【インタビュー】ゲーム運営専門会社"DeNA Games Tokyo"が始動! 田川啓介社長が事業展開と戦略、業界展望を熱く語る
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、10月7日より、DeNAが配信するソーシャルゲームの運営を専門に行う子会社「株式会社DeNA Games Tokyo」(DeNA Akiba)の本格稼働を開始した。今回、DeNA Games Tokyo社長に就任した田川啓介氏にインタビューを行い、事業内容や会社設立の狙い、業界動向と今後の展開について熱く語ってもらった。
■田川啓介氏プロフィール
2008年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。EC事業を経て、2010年からソーシャルゲーム部門でエンジニアやコンサルタント、海外向けのソーシャルゲームなどのプロデューサーとして活躍した後、DeNA内製ソーシャルゲームの運営統括責任者に。DeNA Games Tokyoの社長との兼任となる。学生時代は、競泳選手として全国大会に度々出場した実績も持つ。
―――:本日はよろしくお願い致します。まず、会社ではどういったことをされるのでしょうか。
当社は、DeNA内製のゲームの運営を専門的に行う会社です。DeNAから『農園ホッコリーナ』の運営を委託されており、今後、運営の基礎力を高めつつ、少しずつ担当するタイトルや業務内容を増やしていきます。現在、『戦国ロワイヤル』の運営移管を進めており、本社からスタッフが来て引き継ぎを行っています。
―――:なぜ運営専門の会社を立ち上げることにしたのですか? DeNAのなかでやってもいいかと思うんですが。
いくつか理由があって、DeNAがネイティブアプリの開発に注力し、ゲームの運営を専門会社に任せるという戦略的な理由があります。一番大きいのは、DeNAは、インターネットサービスの会社であって、必ずしもゲーム会社ではないということです。ゲーム開発・運営の人材を採用する際、ゲーム会社である方が明確な採用基準を打ち出せ、ゲーム好きに来てほしいとアピールしやすいです。
ゲーム関係の人材は、インターネットサービスほど汎用的なものではありませんから。本社で採用すると、例えば、今度からゲーム系の仕事からオートモーティブやキュレーションに異動ということもありますが、当社に入社していただくと、ゲーム運営の仕事にコミットし続けることができます。
―――:ゲーム運営の人材はどこも不足していると聞きますね。
はい。当社にかぎらず、どこのゲームメーカーも人員不足です。もっと色々とやりたいのに人が足りなくてやりきれないという話をよく聞きます。『怪盗ロワイヤル』が3人で開発したという話もありますが、ネイティブアプリになると、ゲーム1タイトルの運営と開発に携わる人は、ブラウザ時代に較べて確実に増えていきますよね。
あとはマーケティングも重要になりました。Mobageのブラウザゲームは、プラットフォーム内に人がいて、マーケティングのことをあまり考える必要はなかったのですが、アプリでは外部から人を集めてこなくてはなりません。ティザーサイトを作ったり、●周年記念キャンペーンとしてアプリ1個を作ったりといったこと必要です。TwitterやFacebookの運用、オフラインのイベントも然りです。
ゲームの運営において、やること・やるべきことが増えていて、とにかく人が不足しています。当社は、DeNA本社のお手伝いをするという観点で、いきなり全てのタイトルの運営を請け負うのは難しいですが、運営しているタイトルの一部からでもいいからやっていきます。例えば、ティザーサイトの作成や定常的なイベントの更新業務なども巻き取っていきたいと思っています。
―――:こちらのスタッフは新規で採用された方が中心ですか?
そうです。新規で入ったスタッフに本社のメンバーが引き継ぎを行っています。業務内容だけでなく、DeNAの培ったノウハウも教えてもらっています。引き継ぎが終わったか、安心して任せられるかどうかの認定は、本社メンバーが行います。カリキュラムを立てて、移管元と移管先が一緒にやっています。もちろん、最初は家庭教師みたいな感じになりますけどね(笑)
―――:どういった強みをつけていきたいですか?
