大ヒットタイトル『戦国炎舞』のプロモーションの要諦は「当たり前」を徹底すること…躍進を支えた角本氏と羽片氏が語る
サイバーエージェントグループのサムザップが提供するリアルタイムバトルゲーム『戦国炎舞-KIZNA-(以下、戦国炎舞)』が好調だ。昨年4月中旬のリリース後、App Storeの売上ランキングで上位に定着しただけでなく、Google Playでもすぐにトップ10にはいるなど、スマートフォンアプリでの人気タイトルの一つとなっている。
今回、『戦国炎舞』の躍進をプロモーションの側面から支えた、サイバーエージェントのSAPマーケティング事業戦略室の角本拓也氏(写真右)と、CA Beat代表取締役社長の羽片一人氏(写真左)にインタビューを行った。
なお、今回のインタビューは、テレビCMの放映開始を発表する前に行ったものであるため、テレビCMについては聞いていない。この点は留意していただけると幸いだ。
■リリース以後のプロモーション手法を振り返る
―――: 本日はよろしくお願い致します。いきなり本題に入りますが、『戦国炎舞』のリリースからのプロモーション展開について振り返っていただければと思います。まず、App Storeでリリースした後、5月ころから急に売上ランキングを駆け上がりましたよね。どういったことをされたのでしょうか?
角本氏: 『戦国炎舞』は、昨年4月中旬にリリースされたタイトルでした。グループのソーシャルゲームとしてリアルタイムバトルは初めてでしたので、当初はサーバーの負荷やシステムのメンテナンスに力を入れており、実際に試験的にプロモーションを行ったのは5月中旬からとなります。小規模ながらリワード広告を出稿してユーザーを集めました。
―――: なるほど。本格的なプロモーションはまだ行っていなかったわけですね。その状態でもランキングですごい勢いで上がりましたよね。
角本氏: 当時のApp Storeで戦国ものでかつリアルタイムバトルゲームが少なかったですから、小規模なブーストであってもユーザーから受け入れられたのかもしれませんね。もちろん、プロデューサーをはじめとする開発スタッフが頑張って、ユーザーに楽しんでもらえるゲームを提供できていたことが大きかったと思います。
注2)データはAppAnnie。
―――: では、本格的に始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
角本氏: Androidアプリ版をリリースした7月からでしたが、その後ですね。ちょうど8-9月に他社から新作アプリが大量に出るという情報があったこと、そして、何よりAndroidではリリース直後のプロモーションが重要ですから、ユーザーを獲得するため、大規模なプロモーションが必要と判断したためです。
―――: プロモーションではなにをされたのでしょうか?
角本氏: メインは、アドネットワークとリワード広告です。リワード広告に関してはやればやるほど効果が落ちるという「定説」もあったのですが、実際にやってみるとそれほどでもないことが確認できました。7-8月はiOSでは在庫が切れるまでひたすらブーストをしていました。その一方で、新作タイトルのリリースラッシュとなる前にアドネットワークの最適化を行っていましたので、在庫が逼迫した状況でも効率よくユーザーを獲得できたことも奏功したと考えています。
―――: リワード広告はやればやるほど効果が落ちる、というのは業界内では定説ですよね。
角本氏: そういう神話がありますね。リワード広告の目的は主にランキングを上げて自然流入のユーザーを増やすことにありますが、1回目で2万人、2回目は同じ金額かけても8000人に落ちる…などと効率が落ちていくと言われていました。
―――: しかし、そうでもないと。
角本氏: はい。ブーストの量さえしっかりとコントロールすれば、1回目と同じ効率を維持できることがわかってきました。仮説として、10位前後を維持するような形で出稿する…つまり、わざわざスクロールしなくては確認できないポジションにすることで、無料ランキング1位よりも質の高いユーザーが取れるのではないかと考えました。蓋を開けてみると、実際に課金してくれるユーザーも多く、リクープベースで見ると効率的には1回目と変わらないものとなりました。
―――: ブーストでは1位を狙わないと効果がないという話を何度か聞いたのですが、実際はそうでもないわけですか。
角本氏: はい。われわれも同じことを考えまして、ブーストをしても2回くらいで効果がなくなるのではないかと懸念していたのですが、あえて10位前後を保つことで効率性を維持できました。
