f4samurai、アプリボットが語る新規立ち上げ・長期運営の戦略とは…「MOBILE INSIGHTS FOR GAMING」をレポート


AdjustとReproは共同で、5月29日、「MOBILE INSIGHTS FOR GAMING」と題したオンラインイベントを開催した。

今回は、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』(以下、『オルサガ 』)を代表作とするf4samuraiのCMO/プロデューサーである佐藤允紀氏、『ブレイドエクスロード』『ジョーカー~ギャングロード~』を代表作とするアプリボットの取締役/運営統括である佐藤裕哉氏といったセールスランキング上位を獲得しているHITタイトルプロデューサーの方々に加え、幅広いマーケティング支援を行っているMOTTOの代表取締役である佐藤基氏がファシリテーターとして登壇。

新規タイトルの立ち上がりや、長期運営タイトルも運営しているf4samuraiとアプリボットはその時々でどのような戦略を考えているか。またどのようなチーム作りの工夫をしているかなど様々な経験談が語られた。本稿では、セミナーの模様をレポートする。
 

■新型肺炎の影響で変わったものと変わらないもの

 

株式会社f4samurai CMO/プロデューサー
佐藤 允紀氏(写真下段左)

株式会社アプリボット 取締役/運営統括
佐藤 裕哉氏(写真上段右)

株式会社MOTTO 代表取締役
佐藤 基氏(写真上段左)

adjust株式会社 ゼネラルマネージャー
佐々 直紀氏(写真下段中央)

Repro株式会社 Game Div. Division Manager
重崎 竜一氏(写真下段右)

 
冒頭では、昨今のスマホゲーム市場について各担当者が感じることや取り組んでいることについて話し合われた。

f4samuraiの佐藤允紀氏(以下、允紀氏)からは、数字上ではプレイ時間や頻度など細部に変化があるとは言われているが、コロナウイルス以前からも重要とされていた運営の丁寧さ、継続してより良くするという至上命題は変わらないと話した。

課題という観点でいうと、声優を中心に演者さんの収録がやりづらくなっており、リアルイベントなども行えなくなっている点を挙げた。『オルサガ』ではTVアニメも控えているが、それに伴った様々なプロモーション施策も見直さないといけないと話した。

また、開発会社としては、リモートワークによる影響も懸念しているようだ。f4samuraiでは作り手が楽しく働くことを社として大事にしており、リモートによるコミュニケーションや開発の仕方を楽しめるか。また、高度なセキュリティを維持しながら安定してサービスを提供することの難しさや、メンバーとの連携をはかるためコミュニケーションに多くの時間を割かれている点を挙げた。

アプリボットの佐藤裕哉氏(以下、裕哉氏)も同様と考えており、ゲーム内では大きく変化はないが、施策では考えていく必要があると話した。働き方については考えているようであり、社員のモチベーションをいかに保つかは今課題になっていると話し、サイバーエージェントグループ全体でも議論されているそうだ。


▲Adjustの調査においてはインストール数は伸びているデータが出ている。


▲ゲームエイジ総研の調査においても、施策をいかに行なっているかが各社によって明暗が分かれているのではとMOTTO佐藤基氏は語る。

話はスマホゲーム市場全体の動きに話題は移る。コロナウィルスの影響前からどのような流れであったか。

adjust佐々氏からは、日本のユーザーは課金に対して積極的だが、スマホゲーム人口にしては売上規模は緩やかになってきていると振り返る。その要因としては、ハイパーカジュアルの台頭などスマホゲームの多様化の他、その他ジャンルのアプリに可処分時間を取られている点を挙げた。ただ、今後は5Gなどで同時接続などの新しい遊び方もくる兆しがあるため、期待感もあると話した。

 


▲MOTTOの調査でも市場の鈍化は感じられる。

Repro重崎氏も、市場は成熟と言われる中でもまだやれることはあるのではと話した。広告モデルを採用した『モンスト』などもあるように、従来のやり方を組み合わせる形でやれることも出てくるため、逆にチャンスの一面もあると感じているゲーム会社もいるようだ。

 

新作で意識することは"他との差別化"と"開発体制"


ここで、話題はゲーム開発や運営に話が移る。『ブレイドエクスロード』について裕哉氏が振り返る形だと、立ち上がりにて大事なことはユーザーに違いが分かりやすく伝えるかが大事だったのではと話す。

『ブレイドエクスロード』では王道RPGを分かりやすく伝えることを意識したと振り返る。重厚な世界観と演出を組み合わせた中で手触りも意識していく”総合的な質の高さ”にこだわったという。

事前登録においてもリッチな表現にこだわったPVを中心に露出をしたそうだ。その際に、クリエイターとしても著名な早貸氏の名前も押し出すことも行なったと話す。最終的には期待感を高めることで功を奏したのではと振り返った。

