【インタビュー】独自のマネタイズと安定した売上推移…『モンスターハンター エクスプロア』の開発・運営現場では何が起こったのか 現状を訊く


カプコン<9697>が満を持してリリースしたスマートフォン(Android/iOS)向けアプリ『モンスターハンター エクスプロア』が絶好調だ。早々に累計200万ダウンロードを達成(関連記事)するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している。

本作は、モンスターたちが生息する未踏の島々で、その地に眠る発見物や秘宝を発見し、謎を解き明かす、探検×ハンティングRPG。大人気アクションゲーム『モンスターハンター』シリーズ待望の本格スマートフォンゲームとして、ユーザーからも高い評価を得ている。

なかでも「Social Game Info」が注視しているのは、独自のマネタイズ施策とその安定した売上ランキングの推移だ。本稿では、同作のプロデューサーを務めるカプコンの杉浦一徳氏にインタビューを実施し、開発経緯やコンセプト、今後の展望について話を訊いた。

 

■ガチャやスタミナを廃止…スマホで追求した新たな『モンハン』

 
カプコン CS第二開発統括 第二開発部 部長
『モンスターハンター エクスプロア』プロデューサー
杉浦一徳


――:本日はよろしくお願いいたします。はじめに本作の開発経緯をお伺いできればと思うのですが、前身となる『モンスターハンタースマート』(関連記事)から数えると、長い年月が経っています。

はい。じつは、元々『スマート』の開発は別部署が担当しており、弊社が2014年度にモバイル分野を再構築した際に、我々の第二開発部が開発を引き継ぐ形になりました。


――:思えば「東京ゲームショウ2013」の頃に『スマート』が出展されておりましたので、流れとしては、その後第二開発部に引き継がれたと思います。私も試遊させていただきましたが、改めて当時の『スマート』の内容を教えていただけますか。

当時はWEBのソーシャルゲームからアプリに切り替わる、言わば市場はネイティブシフトのタイミングでした。そのため、『スマート』にはスタミナがあったり、武器や防具をガチャで手に入れたりという内容でした。考えてみれば、『モンハン』でモンスターを狩猟する理由って、新しい武器や防具を手に入れたいからこそクエストに挑んでいくものですが、これがガチャで手に入ってしまうと、そもそもモンスターを狩猟する必要性がなくなり、『モンハン』の本質そのものが崩れてしまいます。

そのほか、従来のソーシャルゲームのルールを適応すればするほど、『モンハン』では無くなってしまうため、『スマート』を引き継いだ際に、もう一度開発メンバー集めてコンセプトから話し合うことにしたのです。


――:大規模な組織変更を考えるに、正式に引き継いだのは2014年4月1日からだと思います。正直なところ、御社は他社と比べてゲームアプリ事業に苦戦している印象がありましたが、杉浦さんとしては当時の状況をどのように捉えていましたか。


個人的に実直なメンバーが多いと感じているので、業界を学ぼうとして、結果他社の取り組みやトレンドを追いかける形になったのかもしれません。そのため、はじめに開発メンバーに伝えたのは、追いかけるのではなく、次のトレンドを自分たちなりに読み解いてショートカットしようと伝えました。


――:なるほど。そうして『スマート』から『エクスプロア』に向けて、様々な要素を追加・変更していったかと思います。その際に何か明確なコンセプトはあったのでしょうか。

最初に掲げたのは「マルチプレイ」の実装です。今のWEBソーシャルゲームから続くスマホゲーム市場は、PCオンラインゲームの開発・運営に長く携わっている我々から見ても、歴史を繰り返していると感じています。そうした歴史の流れを鑑みたときに、当時はマルチプレイの実装は必須でしたし、結果的にこの目標は開発チームとしても大きな転換期となりました。
 


 


――:『モンスターハンター』と言えば家庭用でガッツリ遊ぶイメージがあるため、“何を残して何を削るのか”、という部分ではご苦労があったかと思います。具体的にスマホに最適化する際は、どのような部分にこだわっていきましたか。

まずは先ほども話したガチャやスタミナを無くすといった、いわゆるWEBソーシャルゲームが持つ固定概念から抜けることでした。じつは、これについては私のほうから開発メンバーに提案したのですが、最初は全員が大反対でしたね(笑)。「マネタイズはどうするんだ」と問い詰められることもあり、チーム内でも様々な葛藤がありました。ただ、武器と防具がガチャから出てきたら、それは『モンハン』じゃないですよね。