―――: 10月以降については。
角本氏: やれることをやりきってしまった面もありましたし、そもそも戦国ものの獲得単価が高いという事情もありましたので、10月に入って、少し視点を変えて質の高いユーザーを獲得する方針にしました。いわゆるLTVの高いユーザーを獲得することが課題に設定しました。
―――: 考え方を変えたわけですね。
角本氏: はい。これまでのボリュームを取りに行く施策に加えて、CA Beatの「Gameselection」などで質の高いユーザーを獲得していきました。出稿ボリュームは、7~9月のほうが多かったです。ちょうどその頃、ゲーム内イベントや1対1のPvP要素の追加などのサービス部分の強化も行っていましたので、ユーザーが増えてゲームが活性化しました。そこで、12月に再度、「LINEフリーコイン」などを使ってユーザーを増やし、現在に至っています。
―――: この間、羽片さんはどういった取り組みをされていたのでしょうか?
羽片氏: 私はもともとCA Beatで、サイバーエージェントグループの提供するソーシャルゲームの間でユーザーを流し合うプラットフォームを開発・運用する傍ら、角本らと一緒にグループのプロモーションを担当していました。リリース後はグループ間でのユーザーの流し合いにフォーカスしていましたが、角本からお話があったように、10月頃から、外部からいかにLTVの高いユーザーを獲得するかが課題となりました。その中でリリースしたのがソーシャルゲームに特化したノンインセンティブCPI広告「Gameselection」です。
―――: ノンインセンティブですか。アプリをダウンロードしたらポイントをあげます、といったサービスではないということですね。
羽片氏: はい。サービス設計時は、ダウンロードするとポイントを付与といった「インセンティブ」がないため、ポイントアプリと異なり、ゲームに関心のある、質の高いユーザーを獲得できると考えていましたが、実際に出稿した『戦国炎舞』でも大きな効果がありました。テスト段階から『戦国炎舞』には協力してもらっていまして、実際に良好な結果が出たことから、11月から広告商品としてグループ外にも販売を開始しました。
■プロモーションプランの組み立て方
―――: プロモーションプランを組み立てる際のポイントは。
角本氏: やはりボリュームを取るとなるとブーストが一番効果があり、継続的に出稿しコンスタントにユーザーが獲得できるのはアドネットワークです。これ以外にも、記事広告や純広告などもチャレンジしたのですが、ボリュームや効果が期待したほどではなかったため、メインをアドネットワークとし、「飛び道具」としてブーストを適宜活用するといったイメージで展開しました。ここまでネットワークに力を入れたのはグループでは『戦国炎舞』が初めてかもしれませんね。
―――: ネットワークについてはどういった面で力を入れたのでしょうか?
角本氏: 羽片とも協力して、配信面の精査には力を入れました。『戦国炎舞』と相性のいい媒体については限られていて最適な媒体への配信を行うようにしました。良好だったのはカジュアルゲームで、継続率も課金率も高いユーザーが獲得できました。配信面の最適化と同じくらい力を入れました。アドネットワークではクリエイティブが重要ですから、これまで300本以上バナーを作ったと思います。
―――: 300本もですか。メディアの精査はどうやってやっていたのでしょうか。またどこが一番良かったのでしょうか。
角本氏: メディアごとのコンバージョンや課金率といったデータを見て選定していましたが、特にカジュアルゲームが良かったですね。もうひとつは音楽や動画などの無料ダウンロードアプリ、ニュースサイト、2ちゃんねるのまとめサイトなども良かったです。他のタイトルと違って、iOS版『戦国炎舞』と相性が悪かったのは、電子書籍などでしたね。WEBとアプリでは、アプリのほうが効率がよかったため、アプリに限定して広告を配信する、といったことも行いました。
―――: カジュアルゲームはわかりますが、まとめサイトやダウンロードアプリはちょっと意外な感じもしますね。
羽片氏: これはあくまで個人的な仮説ですが、カジュアルゲームやそのメディアに時間を使うユーザーが広告を見てアプリに遊んでくれて、ゲームにより多くの時間を使ってくれているのではないかと考えています。いわゆる時間の配分を変えてくれているとみています。
―――: 継続率が高いのはやはり自然流入ですか?
