Yodo1(ヨード・ワン)という、中国向けゲームパブリッシングで台頭してきている企業の経営陣が、このたび来日した。今回、ドリコムの協力のもと、訪日中のYodo1経営陣に対してインタビューを実施する機会を得た。同社のHenry Fong(ヘンリー・フォン)最高経営責任者(CEO)から、中国モバイルゲーム市場の特徴について興味深い話を聞けた。また、ソーシャル機能をモバイルゲームに簡単に付与できるツール「Kryptanium」を、SDKとしてオープン化する方針も明かされた。
同社は、中国国外のゲームを中国向けにローカライズパブリッシュすることが主な事業。中国国内で50以上のゲームタイトルをパブリッシングしており、最近、内製のタワーディフェンスゲーム『OMG:TD!(日本名:「防衛せよ!オーマイゴッド!」)』をリリースした(関連記事)。内製やローカライズのゲームで導入している「Kryptanium」が上手く機能しているため、オープン化に踏み切るという。以下、Henry Fong氏との一問一答となる。(図表はYodo1提供の資料から抜粋)
▲CEOのHenry Fong氏(左)と、共同創業者のJames Lalonde氏(右)
――よろしくお願いします。設立2年目にも関わらず、ローカライズの実績に定評があると聞きます。
我々のローカライズは、基本的にはソースコードをもらい、ストーリーやBGMを含めて自社エンジニアが中国向けに大きく改良する、というやり方をとっています。開発、プロモーションの費用は我々が出し、サーバーも中国国内に用意します。単純に翻訳してストアに乗せただけでは、中国市場では成功しないケースが多いと思います。
成功例として、オーストラリアのゲーム企業と共同で中国にリリースした『スキーサファリ』という作品があります。中国版についてYodo1が関わる前と後を比べると、日商は10倍(1351$から1万4500$)に成長しました。中国版リリース前と比べれば210倍になった計算です。総ユーザー数も6000万まで膨らんでいます。
――成功の要因はなんでしょうか。
まず、中国市場に精通しているという点があります。ゲームの訴求・流通・支払という部分で西欧の手法は通用しにくい市場です。
中国市場はいくつか特徴があります。まず通信速度が遅い点、そして低性能のAndroid端末が普及している点です。完成度が高く容量の大きいゲームや、常時ネットワークに接続するゲームほど、逆風となります。我々はゲームの設計や、ネットワークやデータの使い方を工夫し、この点をクリアします。
また、これは当然の話ですが、「中国らしさ」のあるゲームが受けます。一方で、「ワンピース」や「ナルト」などの日本のマンガは人気が高く、マンガIP(知的財産、版権)を使ったゲームは成功しやすいという特徴もあります。
中国国外のサーバーからの通信が遅延し、ひどいときには止まってしまう「チャイナファイヤーウォール」という、文字通り「壁」もあります。この点は、我々が国内にサーバーを設置することで解決できます。
――中国ではAndroidプラットフォームの乱立と知的財産権の保護が課題とされています。
その点の対応も、我々のローカライズにおける強みです。
不正コピー作品がストアにある場合、我々が正式版を出すと、不正版のユーザーが乗り換えやすいように、ストアがプッシュ通知を送信してくれます。これは複数のストアが対応してくれています。このため、初動で(不正版を利用していた)数万人のユーザーを獲得できます。
我々が、独自にアプリストアとの強いコネクションを持っているからこそ可能な施策です。我々は400社のAndroidプラットフォームやAppStoreとの流通チャネルを持っています。
――なるほど。となると、引き合いも多いのでは?
