エイチームのポジショニングは、実に独特である。ソーシャルゲームのヒットタイトルを多数リリースすると同時に、グループ会社ではライフスタイルに紐づくITサービスを運営。気風はベンチャーでありながら、史上最速で東証一部上場を実現。本社は東京ではなく、名古屋にかまえている。そんなエイチームは、ビジョンとして掲げている“世界的ヒットメーカー”の実現に向けて、どのような事業戦略を組み立て、どのような開発環境を整備し、どのような人材を欲しているのか。取締役で、エンターテインメント事業の本部長を務める中内氏に、その全てを伺った。
■地に足をつけながら、新しいボールも投げていきたい。
──:まずは御社の事業的な強みから教えてください。
ゲームやデジタルコンテンツを提供する「エンターテインメント事業」と、比較サイトや情報サイトなどを提供する「ライフスタイルサポート事業」という2つの軸を持っていることです。後者で得た利益をゲームに投資することもできるので、思い切ったチャレンジはしやすいですね。ゲームだけに依存していると、失敗を恐れてどうしても戦略が手堅くなってしまいますが、私たちはそこでブレーキをかける必要がありません。
──:エイチームのタイトルはチャレンジしつつも、堅実にヒットを飛ばしていらっしゃる印象があります。
ありがとうございます。理由としては、マーケットの分析から発想のきっかけを得ているからだと思います。最初にユーザーの動向をつかみ、その延長線上にあるトレンドを先読みしていくという流れで開発を行うことが多いですね。
──:海外でリリースするときも、プロセスは同じですか?
同じです。「どのエリアで売るか」というマーケットをある程度絞った上で、分析を行います。たとえば『ダークサマナー』をリリースした時期だと、日本でのカードバトル市場はすでにレッドオーシャンでしたが、北米ではまだまだブルーオーシャンでした。
──:コンセプトや内容のクオリティに目が向きがちですが、マーケティング戦略もヒットの要因を担っていたわけですね。
エイチームにとって、あの成功は大きかったですね。本格的な海外へのチャレンジは初めてで、広告もそれほど打ち出していなかったにもかかわらず、Google Play 米国総合トップセールスランキングで最高1位になりました。以後、意識は大きく変化しました。日本のランキングで上位を目指すだけが全てではないと思えるようになったというか。
──:マーケティングに基づいた仮説立ては他社も行っていると思いますが、御社はどこが違うのでしょうか?
リサーチの精度だと思います。オフィスに外国人のメンバーがいるので(※現在6ヶ国のメンバーが在籍)、リアルな情報が集まりやすいんです。日本人のメンバーも日頃からアンテナを張っていますよ。欧米圏のニュースサイトを見て内容を共有したり、みんなで海外のゲームをプレイして「他とどう違うのか」を勉強したり。
──:それがスタンダードになっているわけですね。
みんながグローバル意識を当たり前のように持っていれば、日本にいながら海外でのヒットを狙いやすくなると思っています。社内には英語を学習できる福利厚生もあるように、日本と海外のボーダーラインは今後さらになくなっていくでしょうね。
──:やはり世界を目指すことが大前提なのですね。
世界中のランキングで、常に上位に位置していることが理想です。これまではトレンドの半歩先を狙っていましたが、既存タイトルが堅調を維持し、足場が固まってきた今、これからはより新しいものをつくっていきたいと考えています。もっとアクセルを踏み込もうと、今は試行錯誤している最中ですね。
──:次なるフェーズに来ていると。
地に足をつけながらも、新しいボールも投げていきたいんです。市場を開拓してきたゲームはどれもそうですから。何かしらの形で既存の概念を打ち破っている。「その組み合わせはなかったよね」「エイチーム、それやるんだ」と思われるような新しい遊び方を提案していきたいですね。
■ゲームの内容も、給与も、メンバー次第。
──:新しいボールを投げていく上で、新しい人材は欠かせないと思います。エイチームが求めているのはどのような人材ですか?
まずは当事者意識を持てる方です。エイチームの基本的な風土としてトップダウンの風土がなく、チームに全てを任せています。しかも、1つのプロジェクトを10~20名で担当しているので、一人ひとりの発言権が大きいんですよ。デザイナーやエンジニアが企画に意見を出すことはしょっちゅうありますし、全体の方向性を動かしていくことだってできます。全てが、自分たち次第。みんなでビジョンを共有し、みんなで責任を持ち、みんなで目標を達成するというスタイルでゲームづくりを進めています。
──:先ほどオフィスの中に入らせていただいたとき、メンバーの方たちが活発に話し合っている光景が印象的でした。
ランチの時間にも熱く議論を交わしていますからね。新人が先輩に堂々と意見をぶつけることもよくありますよ。ただ、この風土が成り立つのは、それぞれが謙虚さを併せ持っているからこそ。積極性と協調性のバランスは重要なポイントです。
──:御社は本社が名古屋です。メンバーも東海地方で生まれ育った方たちが多いのでしょうか?
