現在ミクシィ<2121>のモンストスタジオでは、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。
代表作『モンスターストライク』は、直感的な操作性はもとより、友人たちと集まってわいわい遊ぶマルチプレイなど、口コミを通して若年層の間で広がり、瞬く間に日本を代表する大ヒットアプリへと成長した。さらに、直近では対戦プレイに特化した『モンストスタジアム』の提供も控えている。
今回「Social Game Info」では、『モンスターストライク』のプロデューサーで、ミクシィの執行役員でもある木村弘毅氏にインタビューを実施。業務上で心に据えているものやミクシィの魅力、そして開発現場の雰囲気、求めている人物像など、様々な視点からお話を聞いてきた。
■ミクシィ
■『モンスト』の根源にある「集まって遊ぶ価値」と「緊張の緩和」
株式会社ミクシィ 執行役員
モンストスタジオ事業本部長
『モンスターストライク』プロデューサー
木村弘毅 氏
――:本日はよろしくお願いします。はじめに木村さんの簡単なご経歴からお聞きしたいと思います。当初から現在の業界を目指されたのでしょうか。
大学生の頃から友人と一緒にゲームで遊ぶのが好きでしたので、いつかはエンタメ業界に行きたいと思っていました。ただ、一口に“エンタメ”と言っても、テレビやゲーム、音楽、スポーツなど様々です。それこそ友達とご飯食べたり、ただ喋ったりすることも当てはまるなと思っていました。
そして「これらに共通するものって何だろう…」と考えていた結果、自分の中で“コミュニケーション”という答えに行き着きました。当時から時代の流れとともにコミュニケーションは形を変え続けていましたし、そこに関わるエンターテイメントを制作したいと思ったのです。
――:ミクシィ入社以前はどちらにいらしたのでしょうか。
はじめは電気設備系の会社に勤めていました。ですが、どうしてもエンタメ業界に行きたいという気持ちが捨てきれず、2005年3月に株式会社インデックスに転職しました。ちょうど当時は、モバイルインターネットの普及が顕著で、携帯電話だけでWEBサイトの閲覧や掲示板への書き込みが出来るようになった時期でした。インデックスでもモバイル向けのSNSを立ち上げるという話が進んでおり、未経験ではありましたが、その立ち上げに携わっていました。
ただ、当時はモバイル版「mixi」の存在が大きく、モバイルでは後発だったものの、すぐにバイラルで広がっていき、短い期間で圧倒的な差を付けられてしまいました。そういった経験もあり、コミュニケーションツールで業界のトップを走っているということは、学べることや実現できることも大きいだろうと思い、2008年6月にミクシィに転職することにしました。職種としては、今も昔も企画・プロデュース職となります。
――:ミクシィ入社当初は、どのような事業に携わったのですか。
最初に担当したのは、mixiモバイル上で複数のミニゲームが遊べるサービスです。ゲームを介してSNS上の友達とゲームでランキングを競い合うことができるのですが、まだまだコミュニケーションの中に入り込んでいく余地があると考え、ゲームでもPCとモバイルで共通のプラットフォームを作るプロジェクトが動いていました。そこに私もジョインしていった感じです。
――:なるほど。ミクシィでは、当初からゲーム事業に携わっていたのですね。
はい。プラットフォームが出来てからは、いわゆるSAP(ソーシャルアプリプロバイダー)さんの開拓に注力しました。何百社にも及ぶゲーム会社さんとお会いしている中、『サンシャイン牧場』を手掛けた中国のゲーム会社・Rekooさんの担当になるなど、ソーシャルゲームが市場として伸び始める場に立ち会うことができました。その後、ゲーム要素のあるスマートフォン向けコミュニケーションサービスの新規立ち上げなどの新しい取り組みに挑戦していました。
――:そうして、『モンスターストライク』の開発に着手されると思います。開発経緯に際して、何かコンセプトなどはあったのでしょうか。
今思うと、特別ゲームである必要があったかも分からないのですが、とにかく“みんなで集まって遊ぶ”という軸のもと開発しました。これまでの担当していたサービスは、いわゆる「非同期型」のコミュニケーションでしたが、今度は「同期型」かつ「誰かと一緒に会っているときに遊べる」ということを意識しました。
