【インタビュー】数字(結果)に正直であれ! モバイルアプリ市場における最新マーケティング動向・戦略をアドウェイズと5Rocksに聞いた

アドウェイズ<2489>と5Rocksは、去る2014年5月21日にモバイルゲーム/アプリ向けのグロースハックツール「5Rocks」とアドウェイズの全世界対応のスマートフォンアプリ向け効果測定システム「PartyTrack」との連携を開始した。これらの連携により、モバイルアプリデベロッパーは、広告効果測定に加え、広告チャネル毎の詳細なユーザー分析までが一度に実行でき、より効果的なマーケティング戦略を、迅速に策定し推進することが可能になった。

そこで本稿では、アドウェイズ<2489>から事業戦略統括SVP兼Bulbit Inc. 取締役CSOの横田雄士氏と、5RocksからJapan Country Manager/執行役員の佐藤康雄氏に、今回の連携に関する経緯をはじめ、アプリ市場におけるマーケティング施策の問題点や解決案、そして先日アドウェイズ主催で開催されたセミナーの後日談など、多種多様な視点からお話を伺ってきた。※2014年7月某日収録
 

■ユーザーデータを活用したマーケティング戦略に迫る


株式会社アドウェイズ
事業戦略統括SVP兼
Bulbit Inc. 取締役CSO横田雄士氏(写真左)

5Rocks株式会社
Japan Country Manager
執行役員 佐藤康雄氏(写真右)

 

――:よろしくお願いします。本日は両社が提供するツールをはじめ、アプリマーケティングの実態などをお聞きできればと思います。まずはアドウェイズさんが提供する「PartyTrack」について教えてください。

横田氏:「PartyTrack」は、スマートフォンアプリを対象とした広告効果測定ツールです。2013年4月9日にリリースしました。おもに自然流入と広告経由それぞれのインストール数の解析をはじめ、ROI(費用対効果)や LTV(顧客生涯価値)など様々な効果指標が分析できます。特徴としては、日本製にしては珍しくリリース当初から世界各国で使えるようにしていたことです。現在は、日本のお客様を中心にご利用いただいています。


――:どのような開発経緯だったのでしょうか。 

横田氏:もともと弊社が広告代理店事業を行っているなかで、2~3年ほど前から「海外向けに広告計測をしたい」というご相談を、色々な会社さんから受けていた時期がありました。

当時からアプリ向けの効果測定ツールはあったのですが、海外製のため言語の問題や、問題発生時のコミュニケーションのタイムラグなどがあり、満足のいくサービスではありませんでした。そうして「これは自分たちで開発したほうが早い」と考えて作ったのが、この「PartyTrack」になります。

おもに日本国内のデベロッパーを対象としたプロダクトを作るのですが、あくまでも「PartyTrack」に関しては世界展開を視野に入れて開発したため、アメリカ支社所属のエンジニアを中心に開発を開始しました。その経緯から、サービス開始当初はアドウェイズインタラクティブ名義でしたが、現在はBulbitで開発・運営を引き続き行っております。
 
 
――:分かりました。続いて、5Rocksさんが提供するツールについて教えてください。

佐藤氏:5Rocksは、韓国創業の企業で、モバイルゲーム/アプリ専用の分析・運用ツールを提供するほか、モバイルゲーム/アプリを提供する企業に対して最適なデータ設計と分析に関するコンサルティングサービスを提供しています。2013年8月にKDDIさんなどに出資をいただいて、本格的な日本展開をはじめました。ちょうどその時期に私も正式にジョインして、日本展開のCountry Managerという立場で業務にあたっています。

弊社の同名ツール「5Rocks」ですが、モバイルゲーム/アプリの分析と運営がひとつのツール内で実行できるものとなります。分析に関わるすべてのデータはリアルタイムで収集し、分析データをもとにしたマーケティング施策の実行が可能です。

また、OS別や流入経路別、ユーザーレベル別、保有友達数別、アイテム購入額別などの様々な条件の組み合わせにより、アプリ内のユーザー行動を詳細に分析することができます。それら特定のユーザーセグメントを対象にしたプッシュ通知やキャンペーン告知、アイテム割引販売、クロスプロモーションなども実行可能です。

このように特徴としては、分析だけで終わらず、きちんと運営までを支援しているところにあります。世界的に見ても非常に気配りのできるツールということもあり、多くの企業様から引き合いをいただいています。
 

 


――:なるほど。そんな「5Rocks」は、どのように展開されていったのでしょうか。
 
佐藤氏:2013年のサンフランシスコのGDC(Game Developers Conference)のときに、現在の「5Rocks」の発想を持ったプロト版を、多くのデベロッパーさんにお見せしてヒアリングした結果、かなりのニーズを感じました。そこから本格的にはじめようと、クローズドβ版の提供を開始したのです。