角本氏: はい。継続率についてはやはり自然流入のユーザーが一番高かったですね。ブースト後のランキングから獲得したユーザーがそれに該当します。アドネットワークに関しては、様々なサービスがありますが、サービスによる差は見られませんでした。
―――: ブーストではランキングを10位前後に維持することを心がけたとのことですが、それ以外に気を使った点はありますか。
角本氏: ランキングロジックについては注意深くチェックしていました。App Storeでランキングのロジックが大きく変わった時がありました。それまでは17時に出稿して、19時にランキング上位に入っていることが多かったのですが、それ以降、更新のタイミングが遅れるようになりました。われわれは、他社に先駆けて、出稿する時間を17時から16時に変更して対応したことで大きな効果がでました。競合でIPタイトルがリリースされると、自然流入がどうしても減ってしまいますので、出稿を避けるといったこともやっていました。他社の出稿状況に関しても、これまで以上にチェックするようになりましたね。
■Androidでの取り組みを強化
―――: 一番聞きたいと思っていたことですが、失礼ながら『戦国炎舞』が登場するまでCAグループはAndroidではiOSに比べて目立たなかった印象なのですが、このタイトルをきっかけにだいぶ変わったように見えました。なにか変えたのでしょうか?
角本氏: そうですね。サムザップの『モンスターフロンティア』は先行者利益もあって伸びましたが、その後、アプリボット『ギャングロード』や『レジェンド・オブ・モンスター』などは伸ばしきれませんでした。グループ全体での知見が少なかったこともあり、App Storeと同じような感覚で取り組んだからです。ブーストで伸びたものの、アドネットワークの単価がiOSに比べて高いため、あまり投資できませんでした。それ以外にもGoogle Playの規約で、コンテンツレーティングを適切に設定していなかったため、新着無料から削除されたこともありました。
―――: そういうことがあったのですか。
角本氏: その後、マーケットと規約や特徴だけでなく、他社のブースト施策やアドネットワークの取り組みを研究して、『戦国炎舞』ではリリース直後から大規模なプロモーションを行い、序盤からユーザーを集めることができました。ただ、予想以上にユーザーが集まったため、開発サイドは負荷が急激に上がって大変だったようです。またアプリをリリースしてテストマーケティングしてから正式サービスに移るといったやり方ではなく、事前にデバッグや負荷対策などもきちんと行ってからサービスを開始して、プロモーションも行うようにしました。
―――: Androidのプロモーションのやり方はiOSとは違うのですか?
角本氏: 基本的にはリワード広告とアドネットワークを使う点には変わりはありません。ただし、Androidの場合、ブーストはリリースから新着無料に掲載される1カ月間限定で、基本的にはアドネットワーク中心の運用になります。iOSは両方とも可能です。アドネットワークについては、効果のある媒体に違いがありました。
―――: どう違ったのでしょうか?
