をもう一度


スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2014年の市場動向と2015年のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2014-2015」。

今回は、スマートフォン向け広告事業を展開するアドウェイズ<2489>から事業戦略統括SVP兼Bulbit Inc. 取締役CSOの横田雄士氏にインタビューを実施。広告事業社ならではのゲームアプリの市場動向やマーケティング施策の変化、そして同氏が提唱するユーザーの「世代分布」など多種多様な切り口から語ってくれた。

 

■RPG三世代から読み説くスマホアプリ市場


株式会社アドウェイズ
事業戦略統括SVP
兼 Bulbit Inc. 取締役CSO
横田雄士氏


――:ご無沙汰しております。横田さんとは、効果測定システム「PartyTrack」でインタビューした以来ですね(関連記事)。ぜひ、今回は広告事業を展開する御社ならではの視点と切り口で、色々と聞かせていただければ幸いです。早速ですが、横田さんは2014年を振り返ってみていかがですか。

そうですね。何から話しましょうか(笑)。まず市場全体としては、2013年の7-9月から2014年の同時期まででApp Store/Google Playの両ストアが倍ぐらいのマーケットに成長しました。

それを『パズドラ』(『パズル&ドラゴンズ』/提供:ガンホー社)と『モンスト』(『モンスターストライク』/提供:ミクシィ社)をベンチマークとして追ってみると、『パズドラ』自体は落ちているわけではなく順調に売上を維持しているなか、周知の通り『モンスト』が急激な伸びを記録しています。ここで思うところは、市場全体が伸びているだけで、別に市場で変な食い合いをしているわけではないということです。(出典:App Annie)



――:2013年はあえていうなら“パズドラ王国”のような感じでしたが、2014年は市場の成長はもとより、ユーザーがバランスよく各タイトルに細分化して、良い意味で変わってきているといった形ですかね。

そうです。まず、この状況を見て言いたいことは、確実に『パズドラ』は市場を育てたタイトルだということです。メディアでも盛り上がりたくさんのフォロワーを産み、さらには良くも悪くも『パズドラ』を模範としたタイトルも矢継ぎ早に出てきました。そんななかで、単純に市場の食い合いが起きているのではなく、順次新たなタイトルもヒットしてきて市場全体が伸びているという、すごく理想的な形に成長していったのが2014年だと思っています。


――:2014年においては『モンスト』の急成長も大きなキーワードのひとつですが、横田さんご自身は同タイトルの成長をどのように見られていましたか。

純粋にスマホゲームの遊び方が変わってきている印象です。自分でも遊んでいて想像がついたのは、「これ学生だったら毎日マルチプレイしていたな…」ということです(笑)。知らない誰かとオンライン上だけで繋がるのではなく、文脈としては『モンスターハンター』(提供:カプコン)のように顔を付き合わせて友人と集まって遊ぶ感覚を、いち早くスマホで取り入れてヒットさせたのが大きいです。また、いわゆる“ポケモン世代”に突き刺さった内容であることも要因のひとつかと思いますね
 
 
▲『モンスターストライク』


――:何か世代ごとで異なるものがあるのでしょうか。

私は個人的に、RPGを軸にみたときの世代を3つの分類に分けています。それが「ポケモン世代」(10代~20代中盤)、「RPG全盛期世代」(アラサー:27歳~33歳)、「ドラクエ・FF世代」(34歳以降)です。また、分類する区切りの年代を1996年とします。96年には『ポケモン』(『ポケットモンスター』/任天堂)の発売やプレイステーションでも様々なタイトルが出てきた年でもあります。

私の主観でいうと、タイミングとして小学校3年生ぐらいから中学生までが一番密にゲームを遊ぶ時期だと思っていて、このときに触れたゲームは10年後、20年後に懐かしく思ったり、また遊びたくなったりと、自分のなかの“王道”がどこにあるかを決定づけるようになります。そのため、例えばポケモン発売以降にゲームに密に触れる時期を過ごした世代をポケモン世代と分類しています。

 