このプロジェクト自体が早貸氏と作っていく上で、王道RPGの定義づけを何度も協議したという。その結果、“王道RPGであればこれはあるよね”というものを多く加えたという。

マーケティングにおいても常に意識はしていたそうだ。オリジナルでは特に苦労する点だが、王道感を演出するために情報はギリギリまで出さないようにしていたという。期待感を醸成していき、ユーザーの気持ちが高まってくれるようにしたという。

オリジナルタイトルの難しさがある一方で、IPタイトルにおいても従来のファンや世界観もある中での難しさも挙げられる。そんな中、f4samuraiが開発運営する『ディズニー ツイステッドワンダーワンド』が6月と7月にてiOSのセールスランキングで1位を獲得し好評を得ている。

f4samuraiでは、新作における最大のチャレンジとは、様々な要件を並行して満たしつつ成功に導くことと允紀氏は話す。

大企業では潤沢な人員から誰をアサインするかを選択するが、開発を行いながら人員を採用し、育成しながら、設計やアートワークの試行錯誤をしていかなければならないと語る。変化する技術的なトレンドに作品を併せるため、昨今3年かかるといわれる開発期間をあえて2年と同社ではおいているそうだ。それに加えて、関係各社との調整も短期間で行なっていく必要がある。

これらを同時で行なっていくのは並大抵の挑戦ではないと語る。そういった挑戦をする上で判断するのは、ユーザーが大きな期待と満足を持ってくれる作品になれるかという点と開発に2年間、運営も含めると5年以上を走り続けられる体制を関係者と築けるかどうかだという。

ターゲットとする見込みユーザーが熱中している作品がある場合には、ユーザーと作品が接する場に自ら何度も足を運び、どういったことに喜ばれているのか、同じファンとどのように共感しているのか、を考え続けることも大事だという。

特にIPタイトルに関しては、原作関係者にとってもスマホゲームというアウトプットに対する表現の期待が非常に高くなっている。その作品に対するエネルギーに自分たちが応えられるかどうかも重要だと話した。

基氏から原作関係者には自社の強みはどのようにアピールしているか?という質問に対して、允紀氏は”集中すべきこと”を理解して開発している点はアピールしていくと話した。

シナリオやイラスト含めたアートワークを自社内で制作でき、無駄な資料づくりや、表面的な分析に時間を使わず開発に集中できる点が強みであると。

集中すべきは、原作関係者やユーザーがどのように考えているかを自分たちに憑依させられるかどうか。このシンパシー(共感力)が大事だと話す。もちろん、意見を聞いてばかりではなく、サイコパシーとも思われるような衝動的・直観的な発想も表現者には必要かもしれない。ただ、そのバランスと、よりシンパシーに寄った開発が求められてきたと感じる。

さらに、「関係者の顔色を伺う」ではなく対等により良いものを作っていくことに共感できるか、が自社のみでなく開発における協力会社を含めてチームビルドをしていくことが重要になると自論を説いた。

 

■長期運営の鍵はユーザーといかに寄り添った共有を行えるか

 

長期運営のタイトルが増えている中、新規ユーザーと古参ユーザーでは入り口の体験も変わってくるので、新規ユーザーがいかに既存ユーザーのサイクルに乗せることができるかが日々課題となっているが、二社はどのように考えているか。

アプリボットでは”ダカイ”と称するフェーズがあるという。それは、初動からの改善施策を繰り返す期間だそうだ。プロダクトがまだ立ち上がりきれていない初動においてもユーザーとの関わりは大事にしていくと話す。


そして、このダカイを乗り越えるには意識している点が二つあると話す。一つがプロダクトに沿ったアイデアがあるということ。アプリボットの例で言うと、『ジョーカー~ギャングロード~』だとゲーム内にて漫画を展開すること、『グリモアA~私立グリモワール魔法学園~』(以下、『グリモアA』)では女の子からチャットメッセージや電話がくるというものだ。いずれも、当時のスマホゲームでは独自性も持ち、その上で作品のテイストに沿ったアイデアと言える。

もう一つはコンテンツとして継続性を作れるかどうかだと語る。継続性においてはユーザーのファン化を意識した運営を行なっていったと振り返る。『グリモアA』では毎年特殊なコラボを行うことで、ユーザーからもおなじみの施策としてファンになってもらったと振り返った。



▲これまでに行われた年末コラボ。一見イロモノコラボだが、ファンとしてはお馴染み施策と反響も出てくると裕哉氏は語る。

作品独自のフックを用意することで”これだからこそ『グリモアA』は辞められない”という声が挙がるように意識していたという。


▲声優との生電話が行える「リアルもしもし体験会」なども実施していた。

ただ、この独自性を出す上で気をつけないといけないことはユーザーのインサイトをしっかりと抑えることだという。それがなければ、ただの訳のわからない施策になるので気をつけた方が良いと説いた。