また、当時は端末を持ち寄って遊ぶという移動体通信の“移動”という部分にフィーチャーしたサービスが少なく、“みんなで集まって遊ぶ”というカテゴリが私のなかではブルー・オーシャン(競争相手のいない未開拓市場)に見えました。そこで、アプリで同期を取りながら遊べる作品を開発しようと思い、『モンスト』のプロジェクトがスタートしました。
――:するとゲームシステムや世界観を考えるよりも、当初から「遊び方」や「コミュニケーション」のところから、『モンスターストライク』が始まったということですね。そういう意味では、これまで木村さんが携わられた「mixiゲーム」のプラットフォームなどの経験も生きたのではないでしょうか。
そうですね。モンストの前に挑戦した新しい取り組みについては、結果的にサービスは終了してしまいましたが、その経験から得られたものは『モンスト』でも大きく生きていると思います。どういう風にライフスタイルを改革していくのか、大げさに言えば人類を進歩させていくような……そういう新しい遊び方を何とか提供できないかという思いがあって『モンスト』が始まりました。
――:とはいえ、そこからゲームジャンルを定めなければなりません。どういう経緯で現在の形になったのでしょう。
コミュニケーションサービスを開発するうえで、いくつか設計思想があると思っています。その一つとして大切なものが、誰もが理解できるような共通言語だと思います。たとえば、みんなが英語や中国語、フランス語など、異なる言語で会話してもコミュニケーションが成り立たない。そこで、今回スマホアプリでゲームを開発するにあたって、遊ぶ人にとっての共通言語となる簡単なルールとして“物理現象”を用いようと思いました。
――:なるほど。そこから“ひっぱりアクション”が……
はい。パチンコや弓のように張力を与えて、引っ張って離すと飛んでいく……
というのは誰でも理解できますし、かつ気持ちのいいものなので、これを用いてゲームを表現しようとなりました。
当初、アクションRPGを考えていたのですが、この“アクション”に関して色々分析していったところ、移動して攻撃するといった行為を、最大限に抽象化したものとして“突進”に辿り着いたのです。そこから、引っ張って離すと突進するというモンストのアクションが作られていきました。これなら複雑な操作の必要もなく、ひとつの操作でキャラクターを動かせるのです。
――:ちなみに、木村さんがゲーム作りで大切にされていることはなんでしょう。
私の持論としては、突き詰めて言えば全てのエンターテイメントは“緊張の緩和”をどう作り出すかだと考えています。少しご説明しますと、脳にストレスをかけると人は緊張状態になります。緊張状態とは脳内でノルアドレナリンが出ている状態です。これは、闘争あるいは逃避反応を生じさせる化合物で、人にストレス要因を取り払う行動をとらせます。
また、ストレスがかかると同時に、βエンドルフィンという快楽物質が出てきます。このβエンドルフィンはストレスを麻痺させる効能を持っていて、実際にストレスが無くなりノルアドレナリンも消えた時に、このβエンドルフィンだけが残るので、言わば幸福感や達成感を得ることができるのです。ゲームでよく言われるリスクとリターンというのは、これら緊張の緩和を作用させる大きな要素だと思っています。
――:実際に脳内で機能する神経伝達物質が影響しているのですね。たとえば、『モンスト』ではどのようにリスクとリターンを取り入れているのでしょうか。
ひとつはモンスターを引っ張って角度を決めるところに、リスクとリターンを仕掛けています。たとえば、「いまここでハート(回復)を取りに行くべきか」「先に敵を倒すべきなのか」「そもそもこの角度で敵に当たるのか」など、つねに一手一手を悩むことになります。
もうひとつは、敵を怖いと思えるような仕掛けも重視しています。というのも『モンスト』では、HPバーの増減が激しい仕様となっています。敵に与えるダメージも大きいですが、逆に敵から受けるダメージも大きいため、プレイヤー自身も「やばいやばい!やられる!」と緊張状態になり、そして無事に敵を倒すとホッと一息付けるようになっています。
