「OPTPiX ImageStudio 8」は非常に優れたHDリマスター支援ツール…「スーチーパイ」開発者が移植事例からそのメリットを明かす(提供:ウェブテクノロジ)

木村英彦 編集長
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先日行われた「CEDEC2020」で、「OPTPiX ImageStudio 8」に実装された超解像技術に関するセッションが行われ、旧作を簡単にHDリマスター出来るツールとして、ゲーム業界でも注目を集めている。今回、セッションで事例として紹介されたシティコネクションの吉川延宏社長と、第二開発チームディレクターの荒井正広氏に同ツールの活用事例について詳細に聞くことができたので、その模様をお伝えする。荒井氏は、「非常に優れたツール」と絶賛し、活用方法に関するコメントが得られた。


――:よろしくおねがいします。まず、シティコネクションの会社紹介をお願いします。

吉川氏:当社は、サウンドトラックやゲームソフトの制作を行っており、旧ジャレコのIPを引き継いでいる点に特徴があります。版権管理だけでなく、最新ハード向けに移植やリメイクなども行っており、その一つとして、脱衣麻雀プロジェクトを展開しています。

当社には、「スーチーパイ」を開発していた中心メンバーが在籍しており、「スーパーリアル麻雀」と「対戦ホットギミック」を移植し、今度は「スーチーパイ」をやることになりました。子会社であるゼロディブも「ホットギミック」の移植も行っています。

荒井のチームで、「スーチーパイ」の移植開発を行っており、そのなかでウェブテクノロジさんの「ImageStudio 8」を利用することになりました。今回のインタビューでは、荒井から「ImageStudio 8」の利用方法やメリット、課題と感じたところをお話いたします。

 



荒井氏:私もご紹介のあったように、元ジャレコの社員で、プロデュース、ディレクション、企画、シナリオなどを担当しています。「スーチーパイシリーズ」「ゲーム天国 CruisinMix」などを担当しています。

まず、昨今、旧型ハードで発売されたゲームの移植がちょっとしたブームになっています。かなり昔のアーケードゲームや旧型ハードのゲームが現行ゲーム機向けに移植またはアレンジ移植されるケースが増えてきました。

そこで移植をする際、どういった形で行うのかがポイントになります。移植の多くは、大きく手を加えずにそのまま移植するケースが多いと思われます。アーケードアーカイブスなどががそれで、基本的に元のビジュアルを忠実に移植するわけです。

もう一つの選択肢は、アレンジを加えて移植するパターンです。今回は脱衣系麻雀ですので、ゲームのメインはあくまで女の子を見ることが目的ですから、現行ゲーム機で女の子の画像をいかにきれいに見せるかがポイントです。セガサターン(以下、SS)やプレイステーション(以下、PS)のグラフィックをHD環境でそのまま拡大して表示させてしまうと、クオリティ上けっこう厳しいものがあります。



――:SSやPSのころのゲームはそのままSwitchで出すとさすがに厳しそうですね。

荒井氏:はい。例えば、PS2の頃のVGAレベルのグラフィックをHD環境で表示させると画面に対してかなりサイズが小さくなってしまいます。これをそのまま拡大表示すると、いわゆる「ジャギる」(線がギザギザと表示される)状態になったり、フィルターによってはぼやけた感じになってしまったりと、グラフィックのクオリティも決して高いとは言えません。

グラフィックをすべて直すのは大変な労力が必要ですから、当時のリソースを生かしてそのまま移植するのも一つの考えです。移植がブームになっているとはいえ、決してバカ売れするものではありません。あくまで予想される売上とコストのバランスを見て判断する必要があります。
 



――:HDリマスターする場合、直す必要のある画像は相当な量になりそうですね。

荒井氏:そうなんです。HDリマスターを諦めざるを得ないのかと思っていたとき、「ImageStudio 8」の超解像ツールが巷で話題になっていました。弊社でもテストしてみたところ、本当に驚くべき結果が得られました。

それがこちらになります。元の小さな画像が完全に線画になっていることが確認できるかと思います。自動で超解像拡大をかけたあと、シャープネスをかける処理を施した程度ですが、手をかけずにこういった結果が得られたのは衝撃的でした。

 

