【年始企画】従来の当たり前を疑う機会になった一年に…森田社長に訊くコロナ禍におけるKLabの取り組みとは


2020年は、スマホゲーム業界にとって、「分水嶺」ともいえる1年だったかもしれない。

新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークを採用する会社が増え、ゲーム開発や運営、そして働き方を大きく変える一方、『原神』のように、ゲームチェンジャーともいえる新作が登場し、業界に大きなインパクトをもたらした。

新型コロナによる巣ごもり消費は、スマホゲームの会社にとって一定の追い風となったが、高い競争力を持つに至った海外企業とどう戦っていくべきなのか、大きな課題も残した。
 
2021年新年特集の前半では、スマホゲーム会社のトップに2020年の振り返りとともに、2021年への展望についてインタビューを行った。

今回の記事では、『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム〜』のオンライン世界大会の開催や過去最高の海外売上を記録するなど、グローバルで積極的な展開をみせたKLab株式会社の森田英克氏に、2020年のコロナ禍によって世界情勢が変わった中での同社の取り組みについて話を聞いた。
 

■2020年はコロナ禍で改めて体制を考え直す機会に

 
―:まず率直に、2020年を振り返ってみていかがでしょうか。
 
コロナ禍で活動が制限されている中でしたが、ゲームコンテンツは物理的な制約に影響されにくいエンターテインメントですので、改めてゲームの存在意義が認識された一年だったと思います。
 
元々遊んでいた方々だけでなく、今まで親しんでいなかった方にも新たに手にとってもらえた一年でした。
 
モバイルゲーム市場全体の動向としては、ハイエンドな内容が受け入れられ、クロスプラットフォーム化し家庭用との境界線がなくなりつつある一方、モバイルならではのカジュアルゲームも勢いを増していて、両極化している印象です。

 
―:2020年の御社の取り組みはいかがでしたか。
 
グローバル展開しているプロジェクトは概ね好調でした。グローバルへの取り組みについてはこれまでの実績の積み重ねです。今年に限った話ではなく、地道に積み上げてきた海外事業が、会社の重要な柱として成長していると感じます。
 
会社全体としてのコロナ禍における対応としては、社員の健康と開発効率の両立を目指し、緊急事態宣言時の対応、在宅勤務やフリーアドレスの導入等、素早く対応できました。

 
―:2月には在宅勤務を推奨しており、IT・ゲーム企業の中でも早い移行でしたね。
 
はい。加えて、一時的ではなく、持続的に対応できる働き方に移行できたと思います。
 
緊急事態宣言が出ている期間だけ対応、といった訳でなく、社員にとって持続的に必要な制度かどうかを検証しながら進めていきました。
 

【関連記事】KLab、新型コロナウイルス感染症対策の現況と在宅勤務体制についての従業員アンケートの内容を公開 在宅勤務の長期化を見据えた支援も実施
 
結果として、今後コロナ禍の影響が少なくなってきたとしても継続していける制度設計ができました。
 

―:開発進捗に影響は出ましたか。新作開発において影響が出た会社もあるようですが。
 
KLabでは対策をしっかりと取った上で、業務上必要であれば出社しても良いというルールですので、環境変化や体制変更などによる弊害も生まれづらいと思います。
 
新作開発立ち上げでのチームビルディングで生じる課題は、マネジメントやコミュニケーションロスによるものも多いのですが、フェイズごとにリモートと出社のバランスをうまく変えていくことで解消できると考えています。
 
現場のチームが必要か必要でないかを判断して、必要な時だけ会社にきて仕事をするというスタイルが確立され、ほとんどの部署がリモートでの運用に移行ができています。
 
私はリモートワークをきっかけに、社員の幸福度が上がれば良いと考えています。幸福度が上がれば、パフォーマンスも向上すると思うからです。人材獲得や育成など長期的な視点でも良い影響が期待できますので、従来の形にとらわれることなく、持続的な制度として移行すべきだと判断しました。