これからつけていくことになるでしょうが、長年築き上げてきて、任天堂さんから認めていただいたDeNAの運営ノウハウですね。『怪盗ロワイヤル』や『ファイナルファンタジーレコードキーパー』などたくさんのタイトルを運営していた事例集があります。そのノウハウの塊であるブラウザゲーム、しかもそれなりの規模のあるタイトルを最初から運営できるところは他社にはない特徴と言えるでしょう。
また、ゲームの運営に特化していることも特徴です。ゲームの新規開発までやろうとすると本社と競合しますし、強い他社とも競合します。運営に特化する業務は、意外と競合が少ないんです。しかし、運営業務を全部もしくは一部を外部に委託したいというニーズはすごくあります。ここが今後の強みになっていく可能性があると考えています。
―――:将来的に他社タイトルの運営も?
はい。DeNAが培った運営ノウハウのキャッチアップがファーストターゲットですが、将来的には他社タイトルやアプリの運営もやりたいと思っています。「このゲームのこの部分をやってほしい」というご相談はくるでしょう。現在はまだ難しいですが、運営の基礎力がしっかりと付いた段階で、そういったニーズにも答えていきたいですね。
―――:業界展望的な話も含めてこれからのことを聞きたいのですが、現在の業界をどうご覧になっていますか?
ゲーム会社ごとのクオリティの差分が今後よりなくなっていくと見ています。当社も『三国志ロワイヤル』を皮切りに、『ファイナルファンタジーレコードキーパー』『戦魂』などを出していますが、ゲームのクオリティは着実に上がっていると思います。ちょっと前まではクオリティの面で他社に遅れを取っていましたが、市場のレベルに近づいてきました。
将来的には、ゲーム会社間のクオリティに関して、明らかな差分がなくなるでしょう。「E3」にいったときに感じましたが、例えばFPSをあげると、どれもクオリティが非常に高いのですが、ゾンビか、マフィアか、アーミーかのモチーフの違いだけになっています。それと同じような状況に日本のスマートフォン・ソーシャルゲーム業界もなっていくと思います。そうなると、より運営や販売の重要性が増してくるはずです。
今後ありそうな変化としては、コンテンツ運営にかかる人員がさらに増えてくるでしょう。ブラウザゲームであってもスマホ対応が必要ですし、コンテンツのアップデートのボリュームが増えているので、何十人という体制です。今後、100人、150人になっていくという見方もありますね。ヒットメーカーほど人手不足が深刻になるでしょう。スマホ・ソーシャルゲームは運営し続けなくてはならないですから、ずっと人が必要になります。効率化で対応できればいいですが、それにも限界があります。
したがって、結論としては、運営・販売力が重要になること、そして人員不足が深刻化することが大きな変化とみています。そのなかで、全てを自社で賄うのではなく、外部の企業といかにうまくパートナーを組み、不足している部分を補うかが重要になるでしょう。パートナー企業に特定の業務を委託もしくは移管するといったことをやっていかないと厳しいと考えています。
ただ、変わらないものもあると思います。それはお客様のニーズを捉えて、ニーズを満たすアップデートを行う、という点です。言うのは簡単ですが、運営力というのは対ユーザー感受性、技術力、大規模開発に耐えられるPM力、マーケティング力が重要です。特にユーザー感受性が大切です。
これは当社にかぎりませんが、ゲームを長く運営していると、どんどんユーザーの強さの分散が広がっていきます。レベル1から2000くらいまで広がるタイトルも珍しくありません。そうなるとどこをターゲットにするのかわかりづらくなり、運営の難易度が非常に上がります。こっちをターゲットにしたら、あっちが困るみたいなことになりがちです。
また、KPIの分析はもちろんですが、定性情報の把握も難しくなっています。例えば、イベントの実施時、掲示板とソーシャルメディアでは反応が全く異なりますし、お客様に直接、インタビューをしてみると、ネットでの反応と全く異なることがよくあります。何が本質的なニーズなのかを捉えられるユーザー感受性が重要なんです。
特定のユーザーセグメントに訴求する施策をやった際、他のユーザーセグメントの反応を予測して、差し障りがないように工夫する必要があります。かといって、失敗を怖がってアップデートしないとお客様に飽きられてしまいます。ロングヒットタイトルを持つメーカーは、ここで悩まされます。『怪盗ロワイヤル』は7年目になりますが、成功も失敗も経験しました。その経験とノウハウは、当社にとっても大きな強みになると思います。
―――:たしかにレベル1から2000まで広がっているゲームでは、バランス感覚と気配りが必須になりますね。
