【インタビュー】『FFグランドマスターズ』の開発秘話や今後の展開を直撃 「LINE@」を用いた事前プロモーションは驚異のコンバージョン率に


スクウェア・エニックスは、2015年10月1日に『ファイナルファンタジー グランドマスターズ(以下、『FFGM』)』をリリースした。

本作は、『ファイナルファンタジーXI』と世界設定を共有した幻想世界“ヴァナ・ディール”を舞台にした、スマートフォンで手軽に遊べる本格オンラインRPG。プレイヤーは、自分だけのオリジナルキャラクターを作成し、最強の冒険者“グランドマスター”を目指して仲間とともに強大な敵に立ち向かっていく。開発は『エレメンタルストーリー』などの数々の大ヒットソーシャルゲームを手掛けてきたクルーズ<2138>が担当している。

リリースからわずか2週間経たずして100万ダウンロードを記録したほか、App Store及びGoogle Playの売り上げランキングでもTOP30の常連になるなど好調。また、配信前の事前登録では、「LINE@」を用いたプロモーション施策で話題も呼んだ。

本稿では、同作のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの渕上貴史氏と、クルーズのプロモーション本部の山口直人氏に、『FFGM』の開発経緯やプロモーション施策をはじめ、今後のアップデートについてお話を伺ってきた。

 

■スクエニ×クルーズ 両社の取り組みで実現した新たな形の『FFXI』



『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』プロデューサー
第12ビジネス・ディビジョン
渕上 貴史 氏 (写真左)

クルーズ
プロモーション本部
山口 直人 氏 (写真右)


――:本日はよろしくお願いします。『FFGM』は、今年3月の『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のメディア向け発表会で初披露されました。まずは順を追って、本作におけるプロジェクト発端の経緯について教えてください。

渕上貴史氏(以下、渕上):そもそも私は、特別『FFXI』チームに所属しているわけではなく、『三国志乱舞』や『スクールガールストラカーズ』、最近では『ポップアップストーリー』など、主にモバイル・PCブラウザゲームを手掛けてきた部署に所属しています。かれこれ7年ほど「Free to Play」のゲームを中心に携わっています。


――:あ、そうだったのですね。

渕上:はい。そして数年前、私が担当していたタイトルが一区切りつき、「次は何を作ろうかな」と考えていた矢先、様々なパートナー会社さんと話しているなかで、「『FFXI』でオンラインゲームを初めて遊びました」というクリエイターの方が多くいらっしゃることに気付きました。であるならば、そんな『FFXI』で育ったクリエイターたちと一緒に、同作を題材にした新たなゲームを手掛けたら、より良いものができるのではないかと思い企画したのが始まりです。


――:とはいえ、『FFXI』を題材にしたゲームを作るうえで、きちんと同チームに承諾を得ないといけないと思います。感触はいかがでしたか。


渕上:『FFXI』のプロデューサーである松井(松井聡彦氏)と、ディレクターの伊藤(伊藤泉貴氏)に相談したところ、意外にも「どうぞ!」「全然いいですよ!」と特に問題もなく、スムーズに企画を進めていくことができました。


――:恐らくそこから具体的に開発会社を決めていくものだと思います。クルーズ社に決めた経緯は何だったのでしょうか。

渕上:開発力はもちろん、きちんと運営能力にも長けた企業と組むべきだと考えて、開発会社さんに向けて企画コンペを実施しました。

そのなかでクルーズさんは「こんなゲームを作りたい!」と紙の資料だけではなく、実際に動くモック版まで作ってきてくれたのです。動いている様子は説得力も増しますし、何より『FFXI』に対する熱い思いを感じたので、クルーズさんに開発をお願いすることにしました。


――:クルーズ社との開発体制はどのような形でしょうか。

渕上:両社での共同開発となりますが、主な開発運営はクルーズさんにお願いしています。弊社側では、サウンド制作をしたり、開発に必要なデータ・資料の提供や監修といったプロデュース業務が中心です。


――:『FFXI』の世界観や要素をスマートフォンゲームに落とし込む際、色々な部分を削ったり、逆に残したりと調整にご苦労があったと思います。

渕上:当然スマホの性能やユーザーのライフスタイルによって、原版となる『FFXI』と比較しては削っているところはありますが、きちんと『FFXI』の雰囲気は残さなければならないという点については意識しました。その雰囲気を残すためにまず考えたのは、グラフィックのクオリティラインをどうするか、というところです。