――:なるほど。その観点でいくと、1996年を軸に切ると先ほどみたいな年齢の幅と世代が出てくるのですね。

ええ。そもそもこの世代分類を考えはじめたのが、『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』(2014年11月21日)の発売がきっかけでした。同作は2002年に発売されたシリーズのリメイク作で、2002年に当時小学生ぐらいの年代だった人たちが、20~26歳のレンジで最初にドハマりしたポケモンタイトルでもあります。そして、彼らはそのタイトルを「懐かしい」と思ってくれる層なのです

その話でいくと『モンスト』ってポケモン世代にすごく刺さる要素があるのです。直感的で面白いゲーム操作はもとより、最初に御三家から選ぶなど、違和感なく受け入れられる世界観や流れが踏襲されていると思っています。もちろん、それは『パズドラ』にも言えることです。

同じくして、2014年はいわゆるRPG全盛世代やFF・ドラクエ世代にも刺さるゲームも多く出てきました。これらの世代は、年齢的に自分が主体性をもって一生懸命ゲームをやる層ではないかもしれませんが、一方で『ファイナルファンタジー レコードキーパー』(提供:スクウェア・エニックス社)のように「懐かしい」と思ってもらい、ヒットさせたタイトルも2014年ならではのラインナップにあるかと思います。加えて該当する世代は、ファミコンから始まり直近のプレイステーション4など、ハードの進化を実際に体験してきていることもあり、その「懐かしい」と感じる思いも強くなるのではないでしょうか。



――:たしかに。どこか「懐かしい」と感じるタイトルを、各社それぞれ出しています。『DQMスーパーライト』(提供:スクウェア・エニックス)や『スカイロック』(提供:gloops)、『グランブルーファンタジー』(提供:Cygames)などなど…。私自身も心惹かれましたし、ファーストインプレッションとしては非常に効果的なのかもしれません。

そうですね。明確にターゲット層を考えて開発されたコンテンツは、やはりヒットにも繋がります。我々広告事業者としてもターゲットやその世代に対して、「どう見せるべきか」を考えないといけません。みなさん無意識で行っている部分ではありますけど、改めて細かく見てみると今回のような分類ができたと(笑)。


――:興味深い話ありがとうございます。さて、そんな2014年でしたが、個人的に横田さんが印象に残ったゲームアプリとかはありますか。

もう圧倒的に『テラバトル』(提供:ミストウォーカー)ですね。語りだすと止まらないです(笑)。育成のほうを一生懸命やりすぎて、主力のキャラクターたちが普通にレベル70になっている状態です。


――:どっぷりハマっていますね(笑)。どういった部分が印象に残っていますか。

基本、課金を煽らないじゃないですか。それで、あのセールスの順位を保っていることが、2014年にリリースされたタイトルのなかでは奇跡のコンテンツだと思っています。

自分のペースで進められますし、エナジー(課金アイテム)も適度に配ってくれるので、恐らくリリース初期から遊んでいるユーザーにいたっては、課金しなくてもふつうに現時点の最後までたどり着ける難易度だと思っています。実際に周りでも無課金で最後までにたどり着いた方も多くいます。さらに驚くべきところが、物語をクリアーした多くの人が「よしここからキャラ育成の本番だ」と、辞めずにゲームを続けていくのです。

 
 
▲『テラバトル』
 

――:たしかに。ヒット要因はどこにあると思いますか。

先ほどの世代分類に通じるものもありますが、当然坂口さん(坂口博信氏:『テラバトル』開発者。『ファイナルファンタジー』の生みの親でも有名)を知っている方には刺さると思いますが、色々なメディアを通して「クリエイター側がどういう思いで作ったのか」という想いがひしひしと伝わってきたのが、個人的に大きいと思っています

我々の世代は、昔からよくゲーム雑誌などでゲームクリエイターのインタビューを読んで、憧れを抱くわけじゃないですか。その当時の熱い雰囲気が『テラバトル』の登場でも感じました。やはり誰しもが「あの坂口博信さんが…」とグッと引き込まれてしまいますね。もちろん、これは坂口さんほどのネームバリューを持っている方だからこそ出来るものかもしれませんが、それらを差し引いてもプロモーション手法がどこか愛を全面に押し出しているふうに感じています。

リリース前から話題になった「ダウンロードスターター」はもとより、自らが開発したコンテンツに色々な愛が溢れ出ていて、我々ユーザーもその愛に応えたくなるような作品になっているのです。ゲームユーザーのテンションを上げてくれる『テラバトル』は、2014年のなかでも大変印象的なタイトルですね