角本氏: iOSの場合、電子書籍系の効果が悪いのですが、Androidの場合、マンガなど電子書籍などの効果がありました。そのため、掲載するクリエイティブもマンガテイストのものに変更しました。iOSはランキングがよく変わるため、ユーザーのアプリ間の移動が非常に激しいのですが、Androidの場合、iOSほどランキングが頻繁にかつ大きく変わらないため、ひとつのアプリを遊び続ける傾向にあります。このため、効果のある媒体が限られるという状況になっています。業界内で、Androidアプリで一番効果的な媒体は「なめこ栽培キット」という話は有名です。
―――: マーケティングでのテストは相当されたんですね。
角本氏: この点は本当に徹底しました(笑) ここまでお話して、特別なことをやっていないと思われたと思いますが、一番重要なことは当たり前のことをどこまで徹底してやれるかです。事前登録やテレビCMなども流行していますが、それに飛びつくのではなく、アドネットワークとリワード広告をしっかりと活用・研究してきたのが大きいと考えています。足元の手法を徹底的にやりきったら、新しい手法にチャレンジしていきたいですね。
―――: 今後取り組みたい課題があったら教えて下さい。
角本氏: これだけネットワークを活用しているとどうしても効果が落ちてきていますので、新しい手法を探すことです。他社のタイトルと同じように、テレビCMも行いますが、『フルボッコヒーローズ』のように話題性をもたせた事前登録やソーシャルメディアを使った拡散など比較的費用をかけずに広い層にアプローチできる手法を研究していきたいと考えています。もちろん、それと平行して既存のプロモーション手段の効率性低下に対する対策も考えていきます。
羽片氏: 今後、サイバーエージェントのソーシャルゲーム関係のマーケティング手法では、量だけでなく、質も重視する流れが強まっています。『戦国炎舞』のように月商である程度の規模があるタイトルについては、データマイニングチームがついていて、アプリの中のデータをきちんと計測・分析しています。ゲームで継続的に遊んでもらえるよう、おもてなしを考えるわけです。このデータを広告配信に活用すれば、効率的にユーザーが獲得できるのではないかと思ったことがきっかけです。そこで考えたのが、先日発表したDMP(Data Management Platform)となります。例えば、自社ゲームで遊んでいて5000円使っていたユーザーが飽きてやめてしまった。そういうユーザーをターゲットに新作ゲームの広告を配信して遊んでもらう、といったことが可能になります。メディアという面を重視する流れから、個々のユーザーにフォーカスしたサービスとなります(関連記事)。
―――: ありがとうございました。
今回、『戦国炎舞』の躍進をプロモーションの側面から支えた、サイバーエージェントのSAPマーケティング事業戦略室の角本拓也氏(写真右)と、CA Beat代表取締役社長の羽片一人氏(写真左)にインタビューを行った。
なお、今回のインタビューは、テレビCMの放映開始を発表する前に行ったものであるため、テレビCMについては聞いていない。この点は留意していただけると幸いだ。
■リリース以後のプロモーション手法を振り返る
―――: 本日はよろしくお願い致します。いきなり本題に入りますが、『戦国炎舞』のリリースからのプロモーション展開について振り返っていただければと思います。まず、App Storeでリリースした後、5月ころから急に売上ランキングを駆け上がりましたよね。どういったことをされたのでしょうか?
角本氏: 『戦国炎舞』は、昨年4月中旬にリリースされたタイトルでした。グループのソーシャルゲームとしてリアルタイムバトルは初めてでしたので、当初はサーバーの負荷やシステムのメンテナンスに力を入れており、実際に試験的にプロモーションを行ったのは5月中旬からとなります。小規模ながらリワード広告を出稿してユーザーを集めました。
―――: なるほど。本格的なプロモーションはまだ行っていなかったわけですね。その状態でもランキングですごい勢いで上がりましたよね。
角本氏: 当時のApp Storeで戦国ものでかつリアルタイムバトルゲームが少なかったですから、小規模なブーストであってもユーザーから受け入れられたのかもしれませんね。もちろん、プロデューサーをはじめとする開発スタッフが頑張って、ユーザーに楽しんでもらえるゲームを提供できていたことが大きかったと思います。
【『戦国炎舞-KIZANA-』の売上ランキングの推移(4/15-5/31】
注1)5月の連休明けから急激に順位を上げ、31日にはトップ20に入った。注2)データはAppAnnie。
―――: では、本格的に始めたのはいつ頃だったのでしょうか?