作り込めばそれだけ容量も圧迫されますし、ゲームの動作も重くなり、プレイに支障が出てしまうのは絶対に避けなければなりません。ただ、『ファイナルファンタジー』という冠を付けて世に出す以上は「最低限ここまでは…」とグラフィックにもこだわる必要があります。……なかなか言葉にするのは難しいですが、端末の限界とクオリティの線引きには最後まで悪戦苦闘していました。
 
 




――:なるほど。グラフィック以外のところでは、いかがでしょうか。

渕上:クエストでは『FFXI』のシナリオをコンパクトかつ忠実に再現するように心掛けました。これまで『FFXI』を遊んできた既存ユーザーのみなさんに対して、あまり違和感を与えないようにと監修は徹底しています。

また、クエスト中の画面では、フィールド上に多数のプレイヤーやモンスターがいて、協力しながら進めていくMMOの形を踏襲するようにしました。……ただ、当初はそういうゲームを目指していたわけではありませんでした。


――:開発当初は、どのような内容でしたか。


渕上:開発当初は基本的にソロプレイが中心で、他の人とギルド(LS)を組んで遊べる形を想定していました。コンセプトも“「ヴァナ・ディール」で最強のギルドを目指そう”という立て付けで、例えばスタミナ消費の概念もありました

ですが、やはり『FFXI』の雰囲気を出すためには、ほかの人たちと協力して遊べるかなど、いかに“MMOらしさ”を表現しなければならないと考え、現在の形に変更したのです。また、リリースまでの月日を考えると、このままのゲーム性だとユーザーさんにも受け入れてもらえないかもしれないという心配もあったので、思い切って同期を取るタイプのモバイルオンラインゲームにしました。


――:たしかに本作にはスタミナがないため、よりMMORPGらしさを感じ取れるかと思います。

渕上:やはりオンラインゲームは“好きな時に好きなだけ遊びたい”とみなさん思うはずです。加えて『FFGM』は一緒に協力プレイができるタイプのゲームなので、例えば友達と一緒にプレイするときも、自分だけスタミナが無いからプレイできないのは理不尽だなと思い、スタミナの導入はやめました。


――:ユーザーはどんな遊び方していますか。

渕上:基本的には、ゲーム内のメインクエストやイベントなどを、ほかのユーザーさんと一緒に協力してクリアを目指したり、武器や防具を手に入れて自分を強化したりしています。今後のバージョンアップで、さらに遊べる要素が増えていきます。

また、ユーザーの遊び方で個人的に「面白いな」と思ったことがあります。『FFGM』には自由にユーザー同士で会話が楽しめるロビーがあるのですが、たまたま私が入った部屋のエリアチャットでは、真夜中にみなさんで“しりとり”をしていました(笑)。「あ、そうやってコミュニティを形成しているんだ」と思いましたが、こうした開発・運営側も想定していなかった遊び方が増えていくのは嬉しいですね。


――:コミュニティのために本作にログインする方がいるのは、スマートフォンのゲームとしては珍しい流れですね。PCオンラインゲームの要素・雰囲気が『FFGM』に入っているからこそ実現している、本作ならではのユーザーの行動だと思います。では、実際にリリースを迎えて、ユーザーからの反響はいかがでしたか。

渕上:当たり前ですが、良いアップデートを行えば喜んでいただけますし、逆があればお叱りを受けるという感じで、毎回的確なご意見をいただいています。先日実施したジョブのバランス調整では、特定のジョブが「使いやすくなった」という声もあり、しっかりとした反響がありました。


――:『FFXI』を遊んでいる既存ユーザーで言えば、長年オンラインゲームに触れているからこそ、“運営・ユーザーと共にゲームを育てていく”という気持ちがあるのかもしれません。

渕上:そうですね。意見をおっしゃっていただくのは、「ゲームを良くしたい」という期待の表れだと感じています。こうした意見には、きちんと目を通して参考にさせていただきたいと思います。そうした背景もあり、本作にはスマホゲームでは珍しく「フォーラム」を設けて、ユーザーさんが気軽に意見を書き込めるようにしています。
 


――:現在、『FFGM』には6つのジョブがありますが、直近では赤魔道士の実装について予告がありました。とはいえ『FFXI』にはまだまだジョブがたくさんあります。今後のジョブの追加について教えてください。

