【イベント】樹林氏「僕がやる以外に誰がやるんだ」…DeNA新事業『マンガボックス』発表会で編集長が語る“マンガ”の将来

ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、2013年12月4日に都内で人気マンガ家の連載作品が無料で読めるスマートフォン・タブレット端末向けのマンガ雑誌アプリ、『マンガボックス』の創刊記者発表会を開催した。

『マンガボックス』は、連載マンガを無料で読める週刊のマンガ雑誌アプリ(iOS/Android版)。毎週水曜日に最新号の更新を始め、毎日3~5作品ずつ、1週間で全作品が更新される。編集長にはマンガ原作者、脚本家、小説家として活躍中の樹林伸(きばやししん)氏が就任。

記者発表会当日は、DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏が登壇したほか、今回マンガ雑誌アプリの編集長を務める樹林伸氏が、スマホ時代のマンガ連載のあり方について語った。本稿では、モバイルインターネット会社と出版社が生み出した、新たな事業に関する発表会の模様をお届け。
 

■DeNA・守安社長「DeNAは常にフルスイング」


発表会の冒頭には、DeNAの代表取締役社長兼CEOの守安功氏(写真右)から、同社の新たな事業内容である『マンガボックス』の取り組み、そして海外展開も含めた今後の事業計画について説明された。

■DeNA 代表取締役社長兼CEO・守安功氏
守安氏:現在DeNAでは、様々なサービス事業の検討や開発を行っております。なかでも注目しているのが、“モバイル×エンターテイメント”。いまやモバイルデバイスからインターネットサービスを使うということが、全世界的に日常化してきています。

我々の主力事業である「Mobage」においても、元々「“モバイル×ゲーム”という分野で何かできなか…」というところからサービスの検討が始まりました。また、2013年11月からは“モバイル×アイドル・アーティスト”となる「Showroom」も開始しています。

そして、本日ご紹介するのがモバイル×マンガの新たな取り組み、『マンガボックス』です。1年ちょっと前から検討を開始したプロジェクトで、当初掲げたコンセプトというのは、3つございます。

■『マンガボックス』の3つのコンセプト
・無料で読める
・人気マンガ家の新連載
・グローバルプラットフォーム

守安氏:無料で誰もが気軽に楽しめて、既存のマンガコンテンツを持ってくるのではなく、『マンガボックス』から生まれてくる人気作品を全世界に向けてアピールしていきたいと考えています。

現在DeNAでは、主力のゲーム事業においても60本の新規タイトルを開発中のほか、様々な革新的なサービスを進めています。この『マンガボックス』においても“フルスイング”でヒットサービスにしたいと考えております。
 
 

■『マンガボックス』の概要について


続いて、DeNAのエンターテインメント事業本部・川崎渉氏(写真右)から『マンガボックス』の概要と事業収益のポイントが語られた。

前述しているように、『マンガボックス』は連載マンガを無料で読むことができる週刊のマンガ雑誌アプリ(iOS/Android版)。毎週水曜日に最新号の更新を始め、毎日3~5作品ずつ、1週間で全作品が更新される。

そして、講談社、小学館などとの提携で、異なる出版社の人気マンガ家の新作や人気マンガのスピンオフ作品などを『マンガボックス』に集約し、計28作品を創刊号から連載がスタートしているのだ。

バックナンバーについては、最新号を含む過去12号分が常時閲覧可能で、それ以前については各作品の冒頭100ページ程度をアーカイブから閲覧でき、印刷物のマンガ雑誌と同様に、電子書籍化、単行本化しての販売も行うようだ。配信先は日本、欧米、アジアなど140の国と地域。サービス開始の時点で日本語版と英語版を用意し、将来的にはさらなる多言語対応も検討しているとのこと。

 

川崎氏は、複数の出版社による協業で事業を展開していくと話すと同時に、「DeNA独自の編集部も立ち上げました。そして人気漫画家だけではなく、将来を担う新人漫画家を発掘するべく注力していきます」と、DeNA側の取り組みについても触れた。

そして事業収益においては、『マンガボックス』で連載している作品を単行本化し、あらゆるチャネルで販売していくことを挙げた。最後に川崎氏は、「アプリダウンロード後、煩雑な会員登録は不要です。雑誌のようにサクサクと読めるため、ぜひ、ご期待ください」と、コメント。
 
 

 

■出版社が見る『マンガボックス』の可能性とは


ここで提携先のひとつとなる講談社の取締役・古川公平氏(写真右)より、『マンガボックス』の可能性について語られた。

■講談社 取締役・古川公平
古川氏:弊社は、マンガ雑誌アプリ『マンガボックス』に出版社として、おもにマンガ作品を提供してまいります。従来はマンガ雑誌を読み、そして気に入った作品の単行本を読むというのが一般的なマンガ読者の動向でした。

しかし、ご存知の通り、インターネットの普及により、読者がマンガ雑誌に触れる状況も変化してきて、紙の本だけではなくデジタルでマンガを読む読者が急激に増えてきました。