角本氏: Androidアプリ版をリリースした7月からでしたが、その後ですね。ちょうど8-9月に他社から新作アプリが大量に出るという情報があったこと、そして、何よりAndroidではリリース直後のプロモーションが重要ですから、ユーザーを獲得するため、大規模なプロモーションが必要と判断したためです。
―――: プロモーションではなにをされたのでしょうか?
角本氏: メインは、アドネットワークとリワード広告です。リワード広告に関してはやればやるほど効果が落ちるという「定説」もあったのですが、実際にやってみるとそれほどでもないことが確認できました。7-8月はiOSでは在庫が切れるまでひたすらブーストをしていました。その一方で、新作タイトルのリリースラッシュとなる前にアドネットワークの最適化を行っていましたので、在庫が逼迫した状況でも効率よくユーザーを獲得できたことも奏功したと考えています。
―――: リワード広告はやればやるほど効果が落ちる、というのは業界内では定説ですよね。
角本氏: そういう神話がありますね。リワード広告の目的は主にランキングを上げて自然流入のユーザーを増やすことにありますが、1回目で2万人、2回目は同じ金額かけても8000人に落ちる…などと効率が落ちていくと言われていました。
―――: しかし、そうでもないと。
角本氏: はい。ブーストの量さえしっかりとコントロールすれば、1回目と同じ効率を維持できることがわかってきました。仮説として、10位前後を維持するような形で出稿する…つまり、わざわざスクロールしなくては確認できないポジションにすることで、無料ランキング1位よりも質の高いユーザーが取れるのではないかと考えました。蓋を開けてみると、実際に課金してくれるユーザーも多く、リクープベースで見ると効率的には1回目と変わらないものとなりました。
―――: ブーストでは1位を狙わないと効果がないという話を何度か聞いたのですが、実際はそうでもないわけですか。
角本氏: はい。われわれも同じことを考えまして、ブーストをしても2回くらいで効果がなくなるのではないかと懸念していたのですが、あえて10位前後を保つことで効率性を維持できました。
【無料ランキングの時間単位での推移(7/21-8/3】
―――: 10月以降については。
角本氏: やれることをやりきってしまった面もありましたし、そもそも戦国ものの獲得単価が高いという事情もありましたので、10月に入って、少し視点を変えて質の高いユーザーを獲得する方針にしました。いわゆるLTVの高いユーザーを獲得することが課題に設定しました。
―――: 考え方を変えたわけですね。
角本氏: はい。これまでのボリュームを取りに行く施策に加えて、CA Beatの「Gameselection」などで質の高いユーザーを獲得していきました。出稿ボリュームは、7~9月のほうが多かったです。ちょうどその頃、ゲーム内イベントや1対1のPvP要素の追加などのサービス部分の強化も行っていましたので、ユーザーが増えてゲームが活性化しました。そこで、12月に再度、「LINEフリーコイン」などを使ってユーザーを増やし、現在に至っています。
―――: この間、羽片さんはどういった取り組みをされていたのでしょうか?
羽片氏: 私はもともとCA Beatで、サイバーエージェントグループの提供するソーシャルゲームの間でユーザーを流し合うプラットフォームを開発・運用する傍ら、角本らと一緒にグループのプロモーションを担当していました。リリース後はグループ間でのユーザーの流し合いにフォーカスしていましたが、角本からお話があったように、10月頃から、外部からいかにLTVの高いユーザーを獲得するかが課題となりました。その中でリリースしたのがソーシャルゲームに特化したノンインセンティブCPI広告「Gameselection」です。
―――: ノンインセンティブですか。アプリをダウンロードしたらポイントをあげます、といったサービスではないということですね。
羽片氏: はい。サービス設計時は、ダウンロードするとポイントを付与といった「インセンティブ」がないため、ポイントアプリと異なり、ゲームに関心のある、質の高いユーザーを獲得できると考えていましたが、実際に出稿した『戦国炎舞』でも大きな効果がありました。テスト段階から『戦国炎舞』には協力してもらっていまして、実際に良好な結果が出たことから、11月から広告商品としてグループ外にも販売を開始しました。
■プロモーションプランの組み立て方
―――: プロモーションプランを組み立てる際のポイントは。
角本氏: やはりボリュームを取るとなるとブーストが一番効果があり、継続的に出稿しコンスタントにユーザーが獲得できるのはアドネットワークです。これ以外にも、記事広告や純広告などもチャレンジしたのですが、ボリュームや効果が期待したほどではなかったため、メインをアドネットワークとし、「飛び道具」としてブーストを適宜活用するといったイメージで展開しました。ここまでネットワークに力を入れたのはグループでは『戦国炎舞』が初めてかもしれませんね。
―――: ネットワークについてはどういった面で力を入れたのでしょうか?