渕上「赤魔道士」の次は「暗黒騎士」の実装を予定しています。もちろんそれ以外のジョブも今後追加していきますが、ジョブを追加するタイミングはまだ明確には決めていません。本当であれば、定期的に追加していきたいのですが、やはりバランスとの兼ね合いも考える必要があると思っています。

もちろん、新しいジョブを入れればゲーム内が盛り上がると思うのですが、新しいジョブの追加はゲーム内のバランスに大きな影響を与えることになるので、慎重にバランスを調整しながら適切なタイミングで今後も追加していきたいと思います。


――:先日、ゲーム内ではイベントとして「ヒロインズコンバット」を実施していました。「ヒロインズコンバット」といえば『FFXI』の最凶NPC「シャントット」の出番だと思うのですが、今後「シャントット」も含め、他の「ヴァナ・ディール」のNPCは登場する予定はありますか。

渕上:「シャントット」は遅かれ早かれ……出します!


――:ストーリーの方ではまだ登場していないですよね。

渕上:そうですね。ただ、ストーリーの方ではしばらく出番がないかもしれないので……どうやって出そうかな、と今考えている最中です。ですが、出したいというか出すべきだとは思っているので、お待ちください!


――:楽しみにしております!

 

■「LINE@」を用いた事前プロモーションでは…


――:ここからは、クルーズの山口さんから本作のプロモーションについてお聞きしたいと思います。山口さんは、具体的に『FFGM』でどのような施策を行ってきましたか。
 

山口直人氏(以下、山口):大きなところとしては、事前プロモーションをはじめ、リリース前にゲームの事前登録を行いユーザーさんの確保に努めました。おもなスケジュールでは、6月にCBTを実施し、7月にそのフィードバックを発表、9月に事前登録を開始して、10月1日に正式リリースという形になります。

事前登録は結果的に8万人ほど登録していただけました。そのうち大部分を「LINE@」(※)のプロモーションで獲得しました。

※「LINE@」:様々な種類のメッセージを、不特定多数のユーザーに届けることが出来るツール。おもに自社サービス・製品のプロモーションとして活用している。


――:「LINE@」といえば、企業側がユーザーに対してメッセージを一斉配信するような位置づけですが、そこで事前登録を行ったのですね。

山口:はい。従来の事前登録はメールアドレスで登録するのですが、正式リリースをお知らせするときも、登録したメールアドレスに連絡する形が一般的です。ですが、フィーチャーフォンからスマートフォンにシフトしていくなかで、メールアドレスの重要性が薄れてきていると感じていますし、国内スマートフォンの契約数が6850万台(出所:MM総研 – 2015年6月当時)にのぼるなか、「LINE」の会員数は5800万と全体の85%を占めており、友人・知人との連絡手段として主流のサービスとなっていることから、「LINE」を用いたプロモーションであれば、多くのスマホユーザーにリーチできるのではないかと考え、「LINE」を活用したプロモーションを実施する事にしました。


――:なるほど。

渕上:あと実際に山口さんから説明を受けたのですが、「LINE」のほうがメールより開封率が高いようです。というのも、「LINE」は新しいメッセージが来ると、アプリのアイコン上に赤く「(1)」と数字が出るじゃないですか。私もそうなのですが、みなさん、その表示を消すために開封してメッセージを見てくれる傾向があるのではないかと。

もしかしたら「LINE」のほうは登録数が低いかもしれません。ですが、我々としては、事前登録の登録数よりも、いかにゲームをダウンロードしてもらえるかというコンバージョンのほうに重きを置きました。
 

山口:そうですね。今回は事前登録からの転換率、そしてユーザーさんの質を重視していたため、そもそも事前登録数を膨大に集める事は考えておりませんでした。


――:具体的に「LINE@」における事前登録のフローはどういった形だったのでしょうか。

山口:「LINE@」上の『FFGM』公式アカウントと友達になるだけで登録完了です。メールアドレスを登録する場合、実際にアドレスを入力しなければいけませんでしたが、「LINE」はボタンひとつで完了するので、事前登録が相当楽になったと思います。そして、正式リリースの際には『FFGM』の公式アカウントから「LINE」を通してメッセージが届き、そのメッセージからアプリのダウンロード画面に遷移していくという流れになります。

『FFGM』公式アカウントに友達となって事前登録してくださるユーザーさんは、やはりこのゲームに期待をしてくれているため、リリース前から公式アカウント先行でゲーム情報を公開し、ユーザーさんに対するモチベーションの維持や期待値を上げていきました

また、ほかのアプリとの差別化として、ただ「ゲーム情報」を公開するだけのアカウントにはせず、LINE上で面白いコンテンツをユーザーさんにお届けできないかと考え、『FF』の人気キャラクターである「モーグリ」と会話できるコンテンツを作成しました。


――:「モーグリ」と会話ができる…なかなかユニークな試みですね!