弊社もここ数年、電子書籍分野の進出に挑戦してきております。このような状況のなか、今回、世界トップクラスのモバイルインターネットの会社であり、ソーシャルゲームなどを展開されているDeNAさんと協力して、新デジタル雑誌を創刊する運びとなりました。

弊社の最大の強みとなるマンガ作品を制作する編集局と、DeNAさんのITの高さというそれぞれの特徴を活かして、読者に快適に、いつでも、どこでも、面白い作品を読んでもらえるデジタル雑誌を創刊することが、このプロジェクトの最大のコンセプトだと考えます。ぜひ、ご注目ください。

 

■あのキバヤシ氏が編集長だったんだよ! 「な、なんだってー!」


続いて、『マンガボックス』の編集長を務める樹林伸氏(写真右)が登壇。同氏といえば、マンガ原作者として数々の人気作を世に送り出してきたヒットメーカーである。天樹征丸、亜樹直、安童夕馬、青樹佑夜などのペンネームを使い分け、『週刊少年マガジン』などの多くの人気作品の原作を担当。

おもな代表作には、『金田一少年の事件簿』、『探偵学園Q』、『サイコメトラーEIJI』、『クニミツの政』、『シバトラ』、『神の雫』、『BLODDY MONDAY』、『HERO(TVドラマ)』、他多数。

発表会当日は、司会者が会場内を代表して質問する形で『マンガボックス』の取り組みや目標について樹林氏が語ってくれた。

―― 『マンガボックス』の登場によって、どのような可能性を感じていますか?

樹林氏:まずふたつの特徴があります。無料であること、そして世界同時配信であること。このふたつによる効果は期待できます。そもそも、この話をいただいたときに、僕は編集者としての経験もあるし、小学館や講談社とかに深い関係を持っている立場であるため、「僕がやる以外に誰がやるんだ」という気持ちで引き受けさせていただきました。

また、出版とITがダイレクトに繋がる試みは、じつは始めてのことです。これまで出版社は、スマホアプリとかに作品の配信という関わりではありましたが、プロジェクトそのものの中に入り、連載作品をお互いに協議しながら手がけて、掲載するということは初めてのことだと思います。これからのマンガの世界を大きく変えてくれると、大いに期待しているコンテンツです。


―― 『マンガボックス』のユニークな点を、ほかのアプリやマンガの冊子と比べると、どんなところを挙げられますか?

樹林氏:先ほども挙げましたが、世界同時配信であること。雑誌とマンガを翻訳して海外に……というのはみんな考えて、昔からやっていましたが、どうしても翻訳の手間がかかってしまったりとか、海賊版とかにスピードで負けちゃうんですよね。でもこの『マンガボックス』であれば、翻訳したものが同時に配信されるため、世界中に広げる効果があると同時に、海賊版の普及を打開してくれる期待もあります。
 

▲国内版でも英語表記に切り替えることが可能だ。


もうひとつは無料であるメリット。何が良いのかというと、「ちょっと読んでみよう…」という気持ちが起こるんですよね。そのなかで1個か2個、興味を持った作品があれば継続的に閲覧してくれるほか、ダウンロードも加速してくれると思っています。また、今後はひとつの作品を読み終えたとき、「次にはこの作品はどうですか」と、読者のニーズに合わせた提案する機能も追加していこうと検討中です。


―― 聞いたところによると、編集長はDeNA以外からもこのようなお話を複数来ていたと。そのなかで、何故DeNAと組んで進んでいきたと思われたんですか?

樹林氏:スマホやタブレットの普及によるタイミング的な部分もそうですが、こうした新たな事業を行うには、とにかくコストがかかってきます。そういうことを考えていくと、やはり企業による規模の大きさが欲しいと思っていました。

これまで話をいただいた企業もそこそこの大きさでしたが、DeNAさんを上回るところが無かったと。あとコスト意識や経営もきちんとしているところですね。

そして、この事業が儲かりだしたら、そこに投資する意思が明確にあった企業であるからこそ、引き受けさせていただきました。


―― スピード感も出版業界と全く異なり、驚いたこともありましたか?

樹林氏:DeNAさんは若くて柔軟性がありましたね。最初に話をしに来たときなんかは、かなり無茶ぶりがあって(笑)。向こうから「20人、30人のラインナップを揃えたい」と言われましたが、無理ですとはっきり言いました。なおかつサービス開始は当初半年後を予定していたため、どう考えても1年以上はかかりますよと伝えました。

しかし、DeNAさんはどれも受けれてくれたんですね。そういう若い会社ならではの柔軟性があったからこそ、「こことであればやれるかな」と思いました。


―― 編集長の意見として、この『マンガボックス』はどのようなカラーにしていきたいと思いますか?

