【CEDEC2015】DeNAデータアナリストが明かす『FFRK』におけるバランス設計…ユーザー体験をいかに定量化し応用するか


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、8月26日、パシフィコ横浜で開催中の「CEDEC 2015」で、「FINAL FANTASY Record Keeperにおけるユーザー体験の定量化に基づくゲームバランス設計事例」と題するセッションを開催した。セッションは大盛況で、立ち見はおろか入場制限となるほどであった。

DeNAが実施している「スマホゲームにおけるバランス設計のフレームワークの概要」と昨年9月にリリースし、大ヒットを続けている『FINAL FANTASY Record Keeper(FFRK)』における具体事例を明らかにするとともに、分析データをどのようにゲームバランス設計に応用展開しているかを紹介した。

セッションでは、DeNAのアナリティクスストラテジストである友部博教氏と、データアーキテクトの松本 吉高氏が登壇した。松本氏はもともとIBMのエンジニアだったが、世界的な人気ボードゲーム「カタン」で現役世界2位となるなど実績を持っており、この経験をもとにゲームバランスの設計で活躍しているそうだ。


 
■バランス設計のフレームワーク

まず、友部氏がDeNAにおけるゲームバランス設計で、「コンセプトをベースにした一貫性のある開発方針とゲームデザイン」を重視していると語った。もう少しわかりやすく言うと、マーケティングからゲーム細部までコンセプト=ユーザーに刺さるゲームのイメージをベースにした設計になっていることにあるそうだ。

ゲームのコンセプトはいうまでもなくとても重要だ。メンバー間で徹底しないと、長期間にわたる開発でチームメンバー間で作りたいものにズレが生じ、一貫性のないゲームが生まれるおそれがある。また運用中であれば、例えば「ライトユーザーの継続率が低い」という課題があったとすると、「とりあえずログインボーナスを配る」など場当たり的な対策となり、アイテムの過剰配布によるゲームバランスの崩壊などにつながりかねない問題があるという。
 

バランス設計にあたって注意する点は、スマートフォンゲームのユーザー層が幅広い点だ。スマートフォンは無料でプレイでき、いつでもどこでも遊ぶことができる。通勤通学時などの空き時間に遊ぶ人から寝る間も惜しんで遊ぶ人まで多様なユーザーが存在し、プレイヤーの強さもバラバラだ。いくつかのセグメントに分けて、そのセグメントごとのユーザーの行動をイメージしてバランス設計する必要がある。
 

ただ、分析者と違うタイプのプレイスタイルを持つユーザーをイメージすることは難しい。そこでデータ分析とフレームワークのサポートを行っているという。このフレームワークでは、

(1)市場観点
自分たちの面白いと考えるゲームに刺さるユーザーがどのくらいいるのか。その上で、自分たちのゲームのポジショニングを明確にする。
 


(2)マクロな観点
ゲームの中に含まれる様々なコンテンツのポリシーを決める。どのユーザーにどのコンテンツを提供して楽しんでもらうか。例えば、キャラクターだったらライト以上に刺さるもの、アビリティや装備を含めた複雑な戦略に関するものはミドルクラスのユーザーに提供するなど。
 


(3)ミクロな観点
そういったポリシーを決めた上で、具体的なコンテンツを作りこんでいく。キャラクターの成長ロジックや武器の強さの計算式を作ったり、そのなかに具体的な数値を当てはめていくなど、マクロな観点にもとづいてポリシーに基づいて作っていく。
 


 
■どうやって最適なバランスを設計するか

ここで松本氏が登壇し、マクロな観点とミクロな観点を中心に具体的な取り組みを紹介した。

まず、『FFRK』のすべての基礎となるコンセプトだが、「FFを手軽に再体験」であるとのこと。ゲームの開発・運営にあたって、このコンセプトをベースにしていることが昨今の大ヒットの要因になっていると分析した。では、コンセプトは具体的にどういった形でゲームに反映されているのか。
 

「FFを手軽に再体験」は、様々な要素があるだろうが、今回は事例として、

(1)誰でもキャラクタが入手できること
(2)誰でも成長体験ができること


をあげた。


 
(1)誰でもキャラクタが入手できること

『FFRK』の良さとして、ユーザーからあげられるのは、少し頑張れば「クラウド」や「ライトニング」といったシリーズの人気キャラクターが誰でもキャラクタが入手できることだ。期間限定で配布されたキャラクターであっても後日、入手するチャンスがあり、多くのユーザーから支持を集めている。

こうしたポリシーは、マクロな観点とミクロな観点双方からどのような考えで実現したのか。まず、マクロな観点、つまり、コンテンツポリシーの適正化から見ていこう。ここで適正化の失敗例として、「クラウドは人気キャラだから毎日10時間のプレイ時間でもやってくれる」という考え方をあげた。それに基づいて設計すると、長時間遊ぶものの、人数の少ないコアなユーザーには刺さるが、市場に最も多い1日30分程度楽しむ、ミドルユーザーには魅力の薄いものとなってしまう。
 

そこでもっとも多いユーザー層に対応した=市場観点にもとづいて設計したコンテンツポリシーが重要になる。マクロなバランス設計ではいくつか考慮すべき要因があるが、今回はセグメント設計(遊んでくれる人)とコンテンツ設計(遊んでもらうもの)の方法を紹介した。
 