――:私も横田さんが抱く『テラバトル』に対する愛を感じました(笑)。

今後『テラバトル』に「協力プレイ」が導入されるとのことで、ぜひ業界有志を集めて『テラバトル』飲み会をやりたいですね(笑)。


――:(笑)。

 

■IP化を意識した「愛のあるクリエイティブ」をもう一度


――:海外市場の動向についてもお聞きしたいと思います。2014年と言えば、各社による海外展開も盛んでしたが、振り返ってみていかがですか。

2012年~2013年の間は、『神撃のバハムート』(提供:Cygames)などのヒットはありましたが、やはり夢持って敗れたデベロッパーが多くいた印象です。2014年に関しては、『ブレイブ フロンティア』(提供:gumi)が堅調に海外で伸ばしていったほか、直近だと『モンスト』も『パズドラ』もテンセントから出るのかと、海外展開については話題が事欠かなかったですね。

一方で開発するうえでのノウハウや現地に組織を作るなど、成功している事例が増えてきていますし、実際に我々も海外展開に関するお話をいただくことも増えてきました。ただ、広告領域は特に世界各国の状況が千差万別ですので、二人三脚で歩幅を合わせて柔軟に動けるような体制を築くべきだと思っています



――:単純に言語だけをローカライズしたものではなく、きちんと現地の文化を知りカルチャライズを行うことも必要ですよね。
 
ええ。それに広告は魔法ではありません。「とりあえず海外でリリースして、Facebookとか海外の広告をやればいいんでしょ」…といった気持ちの方が少なからずいるわけですよ。

そもそも広告だけでなんとかなることは、まずないです。予算を全部注ぎ込んで、広告メニューを総なめすることは今も昔も起きているのですが、やはりきちんと戦略立てて実行するべきなのです。


逆に海外企業で言えば、『キャンディークラッシュ』のKingさんは日本法人を立ち上げて、日本なりの施策で積極的なテレビCMを展開したじゃないですか。当たり前のことですが、こうした形は印象に残りやすいですよ。


――:ええ。たしかに2014年のゲームアプリ市場で言えばテレビCMは大変目立ちました。

結果だけ見ても、やはり大々的にテレビCMを展開しているタイトルは、セールスの上位にいる印象です。また、ゲームのテレビCMだからこそ趣向を凝らした面白いクリエイティブが多々ありましたね。個人的に思い入れのあるものは『ドラゴンポーカー』(提供:アソビズム)と『剣と魔法のログレス いにしえの女神』(提供:マーベラス)。あぁいう面白いテレビCMって大事だなと。

▼『剣と魔法のログレス いにしえの女神』テレビCM▼


――:各社それぞれ独自性のあるテレビCMで、コンテンツの魅力を伝えていましたね。

ええ。『パズドラ』の「パッパラパッパパラー♪」も賛否両論ありましたが、私は断然“賛”のほうですね。あんな感じのキャッチーなテレビCMは本当に印象に残ります。保育園の子供たちが突然「恋はムラムラ~♪」って踊りだしたなんて話も聞きましたし、実際に私も家で踊ったぐらいですもの(笑)。


――:(笑)。

ゲームの魅力を伝えるのも大切ですけど、印象に残すことも本当に大切です。あぁいうテレビCMが増えてくるのは、見ている側としても嬉しいと同時に、そうしたクリエイティブを展開する会社さんのほうが結果も良く出ているようにも思えます。

弊社のグループ会社が開発した『古の女神と宝石の射手』では、アニメーションを用いたテレビCMが奏功して実際にユーザー数が伸びていることもありますし、やはりテレビCMは今後も無視できないですね。
 
▼『古の女神と宝石の射手』プロモーションビデオ(兼テレビCM)▼


――:それでは、2015年のゲームアプリ市場のトレンドは、どのようになると考えられていますか。

まず2014年で残念に思ったことから話します。というのも、日に日にゲームアプリ市場でも開発費が高騰しているなか、恐らく膨大な時間とコストをかけたであろう大型タイトルが、あまりヒットしなかったというのが2014年においては幾つか見受けられました。正直、中途半端なタイトルがヒットしないのは分かりますが、明らかに熱意のこもったタイトルがセールスで振るわなかったりするのは、とても残念です