山口:『ファイナルファンタジー』という大きなIPを題材としたゲームのため、お馴染みのキャラクターと会話できたらファンとしては嬉しいと思いました。会話方法はシンプルで、『FFGM』公式アカウントの会話画面で「おはよう」や「こんにちは」と打ち込むと、それに対して「モーグリ」が答えてくれるようになっています。21,000キーワードを設定し、「モーグリ」がそれに対して返答出来るようにしています
 
 


――:21,000キーワードも!?

山口:この数字は、例えば「遊ぼう」という単語ひとつでも、LINEの仕様上「遊ぼう!」ときちんと設定した文章を入力しないと、反応しないようになっています。なので、ひとつひとつの単語に関しても様々なパターンを設定しているので、これぐらいの数字になりました。やはりユーザーさんがせっかく入力して会話をしようとしているのに、そこで反応しないと会話が成立しなくなってしまうので、ここは会話に繋がるよう意識したところですね。


――:具体的にどのようなキーワードを設定していますか。

山口:設定されているキーワードは、簡単な「おはよう」などの挨拶のほかに、『FFXI』『FFGM』のゲーム内用語、あと珍しいところでは「都道府県」や日本の有名な苗字なども設定しています(笑)。


――:細かい(笑)。

山口:実際に、事前登録時にユーザーさんと「モーグリ」との間には、約12万回の会話がありました。単純計算で1人につき3回ほど会話していることになります。その中で多いキーワードは、やはり「こんにちは」などの挨拶、「ケアル」「サンダー」などの『ファイナルファンタジー』の魔法、「サンドリア」といった『FFXI』の地名などコアな言葉が目立ちました。また、ユーザーさんは「モーグリ」が反応するキーワードを探している傾向があり、次第に公式アカウントにも愛着が生まれていくのだとも感じました。


――:今回の「モーグリ」と会話をするという施策、スクエニ社側ではいかがでしたか。

渕上:嬉しかったですね。もしかしたら、私ではこのアイデアは生まれなかったかもしれないので、こういうのは一緒になってゲームを開発・運営していることの強みだと思います。


――:「LINE@」での事前登録ですが、ダウンロード数など具体的なコンバージョンはいかがだったのでしょうか。

山口業界平均の倍程度の転換率となりました。これはアプリがリリースされた当初の数字ですので、今ではもっと上がっている可能性があります。今まで他タイトルでも事前登録を行ってきましたが、ここまでの大きな数字は初めての経験です。

渕上:やっぱりみんな「(1)」の表示を消すために開くんですよ(笑)。

一同:(笑)
 


――:分かりました。それでは、最後に両社における今後の展望について教えてください。

渕上:今後のバージョンアップを経て、遊びの幅が格段に広がっていきます。具体的には、ジョブ専用の「AF(アーティファクト)装備」が手に入るコンテンツを準備しています。このほか、将来的には『ファイナルファンタジー』シリーズタイトルとのコラボレーションや、「ヴァナ・ディール」の人気NPCも登場させたいと思っております。不具合なども修正して、より遊びやすくなるよう進化させていきますので、ぜひ『FFGM』にご期待ください。

山口:我々としては、引き続き「LINE@」を利用したプロモーション活動を行っていきたいと考えております。ゲーム内の時限式クエストや新しいイベントを告知するなど、「LINE」から拡散するような施策を検討して実施していきたいと考えております。もちろん、さらなる『FFGM』拡大を目指し、大規模なプロモーションなども検討・実施していきたいと思います。


――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部  原孝則)


■『ファイナルファンタジー グランドマスターズ』
 

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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
企業データを見る
クルーズ株式会社
http://crooz.co.jp/

会社情報

会社名
クルーズ株式会社
設立
2001年5月
代表者
代表取締役社長 小渕 宏二
決算期
3月
直近業績
売上高140億円、営業利益6億4400万円、経常利益6億2800万円、最終利益2億5400万円(2023年3月期)
上場区分
東証スタンダード
証券コード
2138
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