おかげさまで、口コミで世界中から毎月300程度のゲームローカライズの依頼が持ち込まれますが、我々の体制では現在、月に2タイトルというのが限界という状況です。
そのため、自社で活用しているクラウド型ゲーム配信プラットフォーム「Kryptanium」を、中国だけでなくグローバルにソーシャルゲームを配信するためのSDKとしてオープン化し、各国のディベロッパー向けに提供しようと計画しています。
――「Kryptanium」とはどのようなものでしょう。
「Kryptanium」はシングルプレイを想定したゲームでも、「スキン」のような形で簡単にソーシャル機能を追加できるSDKです。ゲーム画面にタブのようなものが現れ、そのタブをスライドさせるとソーシャル機能を搭載したページが出てきます(※iOSの「通知センター」のようなイメージ)。開発者向けにはクラウド型の管理ツールもあります。
そのページでは、スクリーンショットの共有や、ゲーム内のコミュニティやチャットルーム、ユーザー間のギフト機能を設置できるほか、プッシュ通知やイベント、リワードなど、ストアにアプリの新規バージョンを出さなくても設定・追加できる機能があります。また、自社の他アプリへのリンク(ストアページへのリンク)も一覧で表示されます。ディベロッパーの管理ツールでは、相応しくないコメントも消すことができます。
チャットでは、ゲーム開発者の公式アカウントを設置することもでき、ここでゲームのサポートなども実施することができます。ユーザーの言語や所在地から、自動的に、使用していると思われるソーシャルネットワーク(英語圏ならFacebookやTwitter、中国語圏なら微博など)を抽出し、連携することも可能です。
ソーシャル機能のあるプラットフォームにゲームを出す、というやり方ではなく、自分たちが作ったアプリにオープンソースのソーシャル機能のSDKを組み込むというやり方です。
スタミナを使用するタイプのゲームでは、スタミナが溜まるまでの時間をコミュニケーションに使うことで、ユーザーのリテンション(維持)率が上がります。「Kryptanium」を導入したことで、中国においてリテンション率が2倍になったケースもあります。また、このSDKは、中国の30社以上の広告代理店と連携していますので、中国展開の一助になると考えています。
――ソーシャル機能を開発するノウハウに乏しい企業にとっては役立つ機能ですね。「Kryptanium」の今後の展開についてはどう考えていますか。
まずはゲーム開発者に無料で使ってもらい、普及を目指します。収益化はタイミングを見て考えます。我々は「Kryptanium」を使用するゲームのKPI(評価指標)が見えるので、KPIから中国市場で成功すると見極めたタイトルには、我々によるローカライズを提案するというやり方もあると考えています。
我々は会社とお付き合いするのではなく、ゲームタイトルごとのお付き合いを目指しています。そのタイトルを見極める際に「Kryptanium」を活用できるのではないかと思います。
なおYodo1は「Kryptanium」について、3月に米国で開催されるゲームイベント「GDC(Game Developers Conference)」で新情報を公開する予定だ。続報に期待したい。
同社は、中国国外のゲームを中国向けにローカライズパブリッシュすることが主な事業。中国国内で50以上のゲームタイトルをパブリッシングしており、最近、内製のタワーディフェンスゲーム『OMG:TD!(日本名:「防衛せよ!オーマイゴッド!」)』をリリースした(関連記事)。内製やローカライズのゲームで導入している「Kryptanium」が上手く機能しているため、オープン化に踏み切るという。以下、Henry Fong氏との一問一答となる。(図表はYodo1提供の資料から抜粋)
▲CEOのHenry Fong氏(左)と、共同創業者のJames Lalonde氏(右)
■ソースコードを受け取って自社エンジニアがローカライズ…日商10倍の事例も
――よろしくお願いします。設立2年目にも関わらず、ローカライズの実績に定評があると聞きます。
我々のローカライズは、基本的にはソースコードをもらい、ストーリーやBGMを含めて自社エンジニアが中国向けに大きく改良する、というやり方をとっています。開発、プロモーションの費用は我々が出し、サーバーも中国国内に用意します。単純に翻訳してストアに乗せただけでは、中国市場では成功しないケースが多いと思います。
成功例として、オーストラリアのゲーム企業と共同で中国にリリースした『スキーサファリ』という作品があります。中国版についてYodo1が関わる前と後を比べると、日商は10倍(1351$から1万4500$)に成長しました。中国版リリース前と比べれば210倍になった計算です。総ユーザー数も6000万まで膨らんでいます。
――成功の要因はなんでしょうか。
まず、中国市場に精通しているという点があります。ゲームの訴求・流通・支払という部分で西欧の手法は通用しにくい市場です。
中国市場はいくつか特徴があります。まず通信速度が遅い点、そして低性能のAndroid端末が普及している点です。完成度が高く容量の大きいゲームや、常時ネットワークに接続するゲームほど、逆風となります。我々はゲームの設計や、ネットワークやデータの使い方を工夫し、この点をクリアします。
また、これは当然の話ですが、「中国らしさ」のあるゲームが受けます。一方で、「ワンピース」や「ナルト」などの日本のマンガは人気が高く、マンガIP(知的財産、版権)を使ったゲームは成功しやすいという特徴もあります。
中国国外のサーバーからの通信が遅延し、ひどいときには止まってしまう「チャイナファイヤーウォール」という、文字通り「壁」もあります。この点は、我々が国内にサーバーを設置することで解決できます。
■不正版からの乗り換えで初動数万ユーザーを獲得
――中国ではAndroidプラットフォームの乱立と知的財産権の保護が課題とされています。
その点の対応も、我々のローカライズにおける強みです。
不正コピー作品がストアにある場合、我々が正式版を出すと、不正版のユーザーが乗り換えやすいように、ストアがプッシュ通知を送信してくれます。これは複数のストアが対応してくれています。このため、初動で(不正版を利用していた)数万人のユーザーを獲得できます。
我々が、独自にアプリストアとの強いコネクションを持っているからこそ可能な施策です。我々は400社のAndroidプラットフォームやAppStoreとの流通チャネルを持っています。
――なるほど。となると、引き合いも多いのでは?