――:もちろんです。だからこそ、杉浦さんとしては新しいゲームの機能はもとより、同IPに適したマネタイズも同時に提案しなければならなかったと思います。

ええ。正直なところ、これまでの弊社のゲームにも当然ガチャを搭載したタイトルはいくつかありました。ですが、それを後ろで見ていて感じたのは、ガチャがあるゲームとそうでないゲームの開発会議における議題内容が全然違うことに気づいたのです。ガチャが無いゲームは「どのようにお客様を楽しませるか」という内容になり、一方でガチャが有るゲームは「いかにガチャが回るか」という内容となるのです。
 
決してガチャを否定するわけではありませんが、今後そのマネタイズが通用しなくなったときに、果たしてクリエイターとして業界に残ることができるのかが心配になるのです。であれば、私としても“ゲームの面白さ”を作れる人間を育てたほうがいいですし、部下としても今後のキャリアパスに寄与していくことだと思います。



――:従来のスマホゲームのマネタイズは、恐らくガチャの売上が9割を占めていることが一般的ですよね。

たとえば、ガチャの売上を3割ぐらいに設定して、残りの7割で別のマネタイズを提案するだけでも、開発会議の雰囲気は変わると思います。ガチャを通した収益方法は、本当に目を見張るものがありますが、それが9割を占めるゲームになってしまうと、開発者が開発者でなくなってしまいます。


――:そうしたご自身のなかでの葛藤があってこそ、『エクスプロア』を開発する際にも意識されたのかと思います。

『モンハン』というカプコンのなかで一番のIPを用いてスマホゲームを開発するにあたり、失敗しないためには無難にガチャを入れて稼いで成功……という夢や理想も二の次の話で進めることも、もしかするとできたかもしれません。ただ、一番の強力IPだからこそ夢や理想を取り入れたら、市場を変えるほどの大きな爆発にも繋がるではないのかと思いました。


――:実際にゲーム内では、ガチャやスタミナは取り払い、有償通貨でクエストのクリアー後に貰える報酬を増やす「報酬枠課金制」を導入されました。
 
まだまだ完成したものではありませんが、現状はメインの課金ポイントになります。このほか『エクスプロア』では、有償通貨の使い道としてスタート時のパワーアップ、コンティニューなどが存在します。今後より利便性の高い用途を提案したり、変更したりして、お客様にとって有意義なマネタイズになるよう考えていきます。
 
思えばみなさんゲームを開発する際に、オリジナルや独自性などには徹底してこだわりますが、意外とビジネスモデルに関しては従来の手法に乗っ取ることがほとんどです。本来ならば、マネタイズにこそオリジナリティを考えていくべきなのだと思います。

 
 
▲本作では、クエストクリアー後に素材をはじめとする様々な報酬が得られるのだが、報酬画面には鍵のかかった複数の宝箱が2段出てくる。つまり、1段目は普通に獲得できて、さらに手に入れたいときは有償通貨の狩玉を使用して、2段目、3段目と宝箱を開けて報酬をさらに多く手に入れることができる…という仕組みだ。


――:弊社では、アプリストアの売上ランキングも注視しているのですが、『エクスプロア』は乱高下せず堅調に推移しているところに驚いています。そういう意味では、まさに現在のマネタイズが受け入れられて、定期的に課金にも繋がっている証拠だと思います。

そのため、KPI(重要業績評価指標)のデータを見るという観点では、本当につまらないですよ(笑)。ガチャであれば、新しいアイテムを追加すると、一気に跳ね上がるじゃないですか。『エクスプロア』の場合は、朝から晩まで安定して推移しています。たまに順位が変動しますが、あれは『エクスプロア』が上下しているのではなく、他社タイトルの動きが激しいからこそ、動いている状態にあります。

安定しているからこそ、本来のユーザーデータも分かりやすいですし、DAUや売上の増減も前日対比で調べられるので、次の施策も考えやすいです。



――:ちなみに開発体制はどのような形になっていますか。

『スマート』の際は外部の開発会社に依頼していましたが、カプコンのアプリタイトルの要と言えるタイトルだと思いましたので、スムーズな開発進行はもちろん、会社としてノウハウがためる意味でも、『エクスプロア』から内製に変えました。現在は、大阪にいるCOG(カプコンオンラインゲームズ)の若いメンバーが中心となっています。開発・運営を合わせるとチームメンバーは50人ほどです

 

■広告費はほぼ無し…83万人というカプコン過去最高のDAUを記録


――:2015年9月3日にAndroid版、9月29日にiOS版をリリース、そして10月1日には累計100万ダウンロードを突破しました。ガチャも無いため、リセマラ(リセットマラソン:チュートリアル時のレアガチャで良いユニットを得るため、何度もアプリのインストールとアンイストールを繰り返す行為)をする必要もないですし、(リセマラ目的の)重複ダウンロードは含んでいないかと思います。

