【インタビュー】「次の10年、20年に向けた補強・見直し」 『ヴァンガード overDress』森慶太プロデューサーが明かす新展開のポイント

木村英彦 編集長
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10周年を迎えたブシロード<7803>の人気トレーディングカードゲーム(TCG)「カードファイト!! ヴァンガード」。新シリーズ展開として『カードファイト!! ヴァンガード overDress』が始まった。TCGだけでなく、アニメ展開も含めて変革といえるほど大きく変わったが、今回、プロデューサーの森慶太氏に新展開のポイントと狙いについて聞いた。



――:『ヴァンガード overDress』がついにスタートしました。外部から見るとなにか大きく変わったようだと感じたのですが、どういった経緯があったんでしょうか。

『ヴァンガード』がおかげさまで10周年を迎えることができて、皆様には感謝の言葉しかありません。もう10年、20年としっかり続けていくIPにするためには、補強・見直しのタイミングが来たと思っています。

TCGというのは、かなり特殊な事業でして、いまの国内の売上のトップブランドのほとんどが15年、20年と長く運用する作品が売れ続けています。トップタイトルの多くは、長期的な運用に耐え得る作り方とサービス提供ができているわけです。

『ヴァンガード』は、他の選手と比べると後発でした。市場でポジショニングを取るために、ちょっと無理した作り方をした部分があります。その象徴が属性です。ヒットしているカードゲームは、属性が10種を超えることはほぼないですが、『ヴァンガード』はとても多くてなんと属性(クランと呼んでいる)が24種もあったんです。

今回、「五大世紀の黎明」という商品名の通り、デッキを構築する属性をこれまでの24種から5種に絞りました。最も大きな変化だと思います。さらに6つめの属性が登場することもアナウンスしており、6種の属性のカードを定期的に商品展開することになります。

それとは別にコラボ商品も展開予定です。コラボについてはコラボ作品や版元さまの事情を考慮する必要がありますので、定期的に発売できるものではありません。

一般的にTCGでは、新弾のカードを発売する際、事前に社内の開発メンバーで十分に検証してから発売していますが、それでもバランスに歪みがあったり、最適解が想定と異なっていたりします。その多くは、世界中のお客様が試行錯誤していく中で見つかるものです。これはもしかすると、TCGに限らず、デジタルカードゲームやソーシャルゲームにも共通する悩みかもしれませんね。

問題が見つかった場合、属性の種類が一桁に抑えられていれば、比較的早く調整できるわけですが、これまでの『ヴァンガード』のように24種を短期間で出していくとなると、どうしても十分に目の行き届かない部分が出てくるのは避けられません。

私がこのプロジェクトを引き継いで自己診断したとき、クラン24種をすべて平等にサポートし続けるのは難しいのではないかと考えました。お客様からすると、バリエーションが多いからこそ、他のカードゲームと差別化されている事実もあったので、それを一気に集約したのはかなり大きなターニングポイントだと思います。



――:かなり思い切った判断ですね。

ええ。ただ、単に集約したわけではないんです。これまでの24のクランが6つの「国家」に合流する形になっています。国家という上位概念のなかにこれまでのクランが内包されていることになります。クランの要素がちゃんと国家の中には生きているという内部的なデザインにして、属性を絞ったことでゲームのバランス運用の観点からはまさにサステナブルなものになったと思います。

例えば、これまで24あるクランの中で、特定の1個が飛び抜けて強くなってしまった場合、デジタルカードゲームの場合は「ナーフ」(弱体化)などで継続的に調整することができるわけですが、紙のカードゲームだと刷ってしまっているので差し替えることはできません。特定のカードの使用枚数に制限をかけたり、場合によっては使用禁止にしたりします。

もう一つの調整の仕方では、次の新弾で他のクランのパワーを引き上げる方向で調整することがあります。その場合、ある種のインフレは避けて通れません。以前の『ヴァンガード』ではクランが24種ありましたので、調整が難しく、他のTCGに比べてよりインフレしやすい仕組みになっていました。この点を変えたということがゲームづくりという観点からも大きな転換点でした。

クランを集約しましたが、旧シリーズは廃止するわけではありません。ブランドの存在価値で言うと、24種からなるクランの多様性が好きだった方もいらっしゃったのは事実です。新しいシリーズだけでなく、これまでの古いシリーズについても引き続き発売することにしました。『ヴァンガード』プロジェクトは、新シリーズをしっかり盛り上げつつ、旧シリーズの展開も続けるというミッションを課せられることになりました。

ただ、旧シリーズについては、これまでのように毎月リリースするのではなく、年に数回に絞る予定です。これは主に運用クオリティを高めることが狙いです。新弾と新弾の間の時間が開きますので、開発陣としてもしっかりとデバッグすることができます。供給される新しいカードの枚数も以前に比べて下がりますので、安定的に環境を運用することも可能です。