角本氏: 羽片とも協力して、配信面の精査には力を入れました。『戦国炎舞』と相性のいい媒体については限られていて最適な媒体への配信を行うようにしました。良好だったのはカジュアルゲームで、継続率も課金率も高いユーザーが獲得できました。配信面の最適化と同じくらい力を入れました。アドネットワークではクリエイティブが重要ですから、これまで300本以上バナーを作ったと思います。
―――: 300本もですか。メディアの精査はどうやってやっていたのでしょうか。またどこが一番良かったのでしょうか。
角本氏: メディアごとのコンバージョンや課金率といったデータを見て選定していましたが、特にカジュアルゲームが良かったですね。もうひとつは音楽や動画などの無料ダウンロードアプリ、ニュースサイト、2ちゃんねるのまとめサイトなども良かったです。他のタイトルと違って、iOS版『戦国炎舞』と相性が悪かったのは、電子書籍などでしたね。WEBとアプリでは、アプリのほうが効率がよかったため、アプリに限定して広告を配信する、といったことも行いました。
―――: カジュアルゲームはわかりますが、まとめサイトやダウンロードアプリはちょっと意外な感じもしますね。
羽片氏: これはあくまで個人的な仮説ですが、カジュアルゲームやそのメディアに時間を使うユーザーが広告を見てアプリに遊んでくれて、ゲームにより多くの時間を使ってくれているのではないかと考えています。いわゆる時間の配分を変えてくれているとみています。
―――: 継続率が高いのはやはり自然流入ですか?
角本氏: はい。継続率についてはやはり自然流入のユーザーが一番高かったですね。ブースト後のランキングから獲得したユーザーがそれに該当します。アドネットワークに関しては、様々なサービスがありますが、サービスによる差は見られませんでした。
―――: ブーストではランキングを10位前後に維持することを心がけたとのことですが、それ以外に気を使った点はありますか。
角本氏: ランキングロジックについては注意深くチェックしていました。App Storeでランキングのロジックが大きく変わった時がありました。それまでは17時に出稿して、19時にランキング上位に入っていることが多かったのですが、それ以降、更新のタイミングが遅れるようになりました。われわれは、他社に先駆けて、出稿する時間を17時から16時に変更して対応したことで大きな効果がでました。競合でIPタイトルがリリースされると、自然流入がどうしても減ってしまいますので、出稿を避けるといったこともやっていました。他社の出稿状況に関しても、これまで以上にチェックするようになりましたね。
■Androidでの取り組みを強化
―――: 一番聞きたいと思っていたことですが、失礼ながら『戦国炎舞』が登場するまでCAグループはAndroidではiOSに比べて目立たなかった印象なのですが、このタイトルをきっかけにだいぶ変わったように見えました。なにか変えたのでしょうか?