樹林氏:うん、カラーが無いのがカラーかな。『マンガボックス』は、読んで字のごとくマンガの箱であって、おもちゃ箱なんですよね。おもちゃ箱というのは、ゴチャゴチャ色々な物が入っていて、古いものからは新しいものまでどんどん入っていきます。

それを探しているうちに、面白いものを見つける。幼稚園のおもちゃ箱もそういう存在だと思います。そういった存在にしたいので、あえてカラーはないっす。つまり、どんなジャンルであろうと、受け入れていくと。

何故これが成立するかというと、無料だからです。だからとりあえずダウンロードして探ってみてください。そのなかで、自分の琴線に触れる感性に合うものが1個でもあれば、それで十分じゃないですか。タダなんですから。つまり手探りで面白いおもちゃをつかみ出すための箱になりますね。

■『マンガボックス』掲載 作品一覧 ①



■『マンガボックス』掲載 作品一覧 ②




―― これから掲載される作品は、新人の作品もあったりするんですか?

樹林氏:もちろんです。『マンガボックス』を維持するために、非常にオーソドックスの作品、あるいは僕がマンガ原作者としての顔もありますから、「ちょっとやってくれ」と頼むこともあるでしょう。

今回で言えば『金田一少年の事件簿』のスピンオフですとか、あるいは講談社が協力してくれる作品ですとか、そういうものを載せていこうと思います。過去にヒットしている作品だし、誰が読んでも一定の面白さがある。それを使ってサイトを維持しながらも、そこに新しいエッジの効いたやつを打ち込んでいきたいと思っています。

もちろんその大半は新人になるし、あるいは過去に成功した人から、また新しくイノベーションして手がけていく作品だったりするんじゃないかと思います。あ、スポーツなんかに関しては、新人の方が来てくれたら“ゆるく”載せます(笑)。


―― ちなみに今年のマンガ業界の総括と来年のトレンドとかは?

樹林氏:今年は『進撃の巨人』でしたね。それから2013年は頭脳バトル作品が流行った年でもありました。来年のトレンドは……僕、『半沢直樹(TVドラマ)』にハマってしまいましてね。もともと僕らの世代というか、マンガのクリエイターとして、“勧善懲悪”を否定するところから入っているんですよ。「こんな悪いやついないよ」って思うのですが、『半沢直樹』見ていたら「こんな悪いやつ“いるよね”」と思わされました。

そんな“リアリティのある勧善懲悪”が、来年マンガのなかでトレンドになってくるんじゃないでしょうか。むしろ、僕もちょっとやってみようかなーと思っています。

 

■最初の読者にものまねタレント・福田彩乃さん


発表会の最後には、『マンガボックス』の第一読者として、ものまねタレント・福田彩乃さんが登場し、樹林氏を交えたトークショーが行われた。クリスマス間近ということで、サンタの衣装で登場した福田さんは、樹林氏にたくさんのマンガが入ったボックスをプレゼント。

そして司会者による「滝川クリステルさん、今日はどんな気持ちで持ってきてくれたんですか?」という振りに対しても、「そうですね、7年後にオリンピックも決まりましたけれど、それよりも前に先生に私がやりたいこと、それはお・も・て・な・し」(写真右)と、得意のものまねで場を沸かした。

さて、そんな福田さんだが、今回の『マンガボックス』連載作品のなかで読んでみたい作品を質問されると、「私“ミサワ”が大好きだから、ミサワが見たいです! それから『寸劇の巨人』も気になりますね」とコメント。

 


そんな“巨人”にちなんでなのか、会場には突然「デカスマホ」が登場。このデカスマホを用いて、実際に『マンガボックス』を福田さんに利用してもらい『寸劇の巨人』を閲覧することになった。

見やすさはもとより、『寸劇の巨人』の内容にも触れて、終始ご満悦な様子だった福田さん。ここで再び司会者からは、「いかがですか、ローラさん?」というものまねの振りに対して「えー、そうだねー、なんかすっごく見やすていいなーと思ったんだけど、やっぱりデカスマホは全然動かなくて使いにくい♪」、とあくまでもキャラを壊さない立ち振る舞いでコメントした。

 


そして、発表会の最後には、編集長・樹林氏の言葉で締めくくられた。

樹林氏:みなさん、四の五の言いません、タダなんだから、一回読んでみてください。決して損はさせません。きっと読者のみなさんの琴線に触れる作品が転がっていると思います。ぜひ、ダウンロードしてください。編集長からのお願いです。
 


 
▲せっかくなのでハイボール飲んで「ウィー!」な方と、「オッケーウフフ♪」な方のポーズも。
 


DeNAの新事業『マンガボックス』は、IT企業と出版社、双方の得意分野を最大限に活かした体制とビジネススキームで、マンガ業界に一石を投じるコンテンツだ。

また、プラットフォーム「Mobage」を運営する同社は、ユーザー層がマッチする主力サービスにも訴求させるべく、積極的に送客も行っていくとのこと。

そして、DeNA側にも編集部を新設したことで、自社のソーシャルゲームタイトルのマンガ化、あるいは『マンガボックス』で連載中の作品をゲーム化など、ワンソース・マルチユースでIPを育て上げていくことにも視野を入れているようだ。

現在『マンガボックス』は、App Storeの無料ダウンロードランキングのブックカテゴリーで1位を獲得。今後もさらなる勢いをつけていくことだろう。
 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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