アプリボットの一例として、『グリモアA』でキャラソンを展開したことがあったそうだが、典型的なキャラソンよりは世界観を踏襲したキャラソンの方が強い反響だったそうだ。この時にユーザーの琴線に触れる施策の重要性を感じたという。

 
▲左が『グリモア』の世界観(裏世界)をモチーフにしたキャラソン。

f4samuraiでは重要としていることは”感動共有”の設計だと語る。『オルサガ』のアニメ化においてもオフラインイベントとともに、イベント最後のサプライズとして発表することを1年以上前から計画し、よりユーザーと感動を共有できるよう意識したと話す。



▲アニメ化発表時、感きわまるユーザーにもらい泣きして号泣するf4samuraiでぃでぃえ氏、涙をこらえながら説明を行うプロデューサーの田口氏。(関連記事


いかに感動できるかを運営時にも意識することで、ユーザーも作品を愛してくれること、長期運営をしていく中で開発側のモチベーションにも大きく繋がると振り返った。

また、f4samuraiはプロモーションの多くは制作表現としてとらえるべき、と語った。長期運営となると、プロモーション予算が捻出できない企業も多いが、開発予算としてゲームの外でもユーザーに満足してもらう手段としてもとらえられるのはないかと。


▲6年が経つ『アンジュ・ヴィエルジュ』では新曲制作を行い、ファンイベントでもライブステージとして披露された。

マーケティングという観点だと、獲得効率や復帰率といった指標が求められ、選択肢が限られるというのはゲーム会社のマーケティングでは陥りがちな悩み。数字に現れにくい長期的なユーザーとの繋がりに資するプロモーションはあきらめずにチャレンジして良いのでは、と語る。

どのように期待感をもってもらい、どのように感動してもらい、どのように共感・共有してもらうか。”感動共有”の設計方法についてはアニメや音楽業界の手法を勉強していると話す。 そして、感動の共有としてユーザーにいかに寄り添える姿勢を保ち続けるかが大事だと話した。

 

■コンテンツに向き合えるチームビルディング


イベントの終盤では、ここまでも話題に挙がっていたチームビルディングでもそれぞれの考えが話された。昨今のゲーム開発・運営において、チームの在り方はどのように考えているか。

アプリボットでは、サイバーエージェントグループの経験がおおいに活きていると話し、過去の失敗例も教訓として採用にも生かしているそうだ。

具体的には目的に必要なスキルを持った人を採用するのではなく、ビジョンに共感できる人を採用するように重視しているそうだ。

現在のスマホゲーム市場だと、作るべきものが刻々と変化することが多く、役割が変わってしまった際に離脱せざる得なくなってしまうのは会社にとってもメンバーにとっても良くないという考えだ。かつては必要なスキルセットを重視して採用したが、その後多くの失敗を経験したからこそ大事にしている考えだそうだ。

スキルとしての役割でなく、ユーザーに楽しんでもらうために自分がどう振る舞えるか。「職種ではなくてプロダクトを語れる」という考えを大事にしているそうだ。そういった組織文化を理解してもらえるかどうかがチーム作りで意識していると話した。

f4samuraiでは小規模ながらでも活躍できるチーム作りを意識していると前提にしながらも、売上報告や社内申請などのクリエイティブとは関係のない業務は極力排除していると話す。制作の阻害となる要素は極力負わせず、いかにユーザーを満足させられているかに集中させていると話した。

海外のデベロッパーの台頭だけでなく、開発会社はより競争力が求められる市場と考えており、自分たちはまだまだ足りていないと認識している。これからも全力で楽しみながら、開発競争力に向き合えるメンバーが過ごしやすい会社にしていきたいと話した。また、既存タイトルの体制強化のみでなく、今後の新規開発も見据えてすべての職種で積極採用を6月より再開する、と語った。

2社が共通している点としては、売上の責任をメンバーに持たさないという点であった。売上を意識させてしまうと、ゲーム事業ではどうしても短期的な目線になってしまい作品が短命になりがちになる。現場のメンバーにはしっかりとユーザーやコンテンツに向き合ってもらった方が結果として、良い方向に向かうのではと裕哉氏は説いた。


イベントの最後には多くの質問も寄せられ、それぞれの考えや展望も語られた。最後に、登壇者からは世の中の流れや市場の変化もありながらもゲーム業界を引き続き盛り上げていけるよう引き続きこういった場で議論していきたいとして本イベントは締めくくられた。

 

株式会社アプリボット
https://www.applibot.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社アプリボット
設立
2010年7月
代表者
代表取締役社長 浮田 光樹
決算期
9月
企業データを見る
adjust株式会社
https://www.adjust.com/ja/

会社情報

会社名
adjust株式会社
設立
2012年4月
代表者
ポール H. ミュラー( 共同創業者兼CEO)、佐々 直紀(日本カントリーマネージャー)
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