あとはアニメの作り方を大きく変えたこともビジネス的に大きく変わったポイントです。作品としてのクオリティを重視して通年放送形式から脱却し、1クールずつしっかりと作り込むようにしました。上限13話で1クール放送した後、1クール空けてから、再び第2クールが放送するような形です。

アニメ新シリーズは、4月からスタートしましたが、まずは12話放送した後、数カ月のお休みをいただいてから次のクールが始まります。前後編と分かれることになりますが、ストーリー展開は、2クール目からでもストーリーが成立するようにして、2クール目から視聴しても十分楽しめるように工夫します。



――:ユーザーさんから反応はどうですか。

納得していただく方もいらっしゃいましたし、自分の好きなものが変わってしまうことへの不安や心配を寄せる方もいらっしゃいました。そんな中、YouTubeでアニメの先行配信を行うとともに、スタートデッキを発売するとアナウンスしたところ、かなりいい反響があったと感じています。

さっきお話しした24種のクランで展開する既存のシリーズは、今後も引き続き続けるんですけども、旧シリーズが好きという方からも新シリーズに期待するとのお声をいただいて、大変ありがたいと思っています。

マーケティングの観点では、最初のうちは、ブランドロイヤリティの高い方や感度の高い方だけが反応しているという可能性があります。ですので、テレビや動画配信サイトでアニメをご覧になった方がカードショップに足を運び、新しく発売されたスタートデッキを手にとっていただいたとき、初めて構造改革が意味を持つと考えています。ここまでの滑りだしの手ごたえは上々です。

ゲームづくりとアニメだけでなく、価格設定も大きく変えました。スタートデッキの価格設定を税込333円にしました。通常、500円前後で販売していますが、アニメをご覧になった方が気軽に買えるようにしたかったからです。1000円出せば、通常では2個ですが、『ヴァンガード』の新シリーズについては3個も購入できます。



――:これは随分お得ですね。

ここまでアニメのキャラクター名を冠して5種のデッキを出してますけど、戦略発表会でご紹介したアニメのキャラクターだけで8人います。その他にもまだ紹介はできてないキャラクターたちがいますので、今後はそのキャラクターの使っていたカードをブースターに封入して発売する予定です。アニメを見ながらカードゲームに興味を持ったら、ブースターパックも手にとっていただけると嬉しいですね。


――:ところで、アニメのキャラクターデザインもだいぶ変わりましたよね。

CLAMP先生にキャラクターデザイン原案をお願いしました。アニメ自体にインパクトとバリューを与えてくださったと思います。特にCLAMP先生の作家として魅力をあげると、日本だけでなく、グローバルに多くのファンがいることも『ヴァンガード』としては大きなポイントでした。

実は、CLAMP先生にもカードのイラストも描いていただきました。スタートデッキには入ってないんですけど、主人公ユウユが使っているカードとユウユが一緒に描かれている特別カードが4月17日発売のブースター第1弾の特別大当たり枠に入っています。コレクション商品としても注目していただけると思っています。

 



――:アニメのキャラクターデザインについては、従来と比べると少し年齢層を高めに意識している部分あるのかなと感じたのですが。

キャラクターデザインについてですが、素敵な原案をCLAMP先生にいただき、キネマシトラスの齊田さんに素晴らしいデザインをおこしていただいたな、と感謝しています。作品内容的にも青春群像劇的なところもあり、対象年齢は放映枠に対して少し上に見えるかもしれませんね。

10年前に『ヴァンガード』をローンチしたときに、実はキッズ層に強くアピールしたかったらしいのですが、実際に反応してくださったのは中高生以上の方が多かったんです。購入していただいた方の年齢層を集計しても、小学生も一定数いらしたのですが、中学生や高校生、大学生が多数派でした。放送しているアニメの枠は、土曜日の朝、いわばキッズ枠ではあるんですけれども、作品はもうちょっと上の層にも楽しんでいただけていると思います。

子ども枠に子どもっぽいアニメを流すだけでなくて、ちょっと対象年齢が上といいますか、こどもたちから憧れてもらうような作品を流すこともアプローチとしては悪くないとは思っています。

アニメについては、いつもお世話になっているテレビ愛知さん、テレビ東京さんからネットしていただくんですけれども、各種配信サイトにも掲載していただきました。2020年代になって、動画配信のプラットフォーム上で自分の好きなタイミングで見ることがすっかり定着していますが、そこにも対応することで、上の年齢層の方にも気軽に楽しんでいただきたいです。



 

■10年、20年続けて親子で遊ぶTCGに


――:話は変わりますが、他の有力なTCGだと、親子で遊ぶ光景がみられます。『ヴァンガード』も少しずつそういうフェーズに入ってきたのかなっていう感じがするのですが、いかがでしょうか。