おかげさまで、口コミで世界中から毎月300程度のゲームローカライズの依頼が持ち込まれますが、我々の体制では現在、月に2タイトルというのが限界という状況です。
そのため、自社で活用しているクラウド型ゲーム配信プラットフォーム「Kryptanium」を、中国だけでなくグローバルにソーシャルゲームを配信するためのSDKとしてオープン化し、各国のディベロッパー向けに提供しようと計画しています。
■スキン型ソーシャル機能SDK「Kryptanium」をオープン化
――「Kryptanium」とはどのようなものでしょう。
「Kryptanium」はシングルプレイを想定したゲームでも、「スキン」のような形で簡単にソーシャル機能を追加できるSDKです。ゲーム画面にタブのようなものが現れ、そのタブをスライドさせるとソーシャル機能を搭載したページが出てきます(※iOSの「通知センター」のようなイメージ)。開発者向けにはクラウド型の管理ツールもあります。
そのページでは、スクリーンショットの共有や、ゲーム内のコミュニティやチャットルーム、ユーザー間のギフト機能を設置できるほか、プッシュ通知やイベント、リワードなど、ストアにアプリの新規バージョンを出さなくても設定・追加できる機能があります。また、自社の他アプリへのリンク(ストアページへのリンク)も一覧で表示されます。ディベロッパーの管理ツールでは、相応しくないコメントも消すことができます。
チャットでは、ゲーム開発者の公式アカウントを設置することもでき、ここでゲームのサポートなども実施することができます。ユーザーの言語や所在地から、自動的に、使用していると思われるソーシャルネットワーク(英語圏ならFacebookやTwitter、中国語圏なら微博など)を抽出し、連携することも可能です。
ソーシャル機能のあるプラットフォームにゲームを出す、というやり方ではなく、自分たちが作ったアプリにオープンソースのソーシャル機能のSDKを組み込むというやり方です。
スタミナを使用するタイプのゲームでは、スタミナが溜まるまでの時間をコミュニケーションに使うことで、ユーザーのリテンション(維持)率が上がります。「Kryptanium」を導入したことで、中国においてリテンション率が2倍になったケースもあります。また、このSDKは、中国の30社以上の広告代理店と連携していますので、中国展開の一助になると考えています。
――ソーシャル機能を開発するノウハウに乏しい企業にとっては役立つ機能ですね。「Kryptanium」の今後の展開についてはどう考えていますか。
まずはゲーム開発者に無料で使ってもらい、普及を目指します。収益化はタイミングを見て考えます。我々は「Kryptanium」を使用するゲームのKPI(評価指標)が見えるので、KPIから中国市場で成功すると見極めたタイトルには、我々によるローカライズを提案するというやり方もあると考えています。
我々は会社とお付き合いするのではなく、ゲームタイトルごとのお付き合いを目指しています。そのタイトルを見極める際に「Kryptanium」を活用できるのではないかと思います。
なおYodo1は「Kryptanium」について、3月に米国で開催されるゲームイベント「GDC(Game Developers Conference)」で新情報を公開する予定だ。続報に期待したい。