その後は、ひたすらフィードバックをいただいて、繰り返し調整を行っていき、GDC 2014のときに最終のプロト版を持ち込んだところ、多くの方から高評価をいただきました。プロト版は、日本語・韓国語・英語・中国語・ロシア語の5ヵ国語で持ち込んでいましたが、日本・韓国だけでなく、英語圏の方からの評判が良かったこともあり、そのままの勢いで2014年4月に正式版スタートまで踏み切りました。


――:ありがとうございます。ここからは、先日開催されたアドウェイズ主催のセミナー「PartyTech 2014[夏]~答えは「ユーザー」が持っている~」についてお聞きしていきます。横田さんは発起人のひとりかと思いますが、まずは今回のセミナーの立ち上げ経緯を教えてください。
 

 
横田氏:じつは今年に入ってからネットワーク企業さんとお話する際に、だいたい「ユーザーデータの活用」における重要性に話題が至ることが多くなりました。他社からもユーザーデータの活用に関する問い合わせも相次いであると同時に、その使い道のご相談を受けるケースも出てきました。であれば、主要な企業様を集めて一度に講演するのがいいのではないか、というのがセミナーを開催した経緯となります。

 
――:セミナーの今後の展開はいかがですか。

横田氏:今回は初回ということもあり、オープンな形を取りましたが、次回開催する際は完全クローズドで登壇各社の生々しい事例を中心とした講演内容を考えています。
 

▲同セミナーはアドウェイズが主催。登壇企業はフェイスブック、5Rocks、ツイッター、グーグル


【セミナー取材記事】
⇒ [前編]
 “休眠ユーザー”の実態やTwitterを活用したプロモーション術が明らかに
⇒ [後編] GoogleとFacebookが掲げるアプリマーケティングとは。5Rocksが語る「本来注目すべきアプリデータの見方」にも迫る

 

■数字(結果)に正直であれ


――:当日は、5Rocksさんからは代表取締役社長のイ・チャンス氏が登壇し、ツール「5Rocks」を活用した「本来注目すべき“アプリデータの見方”」について講演されたと思います。セミナー後の懇親会では何か参加者からリアクションはありましたか。

佐藤氏:はい、かなり多くの方にご興味を持っていただきました。なかでも離脱ユーザーの数字を閲覧できることに関して、「え、それ見られるんですか?」と衝撃を受けていたお客様も何人かいらっしゃいました。各企業のマーケティング担当者としては、あそこまで数字が見えてしまうのは辛いものがあると思いますが(苦笑)。


――:たしかに……とはいえ、それが現実ですからね(苦笑)。

佐藤氏:ええ。少数ではありますが、明確な数字を確認しないまま、雰囲気で話を進めて運営してしまうことも事実としてあるようです。現にこれまで「5Rocks」のサービス画面から自社コンテンツの分析結果を見ていただく中で、お客様が危機感を持って明確な数字を追うようになってくださったケースも存在しています。

横田氏:真実を見せることが、結果的に自分たちの評価に繋がるのかは、また別の話だったりしますよね。というのも当然担当者としては、数字も良いほうに捉えたいわけじゃないですか。すると、掲げた指標はいつまでたっても広告のCPI(広告獲得単価)やダウンロード件数がメインになってしまいがちです。

たとえば、クリックの有効期間。当たり前ですが、クリックの有効期間が長ければ長いほど、コンバージョン(最終成果)は増えて、短ければ短いほど少なくなります。ただ、広告効果をきちんと評価するときは、どう考えても短いほうがいいと思うんですよ。

コマースだと話は別かもしれませんが、無料のアプリで広告をクリックして、30日後に入ってきたとします。果たして、この場合は広告評価として見なしていいのか……。もちろんいいわけありません。30日も経過していれば、確実にその広告の効果ではなくて、別の理由でインストールしたからです。

こうしたケースが意外と多く見られるのは心苦しいところでもあります。それらの数字は、私から言わせてみれば「虚構」に過ぎません。どの指標を見るかを以前に、“どのように見るか”をきちんと考えなければならないと思います。


――:私も元ゲーム会社出身のため、耳が痛い話ではありますが、いやはや至極その通りです。

佐藤氏:そうですね。やはり多くの人がCPIを意識していると思います。もちろん入口となる指標でもあるため、とても大事ではありますが、果たしてそのユーザーたちが今後どれほどのライフタイムバリューを作り上げて、ゲーム/アプリに貢献してくれるのか……これらもあわせてしっかりと確認をしていく必要があります