▲左が元の画像のまま拡大、右が超解像で処理した画像


――:これは単純に拡大したものと比べると、全く違うものと言っていいですね。驚きました。

荒井氏:これを見た瞬間、「超解像技術、ヤバイ!」と思いました(笑) 低解像度でディティールがつぶれているグラフィックがHD画面で映えるような線画になったのは本当に驚きでした。絵描きとしての視点で見るとすごいのは、線の「抜き」が再現されていることです。まつげの先端や、鼻筋の先端など、線をフッと抜いた感じの処理が再現されるレベルに仕上げてくれます。線の強弱がしっかりとついています。


――:これは本当に驚きです。

荒井氏:これだけの処理を短時間・低コストでできるとなるとすれば、開発者としてはHDリマスターはやりたいですし、開発費をペイさせる試算もできそうなので、本格的に検討してもいいのでは?と考えるようになりました。

吉川氏:移植リメイクについては、HDバージョンとするとビジネス上のインパクトも大きいです。そのままの移植であれば比較的低価格に設定せざる負えないですが、HDリマスターによって2倍以上、と高めの価格設定が可能になります。さすがにフルプライスは難しいですが…。

「ImageStudio 8」の活用で移植開発のコスト増加が抑えられる一方、HDリマスターによって売値を高めにすることができます。ご購入いただいたお客様にも納得いただけるはずです。



――:みんなが幸せになれるわけですね。HDとついていると、ユーザー側も期待しますよね。

吉川氏:そうですね。また、手を加えないそのままの移植ではなく、このために作り直したんだと思ってもらえます。

荒井氏:ここで断っておきたいのですが、アーケードゲームなどのドット絵はそれ自体が芸術作品といえるものも多いですしゲームの文化ですので、それらを何でもHD化するというのは個人的には反対なんです。今回のケースは、メインとなるのはあくまで女の子キャラのビジュアルです。ビジュアル中心のゲームについてはできる限りきれいにして移植できたらと考えています。

幸い「スーチーパイ」については、元ゲームの開発もしてきましたので、多くのリソースが手元にあります。例えば背景などは、もともと高解像度のHDサイズレベルのもので製作してあったりと、手持ちのリソースの中から、これはHDサイズのデータがあるもの、超解像技術で拡大するもの、外注に出すべきものなどと、開発方法の選択肢が広がることが嬉しいですね。

 



吉川氏:これはいわゆる「移植あるある」なのですが、版元から移植に関するライセンスを得たものの、開発に使った素材・リソースが全くなく、あるのはROMやディスクのみというケースがよくあります。「スーチーパイ」の場合は、幸い開発チームが在籍しておりますので、利用できる素材が豊富だったのはかなり恵まれていたかと思います。


――:元の画像を描き直そうとなったとき、どれくらい人手がかかるものがありますか

荒井氏:HDリマスターをする場合、いくつかのやり方があります。ゲームで使った画像データしかない場合は、そこから線を起こしていく方法ですとか、あるいはデータは無いけど原画がある場合は、原画をスキャンし直して利用する方法などがあります。

例えば原画をスキャンし直すパターンで背景込みのキャラクター1枚絵だとした場合は、1人月で3枚か4枚仕上げられるかどうか?という程度ではないでしょうか。絵の内容によっても違いは出てくるでしょうが、手作業でHD化する場合は相当な金額と時間がかかってしまうことは間違いありません。

こちらで示しているのは、素材としてはPS2とPSPで出した「スーチーパイⅣ」の素材です。あくまで「ImageStudio 8」のテストと評価を行うために使用したものとなります。試作データですので、今のところこれを移植するという具体的な話があるわけではないので誤解なされないようにお願いしたいです。

吉川氏:いまうちが取り組んでいるのは、「スーチーパイⅡ」の移植なんです。「スーチーパイⅡ」と「スーチーパイⅣ」の素材が手元にあったので検証していました。


――:「スーチーパイⅡ」だとSS版でしょうか。

荒井氏:SS版ですとQVGAですので、320×224ピクセルないし320×224ピクセルになります。HD画面に対してわずかな面積しかないため、これをそのままスケーリングで拡大表示すると、非常に問題のあるクオリティとなってしまいます。