はい。『怪盗ロワイヤル』のトップランカーでもパラメーターが100倍違うこともあります。頑張れば100倍の差を埋められる仕組みも入れて切磋琢磨してもらえるようにしつつ、かといっていままでのアセットが無駄になるようなことは避けなくてはならない。さらに下レベルの方も楽しめるようにしなくてはならない。多様化するユーザー全体が楽しめるようにバランスを考えて運営を行っていく必要があります。
もうひとつあげておくと、今後成熟していく業界ですので、サービスの意義がより問われるでしょう。Mobage やGREEが立ち上がった時、何千億円という市場が一気に形成され、コンシューマーゲームの市場縮小を補って余りあるものとなりました。その反面、ゲームの価値への批判がありました。お客様にとってだけでなく、ゲーム会社にとっての意義も同様です。
それはお客様にいかに面白い体験を継続的に提供できるかであり、その先に何があるのかが求められます。ゲームというのは、エンターテインメントですから、どんなに運営を頑張っていても飽きられることは避けられません。そして、いずれゲームの運営も終わることになります。サービスが終わると、お客様は遊べなくなります。
それでは、我々の存在意義はないかというとそうでもないと思います。私は学生時代の同窓会に行くと、いまだに子供の頃に遊んだゲームの話になるんです。あのとき、「誰々の家に集まって遊んで盛り上がった」「お前ばかりプレイして実はむかついていたんだよ(笑)」といった話で盛り上がりました。ゲームが与えたフィードバックはそこまできています。
当社は、プレイしたお客様の思い出に残って、時が経っても共感できるようなものを提供してきたいと考えています。『怪盗ロワイヤル』や『ファイナルファンタジーレコードキーパー』のイベントで盛り上がったという経験を誰かと共有し、どこかで「あのイベント楽しかったよね」と語り合ってもらうことで、生活の豊かさに貢献できると思います。
『怪盗ロワイヤル』のトップランカーの方々と交流会やインタビューをさせてもらうことがありますし、時として一緒に飲みに行かせてもらうこともあります。お話をしていると、コンテンツへの愛をものすごく感じるのと、お客様同士の結びつきがすごく強いんですね。「あなたのあのイベントの最後の追い上げ、むちゃくちゃ格好良かったね」というお話をされています。
そのとき、「3年生のインターハイで、あいつの追い上げがすごかったね」という話で盛り上がるのと似ていると感じました。ゲームでできた関係性や思い出は、ゲームをやめたとしても続く可能性があります。Mobageだとバーチャルソーシャルグラフになりますが、『モンスターストライク』や『白猫プロジェクト』『剣と魔法のログレス』はリアルのソーシャルグラフを強化していくものですし、そのなかで出会いがあるでしょう。価値観を共有できる仲間、本気だからこそ認め合える仲間というのがゲームのなかでできるのはすごく意義のあることです。
―――: PCオンラインゲームで遊んでいた時、よくOFF会などであのときこうだったねと話すことがありました。
そうですね。僕が嫌だと思うのは、オンラインゲームで長く遊んでいると、一緒にやっていたユーザーがやめてしまい、どんどん人が減っていき、周りにやっている人がいなくなってしまった、という状況ですね。たとえやめてしまった人でも何らかの結びつきがあれば、もっと価値が提供できると思うんです。
大学4年生まで水泳をやっていましたが、なかには中学や高校で水泳をやめてしまった人もいます。でも、一緒に部活で頑張っていた仲間ですから、いまでも仲がいいんですよ。一緒に頑張った仲間との関係をバーチャル空間でもリアルでも良いと思いますし、つながりを維持できるものがあればいいんですよね。
―――:数年遊んでいたオンラインゲームにログインしたら、ギルドに誰もいないという状況で寂しいものがありました。「あいつら、どうしているのかな」って。
わかります。実は、お客様さんから『怪盗ロワイヤル』同窓会をやってほしいというご要望をいただくことがあります。過去、ランカーだった人に集まってもらうイベントです。トップランカーの方は普通のお客様とは遊び方は違うので、どういう人が強かったかをよく覚えておられます。我々としては、それをきっかけにゲームに戻ってきていただけたら嬉しいですし、ヘビーユーザーの方々にとっても嬉しいことでしょう。
―――:なるほど。ところで、そもそもの理由ですが、秋葉原に立地した理由を教えて下さい。
秋葉原は、世界的に注目されているエンタメの最前線です。そこにオフィスを構えることで、将来的に秋葉原に世界的に有名なゲーム会社があるという状態を目指したいですし、将来的に海外の案件をやっていくのもありだと思います。
秋葉原にいることで受ける刺激もあります。秋葉原はまさにエンタメの最先端なので、ちょっと街を歩くだけで、最近なにが流行っているのかがすぐにわかります。秋葉原が好きな人はゲーム業界にも多いと思いますが、ここで働くことでメンバーのモチベーションも上がります。
―――:秋葉原にあることを活かした取り組みはあるんでしょうか?
