スマートフォン・ソーシャルゲーム業界の求人・求職動向…リクルートキャリア山田氏に聞く

スマートフォン・ソーシャルゲーム業界では、『パズル&ドラゴンズ』の大ヒットにみられるように「ネイティブアプリ」が急速に伸びる一方、大手ソーシャルゲームプラットフォームの決済金額が伸び悩むなどブラウザゲームの成長が一服したかにみえる。

今回、リクルートキャリアの山田 大貴氏にスマートフォン・ソーシャルゲーム業界の求人・求職動向についてインタビューを行った。2012年4月、10月に続く第3回目だが、前回から大きな変化は見られたのか。今後の展望や転職活動をする際の注意点なども聞いた。

 

―――: 前回お話をお聞きしたのは、2012年10月でしたが、それ以後、全体的に何か変化はあったでしょうか?

この半年ほどで状況はかなり変わってきています。各社以前と比較すると成長鈍化を感じている中、ポテンシャル求人が減ってきています。ブラウザ系のソーシャルゲームのポジションについては既存のタイトルの売上を伸ばすことに関連した人材が求められており、最近伸びているネイティブについてはゼロからゲームロジックについての企画を考えられる人材のニーズが高いです。求人件数は引き続き堅調ですが、各社の求めるレベルが上がっていて、なかなかポジションが充足しない状況です。

―――: ブラウザゲーム系で業績の悪化が伝えられる会社も増えてきましたが、何かありますか?

たしかに、ブラウザでゲームを出している会社で業績の厳しいところが一部出てきました。人材をネイティブアプリに人材を寄せることができる会社はかなり良いのですが、ネイティブアプリの開発に取り組むどころではなく、ブラウザゲームの売上をなんとか維持・下げ止まりに持って行きたい、というところに意識を取られる会社が増えてきました。

 

企画職の動向

―――: 個別の職種についてお聞きしたいのですが、まず企画系の職種はいかがでしょうか。

特にプランナー系のポジションが大きく変わりました。全体的に求人のハードルがかなり高くなっています。以前ですとカードゲームが主流でしたので、マネタイズのためのイベント戦略やIPなどでどういう特色をだしていくかが見ているポイントでした。いわゆるメンバーポジションやメンバーをマネジメントするポジションがほとんどでしたが、いまはカードゲームありきではなく、ゼロからゲームを考えることができる人が求められています。新しいロジックや世界観、システムを作れる人が欲しいという企業が増えています。とはいえ、そういう方はなかなか市場にはいらっしゃらないというのが現状です。

―――: 以前、あるネィティブアプリ大手の方からも同様の話を聞きました。係数やゲームバランスの調整ができる人が多く応募に来ているが、お断りすることが多いと。プロデュース業務をできる方はそうは多くないと思いますが、採用できないという会社はどうされているのでしょうか?

社内でアイディアを募ったり、運用系のメンバーから転身させたりする一方、求人ではコンシューマーゲームやアーケードゲームの企画に携わっていた方を求めていますね。ただ、後者は、KPIの設定や数字を読むことが不得手という方が多いです。スマートフォン向けのソーシャルゲームでも数字を読むことは必須ですから。その点は試行錯誤されている会社が多いですね。企画職の方々は、以前だと引く手あまただったのですが、転職活動で難航するケースが増えているように思います。求人は依然として多いのですが、その条件に見合う方がなかなかいない、という状況です。

 

クリエイター職の動向

―――: 他の職種はいかがでしょうか?

エンジニアやクリエイターの職種は相変わらず堅調ですね。作る部分はどの会社も足りていませんので、採用ニーズは高いですね。

―――: 先ほどのゲームの流行にも関わる話ですが、クリエイター系の職種の求人動向は変わったのでしょうか?

以前は業界全体としてイラストレーターの求人ニーズが高かったですが、ネイティブアプリ系では、イラストだけではなく、アニメーションやモーションに強いクリエイターを求めている傾向が強くなっています。また、UIやUXの強化にシフトしている会社が多く、UIやUXのスペシャリストが欲しいという求人が多いです。UIやUXは、スペシャリストが少ないのですが、一方でwebデザイナーの方であれば、UI/UXを意識していないという方も少ないです。選考においてスキルを見極めることが難しく、web業界に入って、作る側にいたか、考える側にいたかでスキルレベルに大きな差があります。

―――: 考えるとはどういうことでしょうか。

例えば、ゲームの企画者がUIを考えて、それに基づいてデザイナーが作っている会社と、企画者がゲームのロジックやイベントに専念し、UI部分をデザイナーが全て担当していた会社では大きく違いますよね。プロジェクトの組織や分担のあり方によってスキルに違いが出ているように思います。デザイナーであっても「ページ作る」のではなくて、「サービスを創る」意識のある方の成長は早いです。

―――: イラストレーターの需要は減っているのですか?

いえ、依然として堅調です。スマートフォンに移行しているといっても収益のメインはカードゲームという会社が多いです。どんどん新しいカードを用意しなくてはならないですからね。ただ、イラストの外注比率は各社高まっているように感じます。

―――; ネイティブ系のデザイナーの求人はどういった点に特徴があるでしょうか?

