【App Annieセミナー】アプリマーケティングの有効性とは… リサーチ部隊の立ち上げ秘話や売上・DL数のほかに注視する数字について講演
App Annie (アップアニー)は、2015年5月某日、都内でゲームアプリ事業者向けセミナー「Decode "Gaming" Apps」を開催した。
本セミナーでは、ゲームアプリ開発者をはじめ、マーケティング部門、経営企画部門の実務家に対し、国内外のゲームアプリ市場動向に関する情報共有を行い、アプリマーケティングの有効性の認知を広く高め、アプリ市場の発展に貢献することを目的として催された。
当日は、マーベラス、サイバード、Kunlun Japan、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの4社の各担当者が登壇し、App Annie『Intelligence(インテリジェンス)』の活用方法やユーザー流入施策、海外展開のローカライズ・カルチャライズなど、多岐にわたる内容について講演。
本稿では、前後編の2回に分けて、セミナー模様を伝えていく。
■売上やDL数のほかに注視するデータ
セミナーの冒頭では、App Annie Japan カントリーディレクターの滝澤 琢人氏が登壇し、開会の挨拶と共に最新アプリ市場動向、自社製品の活用方法について講演を行った。
「Social Game Info」読者には最早説明不要ではあるが、「App Annie」(公式サイト)とは世界規模のアプリの市場データと分析ツールを提供している情報プラットフォームである。App Annieの製品は、アプリストアランキングのトップ100のパブリッシャーのうち90%以上、計82.5万以上のアプリに利用されている。
滝澤氏は、同社主催の本セミナーの開催経緯について「Decode "Gaming" Apps」(ゲームアプリを紐解く)というテーマがあるように、開発・運営舞台裏でパブリッシャーが日々どのようなことにチャレンジしているのかを、実際の生の声をもとに情報共有する場とし、アプリビジネスの発展に役立てていくためと説明してくれた。
App Annieと言えば、2015年5月6日にモバイルデータ調査会社の Mobidia社を買収し、iOSとAndroidの世界60ヵ国・20万以上のアプリを調査対象とした、 アプリ利用状況データ製品「Usage Intelligence(ユーセージ・インテリジェンス)」 の正式版を日本の法人顧客向けに提供開始したことが記憶に新しい。
「Usage Intelligence」は、世界最大のアプリ利用状況データベースであり、世界20億人のスマートフォンユーザーのアプリ利用動向に関して、市場で最も深い洞察を提供する製品。これまでのApp Annieでは、ダウンロード数や売上データを把握することまでは出来たが、同製品では他社アプリのアクティブユーザー、平均利用額、平均セッション時間、利用頻度、総セッション数と総利用時間、国別の市場普及率までも把握出来るようになった(データは月・週・日ごとに閲覧可能)。
「成功アプリには様々な定義があります」と滝澤氏が語るように、ダウンロード数と売上ランキングは、あくまでも指標のひとつである。それだけで実態を把握しきれないケースもある。日々、多種多様なゲームアプリが湯水の如く溢れ出てくる昨今の市場において、“時間の奪い合い”が起きているのもまた現状だ。
提供:App Annie
滝澤氏は「Usage Intelligence」を活用したひとつの例を出した。我々がよく目にしている各アプリストアの有料・無料・売上ランキング、ご存知のように各国の売上ランキングでは『クラッシュ・オブ・クラン』や『キャンディークラッシュ』が上位に定着しており、ただ漠然と眺めていても新しい動きは、あまり見つけられないかと思う。
しかし、これらを実際に同製品で「利用時間が多い順」に集計すると、TOP10のランキングが驚くほどガラリと変わったのだ。製品の契約上、具体的にどのアプリが上位に食い込んだかは差し控えさせていただくが、海外のアプリストアでも日本製タイトルがいくつかランクインしているのを確認できた。
このように、「Usage Intelligence」から得られる平均セッション時間や利用頻度など新たなデータをもとに、アプリ戦略の立案から業務提携を行う際の戦略的な意思決定に至るまで、アプリのライフサイクルの全段階において重要な情報を把握することが出来るようになったのだ。ひいては“該当アプリがどれだけ普及するか”を事前に予測することも可能となり、活用次第ではさらなるヒットアプリの創出にも繋がるかもしれない。