その点は、ブランドの歴史にひも付くと思っています。TCGといえば、一昔前までは子供が遊ぶものでした。TCGが生まれて25年が経過しましたが、企業の対抗戦などが行なわれるようになって、好きなものだから大人になっても続ける方が増えてきたのだと思います。お父さんやお母さんになっても続ける方もでてきて、親子交流や世代間交流が増えてきたように思います。

視点を定番トイなどにうつしてみると、子供の頃、『トミカ』や『プラレール』、『リカちゃん』で遊んでいた人が親になって、自分が遊んでいた玩具だから子供に安心して 、おなじプロダクトを買ってあげる、といった現象があるそうです。TCGについても、親が遊んでいたから、子供と一緒に楽しめるから、といった購入の動機も増えてきたようですね。

TCGについては、親子で一緒に遊ぶような光景は、おっしゃるように他の有力なカードゲームで見られる現象ですが、『ヴァンガード』については、まだ「散見される」というレベルです。これから次の10年を目指していくにあたって、そういった定番タイトルの仲間に入りたいと考えています。



――:他社の大人気タイトルのTCGなどで企業大会やると盛り上がりますよね。

企業対抗戦が行なわれるようになっていますね。われわれも実はそういう動きを応援したくて、『ヴァンガード』でサークル応援企画を行っています。詳細は公式ウェブサイトを御覧いただきたいのですが、当社の認定サークルになっていただくと、例えばどこかでイベント会場を借りて大会や交流会をやる場合、イベント会場費の半額をサポートいたします。

公式大会や店舗だけでなく、『ヴァンガード』の好きな仲間を探しに行ける「場」を作っていただける方をもっと応援したいと思っています。カードゲームにとって、カードゲームの遊ぶスペースのあるお店はいわばインフラと言えるもので一番大切なんですけど、それだけではない広がりが必要と考えています。



――:しかし10年で後発ってなかなかすごい世界ですね。スマホゲームでは考えられないです。

スマホゲーム視点だとそうかもしれませんね。ただ、運用モデルで言うと、スマートフォンゲームとTCGは、かなり近しい部分があると思います。僕自身も以前、デジタルカードゲームの会社でお世話になっていたことがあるんですけど、そこで自分の仮説ついてますますその確信を深めました。

思うに、デジタルカードゲームの強みは、各種データ分析などを通じて、自分たちのブランドの強みと弱みがダイレクトに可視化できるところです。例えば、ゲームの離脱ポイントや、興味を持ってもらえるポイントがデジタルカードゲームでは可視化されますが、アナログのカードゲームだと、お客さまがどこで詰まってしまうのかなどの把握が難しいんです。特にサイレントマジョリティーに当たる方々の把握は困難です。

すべての課題を解決できるものではありませんが、『ブシナビ』というアプリをパートナー企業とご一緒に開発しました。お客様のゲーム体験をワンストップでサポートするのが大目的となるアプリですが、大会の参加履歴や参加人数などのデータがオンタイムに取れるようにはなり、サービスに対するフィードバックも少しは良くなると期待しています。



――:ここまでお話を聞いて思ったんですが、『ヴァンガード』はかなり変えたんですね。

近年、ボードゲームが盛り上がりを見せていますが、デジタルにないアナログの良さに着目される方が増えてきました。アナログの良さ、集まることの良さ、あと実物感のある良さは間違いなくあると思っています。TCGについては、コレクティクブルなものとしての良さがあると考えています。

自分が観測している限り、老舗ブランドになって長く続くほどに信頼が生まれてきます。このゲームが今後も続くということは、そのゲームを安心して買い続けていただく動機のひとつになっています。

ソーシャルゲームについても、作品応援の意味も含めて自分の好きなキャラのときにキャンペーンに参加したりガチャ回したり、といった動きがあります。TCGについても、すごく重要なことはサービスが続くことだと思っています。続けば続くほど価値が高まっていくのだと思います。

当社でいうと、最も歴史があるのは、IPコラボプラットフォームの先駆けとなった『ヴァイスシュヴァルツ』で、13年になります。『ヴァイスシュヴァルツ』がいま当社TCGの中でもっとも好調です。ブランドの歴が長く信用も積み重ねていますので、おそらく版元様からすると、「ここだったら間違いない」ということでIPを安心して預けていただける存在になっているんだと思います。ブランドとはまさにこういうことだと思います。


『ヴァンガード』は、リブート、リスタートしたタイミングなので、「皆様、改めてよろしくお願いいたします」という気持ちです。どうぞよろしくお願いいたします。


――:ありがとうございました。

株式会社ブシロード
http://bushiroad.com/
IPディベロッパー、それはIPに翼を授けること。 オンラインサービス充実へ
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会社情報

会社名
株式会社ブシロード
設立
2007年5月
代表者
代表取締役社長 木谷 高明
決算期
6月
直近業績
売上高487億9900万円、営業利益33億8500万円、経常利益45億300万円、最終利益20億5000万円(2023年6月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
7803
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