はい。現在(取材時:10月23日)で270万ダウンロードを突破しています。


――:広告宣伝費についてはいかがですか。


全くとは言いませんが、いまのところかけていないです。公式Twitterでも掲載しましたが、10月3日(土)ピークタイム時には最高同時接続15万人を超え、ログインしたハンター(DAU)の数は83万人を超えましたので、もはやひとつのマスメディアみたいなものです。

iOSリリース後にここまでの初動を記録することを考えると、そこからバイラル効果でお客様のなかで浸透していったのかと思います。また、他社のアクションRPG作品からも『エクスプロア』がどんなものなのか様子を見に来ている方もいらっしゃるなど、反響は凄まじいものがありました。


――:個人的にDAUが83万人というのも驚きましたが、プロデューサー自らゲーム内のお知らせ上でユーザーに向けて数字を公表するのが印象的でした。

『エクスプロア』の場合は、あまりの人数でサーバ側が落ちてしまったこともあるため、きちんとお客様に説明しなければいけないと思いました。だからこそ、ぼんやりしたことを言うのではなく、「現在これほどのユーザー規模があります」と正確に伝えることで、お客様のなかでも納得できるようにお知らせで掲載しました。

そもそも当初DAUは20万人で計算していましたし、カプコンとしてもこの数字を超えるタイトルは未だかつてありませんでした。新規登録を一時的に止めるなど、お客様にはご迷惑をかけましたが、トラブルとしては少ない被害で済んだかと思います。



――:細かい運営中の話になるのですが、クローズドβテスト後、迅速に改善ポイントをプレスリリースで告知したところは、あまり他社には無い取り組みかと思います。

PCオンラインゲームの開発・運営の出身者としては当たり前のことですが、やはりお客様にとって何が一番良いのか、サービス業として考え行動に移すことが大事だと思います。たとえば、CBTを行うにしても何故お客様が遊ぶのかは、いち早く新しいゲームで遊びたいほかに、そのゲームに期待してくれて、少しでも良いゲームにしたいから手伝うためじゃないですか。だからこそ、手伝っていただいたお客様に迅速なフィードバックがないと意味がありません。何よりお客様も安心しますし、ゲームが良くなる期待感にも繋がると思います。


――:こうした施策と迅速な運営が、御社の強みなのかもしれません。

とはいえ、まだまだ遅いと思っていますけどね(笑)。先ほど話したお知らせ告知も迅速に掲載したことで、83万のDAUに対してお問い合わせは約500件でした。トラブルは1分1秒でも早く解決しなければならないため、開発チームでも素早く動けるような体制を整えています。


――:それでは、今後の展望や運営方針についてお伺いできればと思います。直近では新武器種や新しい島などを含む大型アップデートが実装されたかと思いますが、もう少し長いスパンにおいて考えている施策などはありますか。

じつは、「4人以上のマルチプレイ」的な何かの実装を来春に考えています。現状のゲームエンジンでは4人以上の表示は難しいのですが、しっかり4人以上でリアルタイムに同期したコンテンツの開発を進めています。恐らくそれほどのインパクトがあることをやらないと、目新しさがないと思っています。やはり多くの人が手にしているスマホという端末において、多人数コンテンツは作っていかなければならないと思っています。数十万が参加しているのであれば、その人数が直接ゲームに対して面白い影響を与えるように実装を考えていきます。


――:そういえば、海外展開においても以前進めていることをプレスリリースでおっしゃっていましたね。

はい、進めています。具体的な運営・開発元は言及できませんが、当然その国にあったマネタイズに変更するなど、カルチャライズを施していきます。

 

■「リリース当初は50点」…COGが目指すカプコンブランド


――:ここからは、杉浦さんが統括するCOG(カプコンオンラインゲームズ)全体についてもお伺いできればと思います。スマホゲームはもとより、ブラウザ含むPCオンラインゲームなど、様々なタイトルを抱えているCOGですが、どのような組織体制になっていますか。

COGは、東京・大阪・ソウル・台北の4拠点で運営・開発しており、スタッフは700人に及びます。よく東京一極集中と思われるのですが、比率としては東京:5、大阪:3、ソウル:1、台北:1の割合になっています。ちなみに、企画の立ち上がりなどは各拠点から出てきます。