――:たしかに『モンスト』のレベルデザインは絶妙ですよね。
じつは、開発当初は敵もプレイヤーもじわじわとHPが削れていく仕様だったのですが、それだとあまり緊張感がなかったんです。なので、敵味方両方のダメージの振り幅を大きくして、回復タイミングを増やしたんです。そうするとボスにも「バコーン!」と大ダメージを与えることができますし、プレイヤーも大きくダメージを受けるので緊張感と爽快感が同居するゲーム展開にもすることができました。また、ボスは一度倒すと逃げて、次のBATTLE(フェーズ)に進むのですが、そこではHPが回復するようにしています。これらは、先ほど申し上げた緊張がつねに緩和されるような状況を作るためになります。
――:マルチプレイにも同じ影響を与えてそうですね。
ええ。友人と遊ぶときに、ついつい「ワー」「キャー」と声が出てしまうのは、まさに緊張感があるからこそですね。また、その共感はインゲームだけではなく、見ているだけの人にも伝わり、様々な刺激が綯交ぜになっていくものだと思います。そのため弊社を志望するプレイヤーやプログラマーの方は、こうしたギリギリの気持ちよさの演出を、どのようにゲーム性として設計していくのかが大事となっていきます。
■「人々を驚かせる新しい価値を提供したい」
――:ここからは採用面についてお聞きしていこうと思います。まずモンストスタジオの開発規模ですが、どれほどになるのでしょうか。
現在スタッフ数は200人強です。開発チームはもちろん、海外版のローカライズを担当するスタッフもいるほか、3割近くがマーケティングスタッフになります。
ゲームは遊ぶまでの雰囲気を制作したり、伝えたりするのが非常に重要だと思っており、マーケティングにはこだわりを持って取り組んでいます。弊社スタッフが動画に出演してゲームを紹介するなど、サービスに関わるひとりひとりが様々なところで『モンスト』の価値をお客様に届けていく、言わばスタジオの全員で一本のオペラを作っていくような進め方をしています。その中で、全員が共通意識として持っているのは“とにかくお客様のことを第一に考える”ということです。
――:心に据えているものが全員一緒なのは強みだと思います。そういう意味では、社内の雰囲気などは……
賑やかですね(笑)。よくお昼休みとかには、『モンスト』のゲーム大会が始まるんですよ。新しいイベントが開始すると、それぞれ仲の良いグループで集まって、みんなあちこちで歓声をあげながら遊んでいます。
――:当たり前ですが、みなさん『モンスト』のことを愛していますね(笑)。
そうですね。『モンスト』が恵まれているのは、スタッフ全員に愛されていることが大きいです。「『モンスト』ってこういうものだよね」…というのを、共通意識として全員が持っているのです。
たとえば、グッズ制作のときに、担当者が立体物を持ってきたのですが、とくに指示しなくとも「あーそうそう、レッドリトラこんな感じだよ」と、きちんとポイントを押さえていることが多いんですよ。もちろんキャラクターデザインやゲームバランスなど、開発面においても同じようなことが言えます。本当に『モンスト』はみんなから愛されているタイトルだと思います。
――:ユーザー目線も大切にされて、なおかつ好き前提で行動されている点については、御社の強みなのかもしれません。
そうですね。実は、中途入社で応募する方のほとんどは、「『モンスト』が好きだから携わりたい」…という人ではないですね。ただ、スタジオに入ると、みなさん自然と『モンスト』にハマっていき、より良い形でお客様に届けることに注力してくれています。それは安易な“仕事だから”という理由ではなく、携わるコンテンツが楽しいからこその行動というところが大きいです。
――:分かりました。それでは、最後にモンストスタジオを含め『モンスターストライク』の今後の展望を教えてください。
協力や対戦など、友人と集まってみんなでワイワイ遊べるというコンセプトに共感できる方は、ぜひモンストスタジオに応募していただければ幸いです。我々も歓迎します。
――:本日はありがとうございます。
(取材・文:編集部 原孝則)
■ミクシィ
■インタビュー記事一覧
© mixi, Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121