「PartyTrack」と「5Rocks」が繋がったことで、広告から入ってきたユーザーの売上・継続率・ライフタイムバリューなど多数の指標が見られるようになっています。きちんとデータ取得・ユーザー分析し、そのうえでマーケティングを行うことで必ず効果は上がると思っています。


――:分かりました。さて、横田さんはセミナーで「PartyTrack」を活用した「休眠復帰ユーザー」に関する講演を行いましたが、こちらではいかがでしたか。

横田氏:セミナーでは、「PartyTrack」を活用した「休眠復帰ユーザー」の実態を紐解いていきましたが、もしかすると参加者の方々には「休眠ユーザーを復帰させよう」がメインのテーマに聞こえてしまったかもしれません。あくまでもセミナーでは、「休眠ユーザーは実在する」「休眠ユーザーを特定しよう」「特定後のユーザーにアクションを起こそう」という3つの軸のなかで、「PartyTrack」が活用できる……といった形でお話していきました。

本当に休眠復帰だけを目的とするのであれば、コンテンツがそれ相応のユーザー母数を抱えていて、なおかつコンテンツに魅力があることが前提です。単純に休眠復帰させること自体を目的にするのであれば、その前に施策のタイミングやユーザー母数の切り分けを行い、そのうえで新規獲得か休眠復帰かを判断しなければならないと思います。


――:なるほど。まずはユーザー属性を理解するということですね。

横田氏:ええ。余談ですが、じつは個人的にTwitter検索で、広告案件におけるユーザー調査を行っているんですよ。方法は、単純にTwitterでアプリの名前に「広告」と付け加えて検索するだけ。該当アプリにもよりますが、既存と休眠ユーザーが広告を見てどう思ったのかをツイートするケースを見ることができます。

普段我々は、新規インストール数などの数字を追うことが多いのですが、実際にユーザーが広告を見てどのように思ったのかは、基本的に調べる方法がないため、貴重な意見を目にすることができます。

ちなみに既存ユーザーや休眠ユーザーと思われるユーザーのリアクションを見る限り、いかにゲームのコンセプトや世界観に合わせたプロモーション施策をクリエイティブにできるかがポイントになるようです。あくまでも「コンテンツの延長線上に広告がある」という考え方です。広告バナーを見たときに、そのコンテンツと違和感がないものが作れるかが重要になります。

もちろん我々としては、ツールを活用した何らかの数字を可視化して今後も展開していきますが、その数字だけに縛られずに事実TwitterなどのSNSで探してみると、ユーザーによる詳細で生のコメントも出てくるため、こちらも大切に注目してほしいところがあります。


――:数字だけでは見えないユーザーの心情もあるわけですね。

横田氏:はい。経路は異なりますが、私自身もテレビCMをきっかけに『パズル&ドラゴンズ』で休眠復帰しました。今年に入ってから復帰したのですが、もういまでは一日も休まずにプレイしています(笑)。また、途中機種変更などの都合でセーブデータも消えてしまいましたが、半年ほどでランク1→250くらいまで到達しました。「休眠復帰あるんだ…」と実体験をもとに気付かされましたね。


――:(笑)。さて、 5Rocksさんは事例などいかがですか。

佐藤氏:データには良い見方と悪い見方があると、いつも講演などではお話させていただいております。たとえば、単純にDAU(1日当りのアクティブユーザー数)が上がって喜ぶのではなくて、実際に売上に貢献しているユーザーの増減を一緒に見なければなりません。こうしたデータを切り分けて分析できるのが、「5Rocks」では可能となっています。

また、デイリーで直近7日間のログイン頻度毎の状況をチャート化して閲覧することができます。ジャンルにもよりますが、良いゲームの事例であれば、ローンチから2週間ぐらい経過したときに、直近7日間で7日間ログインしている連続ログインユーザーが50%を超えてきます。そして、そのユーザーが全体売上の中の70%強を作り上げる形態を示します。

初回課金もレベル別に見ることで、お客様が準備されている運営シナリオとのギャップなども見えてきます。このように然るべき形態で可視化することで、ユーザーの傾向を確認することができます。単純にDAUの増減で一喜一憂するのではなくて、次のアクションに繋がるようなデータ分析を「5Rocks」では実現できます

さらに「5Rocks」では、該当ユーザーに対する、プッシュ通知機能や画面上にポップアップを露出する機能を提供しています。たとえば休眠ユーザーの復帰施策を考えた場合、休眠ユーザーを一括りにするのではなく、そのゲーム/アプリにとってユーザーがドロップしてしまう休眠期間のラインを把握して、そのラインに達したユーザーに対してだけ訴求することが可能……。