提供:App Annie(上部スライドは例としてダミーデータを基に制作)
主催社側の滝澤氏は、今回はあくまでもスマートな講演で留めて、続くゲスト登壇者にバトンを渡した。
■“社内で理解されない数字(データ)”…リサーチ部隊の立ち上げ秘話
続いて、マーベラスのデジタルコンテンツ事業本部 事業企画部長 兼 オンラインマーケティング部長である猪野洋氏が登壇し、同社のリサーチ部隊がApp Annieをどう利用し、どう浸透させたのかについて講演。当日用意されたタイトルスライドには“ぶっちゃけます”…との文言があったように、これまでの流れを包み隠さず語ってくれた。
マーベラスのスマホゲーム代表作は、ご存知Aimingと共同開発した『剣と魔法のログレス いにしえの女神』(以下、『ログレス』)を筆頭に、他タイトルも堅調に推移している。
そもそも猪野氏は、2013年10月に事業企画部を設立し、当時はひとり部ひとり部長だったようだ。「当時はマーケティングを分かっていない人でした」と自身のことを振り返ったのだが、そんな状況から如何にして事業企画部が機能する状態になったのか…講演内容をレポートしていく。
まず、マーケットを把握するため、2014年1月にApp Annie社と契約し、同年9月にはアジアの一部とアメリカのマーケットに機能拡張を実施。契約後は社内のプロデューサーや部長陣にアカウントを配布し、各コンテンツの責任者が市場のデータを把握できる土壌を整えたのだ。
社内でApp Annieを導入して、これでひと安心……かと思いきや「状況はなにも変わりませんでした」とまさかの結果に会場は笑いに包まれた。
というのも、実際にApp Annieを導入してアカウントを配布したところで、誰も見ていないことが分かったのである。「そもそもログインもしていませんでした」と言葉を添えるも、すぐに猪野氏は「見てもらう為に」「理解してもらう為に」「活用してもらう為に」と段階を経て、App Annieの活用方法を社内で伝える動きを始めたのだ。
はじめに取り組んだのは、App Annieのデータを活用して、自社アプリの状況や他社アプリの動向など、ひと目で分かるような“月次レポート”を作成することだった。それも完成したら主要メンバーにのみメールで配布するのではなく(同じように見られない心配があるため)、一同に集まる定例会に事業企画部が出向いて説明を行うといった、押しつけにも似た地道な活動を繰り返して理解してもらうことに努めていったのだ。
月次レポートの作成と発表は、意思決定のタイミングにも繋がったという。
じつは、『ログレス』でテレビCMを展開する際に、社内の一部から実施に対し、僅かながら否定的な意見もみられた。その時、月次レポートをもとにテレビCMの期待効果や参考となる他社アプリのテレビCM実施時期・施策を整理し提示したことで、「じゃあ、やってみましょうか!」と、迅速な意思決定に繋がったとのことだ。
このように、地道な活動を繰り返していくことで「事業企画部は何でも教えてくれる」というイメージが社内全体に少しずつ定着していったという。猪野氏は「現場からは新規企画の目標設定やリスク把握、ベンチマークの推移やポジション把握、過去事例をもとにクローズの意思決定など、様々な相談を受けるようになりました」と変化について語ってくれた。なお、ここまでの変化に至るまで約半年かかったとのこと。
現在では社内システムを開発しており、毎月の売上推移など各種データをWEB上で閲覧できるようになっているようだ。また、先日『ログレス』が2015年中に台湾・香港・マカオで配信されることが発表されたように、今後は海外市場におけるパートナー選定にも活用されていくという。
記事の後編では、サイバード、Kunlun Japan、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの講演内容をレポートしていく。こちらは後日掲載していく。
(取材・文:編集部 原孝則)
会社情報
- 会社名
- 株式会社マーベラス
- 設立
- 1997年6月
- 代表者
- 代表取締役社長 執行役員 兼 デジタルコンテンツ事業本部長 佐藤 澄宣
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高294億9300万円、営業利益24億1500万円、経常利益30億200万円、最終損益5億1700万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 7844
会社情報
- 会社名
- data.ai(旧App Annie)