【上期総括】「中国市場は開拓の余地あり」「日本でもVIPシステムが流行る」…成長著しい中国ゲームアプリ市場の裏表をワンオブゼム・張氏に訊く


スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2015年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2015年上期振り返り」。

今回は、成長著しい中国のゲームアプリ市場の現状を、株式会社ワンオブゼムで海外事業を担当する張青淳氏にインタビューを実施。同氏より、中国市場の現状・今後をはじめ、スマホゲームの運用方法を分析するサービス「Sp!cemart(スパイスマート)」の話題を交えた、昨今の日中アプリプロモーション動向など、様々な視点から話を伺ってきた。


 

■中国のゲーム開発会社は10万社以上

 
株式会社ワンオブゼム 取締役
張青淳 氏
 

――:本日はよろしくお願いします。当媒体では、「中華圏にみるゲームの大規模プロモーション事例」の寄稿記事(関連記事)としてお馴染みの張さんですが、こうしてお話を聞くのは初めてです。まず簡単にご経歴から教えていただいてもよろしいでしょうか。

もともと私は、国内大手インターネット企業の投資事業部門に所属し、中国での投資事業の立ち上げに関わっていました。約7年に渡る上海駐在の間には、中国・ 台湾・香港など、中華圏のベンチャー投資活動を行っていました。

そして、2013年に株式会社ワンオブゼムに参画し、取締役に就任、ゲーム運営部門の責任者を経て、現在は海外事業および新規事業開発を担当しています。おもにモバイルゲーム運用マーケティング事業「Sp!cemart」の立ち上げや、国内外ゲーム企業へのローカライズアドバイザリーなどのソリューション提供を手掛けています。



――:ありがとうございます。張さんは、日中ふたつのゲームアプリ市場に知見があるお方ということもあり、今回のインタビューでは双方の市場についてお聞きしていこうと思います。はじめに、日本における2015年上期振り返りのゲームアプリ市場の動向についていかがでしょうか。

やはりプレイヤーが決まってきている印象が見受けられます。というのもゲーム開発費や広告費が高騰し、資金力や資金調達力のあるプレイヤーがランキング先頭グループの中心となり、資金力のないベンチャー企業のトップランク入りはほぼ見られなくなってきました。その一方、運用重視の日本市場において、海外勢の新規リリースタイトルで、大きく売り上げているタイトルがこの上半期は見られなかったのも特徴的です。


――:各企業は手堅く売上を狙うため、やや保守的になり、次第にゲームのフォーマットも固定されてきていますよね。なかにはセガゲームスさんのように『オルタンシアサーガ』や『モンスターギア』と、この上半期にアクションとRPG、立て続けに双方でヒットさせたのは大きなトピックスかと思います。

そうですね。セガさんもそうですが、個人的にグループ会社含むサイバーエージェントさんが健闘しているように思います。ブラウザゲームからのノウハウを、きちんとネイティブゲームにも落とし込んでおり、そのなかで『グランブルーファンタジー』や『ロイヤルフラッシュヒーローズ』など新機軸のタイトルを生み出していくのは、なかなか出来ることではないと思いますし、印象に残る企業だと感じています。


――:なるほど。ネイティブシフトの舵取りやタイミングひとつで、企業によって明暗が分かれるところも多々ありました。

ええ。新規タイトルをリリースし、新しいユーザー層を獲得することだけではなく、できるだけタイトル1本あたりのライフタイムバリュー(LTV)を長くすることの重要性が、いま再認識されてきていると思います。そのため、高課金単価型ではないマネタイズや、ガチャ以外の仕組みをユーザーに提供するゲームが目立ってきています。


――:一時的な爆発より、いかに飽和状態にさせないための運用力が求められるのですね。

はい。ロングランヒットを目指すデベロッパーやパブリッシャーが「運用」をより重視する方向性が強まっていて、そのため弊社の「Sp!cemart」のニーズも非常に高まってきています。また、弊社へいただくご依頼から感じることは、ゲームスキームのみならず運用に対する客観的な評価体系の需要が高まってきていること。今後も各社「開発」×「運営」の両軸を延ばしていく流れは続くと思っています。


――:中国のスマホゲーム市場について、2015年上期を振り返ってはいかがでしょうか。

引き続き市場は凄まじい勢いで右肩上がりです。現在中国では約2万社以上の開発会社が存在しており、個人事業主も含めると10万社以上と言われています。また、昨年からより本格化した大手ゲーム企業とベンチャーキャピタルによるスタートアップゲーム開発会社への投資や買収が本年も頻繁に起こっており、投資額と時価総額が高騰し資本市場が過熱しています。