そうすることで、費用対効果の高いプロモーション施策が実行できるようになります。これができなければ、休眠ユーザーを一括りにしてアイテムをプレゼントしてしまう場合、本来差し上げる必要のない方にまであげてしまうことにもなりかねません。

また、「5Rocks」は市場の流れが一層早くなっているなかで、将来を予測するという次のフェーズに入っています。そのひとつが離脱のトレンドです。該当ゲームを調べたときに、「どういう離脱の傾向が起きてしまうか…」というのも予測して提供するようなチャートを出し始めています。

そこから見えてきた結果で、今後のマーケティングを展開していくことができます。グローバルで展開しているため、各所からフィードバックしていただいた内容で、今後も逐次ツールの改修・拡張を行っていこうと思っています。

 

■ゲームの属性とそれに合ったユーザーを結びつける


最後に急遽5Rocksの代表取締役社長イ・チャンス氏に、テレビ電話を介して韓国から少しだけインタビューに参加していただいた。


――:ご多忙のところありがとうございます。早速ですが、イ・チャンスさんが考える昨今のアプリ市場におけるマーケティング施策の現状について、いかがでしょうか。

イ氏:施策については、国別で傾向が異なります。たとえば2年ほど前では、新規でインストールを獲得するために、ブーストを活用してランキング上位から出る効果をなるべく最大化することに、恐らく多くの企業が集中していたと思います。それがいまでは、獲得ユーザー数よりも“ユーザーの質が重要”であることに気付き、そこに対して施策を注力するような動きが出始めています。


――:それに向けて、いまどのような施策を考えなければいかないのですか。

イ氏:モバイルオンラインゲームにおけるユーザーの出入りは非常に激しいため、やはり何か施策をうつにしても適切かつ迅速な判断が必要となります。闇雲に新規ユーザーを獲得して満足するのではなくて、きちんと該当ゲームの属性に適したユーザーが、どれだけ新しくゲームを遊んでくれるのかが重要となってきます。そういう意味では、アドウェイズさんの「PartyTrack」と「5Rocks」を活用いただくことで細かいユーザー属性を分析することができます。


――:ありがとうございました。それでは、そろそろお時間となりましたので、みなさんから最後に「Social Game Info」読者にメッセージをお願いします。


横田氏やはり真実は知るべきです。結局、実態のない数字だけを追ってしまうと、“不必要なところに対して広告費用を使っている”ということ“自体にも気付けなくなる”可能性もあるのです。真実を見せた場合には、得てして数字が悪く見えることもあると思います。

しかし、トータルで見たときにこの広告で良かった、悪かったというのを、きちんと判断したほうが今後の運営にも大切なノウハウとして残ります。そして、それらの判断を見極める明確な材料を我々は提供できます。できるだけ実態のある数字(真実)を見ていただければ幸いです。

佐藤氏ひとつ信じて言えることは、今後もモバイル市場はひたすら伸びていくということです。それと同時に市場の競争は過激になっていきますが、我々はマーケット全体を拡大させることはもちろん、デベロッパーさんの支援にまわるスタンスで努めていきます。

また、昨今の日本デベロッパーのみなさんは、海外展開を積極的に進めている印象があります。弊社としても日本発のグローバル展開に対して、とても支援したいと思っています。というのも日本のゲームはクオリティが高いため、グローバルで成功するものだと信じているからです。現在「5Rocks」は韓国と日本を中心に展開していますが、2014年後半にかけて、中国・英語圏に向けての積極的なサービス展開を行っていきます。グローバル展開もしっかりとサポートさせていただきますので、ぜひお声掛けください。

イ氏:モバイル市場の一番大きな課題としては、フォローアップに最も相応しいユーザーをどのように繋げていくかということです。市場の速度に取り残されないためには、周囲の先端に立ち、他社と迅速な案件を作って、問題解決に尽力できればと思っています。

「ユーザーが増えない」「売上が伸びない」など、デベロッパーさんは様々な悩みを抱えていますが、まだ日の浅い業界であるからこそ、さらに成長するための方法・要素が残っていると思います。弊社は、そうした打開策の発見・発展のために全力を尽くしてまいります。繰り返しになりますが、まずは該当ゲームの属性とそれに合ったユーザーを結びつけることが大切です。これはモバイルゲームが生き残る方法のひとつだと思っています。


――:本日はありがとうございました。


■関連サイト
 
 
株式会社アドウェイズ
http://www.adways.net/

会社情報

会社名
株式会社アドウェイズ
設立
2001年2月
代表者
代表取締役社長 山田 翔
決算期
12月
上場区分
東証プライム
証券コード
2489
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5Rocks株式会社

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