まずは「スーチーパイⅣ」のデータを何も考えずに、「ImageStudio 8」を活用して、320×224を縦1080ピクセルまで超解像で拡大しました。例えばこれをSwitchの画面で見ると違和感が無いかもしれませんが、大画面で見ると目や髪の毛の線、塗りなどがけっこう溶けてしまっていることが確認できます。一見するときれいに仕上がっているようにも見えますが、園田健一先生の描線の良さが損なわれていると感じています。

 



吉川氏:これでも非常に頑張っているように思います。


荒井氏:個人的には、このクオリティでは嫌だなと感じます。いかにもツールだけで変換しているような雑さを感じるからです。そこで方法を模索してみましたが、320×240ピクセルの画像を超解像で640×480pxにして、スケーリングで表示させると、ドット感は残るものの線や塗りの溶け具合は目立たなくなりました。

 



機械的に処理したものでもディレクターとしてはOKが出せるレベルに仕上がっていると思います。実作業ではこのように「ImageStudio 8」を使ってベース的なものをつくって、もし気になる箇所があれば手作業で修正していくのが良さそうかなと思いました。


――:ツールだけで実装できるレベルの仕上がりになるのですか。

荒井氏:試行錯誤するなかで、超解像による拡大と元絵とのバランスを取りながら拡大率を調整をすると良い結果が得られることがわかってきました。こちらはさきほどのシーンと違ってキャラの面積が大きいので「ImageStudio 8」の超解像拡大を軽めに、320×240ピクセルを150%拡大してみました。結果ドットの感じが一気に「線」に変化しました。線が溶けている感じも見られません。一律ではなくシーンごとに最適な拡大率を探して変換するなどの工夫が必要ですね。
 



――:こちらも全然違いますね。元絵の内容によって結果が変わるのですね。

荒井氏:はい。次はキャラの顔パネルですが、線画よりもドット絵に近いものです。最初は厳しいかもと思っていたのですが、実際に処理すると予想以上にいい仕上がりになっていました。もちろん、一部修正の必要な部分はあります。とはいえ、ツールでの変換でここまでやれるなら大助かりです。
 



――:この場合、ツールを使わずに手だけでやったらどのくらいかかるものなんですか

荒井氏:8パターンの顔パネルがありますが、1パターンあたり半日程度かかったとしても、完了するには1週間以上の作業時間が必要になるでしょうね。この顔パネルは20キャラ分以上あるので、全て手作業というのは既に現実的ではなくなってしまうわけです。

テストをしてて最終的に一番凄いと思ったのがこれです。手前の女の子はアニメ調で描かれていますが、背景は厚塗りと対照的です。これはSS版の素材をHD画面サイズにスケーリングしただけのものです。当時は背景のグラフィックが緻密に描かれていると高く評価されていましたが、単純にスケーリングで拡大しただけでは、やはり辛いものがあります。これはさすがに元絵の解像度的に仕方のないことです。

 



こちらは「ImageStudio 8」の超解像で200%拡大してみたところ、キャラクターのドット絵が線画になっているのはもちろんですが、背景も雰囲気を損なわずに拡大してくれています。カレンダーの数字まで読むことができそうです。これは非常にいいですね。それこそ何も手を加えずに使えるクオリティといえます。
 



ちなみにスケーリングしなくても良いように、超解像の拡大率を400%で試してみたところ、やはり線が溶けてしまいました。やはりバランスですね。超解像にも一定の限度があり、その点を理解する必要があります。


――:ツールのメリットとして変換精度の高さがありますが、それ以外にはなにかありますか。

荒井氏:このツールの素晴らしいポイントですが、これらの結果を得るまで全く時間がかからないということです。変換をかけるだけです。その結果を確認して、どういった方向性で調整するべきかの判断がすぐにできます。例えばこういった作業を外部に発注した場合は、できあがるまで2週間、そこからようやく精査して判断することになるので、かなりの時間がかかるでしょう。自分でパラメーターなどを設定しながら、結果を模索することができるのは非常に心強いです。


――:それは大きなメリットですね。

荒井氏:このツールを使えば、HD化の可能性をすぐに検討できることのメリットが大きいです。もしこういったツールがなかったら、HD化を検討しても時間と予算の問題で諦めざるを得ないという結論になってしまうかもしれません。


 

OPTPiX ImageStudio 8
公式サイト