まず、セグメント設計は、もっとも遊んでくれるユーザーの平均像はどんな人か。30代会社員で、通勤時間や帰宅後、仕事の休憩時間などにプレイするなど、代表的なユーザー(=ミドルユーザー)をイメージしていく。そのミドルユーザーからイメージを広げて、ライトユーザーからヘビーユーザーまで5段階にセグメントを分けていく。今回、プレイ時間を基準にしたが、その他の要素も考えられるという。
 


その後、自社タイトルがあれば、運用上のデータをベースにして、セグメントの人数比率を算出する。仮のデータだが、『三国志ロワイヤル』の数字を援用すると、ライトが20%、ミドルが30%、ミドル+が25%、ヘビーが15%、ヘビー+が10%になる。セグメント別のプレイスタイルや人数比率が想定どおりなのか理解することができる。そこで平均的なユーザーに基づいたゲーム作りを行い、その上でヘビーユーザーへのコンテンツ設計を行う。
 


続いて遊んでくれるもの=コンテンツ設計を行っていく。その際、

・コンセプトに合っているのか?
・ターゲットは誰か?
・直感的か? 手軽か? 難易度は?
・原作への思い入れはどのくらいあるか?

といった観点からコンテンツ設計を行ったそうだ。FFシリーズのファンにとって、キャラクタはほぼ全員に思い入れがある。そこでキャラクタの入手難易度や前半の成長はやさしめとし、次第にやりこみ要素を強めるものにしていった。装備のコンテンツポリシーについてはスマホゲーム未経験者にとっては強化と進化がやや複雑なものであると判断し、ミドルユーザー以上を意識し、やや難しくしたとのこと。
 

キャラクタの入手難易度は「やさしく」としたものの、具体的な次元に落としこむにはどうするか。そこで、全員が普通にやればクリアできる程度の難易度とした。全体の8割のユーザーが取得できるものを想定し、8割のユーザーがクリアしているダンジョン難易度XXに配置したという。
 

また、平均的なユーザーよりも遊びこんでいるユーザー向けにはアクセサリを配置する。例えば、ミドル+ユーザーには全体の5割がクリアできるダンジョン難易度YYで「レア4アクセサリ」を配置し、ヘビーユーザーには2割のユーザーがクリアができるダンジョン難易度ZZに「レア5アクセサリ」を配置するといったやり方となる。
 


 
▲これによって、開発チームの担当者の意識も変わり、取得難易度や開発優先度、UIをシンプルにわかりやすくといったところに意識を向けられるようになり、意識の統一も図られるという。


ここで再度、コンテンツポリシーを細部まで徹底することの重要性を指摘しつつ、そのためにはマクロなバランス設計をもとにすること、そしてそれを各メンバーで共有し、コンテンツの細部にまで一貫性を持たせることが重要であると述べた。こういった手法を徹底することで、ゲームバランスの適正化を図ることができるとともに、イベントごとに難易度が異なるといったこともなくなるという。


 
(2)誰でも成長体験ができること

続いて成長体験については、「前半の成長はやさしめとし、次第にやりこみ要素を強める」となったが、キャラクタのレベルアップに必要な経験値はどうやって定めるか。そこで面白さの定量化を行う必要が出てくる。そこで指数関数を使ってレベルアップに必要な経験値量を徐々に増やしていく設計だ。
 

しかし、それでは不十分だ。1レベルアップに必要な「面白い」成長体験が設計されていないからだ。セグメントごとに「面白い」の成長体験が異なってくる。ミドル+以下のユーザーにはさくさくな成長体験とし、ヘビーユーザーにはやりごたえのある成長体験を実現することが目指すべき姿とした。
 


では成長体験を何で測るか。『FFRK』ではダンジョンのプレイ回数とする。ミドルユーザーの場合、「面白い」を1日1レベルアップと仮定すれば、10回のプレイが必要になる。この根拠は、ミドルユーザーの平均的な総プレイ時間(24分)からバッファ4分を差し引き、1回あたりのダンジョン攻略時間2分で割ると求められるという。もちろん10回で面白いかどうかもテストプレイで検証する。
 

また面白い成長体験が実感できるレベル帯をライトならレベル1~14、ミドルならレベル15~24などとし、それぞれマッピングしていく。その上で、ダンジョン難易度を各セグメントに対応させていくと、ライトは初級、ミドルは中級、ミドル+が上級、ヘビーが超級、ヘビー+がEXとした。そして成長体験が実感できるプレイ回数10回に設定すると、プレイ回数とダンジョンで得られる経験値からレベル1からマックスまでレベルアップに必要な経験値が逆算できるとのこと。
 


ただし、これでは上級のユーザーにとってのやりこみ要素がない。そこで、難易度の高い超級ダンジョンに挑むためのレベルアップが必要と考えてもらい、ヘビーユーザーには対応する難易度より1つランクが下の上級ダンジョンを20回プレイしてもらうようにする。上級ダンジョンであれば、プレイ回数20回、そしてさらに難易度の高い超級ダンジョンのプレイ回数では10回以下でレベルアップが可能にすることで、ユーザーセグメントに応じた成長カーブを実現したという。
 



最後に再び友部氏が登壇し、セミナーのまとめを行い、セッションの終了となった。
 
 
(編集部 木村英彦)


 
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会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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