【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」
仕事をしている人にとって実働時間の多くを占めているのが打ち合わせと会議ではないでしょうか。Google カレンダーやMicrosoft Outlook、サイボウズなどの業務ツールの進化によって打ち合わせや会議の設定とメンバーの招集が簡単になりました。空いているスケジュールが把握しやすくなったので、空いているところにバンバン打ち合わせや会議が入る。空いているところを埋めないと不安な人もいますね。
これを昔にくらべて情報の共有や決定が捗って最高だし便利だと思っている人はヤバい。
これからは会議と打ち合わせの本質を理解できている人が勝ちます。
今回はその話をします。
会議と打ち合わせは増えたが、それらはほとんど無駄なものかもしれません。だとすると本来はしないに越したことはないのですが、どうしてもしないといけない。なぜか?
ゲーム業界において起こるトラブルの原因は二つしかありません。「コミュニケーションのトラブル」と「技術のトラブル」です。技術のトラブルとてコミュニケーションのトラブルが発端であることがほとんどです。コミュニケーションが問題の元凶であるのは、チーム戦であるゲーム制作の宿命ともいえます。
ここでは……
■ 打ち合わせ ⇒ コミュニケーションを円滑にする場所
■ 会議 ⇒ 決める場所
と定義をしてみましょう。私はそう考えています。それ以外で打ち合わせと会議が設定されている場合は、まず無駄なのでは? と思っていいと思います。一方で上記のトラブルを防ぐためには打ち合わせと会議の実施は必須でもあります。これからは打ち合わせや会議が増えたときに無駄を見つけることができる、実施される意味合いをより理解できる人が良いものをつくれる時代になります。無駄と本質の見つけ方はいくつかあります。
■ 打 ち 合 わ せ 編
まず「コミュニケーション」とはどういうことでしょうか?
・自分の考えていることを限りなく100%近く相手に伝える「話す力」
・相手の考えていることを限りなく100%近く自分に伝える「聞く力」
この二つがやりとりされている状態のことです。100%に限りなく近くとありますが、これは、どうあがいても「100%分かり合うのは無理」だというショッキングな事実を理解しないとコミュニケーションの本質に近づかないということを意味します。
100%は脳みそがプラグでつながって完全同期しているくらいの状態ですから現代科学では絶対無理。言語や身振り手振り、文字や書類などのコミュニケーション手段は考えているよりもずっと未熟なものです。つまり自分の考えを完全に理解している他人はいない、相手のことを完全に理解できる自分はいないという前提で考える必要があります。
自分のことは自分にしかわからないくらいに考えるべきですし、伝えたつもりで伝えていないこと、わかったつもりでわかっていないことは実に多い。ゆえに伝えすぎる、聞きすぎるということはないと思ってください。積極的に伝えて、聞くことはとても良いことです。面倒くさがったり、プライドに邪魔されて恥ずかしがったり、相手との間に壁をつくったりしないでください。伝えない、聞かないのは仕事をしていないと同義のことです。これをしなくても仕事は進みますが、著しく品質が下がっていくことを覚悟してください。
次にコミュニケーションが「円滑である」というのはどういうことでしょうか? 簡単に言うと上記の「聞く」「伝える」を行いやすい環境をつくるということです。
どれだけがんばっても100%にはならないわけですから、99%の残り1%がノイズとして積もっていくと致命的なコミュニケーショントラブルになります。これを限りなくゼロにするために頻繁に修正する自分と他人とをつなぐ、伝えやすいパイプ「ホットライン」を築く必要があります。
たとえば、定期的に「打ち合わせ」をする必要があります。私の場合、より相手を知り、より自分を知ってもらうことが目的です。そのあとに決議の要素が入って「会議」に移っていく場合もありますが、制作会社との定例は打ち合わせから入ることが多いです。
上記の目的のためには一見、無駄に感じられる雑談が必要な場合があり、私は打ち合わせの冒頭まずこれをします。打ち合わせの本質を知らない人は雑談の間、退屈そうにしていますが、ここから読み取れることはとても多いです。
パブリッシャーとディベロッパーの関係において、こういったホットラインがなくても良いゲームが出来上がる場合があります。それはこちらが円滑なコミュニケーションをとっていない分、主に開発会社のスタッフが、起こったノイズを全部引き受けてなんとかしてくれている場合が多いです。つまりプロデューサーがイケてないからディレクターとスタッフがまとまらない話をまとめてくれているだけです。プロデューサーはなんにもしていない。その分、開発が死ぬ思いをしているのです。
20代のころ私はこの状態を作ってしまったことがあります。プロジェクトの打ち上げで開発スタッフから(プロデューサーがコミュニケーションを円滑にしなかったため、ノイズが大量発生し、プロジェクトがガタガタになり、その火消しをするために死ぬ思いをした。ゆえに)「お前を二回、本気で殺そうと思った。」と真顔で言われたことがあります。いまだに、まったく笑えない。コミュニケーションの意味、円滑な状態をつくることを怠ると普通に起こり得ることです。
「他人と自分を理解するためのホットラインができあがっているか」
これをよく覚えておいてください。これが出来上がっていれば必ずしも多弁である必要もありません。コミュニケーションとは登場人物に応じてケースバイケースでつくりあげていく、永遠に明確な答えの出ない、それゆえに挑みがいのある課題です。
■ 会 議 編
ゲーム業界における無駄な会議を見分ける方法は簡単です。
「お客さまの方向を向いて話し合いや決定がなされているか」
これにつきます。いつの間にかお客さまやファンが置いてきぼりになっている会議が後を絶ちません。なぜか? 少し意地悪なことを書きますが、残念ながらすべての会社員がお客様のほうを向いているわけではありません。面倒なことはしたくない、前例のないことをしたくない、ルールを必要以上に気にする、相手の顔色を伺う、怒られたくない、人は案外多いのです。