会社を立ち上げたばかりですので、いずれやりたいと考えています。せっかく秋葉原にいるわけですから、駅と会社を往復するだけでなく、社員には街に繰り出して、流行や技術への感度を上げてもらいたいです。そのための取り組みも考えます。そして地域に根ざしていくことも重要です。秋葉原にある小売店や会社との近所付き合いとの取り組みなどで、秋葉原の盛り上がりに少しでも貢献できたら…などということも考えています。
▲オフィスからは秋葉原の街並みが一望できる。駅から徒歩1分という好立地だ。
―――:最後にメッセージをお願い致します。
我々は基本に忠実にやります。やるべきことを当たり前のようにやることがポイントです。以前、ある格闘技で科学的トレーニングを駆使し、1日1時間半しか練習しないというトップ選手が紹介され、それをマネた日本人は全然勝てませんでした。結局、日本人は身体のサイズを補うために練習しまくるしかない、やるべきことをリストアップして全てやらないといけない、という考え方になっています。ゲームも同様で、基本に忠実に着実に積み上げることが大切だと考えています。
私は勝ちにこだわるタイプです。ビジネスにおける勝ちとは成果だと思います。それはお客様からポジティブなフィードバックをいただいて、そして、売上と利益をきちんと出していくことです。しっかりと基礎力を付けて、本気で仕事に取り組むことで、お互いにリスペストし合えるような会社になると思っています。
―――:ありがとうございました。
(C)DeNA Co., Ltd.
■田川啓介氏プロフィール
2008年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。EC事業を経て、2010年からソーシャルゲーム部門でエンジニアやコンサルタント、海外向けのソーシャルゲームなどのプロデューサーとして活躍した後、DeNA内製ソーシャルゲームの運営統括責任者に。DeNA Games Tokyoの社長との兼任となる。学生時代は、競泳選手として全国大会に度々出場した実績も持つ。
■DeNAのソーシャルゲームの運営に特化した会社
―――:本日はよろしくお願い致します。まず、会社ではどういったことをされるのでしょうか。
当社は、DeNA内製のゲームの運営を専門的に行う会社です。DeNAから『農園ホッコリーナ』の運営を委託されており、今後、運営の基礎力を高めつつ、少しずつ担当するタイトルや業務内容を増やしていきます。現在、『戦国ロワイヤル』の運営移管を進めており、本社からスタッフが来て引き継ぎを行っています。
―――:なぜ運営専門の会社を立ち上げることにしたのですか? DeNAのなかでやってもいいかと思うんですが。
いくつか理由があって、DeNAがネイティブアプリの開発に注力し、ゲームの運営を専門会社に任せるという戦略的な理由があります。一番大きいのは、DeNAは、インターネットサービスの会社であって、必ずしもゲーム会社ではないということです。ゲーム開発・運営の人材を採用する際、ゲーム会社である方が明確な採用基準を打ち出せ、ゲーム好きに来てほしいとアピールしやすいです。
ゲーム関係の人材は、インターネットサービスほど汎用的なものではありませんから。本社で採用すると、例えば、今度からゲーム系の仕事からオートモーティブやキュレーションに異動ということもありますが、当社に入社していただくと、ゲーム運営の仕事にコミットし続けることができます。
―――:ゲーム運営の人材はどこも不足していると聞きますね。
はい。当社にかぎらず、どこのゲームメーカーも人員不足です。もっと色々とやりたいのに人が足りなくてやりきれないという話をよく聞きます。『怪盗ロワイヤル』が3人で開発したという話もありますが、ネイティブアプリになると、ゲーム1タイトルの運営と開発に携わる人は、ブラウザ時代に較べて確実に増えていきますよね。
あとはマーケティングも重要になりました。Mobageのブラウザゲームは、プラットフォーム内に人がいて、マーケティングのことをあまり考える必要はなかったのですが、アプリでは外部から人を集めてこなくてはなりません。ティザーサイトを作ったり、●周年記念キャンペーンとしてアプリ1個を作ったりといったこと必要です。TwitterやFacebookの運用、オフラインのイベントも然りです。
ゲームの運営において、やること・やるべきことが増えていて、とにかく人が不足しています。当社は、DeNA本社のお手伝いをするという観点で、いきなり全てのタイトルの運営を請け負うのは難しいですが、運営しているタイトルの一部からでもいいからやっていきます。例えば、ティザーサイトの作成や定常的なイベントの更新業務なども巻き取っていきたいと思っています。
―――:こちらのスタッフは新規で採用された方が中心ですか?