たとえば、大ヒットゲームアプリ『刀塔伝奇』(日本タイトル『Soul Clash』)では、20代中盤の若者たちがわずか15人で開発し、60億円〜70億円の売上を記録しました。ベンチャーでもメガヒット作品が生み出せるという良い見本として、ゲームアプリ市場に参入する方が増加したことはもちろん、開発ライン確保という意味でも大手ゲーム企業をはじめとする中小企業の買収も積極化しています。

 
 


――:とはいえ、個人事業主も含めると10万社以上あるわけですから、なかなか投資先の選定も難しくなってくるのではないでしょうか。

いえ、肩書きひとつで決まることも多いです。たとえば、私が元・大手ゲーム会社出身の名物プロデューサーだとしましょう。すると、別にゲームのコンセプトが無くとも、すぐ20億円~30億円は決まってしまいます。開発当初から億単位の資金が手元にあると、開発スケールも日本と比較しても全く異なってきますよね。


――:日本ではシリーズA、シリーズBを経て2億円~3億円集めるだけでもすごいですが、いやはや桁が違いますね。ちなみにゲーム開発で20億円~30億円あったところで、そこまで開発で使わないのでは……。

あ、余ったら全部広告で使いますね(笑)。


――:なるほど(笑)。今後も大手ゲーム企業やベンチャーキャピタルによる、ベンチャーの投資・買収も過熱していくということでしょうか。

ええ。そのひとつの原因に「殻借り上場」というものがあります。じつは現在、中国国内の株式市場へのゲーム会社の上場が約2年待ちで、その過密状態のなか、異業種上場企業に未上場のゲーム開発会社の事業を移し、実質的に上場を果たす裏口上場のケースが話題となっています。このことを「殻借り上場」と呼びます。


――:上場するために順番待ちしているのならば、大手企業に買収されて取り込まれたほうが早い…ということですね。加えて大手企業にとっては、ゲーム事業部門が新たに設立されたような形ですし、双方にとっての旨みがありますね。

そういうことです。たとえば、上場している靴屋が年間20億円の売上があったとして、そこがヒットゲームを抱えるベンチャー企業を買収するとします。売上が一気に跳ね上がり、もちろん株価も上がって、その後に回収して、さらにその資金で新しいゲームを作る……というサイクルが出来上がるのです。

ゲーム開発には、プロモーション費用を含めると潤沢な資金が必要です。そういう意味では、一番潤沢な資金が集まっているのは中国なのかもしれません。スタートアップにとっては、“買収される”という明確なゴールもあるため、彼らにとってはモチベーションにもなりますよね。



――:日本の企業を買収するケースはあるのでしょうか。

あまり事例はないですね。私は前職で投資を担当していたのですが、やはり日本と中国では経営方針・考え方も違いますし、そもそも中国人から見て日本で流行るゲームもよく分からないようなので、デューディリジェンス(買収前に行う買収対象企業の調査のこと)が非常に難しくあります。中国の起業家は、すぐにゲーム問わずM&Aを視野に入れますし、開示するときはオープンに言うこともあり、とにかく経営判断が早いです。


――:日本と中国では開発スタイルも全く異なるでしょうしね。

お互いで感覚がずれているので、なかなか共同開発で良いタイトルを生み出すのは、難しいことかもしれません。それよりも「中国の自社で新しく作ったほうがいい」「コピーしたほうがいい」という考えに行き着くのでしょう。


――:中国のプロモーションについてはいかがでしょうか。これまでの張さんのコラムでも度々取り上げられていますが、引き続き大金を突っ込むメガプロモーションが……。
 

はい。もう中国企業にとっては、とにかく時間が無いんですよ(笑)。それこそリリース後の初速が期待値より低かったら、新しいゲームを開発したほうが効率良いと思うぐらいです。そのため中国では、次々と新しいタイトルが出てきて、市場の新陳代謝が異常なまでに加速しています。たとえ失敗しても資金力があるため、すぐに「次の作品に!」と切り替えられるのも特徴ですね。


――:タイトルが量産されていく背景に、企業の数はもちろん、開発スピードも早いということでしょうか。

全部とまでは言いませんが、いかに早く出して、いかにゴージャスに作るかは、開発におけるひとつの指標となっていますし、やはり技術力はすごいですね。また、海外情報に関しても敏感です。未だに中国ではFacebookやGoogleは使えませんが、たとえば「Social Game Info」の記事が投稿された30分後には、もう現地のメディアで中国語として掲載されていたりしています。