幅広いですね。ネイティブならではの特徴として、3Dのモデリングやモーション、ムービーを作れる方のニーズが強いですね。いわゆるコンシューマーゲームではそうした人材が多いですから、転職される方が増えていますね。需要は多いです。

 

エンジニア系は引き続き堅調

―――: エンジニアは引き続き堅調ですか?

はい。エンジニアを求めない会社はないですからね。ただし、ブラウザ系とネイティブ系ではやはり求人要件が違います。ブラウザゲームはPHPを中心とするLAMPのできる人材が中心でしたが、ネイティブは、Objective-C、JAVA、C#が中心です。こういったご経験をお持ちの方々はWeb業界には少ないです。

―――: となると、SI業界やコンシューマーゲーム業界から求めるわけですか。

そうです。親和性の高い業界から人を入れるにしても、業界未経験者を一から育てる余裕もなく、判断に迷っている人事が少なくありません。即戦力を求める開発現場と、事業拡大のために人員を入れたい人事でターゲットを絞りきれていない状況ですね。例えば、10名採用するとして、経験者だけで充足するのはあまり現実的でないですし、人事担当者もわかっているのですが、一定割合、業界未経験者を入れようとすると現場で難色を示されるようです。

―――: 難しい状況なんですね。

はい。困ってらっしゃる人事担当者の方は多いですね。以前、ブラウザ系のソーシャルゲームで、LAMPのエンジニアが不足している状況があって、各社、SI業界からの採用に一斉に踏み切り、SI業界の優秀層が一気に採用されたことがありました。ネイティブでも同様の状況になる可能性があります。ある種のブルーオーシャンですから。どこが最初にそうした意思決定を下すのか注目しているところです。コンテンツをリリースすることができず、業績悪化に陥ってしまった企業もでてきているので、質の高い採用を維持しながら、予定通りリリースをするための数を担保する採用のバランスは非常に難しいです。

―――: サーバーサイドはどうでしょうか?

以前から高いまま、という状況です。エンジニアは上がった下がったの変化が少なく、ニーズが高いですね。サーバー系のエンジニアは人数が非常に少ないですから。

 

その他バックオフィス系の職種

―――: プロモーション系はいかがでしょうか。

求人は増えてきています。ブラウザ系では、ソーシャルゲームプラットフォーム内でのプロモーションのノウハウを持つ方が求められる傾向にあり、ネイティブ系についてはまだプロモーション手法が十分に確立していないこともあって、どういう人をターゲットにしたらいいのか、考えあぐねている会社が多いです。ゲームプラットフォームがあればそこで集客できるわけですが、ネイティブに新規参入する会社は「0」からユーザーを集める必要があります。現状、リワード広告で集客するのがメインですから、既存のスタッフで対応すればいいと考えている企業が多いですね。

―――: テレビCMを出す会社が増えていますが、その点はどうでしょうか?

現在のテレビCMの多くは、プラットフォーマーから枠の提供を受けて出すケースが多いので、直接、広告代理店とやり取りすることはほとんどありません。ですから、そこまでニーズは出ていないという印象です。テレビCMの担当者を置いている会社はまだ少ないですね。今後、フィーチャーフォンの公式サイトでもみられたように、ヒットタイトルが出てくれば、そのテレビCMを打って、そこで集めたユーザーを他のコンテンツに流すことになるでしょうから、その時にニーズは出てくる可能性があります。

―――: バックオフィス系の人材はいかがでしょうか?

まず、採用担当者のニーズが増えてきました。人材紹介会社を増やしてもなかなか人員を充足できないため、転職を考えていない人にアプローチする方法や、新しい採用手法を考えられる人が求められる傾向にありますね。私のところにもそういった相談はとても多いです。

―――: 以前、プラットフォームが乱立し、そういった人材が増えているとのことでしたが、その点はいかがでしょうか。

ここ半年で新しいプラットフォームが特にでておらず、大きくは変わっていないですね。ブラウザゲームでは2大プラットフォームがいまだ健在で、スマートフォン向けには、コミュニケーションツールとスマホゲームに特化した新たなプラットフォームが急速に伸びています。そうしたなか、タイトルをヒットさせたSAPの中にはいずれ独自プラットフォームを…と考えていたところがあったのですが、業界のトレンドがネイティブアプリに移行し、プラットフォームを無理に持つ必要はないと判断したところが多いですね。あくまでコンテンツを軸に新しいコンテンツを出していくという流れになりつつあります。

―――: もうひとつ最近、ネイティブアプリとしてリリースする際、BGMやサウンドエフェクトを追加するタイトルが多いです。音楽系の求人はでていますか?