そうです。新規で入ったスタッフに本社のメンバーが引き継ぎを行っています。業務内容だけでなく、DeNAの培ったノウハウも教えてもらっています。引き継ぎが終わったか、安心して任せられるかどうかの認定は、本社メンバーが行います。カリキュラムを立てて、移管元と移管先が一緒にやっています。もちろん、最初は家庭教師みたいな感じになりますけどね(笑)
―――:どういった強みをつけていきたいですか?
これからつけていくことになるでしょうが、長年築き上げてきて、任天堂さんから認めていただいたDeNAの運営ノウハウですね。『怪盗ロワイヤル』や『ファイナルファンタジーレコードキーパー』などたくさんのタイトルを運営していた事例集があります。そのノウハウの塊であるブラウザゲーム、しかもそれなりの規模のあるタイトルを最初から運営できるところは他社にはない特徴と言えるでしょう。
また、ゲームの運営に特化していることも特徴です。ゲームの新規開発までやろうとすると本社と競合しますし、強い他社とも競合します。運営に特化する業務は、意外と競合が少ないんです。しかし、運営業務を全部もしくは一部を外部に委託したいというニーズはすごくあります。ここが今後の強みになっていく可能性があると考えています。
―――:将来的に他社タイトルの運営も?
はい。DeNAが培った運営ノウハウのキャッチアップがファーストターゲットですが、将来的には他社タイトルやアプリの運営もやりたいと思っています。「このゲームのこの部分をやってほしい」というご相談はくるでしょう。現在はまだ難しいですが、運営の基礎力がしっかりと付いた段階で、そういったニーズにも答えていきたいですね。
■運営の人不足はますます顕著に
―――:業界展望的な話も含めてこれからのことを聞きたいのですが、現在の業界をどうご覧になっていますか?
ゲーム会社ごとのクオリティの差分が今後よりなくなっていくと見ています。当社も『三国志ロワイヤル』を皮切りに、『ファイナルファンタジーレコードキーパー』『戦魂』などを出していますが、ゲームのクオリティは着実に上がっていると思います。ちょっと前まではクオリティの面で他社に遅れを取っていましたが、市場のレベルに近づいてきました。
将来的には、ゲーム会社間のクオリティに関して、明らかな差分がなくなるでしょう。「E3」にいったときに感じましたが、例えばFPSをあげると、どれもクオリティが非常に高いのですが、ゾンビか、マフィアか、アーミーかのモチーフの違いだけになっています。それと同じような状況に日本のスマートフォン・ソーシャルゲーム業界もなっていくと思います。そうなると、より運営や販売の重要性が増してくるはずです。
今後ありそうな変化としては、コンテンツ運営にかかる人員がさらに増えてくるでしょう。ブラウザゲームであってもスマホ対応が必要ですし、コンテンツのアップデートのボリュームが増えているので、何十人という体制です。今後、100人、150人になっていくという見方もありますね。ヒットメーカーほど人手不足が深刻になるでしょう。スマホ・ソーシャルゲームは運営し続けなくてはならないですから、ずっと人が必要になります。効率化で対応できればいいですが、それにも限界があります。
したがって、結論としては、運営・販売力が重要になること、そして人員不足が深刻化することが大きな変化とみています。そのなかで、全てを自社で賄うのではなく、外部の企業といかにうまくパートナーを組み、不足している部分を補うかが重要になるでしょう。パートナー企業に特定の業務を委託もしくは移管するといったことをやっていかないと厳しいと考えています。
ただ、変わらないものもあると思います。それはお客様のニーズを捉えて、ニーズを満たすアップデートを行う、という点です。言うのは簡単ですが、運営力というのは対ユーザー感受性、技術力、大規模開発に耐えられるPM力、マーケティング力が重要です。特にユーザー感受性が大切です。
これは当社にかぎりませんが、ゲームを長く運営していると、どんどんユーザーの強さの分散が広がっていきます。レベル1から2000くらいまで広がるタイトルも珍しくありません。そうなるとどこをターゲットにするのかわかりづらくなり、運営の難易度が非常に上がります。こっちをターゲットにしたら、あっちが困るみたいなことになりがちです。