割合で言うと多いかもしれませんが、関東圏や関西圏からも人材は集まっていますし、これからも力を入れていく予定です。東京から名古屋って、案外近いんですよ。とりあえず気軽に足を運んでほしいという狙いから、大体月に1回ペースで、「水9プロジェクト」というイベントを開催しています。水曜日の9時からエイチームの技術者と座談会ができるという取り組みで、9時だと会社帰りでも間に合う時間です。時間がある方は、観光ついでにぜひお越しいただきたいですね。
──:名古屋は美味しい食べ物も多いですし。
カップルでデートがてらで来る人もいますからね(笑)。
──:確かに一石二鳥です(笑)。
女性の社員も多いので、雰囲気も和やかですよ。
──:男女比率はどれくらいですか?
全社的な比率は6:4ですね。女性の管理職も多くて、グループリーダーの半数は女性です。ステップアップにあたっては中途入社でもスピーディーな昇進は可能ですよ。契約社員だったメンバーが、正社員登用後に1年でグループリーダーになった前例もあります。
──:給与に関しても、スピーディーに上がっていくケースはありますか?
年俸制を採用していて、給与改定の場を年2回設けています。その場では、「次の半年はこういう施策を実行して、これだけの売上をつくります。達成をしたら給与をこれくらいにしてください」といった申告を、個々が事前に行うんです。その内容を半年後に自己評価してもらい、給与に反映させています。目標をクリアしたメンバーの中には、20代で年収1000万円を超えたこともありますよ。給与をどれだけ上げたいのかは、その人次第です。「これくらいでいい」というよりは、「一旗揚げたい」くらいのハングリーな人の方が向いているかもしれませんね。
■クリエイターでありながら、ビジネスマンでもあってほしい。
──:活躍している方に共通している資質はありますか?
ビジネス感覚を持っていることでしょうか。日本のクリエイティブ業界には職人文化があって、「いいものをつくれば認められる」という風潮が長らく続けていました。コアユーザーが集まっていたコンシューマーの時代はそれでよかったかもしれませんが、今は違います。スマホアプリで遊んでいるのは、スーパーライトユーザーがほとんどです。トレンドを客観的に捉えた上で、戦えるマーケットをグローバル規模で見極める判断力があるかどうかが、ゲームクリエイターとして生き残っていくために必要だと思っています。独りよがりではいけないんですよ。私たちの根底にはおもしろいもの、より良い品質のものを創るという想いを持ちつつも、世の中の様々な変化にも対応するというスタンスも重視しています。
──:クリエイターも適者生存の考え方を持つことが大切なわけですね。「ゲームだけをつくりたい」だけでは足りないと。
技術を高めることに関してはすごく長けていても、売れるかどうかを考えているクリエイターはまだまだ少ないですね。財務諸表が読めるエンジニアやデザイナーって、ほとんどいないんじゃないかな。エイチームでは毎月の全社の情報をオープンにしていて、全社員が経営について関心を持てるようにしています。
──:利益や人件費がリアルに分かると、ビジネス的な視点を持ちやすくなるかもしれませんね。数字が身近なものになる。
海外のクリエイターは日本よりもビジネス志向が強いんですよ。私は毎年、世界各国のゲーム開発者が集まる「GDC(Game Developers Conference)」に参加させていただいています。GDCが始まった初期はカリフォルニアの小さな施設で開催されていましたが、段々と人数が増え、今では巨大施設で数万人が来場するイベントになりました。ここでは技術情報の共有はもちろん、マーケットの分析や未来へ向けた考察なども行われています。つまり、クリエイターでありながら、ビジネスマンとしての姿勢も持っている。エイチームのメンバーにもそうあってほしいと思っています。
──:最後になりますが、中内様がエイチームにジョインしてから一番印象に残っていることって何ですか?
東証マザーズに上場した日は思い出深いですね。ちょうど創立記念日で、全社的な催し事を開いていました。エイチームの創立記念日は2月29日。うるう年なんですよ。4年に1回しか訪れない日に上場の承認が下り、催し事の最中にサプライズで発表したら、みんな本当に大喜びで。泣いているメンバーもいましたね。経営についてみんなで考える風土が浸透しているからこそ、会社が成長したときに感じる喜びも大きいのかもしれません。
──:次のうるう年は…。
2016年です。
──:次の創立記念日には、どういった未来を迎えていたいですか?
『ダークサマナー』以降、スマッシュヒットのタイトルはありますが、大ヒットと呼べるものがないんですよ。世界中のランキングを賑わせるような。来年の創立記念日には、世界中に胸を張って誇れるようなタイトルを会社のみんなで発信していたいですね。
──:この1年の動向、楽しみにしています。本日はありがとうございました。
■関連サイト
会社情報
- 会社名
- 株式会社エイチーム
- 設立
- 2000年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 林 高生
- 決算期
- 7月
- 直近業績
- 売上高239億1700万円、営業利益5億6200万円、経常利益6億900万円、最終利益9億5300万円(2024年7月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3662