私もサウンドクリエイター系は募集が増えてくると見ていたんですが、求人はそんなに出ていないですね。内製で開発されている会社もありますが、外部の会社に発注しているようです。ネイティブアプリでは、音楽が出ていますが、音楽の種類もまだ少ないですし、モバイルゲームの遊び方を考えると、音楽に強いこだわりを持つ会社はそうは多くないのかもしれません。電車や公共の場で音を出すわけにはいかないですからね。将来的には増えてくるかもしれませんが…。

 

転職活動やキャリアアップで心がけること

―――: 現在転職活動をするにあたって、注意すべき事項などはありますか?

企画職については「0」から「1」を作る人が求められていると話しましたが、現実問題としてかなりスキルのいることですし、そういうチャンス自体、与えられる人は少ないはずです。ですから、自分の担当しているタイトルの売上を伸ばして実績を出すことに集中した方がいいでしょう。数字に強いというのはソーシャルゲームの運営者ならではの強みでもあります。現業をこなしながら、個人で「0」から新しいものを作りました、というのでは中途半端なことになりかねません。今の仕事のレベルアップを注力した方が長期的に見るといいと思います。

―――: ネイティブアプリでクリエイティブやゲーム性が重要といっても運用業務はあるわけですからね。

ええ。あと最近、求人で「0からお任せします」といった求人が出てきています。そういった場が与えられる環境は仕事として魅力的ですし、大きなチャンスですので、思い切ってチャレンジしてみるとキャリア的にも強くなると思います。以前の求人では、担当する案件や任させる仕事が決まってましたが、すでに運営しているプロジェクトは既存メンバーが担当するので、外部から人を入れて、予算や人員を任せて新しいプロジェクトを立ち上げたいという会社が徐々に増えています。

―――: デザイン関係はいかがでしょうか。

デザイナー系も転換期に来ていると考えています。「こういうデザインにしてください」と指示をされて制作し、上長にチェックしてもらうという作るだけの仕事へのニーズは少しずつ減ってくるかもしれません。自分で考えてUIを作れたり、自分で考えてクリエイティブなアウトプットをだすことができる人へのニーズが増えていくだろうと見ています。ですから、与えられた仕事をこなすだけでなく、担当しているプロジェクトの課題や問題を見つけ出して改善していくと、転職市場でも有利になるはずです。以前はポートフォリオを見て採用を決定する会社が多かったですが、ポートフォリオのデザインの意図や何を考えてアウトプットを出したのかを語れる方を評価する会社が増えています。

―――: エンジニアは以前と同じく技術を深められるか、でしょうか。

そうですね。エンジニアはあまり変わっていません。技術をいかに深められるか、かつ新しい技術を学んでいけるか、という点が評価されます。ゲーム業界以外のエンジニアの場合、大人数でプロジェクトを動かしていますので、マネジメント部分を磨いていくというのも手かもしれません。今後、ネイティブの開発費が上がり、関わる人員も増えていくと、マネジメントができる人へのニーズが出てくる可能性もあります。また、同じスマートフォン向けのコンテンツであっても、ブラウザとネイティブではやはり技術がかなり異なるようです。ネイティブアプリはネイティブアプリの開発ノウハウや負荷分散技術、リッチ化といった特有の技術、ノウハウがあるので、こういった知見がある方は引く手あまたと言えるでしょう。ブラウザからネイティブへの技術的な参入障壁に苦戦する企業は、コンテンツをリリース後に増えるかもしれません。

 

今後の展望

―――: 今後の業界全体の展望についてですが、どうご覧になっていますか?

いまのネイティブアプリの多くは、ブラウザ系のソーシャルゲームの延長といったタイトルが多いです。私が注目しているのは、タブレット端末専用のゲームアプリです。海外ではタブレット端末の普及に伴い、タブレット専用のゲームアプリが多く出てきています。日本ではまだ少ないですが、今後、専用アプリを出してくる会社も出てくるかもしれません。いわば合間に遊ぶゲームではなく、家でじっくり楽しむゲームとしてですね。これまでのブラウザソーシャルゲームの延長線上のアプリや、スマートフォンでヒットしているゲームをそのままタブレットに対応させるだけでは、今後厳しくなるかもしれません。こういう話はまだまだ先でしょうが、タブレット端末の普及を考えると意外と早いかもしれないとみています。こうなるとコンシューマーゲームの企業が強さを発揮する可能性があります。

―――:最近、iPadをはじめ、Nexus7やKindle Fireなどの端末が目覚ましいですね。もしかすると意外と早くでてくるかもしれませんね。転職活動に戻りますが、転職活動は全体的に長期化する傾向にあるのでしょうか。

そうですね。業界全体として、事業拡大フェーズが一段落し、競争力を付けるため、良いコンテンツを作っていくという会社が増えています。それに伴い、企業側もより良い人材を採りたいという考えが強くなり、採用に対して慎重になりがちです。なかなか内定が出ないため、活動自体が大変ですが、こうしたなかで内定を出す会社は慎重に検討して意を決して出したものです。お互いにミスマッチがないかを精査して出していますので、結果として長く働ける可能性が高いです。転職活動が長期化することが予想されますので、転職を考えている方は早めに活動を始めることをお勧めしています。もしご相談などございましたら、お気軽にご連絡ください。

―――:ありがとうございました。

 

 

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