また、KPIの分析はもちろんですが、定性情報の把握も難しくなっています。例えば、イベントの実施時、掲示板とソーシャルメディアでは反応が全く異なりますし、お客様に直接、インタビューをしてみると、ネットでの反応と全く異なることがよくあります。何が本質的なニーズなのかを捉えられるユーザー感受性が重要なんです。
特定のユーザーセグメントに訴求する施策をやった際、他のユーザーセグメントの反応を予測して、差し障りがないように工夫する必要があります。かといって、失敗を怖がってアップデートしないとお客様に飽きられてしまいます。ロングヒットタイトルを持つメーカーは、ここで悩まされます。『怪盗ロワイヤル』は7年目になりますが、成功も失敗も経験しました。その経験とノウハウは、当社にとっても大きな強みになると思います。
―――:たしかにレベル1から2000まで広がっているゲームでは、バランス感覚と気配りが必須になりますね。
はい。『怪盗ロワイヤル』のトップランカーでもパラメーターが100倍違うこともあります。頑張れば100倍の差を埋められる仕組みも入れて切磋琢磨してもらえるようにしつつ、かといっていままでのアセットが無駄になるようなことは避けなくてはならない。さらに下レベルの方も楽しめるようにしなくてはならない。多様化するユーザー全体が楽しめるようにバランスを考えて運営を行っていく必要があります。
■ゲームの意義をあらためて問いなおす局面も
もうひとつあげておくと、今後成熟していく業界ですので、サービスの意義がより問われるでしょう。Mobage やGREEが立ち上がった時、何千億円という市場が一気に形成され、コンシューマーゲームの市場縮小を補って余りあるものとなりました。その反面、ゲームの価値への批判がありました。お客様にとってだけでなく、ゲーム会社にとっての意義も同様です。
それはお客様にいかに面白い体験を継続的に提供できるかであり、その先に何があるのかが求められます。ゲームというのは、エンターテインメントですから、どんなに運営を頑張っていても飽きられることは避けられません。そして、いずれゲームの運営も終わることになります。サービスが終わると、お客様は遊べなくなります。
それでは、我々の存在意義はないかというとそうでもないと思います。私は学生時代の同窓会に行くと、いまだに子供の頃に遊んだゲームの話になるんです。あのとき、「誰々の家に集まって遊んで盛り上がった」「お前ばかりプレイして実はむかついていたんだよ(笑)」といった話で盛り上がりました。ゲームが与えたフィードバックはそこまできています。
当社は、プレイしたお客様の思い出に残って、時が経っても共感できるようなものを提供してきたいと考えています。『怪盗ロワイヤル』や『ファイナルファンタジーレコードキーパー』のイベントで盛り上がったという経験を誰かと共有し、どこかで「あのイベント楽しかったよね」と語り合ってもらうことで、生活の豊かさに貢献できると思います。
『怪盗ロワイヤル』のトップランカーの方々と交流会やインタビューをさせてもらうことがありますし、時として一緒に飲みに行かせてもらうこともあります。お話をしていると、コンテンツへの愛をものすごく感じるのと、お客様同士の結びつきがすごく強いんですね。「あなたのあのイベントの最後の追い上げ、むちゃくちゃ格好良かったね」というお話をされています。
そのとき、「3年生のインターハイで、あいつの追い上げがすごかったね」という話で盛り上がるのと似ていると感じました。ゲームでできた関係性や思い出は、ゲームをやめたとしても続く可能性があります。Mobageだとバーチャルソーシャルグラフになりますが、『モンスターストライク』や『白猫プロジェクト』『剣と魔法のログレス』はリアルのソーシャルグラフを強化していくものですし、そのなかで出会いがあるでしょう。価値観を共有できる仲間、本気だからこそ認め合える仲間というのがゲームのなかでできるのはすごく意義のあることです。