――:また、COGでは単純に“カプコンが手掛けるオンラインゲームのブランド”という位置づけではなく、よりオンラインゲームが楽しめるような新しいコミュニケーションサービスの創出にも努めていますよね。その代表例が直近では「カプリンク」だと思います。

カプリンクは、COGのゲームフレンドとアプリやPCオンラインゲーム間で最大16人のチャット・タイムラインが楽しめるサービスです。また、COGのほかのタイトルにお客様を誘導するなど、事業としてコンテンツの成長も担うサービスとしても寄与しています。実際『エクスプロア』に実装してからは、ほかのタイトルも遊んでいただく機会が増えるといった、ヒットタイトルが1本出てきたことでより機能としての価値が出てきました。

近いうちチャット機能に重きを置いたアプリ「カプトーク」もリリース予定です。とくに今後マルチプレイが活性化していくことを考えると、事前に友達と一緒に遊ぶため連絡する必要も出てきます。当然ほかのツールを使用してもいいですが、オンラインゲームの運営を事業としているメーカーとしては、こうしたコミュニケーション機能もサポートしていきたいと思っています。



――:分かりました。杉浦さんは、これまでPC・モバイルと様々なオンラインゲームを開発・運営してきましたが、今後の市場についてどのように捉えていますか。


スマホゲーム市場というよりかは、ゲーム市場そのものが「ニーズにあったものを提供する」、あるいは「自分たちでニーズを作っていく」…当然このどちらかになるかと思っています。突発的に新しいジャンルや強力IPは生まれてくるものですが、やはり後者は頻繁に起きるものでもありません。

先ほども話しましたが、今のスマホゲーム市場は、コンシューマやオンラインゲームが歩んできた道筋のなかで、再び歴史が繰り返されようとしています。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とあるように、ある程度ゲーム業界の歴史を知るみなさんであれば、次にだいたい何が流行るかは分かるかと思います。

ただ、そこでどうしても防ぎきれないのが、ハード(端末)の性能向上やユーザーの成長に伴い、よりリッチなコンテンツを求めて開発期間が伸び、開発費が高騰していくことです。ヒットすれば大きいかもしれませんが、利益率やヒットまでの博打のレベルも変わってきます。加えてアプリは本当にとてつもない量が出ていますし、お客様としてもどれを遊んでいいのかさえも分からない状況で、ますます群雄割拠の時代に突入していきます。



――:ええ。杉浦さんとしては、そうした状況下のなかで何を必要としていますか。

大事になってくるのはブランドです。弊社には様々なIPがありますが、他社も既存タイトルのブランド力を上げる施策が必要となってくると思います。なかでもCOGとしては、アプリとしてのブランドを確立していき、「カプコンのゲームは骨太で面白い」と評価していただくように努めていきたいです。


――:まさに直近の成功例としては『エクスプロア』なのかもしれません。

ゲーム自体はもちろんですが、マネタイズの部分に関しても新しいことが提示できたかと思っています。ちなみに、直近の新作『ブレス オブ ファイア 6 白竜の守護者たち』(『BOF6』)でも報酬枠課金を実装しています。加えて本作の場合は、何が手に入るか報酬が見えるようにしており、欲しいものがあれば有償通貨を使うという、言わば“納得課金”となっています。このように、今後もカプコンからは新しいマネタイズのアイデアを次々出していきたと思っています。


――:『エクスプロア』のマネタイズが、実際に『BOF6』でも使われるように、今後出てくる新作などにも次々とシェアすることも可能ですね。

はい。どうしてもオンラインゲームは、世間からネガティブに見られる印象があります。近年では、消費者庁の自己破産申告書のなかに、「ゲーム」というチェックボックスが加わるなど、由々しき問題まで発展しています。本来ならば、我々はエンタメ業としてお客様に笑顔と楽しさを提供しなければなりません。新しいマネタイズという小さな施策かもしれませんが、少しでもゲームの存在が良い印象に変わるように今後も提案していきたいと思います。

我々は毎回タイトルをリリースする際、自分たちのゲームを50点ぐらいの評価だと思っています。というのもオンラインゲームは改善ビジネスですので、お客様の傾向と要望で日々進化していく必要があります。これからも運営を通して、タイトルに磨きをかけていきます。



――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部  原孝則)


■『モンスターハンター エクスプロア』
 

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※ゲーム画面は開発中のものです。
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株式会社カプコン
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会社情報

会社名
株式会社カプコン
設立
1983年6月
代表者
代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
決算期
3月
直近業績
売上高1524億1000万円、営業利益570億8100万円、経常利益594億2200万円、最終利益433億7400万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
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