衣食住と関係のない娯楽産業の場合、最もさけられるべきは「飽きられてしまう」ことです。とにかくウケないことには始まらない。そのためには前例のないことやルールを改定・無視してでも、面倒くさいことをする必要がある場合があります。さまざまな立ち位置の人間が存在する企業において、唯一思想で統一することは人数が増えるほどに不可能。よって怒られてでも突破しないといけない、そうしないとスピードが出ずにライバルに出し抜かれるシーンがたびたび発生します。実は会議がその足を引っ張っていることがよくあります。
お客様を無視した、合意や確認や共有のための防御線が張り巡らされた結果、「仕事のための仕事」が増えていくことになる。あわせてこれにまつわる会議も増えます。できる限りなくした方が良いです。
一方で来るべきときに発生するトラブルで一発即死しないように懸命に守る仕事をしなければならない場合もあります。こういった「有事に備えての仕事」は尊重すべきだと思いますが、制作側の人間はこの場合、どこまで石橋をたたいて渡るべきなのか? 途中で橋が落ちたとしても誰よりも早く向こう岸にわたるべきなのか? は、したたかに考えるべきです。バックオフィスのスタッフも全力サポートで必死に守備の提案をしてくれているわけですから。
また、本当に自分が出なければこの会議は決まらないのか? も見直すべきです。共有の手間が省けるのでメールのCC的にとりあえず出席してくれれば面倒くさくなくていいという理由や、誰まで声をかければ問題が起こらないか、後から「おれは聞いてない」「なぜおれを呼ばない」問題が起こった時の責任が持てないスタッフが会議のアテンドをしてくれている場合によく起こります。
情報共有は後からでもできます。絶対に自分が決めなければならない会議以外は、原則出席しなくてよいです。より正確な情報共有のために決める立場ではないが出席するというのであれば話は別ですが、結局会議に出席しながらノートPCで他の仕事を(あたかも会議にまじめに出ているふりをしながら)するのはかえって効率が良くないと私は考えています。皆さんもうすうすお気づきでしょうが、そういうの、バレてますからね(笑)。
無駄な会議や打ち合わせが減り、結果空いた時間をクリエイティブに時間を割くことができる。またその実施目的が芯を食っていると、よりお客さんが喜ぶ商品サービスに近づいていく。
ほっておくと人生の大半を無駄な会議と打ち合わせに使うことになります。
すべての人間が死に向かって時間を消費しながら進んでいることだけは間違いのないことで、ゲームに時間を賭したのであれば有限な時間をよりお客様が喜ぶことや自分が楽しめることにつかうべきです。
業務ツールや会議、打ち合わせに貴重な皆さんの時間を殺されないためにも、一度真剣に考えてみると良いと思います。「お客様が喜んでナンボ」を常にイメージしながら、しんどい打ち合わせや会議に立ち向かっていきましょう。それでは!
■追伸
毎週月曜21時からニコニコ生放送「シシララTV」をやってます。最近は「つくった人がゲーム実況」と題して、制作者が自分のつくった作品を遊んでいるところを、ライブストリーミングするという、ありそうでなかった企画に挑戦しています。今後も続々豪華ゲストを呼んでゲームの楽しさを伝えていきますので是非ご覧ください。
http://ch.nicovideo.jp/sisilala-tv
ツイッターも毎日ゲーム関連中心につぶやいています。こちらもフォローもよろしくおねがいします。
https://twitter.com/takehiro_ando
情報共有は後からでもできます。絶対に自分が決めなければならない会議以外は、原則出席しなくてよいです。より正確な情報共有のために決める立場ではないが出席するというのであれば話は別ですが、結局会議に出席しながらノートPCで他の仕事を(あたかも会議にまじめに出ているふりをしながら)するのはかえって効率が良くないと私は考えています。皆さんもうすうすお気づきでしょうが、そういうの、バレてますからね(笑)。
無駄な会議や打ち合わせが減り、結果空いた時間をクリエイティブに時間を割くことができる。またその実施目的が芯を食っていると、よりお客さんが喜ぶ商品サービスに近づいていく。
ほっておくと人生の大半を無駄な会議と打ち合わせに使うことになります。
すべての人間が死に向かって時間を消費しながら進んでいることだけは間違いのないことで、ゲームに時間を賭したのであれば有限な時間をよりお客様が喜ぶことや自分が楽しめることにつかうべきです。
業務ツールや会議、打ち合わせに貴重な皆さんの時間を殺されないためにも、一度真剣に考えてみると良いと思います。「お客様が喜んでナンボ」を常にイメージしながら、しんどい打ち合わせや会議に立ち向かっていきましょう。それでは!
■追伸
毎週月曜21時からニコニコ生放送「シシララTV」をやってます。最近は「つくった人がゲーム実況」と題して、制作者が自分のつくった作品を遊んでいるところを、ライブストリーミングするという、ありそうでなかった企画に挑戦しています。今後も続々豪華ゲストを呼んでゲームの楽しさを伝えていきますので是非ご覧ください。
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■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
企業サイト
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■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
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■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
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■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)