角本氏: そうですね。サムザップの『モンスターフロンティア』は先行者利益もあって伸びましたが、その後、アプリボット『ギャングロード』や『レジェンド・オブ・モンスター』などは伸ばしきれませんでした。グループ全体での知見が少なかったこともあり、App Storeと同じような感覚で取り組んだからです。ブーストで伸びたものの、アドネットワークの単価がiOSに比べて高いため、あまり投資できませんでした。それ以外にもGoogle Playの規約で、コンテンツレーティングを適切に設定していなかったため、新着無料から削除されたこともありました。
―――: そういうことがあったのですか。
角本氏: その後、マーケットと規約や特徴だけでなく、他社のブースト施策やアドネットワークの取り組みを研究して、『戦国炎舞』ではリリース直後から大規模なプロモーションを行い、序盤からユーザーを集めることができました。ただ、予想以上にユーザーが集まったため、開発サイドは負荷が急激に上がって大変だったようです。またアプリをリリースしてテストマーケティングしてから正式サービスに移るといったやり方ではなく、事前にデバッグや負荷対策などもきちんと行ってからサービスを開始して、プロモーションも行うようにしました。
―――: Androidのプロモーションのやり方はiOSとは違うのですか?
角本氏: 基本的にはリワード広告とアドネットワークを使う点には変わりはありません。ただし、Androidの場合、ブーストはリリースから新着無料に掲載される1カ月間限定で、基本的にはアドネットワーク中心の運用になります。iOSは両方とも可能です。アドネットワークについては、効果のある媒体に違いがありました。
―――: どう違ったのでしょうか?
角本氏: iOSの場合、電子書籍系の効果が悪いのですが、Androidの場合、マンガなど電子書籍などの効果がありました。そのため、掲載するクリエイティブもマンガテイストのものに変更しました。iOSはランキングがよく変わるため、ユーザーのアプリ間の移動が非常に激しいのですが、Androidの場合、iOSほどランキングが頻繁にかつ大きく変わらないため、ひとつのアプリを遊び続ける傾向にあります。このため、効果のある媒体が限られるという状況になっています。業界内で、Androidアプリで一番効果的な媒体は「なめこ栽培キット」という話は有名です。
―――: マーケティングでのテストは相当されたんですね。
角本氏: この点は本当に徹底しました(笑) ここまでお話して、特別なことをやっていないと思われたと思いますが、一番重要なことは当たり前のことをどこまで徹底してやれるかです。事前登録やテレビCMなども流行していますが、それに飛びつくのではなく、アドネットワークとリワード広告をしっかりと活用・研究してきたのが大きいと考えています。足元の手法を徹底的にやりきったら、新しい手法にチャレンジしていきたいですね。
―――: 今後取り組みたい課題があったら教えて下さい。
角本氏: これだけネットワークを活用しているとどうしても効果が落ちてきていますので、新しい手法を探すことです。他社のタイトルと同じように、テレビCMも行いますが、『フルボッコヒーローズ』のように話題性をもたせた事前登録やソーシャルメディアを使った拡散など比較的費用をかけずに広い層にアプローチできる手法を研究していきたいと考えています。もちろん、それと平行して既存のプロモーション手段の効率性低下に対する対策も考えていきます。
羽片氏: 今後、サイバーエージェントのソーシャルゲーム関係のマーケティング手法では、量だけでなく、質も重視する流れが強まっています。『戦国炎舞』のように月商である程度の規模があるタイトルについては、データマイニングチームがついていて、アプリの中のデータをきちんと計測・分析しています。ゲームで継続的に遊んでもらえるよう、おもてなしを考えるわけです。このデータを広告配信に活用すれば、効率的にユーザーが獲得できるのではないかと思ったことがきっかけです。そこで考えたのが、先日発表したDMP(Data Management Platform)となります。例えば、自社ゲームで遊んでいて5000円使っていたユーザーが飽きてやめてしまった。そういうユーザーをターゲットに新作ゲームの広告を配信して遊んでもらう、といったことが可能になります。メディアという面を重視する流れから、個々のユーザーにフォーカスしたサービスとなります(関連記事)。
―――: ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社サイバーエージェント
- 設立
- 1998年3月
- 代表者
- 代表取締役 藤田 晋
- 決算期
- 9月
- 直近業績
- 売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 4751
会社情報
- 会社名
- 株式会社サムザップ
- 設立
- 2009年5月
- 代表者
- 代表取締役 日高 裕介
- 決算期
- 9月