――:なるほど。そうした現状の打開策は、どこにあるとお考えですか。

ソーシャルゲームの文脈のなかでは、当然短いスパンで収益を上げることに重きを置いているのがほとんどです。それはコンテンツの賞味期限もありますし、経営的にも当然必要なことですが、本来は10年や20年長く続けるために、IPとして成長させていく考え方があるべきなのではないかと思っております。先ほどの世代分類の話ではないですが、スマホゲームからも20年ぐらい世代を作るようなタイトルが出てきてもおかしくないのです。

恐らく、そうなりそうなのが『パズドラ』です。若年層向けのコンシューマタイトル『パズドラZ』やアーケード版など、多角的な展開をされているのは、きちんとIPとして成長していくための流れだと思っています。

まずはゲームありきでヒットさせることを考えるべきかもしれませんが、企画・開発の段階からIPとして育てていくことを意識したコンテンツ作りをする会社さんが、2015年は増えて欲しいと思っています。トレンド予測ではなく、ただの願望ですが(笑)。



――:そうしたタイトルは、打ち出すべき魅力が明確でもありますね。

ええ。それに「このコンテンツではこういう表現はしてはいけない」など、我々広告事業者としても最大限効果を生み出すために働きかけやすいものがあります。そういう意味では、作り手の愛のこもったタイトルにひとつでも多く出会いたいですし、我々広告事業者も愛を持って応えるべきだと思っています。


――:愛ですね。てっきり具体的な(ジャンルなど)キーワードを挙げるのかと思いきや、かなり熱いメッセージをいただけました。

個人的には、「次はこういうジャンルが流行る」だとか、「マルチプレイ」や「動画広告」など、ビッグワードに市場の状況をあてはめて説明しようとする、言わばポジショントークは不毛だと思っています。結局、概念的な話にはなってしまうのですが、やはり「コンテンツとはこうあるべきだ」といった市場全体として意識すべきことを発信したり、共有することが大切だと思っています。

あと、単一ジャンルにフォーカスをあてて未来予測するのは不毛だなと。たとえば『パズドラ』以降の市場で「次は『パズドラ』のようなゲームが流行りだす」と一斉に皆囃し立てたものですが、そんなの当たり前じゃん、と2013年あたりは思ってました(笑)。しかも現実は『パズドラ』ライクとは言えない、それぞれ独自性のあるタイトルが頭角を現していったわけですが。とはいえ2014年も『パズドラ』ライクなタイトルがリリースされていましたけどね……。



――:そうですね。ただ、恐らく『パズドラ』を模範したタイトルであれば、目先の収益だけを考えたときに、ある程度利益が見込めるからこそ開発してしまうのが、また現状ですよね。そして、それがいまだに続いているという。

そういった状況ですから、残念ながらあまりヒットしなかった愛を持って開発されたであろうタイトルが、それとセールス的には同水準な何かの模倣タイトル等と同列に扱われてしまう現実もあります。これは、純粋に感情論として嫌ですね。2015年は作り手の愛に溢れたタイトルたちのヒットに期待したいと思います。


――:分かりました。それでは、最後にアドウェイズとしての2015年の抱負をお願いします。

端的に言えばクリエイターの愛に応える、愛のあるマーケティングを行うことを重大なテーマに据えたいと思っております。やはりコンテンツの延長線上にあっても違和感のない広告を見せるべきです。これは理想論かもしれませんが、実現できるように今後も事業を進めていきたいと思います。

そして、ゲーム会社さんがスマホゲームのプロモーションをするのであれば「アドウェイズだね」と心の底から言ってもらえるような状況を、引き続き2015年も目指さなければなりません。それこそ「愛があるな」と言われたいですし、我々も愛のある仕事をしたいです。



――:ありがとうございました。
 
(取材・文:編集部 原孝則)


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株式会社アドウェイズ
http://www.adways.net/

会社情報

会社名
株式会社アドウェイズ
設立
2001年2月
代表者
代表取締役社長 山田 翔
決算期
12月
上場区分
東証プライム
証券コード
2489
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