 
―:コロナ禍の影響は体制を見直す機会にもなったのですね。
 
フレキシブルな働き方については、コロナ禍以前よりアイデアとしては考えていました。ですが、いざ実施となると、心理的抵抗や人事・労務制度の観点からの課題も多く、実現できていなかったのです。
 
ただ、このように世の中が大きく変わると、新しい価値観が生まれて、それがスタンダードになっていくのだというのが体感できた一年でした。
 
やはり、普段から違和感を感じていることへの改善や改革は、臆せずやり切った方が良い、マイナスになることはないんだという確信にも繋がりました。
 

―:なるほど。以前から構想していたものが実現できるきっかけになったと。
 
はい。きっかけのひとつになりました。

会社や社員の文化、個人の価値観もそれぞれあると思いますが、KLabでは、リモートワークを希望する社員の声が多くありました。ITやゲーム業界は、リモートの環境でも仕事をする上で制約を受けにくく、また、変化に対しても柔軟な人が多いので、移行しやすかったのではと思います。
 
会社経営という点では、国が緊急事態宣言を出したからリモートにして、発令がなくなったら元に戻す、といった”言われたからやる”ではなく、しっかりと今後の事も考えて社員が働きやすい環境を判断しなければなりません。
 

本当に大事になのは、世界各国の動きや情報を把握し冷静かつ的確な選択をすること、社員の安全や働きやすさを考えつつ事業を成功させることだと考えています。
 
―:この一年では働き方に関する対応も会社ごとでかなり違いが見えたと思います。
 
確かに、そうかも知れません。未曾有の事態の中では、最終的には自分たちで判断していく事が大切だと感じました。こうした方が良くなると日頃から考えていたことが実現できた、再確認できた一年でした。
 

■マーケティングで実感した「当たり前を疑う」

 
 
―:働き方以外では影響はありましたか。
 
事業面ですと、リアルイベントでのプロモーションができないなど、マーケティング分野での影響を心配したのですが、結果としてイベントをオフラインからフルオンラインに切り替えたデメリットはそう大きくはありませんでした。
 
昨年末に行った『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム〜』のオンライン世界大会など、十分なプロモーションができたと、一定の手応えを感じています。
 

【関連記事】オンラインで世界を繋いだ大会に…KLab『キャプテン翼』の世界大会「Dream Championship 2020」をレポート
 

―:各社の取り組みをみていると、オンラインならではの盛り上げ方もあると思いましたね。
 
はい。この経験は、「当たり前を疑う」という良い経験になりました。
 
これまで何となく”これは必要だ””意味がある”と、ある種の固定観念で物事を進めていた部分があったのではないかと思います。
 
例えば、リアルイベントの出展を例に挙げますと、実際に海外の展示会に出展することと、東京のスタジオから海外に向けて生配信で情報を発信すること、どちらがより世界中の多くの方々に知っていただくことができるのか。
 
現地で行うこと自体を目的化するのではなく、イベント出展を通して、どんなユーザーさんに何を届け、何を得るのか。気づかないうちに私たちも、現地で行うことに対して過大評価してしまっていたのではないかと思います。

 
―:いわゆる”手段の目的化”になっていたといことですね。
 

今後は、リアルのイベント出展等をやめるわけではなく、より効果が出せるような取り組み方を緻密に設計して行っていきたいと考えています。
コロナ禍でイベントの開催や海外での出展が制限されたことは、”当たり前を疑う”機会になりました。
 

―:総括すると、考えを見直すことができたというポジティブな印象だったということですね。
 
い。自分たちを見直す良い機会になったと思います。

また、ゲームの開発進捗に関してもコロナ禍の影響と言えるものは少ないですね。昨今のスマートフォンゲーム市場に通用するクオリティにするために開発に時間がかかることはありますが、この点はここ数年の流れでもありますので、コロナ禍の影響は少ないと思います。

 

 
森田社長には、スマートフォンゲーム市場の今後の展望やKLabがどこを目指していくかについても語ってもらった。

​【年始企画】楽しみ方の変化を捉えることと海外での更なる飛躍をーKLab森田社長に訊く2021年の展望とは
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
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