中国の開発陣は、日本のゲームが繊細に作られていることを理解しているため、メディアを通して積極的に日本のゲームを研究しています。新しいゲームが出たらすぐに遊びますし、それが面白かったすぐにコピーします


 

■「日本でもVIPシステムが流行る」「中国市場はまだまだ開拓の余地あり」


――:先ほど日本のランキング上位が固まってきたという話をされましたが、中国のランキングでも上位は変わりませんか。

だいぶ固まってきていました。私たちのなかでは「テンセント」か「非テンセント」という言葉をよく使います。やはりテンセント社のタイトルが上位を占めていますね。というのもテンセントは複数のプラットフォームを運営しており、簡単に一日で100万ダウンロードを達成してしまうんですよ。そりゃ上位に行きますよね(笑)。ただ、テンセントのゲームはDAU(Daily Active Users)が多くて、課金率とARPPU(課金ユーザーひとりあたりの平均売上金額)が低いため、日本で言うところの「LINE GAME」のようなポジションです。

その一方で、『刀塔伝奇』など非テンセントタイトルもかなり健闘しています。本当にクオリティの高いゲームは、ユーザーに受け入れられることは証明されているので、今後ランキングの動向も変わっていくのではないでしょうか。



――:上位を占めるタイトルのトレンドはいかがでしょうか。

日本とは異なり、RPG押しのタイトルはありません。どちらかというと、シューティングゲームなど割とドヘビーなタイトルが人気を博すことが多いです。


――:また、中国ゲームアプリのマネタイズで主流なのが「VIP課金システム」(月に一定の課金をすると月単位で課金分の恩恵が得られるシステム)です。

ランキング上位のタイトルは、ほぼVIPシステムを採用しています。このシステムは、課金すればするほど、それに見合った恩恵が得られるようになっています。たとえば、かけた金額に応じて経験値が増えたり、ゴールドが増えたり、一定のVIPレベルまで到達したら貰える特別なアイテムがあったりと……。そのため、ゲームの設計もVIPシステムのなかでも上位の方に併せて作っています。


――:個人でゲームを進めるならまだしも、PvPの場合ではどうしても課金量が多い人が圧倒的に有利ですよね。もうそこらへんは仕方ない感じで。

そうですね。VIPにならないと勝てないというのは各ユーザーも理解しているので。そこはガチャでレア度の高いキャラが出た人のほうが有利になるという日本と一緒です。


――:ガチャ方式など、日本のマネタイズが中国で受け入れられないのは何故でしょうか。

ゲームで行き詰まったとき、ガチャで強いキャラが出てきたら前に進めると思いますが、VIPになるとそもそも前に進むことができます。「ガチャで強いキャラが出てくるかもしれない」というドキドキ感よりも、「とにかく上に立ちたい」という考え方が中国人の思想です


――:お金を払った分、それ相当の見返り(恩恵)が欲しいと。たしかに分かります。

みなさん最初はだいたい500円ぐらいまで課金し、500円レベルのVIPシステムの恩恵を得ていきます。レベルが上がると1000円、3000円、5000円、10000円とゲーム内の成長により、それに見合ったログインボーナスやアイテム、追加ステージなどをVIPシステムの恩恵を得たくなりますので、次第に課金額も増えていくのです。


――:タイトルによってまちまちだと思いますが、VIPシステムのなかで最高額で得られる恩恵はいかほど……。

だいたいVIPシステムは20段階ぐらいに分かれているのですが、平均して1ヵ月に50万円課金する人用の恩恵がどのタイトルにも用意されています。ただ、なかには500万円課金したプレイヤー用のVIPシステムの恩恵があるなど、タイトルによっては様々です。


――:かけた金額の分だけ、きちんとそれ相当の恩恵が用意されているのですね。

素晴らしい世界ですよね。VIPシステムで得られる恩恵は、ユーザーデータと照らし合わせながらやると割と設計しやすいようです。VIPシステムがあるからこそ、側替えのゲームやコピーゲームが増えますし、日本に対してはIP購入熱が高くなります。中国系企業が日本に来るとよく「アニメの版権を買いたい」と言ってきますが、中国でも人気のアニメキャラクターにVIPシステムを導入したゲームを開発すれば、ある程度売上も計算できるからだと思います。