―――: PCオンラインゲームで遊んでいた時、よくOFF会などであのときこうだったねと話すことがありました。
そうですね。僕が嫌だと思うのは、オンラインゲームで長く遊んでいると、一緒にやっていたユーザーがやめてしまい、どんどん人が減っていき、周りにやっている人がいなくなってしまった、という状況ですね。たとえやめてしまった人でも何らかの結びつきがあれば、もっと価値が提供できると思うんです。
大学4年生まで水泳をやっていましたが、なかには中学や高校で水泳をやめてしまった人もいます。でも、一緒に部活で頑張っていた仲間ですから、いまでも仲がいいんですよ。一緒に頑張った仲間との関係をバーチャル空間でもリアルでも良いと思いますし、つながりを維持できるものがあればいいんですよね。
―――:数年遊んでいたオンラインゲームにログインしたら、ギルドに誰もいないという状況で寂しいものがありました。「あいつら、どうしているのかな」って。
わかります。実は、お客様さんから『怪盗ロワイヤル』同窓会をやってほしいというご要望をいただくことがあります。過去、ランカーだった人に集まってもらうイベントです。トップランカーの方は普通のお客様とは遊び方は違うので、どういう人が強かったかをよく覚えておられます。我々としては、それをきっかけにゲームに戻ってきていただけたら嬉しいですし、ヘビーユーザーの方々にとっても嬉しいことでしょう。
■秋葉原に設立した理由 地域への貢献も目指したい
―――:なるほど。ところで、そもそもの理由ですが、秋葉原に立地した理由を教えて下さい。
秋葉原は、世界的に注目されているエンタメの最前線です。そこにオフィスを構えることで、将来的に秋葉原に世界的に有名なゲーム会社があるという状態を目指したいですし、将来的に海外の案件をやっていくのもありだと思います。
秋葉原にいることで受ける刺激もあります。秋葉原はまさにエンタメの最先端なので、ちょっと街を歩くだけで、最近なにが流行っているのかがすぐにわかります。秋葉原が好きな人はゲーム業界にも多いと思いますが、ここで働くことでメンバーのモチベーションも上がります。
―――:秋葉原にあることを活かした取り組みはあるんでしょうか?
会社を立ち上げたばかりですので、いずれやりたいと考えています。せっかく秋葉原にいるわけですから、駅と会社を往復するだけでなく、社員には街に繰り出して、流行や技術への感度を上げてもらいたいです。そのための取り組みも考えます。そして地域に根ざしていくことも重要です。秋葉原にある小売店や会社との近所付き合いとの取り組みなどで、秋葉原の盛り上がりに少しでも貢献できたら…などということも考えています。
▲オフィスからは秋葉原の街並みが一望できる。駅から徒歩1分という好立地だ。
―――:最後にメッセージをお願い致します。
我々は基本に忠実にやります。やるべきことを当たり前のようにやることがポイントです。以前、ある格闘技で科学的トレーニングを駆使し、1日1時間半しか練習しないというトップ選手が紹介され、それをマネた日本人は全然勝てませんでした。結局、日本人は身体のサイズを補うために練習しまくるしかない、やるべきことをリストアップして全てやらないといけない、という考え方になっています。ゲームも同様で、基本に忠実に着実に積み上げることが大切だと考えています。
私は勝ちにこだわるタイプです。ビジネスにおける勝ちとは成果だと思います。それはお客様からポジティブなフィードバックをいただいて、そして、売上と利益をきちんと出していくことです。しっかりと基礎力を付けて、本気で仕事に取り組むことで、お互いにリスペストし合えるような会社になると思っています。
―――:ありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
■関連サイト
(C)DeNA Co., Ltd.
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432
会社情報
- 会社名
- DeNA Games Tokyo
- 設立
- 2015年4月
- 代表者
- 代表取締役社長 川口 俊