【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」
ということで、今日は『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』、通称『デレステ』にスポットライトを当てつつ、今後のアイドルものについて話していきたいと思います。
■『デレステ』はアイドルものアプリの終着点?
既に『デレステ』をプレイされた方ならお分かりの通り、このアプリの完成度の高さはとんでもないです。元々モバゲーで展開されている『アイドルマスター シンデレラガールズ』にて蓄積された素材が豊富にあり、かつイラストの魅力を限りなく踏襲しつつ3Dで動きを加えてキャラの魅力を高めていく見せ方。おそらくこの方向性でのアイドルものアプリとしては、これから先しばらくの未来も含めて最高峰の出来だと思います。ひとつの終着点といってもいいかもしれません。
このクオリティをいちから作り上げようとすると途方もないお金と時間がかかりますが、今から『デレステ』と同規模の人気・売上をあげることは、ただお金と時間をかけるだけでは到底難しく、普通に考えたら無理です。
理由は、『アイドルマスター』というIPがこれまで築いてきた歴史とファンがいるからです。そんな歴史を持ったIPに立ち向かおうとすれば、同じことをやっていてはその歴史分すでに遅れをとっているわけですから、土台無理があるわけです。
では、いまからアイドルもののアプリでヒットを狙うということは無理なのか?
…というと、答えは「NO」です。
あくまで個人的な考えですが、アイドルアプリを今から仕掛けてヒットを狙うことは可能です。
(ヒットの定義は、ストアの売上ランキングでTop20に入ってくるような規模とします)
■これからアイドルものでヒットを目指すには?
そもそもアイドルものにユーザーが期待することは、アイドルとしてのキャラクター性やキラキラ感、成長していく様といった「アイドルの魅力」を、ユーザーがどういった立ち位置で楽しめるのかということ。『デレステ』他アイマスシリーズはプロデューサーという立場で、『スクフェス』(『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』)はともに活動する仲間として、彼女たちと向き合いがんばっていきます。その中でゲームとして何をやって、その結果何を得られるのか、が重要です。
最近、アイドルもの=音ゲーみたいなイメージが強くなっていますが、そのゲーム性にアイドルもののカタルシスがあれば必ずしも音ゲーじゃなくてもいいわけです。むしろ、音ゲーが得意ではない、あるいは流石に毎日音ゲーをやり続けるのは面倒、という方に対しては音ゲーじゃない方がいい。そんな今だからこそ、音ゲーじゃない方向性でアイドルものを作ることでヒットは狙えると思います。
なお、「音ゲーにしない」というところまではわりとやろうとする方もいらっしゃると思いますが、アイドルもので最も大事なのは「アイドルの魅力」をいかに伝えていくかにつきますので、故に「脱音ゲー」をしたところで簡単ではありません。とはいえ、少なくともスマホアプリで音ゲーという土俵で勝負するよりは可能性ははるかに高まるのでは、と思います。
ただ、時代に合わせて完成度を高めなくてはならない、ということは大前提なので、いずれにしても時間やお金がある程度かかるのは覚悟しておかなくてはならないかと思います。
■せめて、アイドルらしく
ここから先は、描いていきたいアイドルの形にあわせて
・打ち出し方(ターゲット)
・ゲーム性(アイドルの魅力を伝えるのに相性の良い仕組み)
・アイドルものらしくあること(イロモノにしすぎない)
といったことを決めていく感じかと思います。
なお、最後の「アイドルものらしくあること」については、差別化にとらわれて本来見せていかなくてはいけない「アイドルの魅力」を十分に見せられないということには防ぐべき、という意味です。スマホアプリ以外のものも含め、差別化を狙い過ぎた結果「それ既にアイドルじゃなくない?」といったものを散見します。これは多くのアイドルもの好きからしてみたらアイドルものではないですし、もちろん他のお客様には刺さりづらいので失敗の確率が高いです。
以前、「ラブライブ!」の魅力について書いた記事(関連記事)でも触れましたが、「ラブライブ!」の魅力の一つは「王道であったから」です。やはり、アイドルものとして期待されていることは素直に届けるべきで、そこをおろそかにしていてはアイドルものではありません。(これはどんなジャンルにも共通して言えることですが)
これからアイドルものを世に送り出そうとされている方々におかれましては、アイドル戦国時代ではあるものの、そこはぶれずに「アイドルの魅力」を素直に伝えていって頂きたいと、いちアイドルものユーザーとしては願う次第です。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
結構頑張っているのですがSSR杏が出ません。
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第29回「続・エニックス創業者福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの真髄」 (安藤)
■第28回「恋活アプリ体験談」 (岩野)
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
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■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
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©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)