――:それでは、2015年下半期のゲームアプリ市場についてお伺いいたします。まず日本市場は、率直な感想でいかがでしょうか。

下期から来年にかけて、恐らく日本でもVIPシステムが浸透するのではないかと思っています。VIPシステムはガチャをメインとする日本の課金体系と構造が大きく異なり、ユーザーにとって課金効率がよくヘビーユーザーに導きやすい点に優れています。配信側もユーザーを囲い込み安定的に課金収益があげられるため、日本においても本システム搭載へのチャレンジが始まり、浸透することも考えられ、ランキングの景色が変わる可能性があるのではないかと思っています。

実際にまだ数は少ないですが、次第に採用タイトルも増えていくと、ユーザーが遊んで、VIPシステムの仕組みを学び、ハマっていき、市場全体に浸透してくのではないでしょうか。万人が遊ぶような上位タイトルが採用すれば、大規模プロモーションと同時に多くのユーザーがVIPシステムに触れ、これらのマネタイズに良い意味で教育されていく……といった形です。



――:なるほど。日本のマーケティング施策についての今後はいかがでしょうか。昨今、ゲームアプリのTVCMが本当に多くなりましたが。

現在TV・ネット広告が主流ですが、TV以外・オンラインでもあらゆるチャネルを駆使してプロモーションするアジア他国の潮流を踏まえますと、日本市場においても「クロスプロモーション」はさらに進み、芸能人・声優・youtuberなどとのコラボレーションやFacebookコミュニティ、屋外広告、イベント(e-sports等)を活用し、ターゲットユーザーへの接触手段を増し接触度合いを深化させる施策が発展すると思っています。なかでも休眠ユーザーの呼び戻しでは、リアルマーケティングが効果的ですね。海外でもバス広告は頻繁に利用されています。
 


――:たしかにyoutuberを筆頭に、動画コンテンツの成長も著しくなってきましたね。

youtube広告は2種類のユーザーがいると思っています。ひとつは単純にゲームの攻略方法とか調べるためにyoutubeを利用する。もうひとつはゲームのスタミナが戻る5分~10分の間に、暇を潰すためにyoutubeを視聴する。「みんな遊んでいて当たり前」という流れを、いかに屋外広告やyoutubeなど、リアルとデジタルの双方で囲い込んでいくかも重要な要素となってきます。

たとえば、youtuberだけではなく、e-sportsのプロ選手たちにも注目することも大事です。ユーザーは、彼らに対して「目指したい」「見習いたい」などと思い、ファンが次々と付いていきます。企業側は、e-sportsのプロ選手をただ起用するのではなく、そこからいかに育成していくかがプロモーションとして重要なことになっていきます。

通常のスポーツでも自分の母校が出ていたら地元愛として応援したくなりますよね。知っている選手が『モンスト』で対戦するとなると、やっぱ気になりますし、応援したくなるものです。TVCMのクリエイティブも重要ですけど、いかにユーザーの間で話題になるかなど、そういうコミュニケーションのクリエイティブの設計はさらに重要だなと思っています。



――:分かりました。それでは、中国のゲームアプリ市場についてはいかがでしょうか。

中国で一番課金している都市は、北京・上海・広州ですが、これからは地方都市への戦略が活発になっていくと思います。田舎に行くと、これが意外にもほとんどの人がスマホを持っています。ですが、それらのスマホは中国電信(チャイナテレコム)から配られているため、持っている人は通話しかしませんし、ゲームにいたってはダウンロード方法も分からないのが現状です。


――:ということは……。

ええ、まだまだ中国には潜在ユーザーがたくさんいるということです。田舎のほうになると、どうしてもゲームのダウンロード方法はもとより、何を遊んでいいのかすら分からないと思いますので、“友達が遊んでいる”というきっかけ作りを軸に狙っていくのが効果的ですね。そのため、TVCMやインターネット広告はあまり関係なく、ゲームがお得に遊べるクーポンを配るのですよ。それこそ、もうアメ玉を配る感覚で。まだまだ中国は開拓の余地があると思っています。


――:最後に御社の今後の展開について教えてください。

おかげさまで「Sp!cemart」はこの一年間のなかで、国内の知名度も上がってきました。2015年下期は、中国・香港・台湾・韓国のマーケットを開拓していきます。また、8月末には「Sp!cemart」の大幅リニューアルも考えています。具体的には、チュートリアルやバトルシーン、イベント内容の状況などを集めたサービスを展開します。各タイトルのチュートリアルなどを調べるのってなかなか手間がかかると思いますので、そこをお手伝いするサービスとして成長させていきます。


――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部  原孝則)


■ワンオブゼム
 

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株式会社ワンオブゼム
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会社情報

会社名
株式会社ワンオブゼム
設立
2011年1月
代表者
武石幸之助
決算期
12月
直近業績
非公開
上場区分
非上場
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