現在ミクシィ<2121>では、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。
今や『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)を筆頭に、スマートフォン向けアプリを手掛けるゲーム会社の印象が強い同社。ご存知の通りミクシィは、1997年に提供を開始した『Find Job !』をはじめ、SNS『mixi』、家族向けフォトブック作成サービス『ノハナ』、子どもの写真・動画共有アプリ『家族アルバム みてね』といった、数々のサービスを生み出しては世の中を変えてきた企業だ。
「新しい文化を創る」というミッションの通り、新規事業の創出と合わせて、現在も戦略的なM&Aも実施している。2015年は、株式会社ミューズコー、株式会社フンザをグループに加え、ミクシィグループとして事業領域の幅を広げている。
今回「Social Game Info」では、ミクシィの代表取締役社長である森田仁基氏にインタビューを実施。2015年の振り返りをはじめ、今後の展望、求めている人物像などについて伺ってきた。
■「新しい文化を創る」ミクシィ そこで働くスタッフの想いとは
――:本日はよろしくお願いいたします。月並みな質問からで恐縮ですが、年も明けたこともあり、率直に2015年を振り返ってみていかがでしたでしょうか。
弊社の目標は、ミッションの「新しい文化を創る」とあるように、まだ業界でやったことのない分野にチャレンジすることです。そういう意味で2015年は、前年以上に新しいことができた年だと感じています。『モンスト』を例に挙げれば、YouTubeでアニメを全世界に配信したり、モンストグランプリを通してe-Sportsの普及に協力したり、ニンテンドー3DS™版を発売したりと、様々な新しいことにチャレンジできました。
そのほかチケットフリマサービスの『チケットキャンプ』では、チケットのフリーマーケットを文化として根付かせるために、ミクシィ社が持つマーケティング・アプリ開発・カスタマーサポートなどのノウハウを用いて、テレビCMなどを積極的に行い、業界の中でのプレゼンスを高めていきました。グループ全体として、力強く前進できた一年だったかと思います。
――:2015年から人員の強化をされていたのですか。
ええ。会社として前進できたのは、スタッフ一人ひとりの自力が上がったという一言に尽きます。人は新しいことにチャレンジすると、自分に足りないことが見えてくるものです。『モンスト』を開発するXFLAG™スタジオのメンバーをはじめ、弊社のスタッフはどんどん新しいことに挑戦していこうという意識が強いですね。
また、ユーザーのために何ができるのか、それを実現するためにはどんな努力が必要なのかを考えられる人材が非常に多くいます。結果的に、ほぼすべてのスタッフが、一年前の自分と比べてかなりの成長を見せています。
――:ちなみに、現在のところ社員はどのくらいの数になりますか。
社員で言うと400人を超えたくらいで、全体では倍近くといったところです。
――:その中でも、ゲームとそれ以外のメディアで領域が大きく変わると思います。組織体制の分け方という点では、何か意識していることはありますか。
基本的には、大きくコンセプトを変えません。繰り返しにはなりますが、まずユーザーさんを見ること。それに対して何ができるか常に考えてほしいと、私は口を酸っぱくしてスタッフに言っています。
会社では事業が停滞したり、思うことが上手く表現できなかったりすると、不満が内に向いてしまいがちです。しかし、不満を漏らしているだけでは空気も悪くなってしまいますから、私は一切認めていません。あくまでも外側のユーザーさんへ、どういう価値を届けるかがすべてなので、それに対して一心不乱に考えることを各事業のスタッフに意識するよう伝えています。
――:森田さんというと、普段から採用面にも注力されているとお聞きします。
そうですね。私が社長になったときに、ふたつの約束を社員にしました。ひとつは世の中に新しい価値を創ること、ミクシィにしかできないことをし続けることです。もうひとつは社員が誇りに思える会社にすることです。
ユーザーさんのことを第一に考えられる環境づくりはもちろん、成果に対する評価体制、福利厚生などあらゆる面で、社員が「うちは良い会社だよ」と言えるような会社にしたいと考えています。この約束を実現するためには人材はとても大切で、採用にも積極的に参加するようにしています。
一番に見るのは、その人が起こした行動の裏側ですね。人は自分の意志で能動的に動いたものと、周りから言われて動いたものとでは結果が変わってきます。行動の裏にある意思がきちんとしていれば、弊社で活躍していただけると思います。逆に成果は時の運だと思っていますが、とにかく打席に立ち続けてほしいのです。だから、成果が出なかったことを反省したら、すぐ次のチャレンジに移れる人を多く仲間として迎え入れたいと考えています。
――:すぐに成果が出なくてもチャレンジを続ける姿勢は、XFLAGスタジオなどを見ていても感じられます。
私はもちろん、XFLAGスタジオの総監督である木村(ミクシィ取締役 木村弘毅氏)も、何回も何回も失敗しているんですよ。ただ、失敗したことを気にするのは自分自身だけで、周囲の人は成功した部分を見てくれます。これは私自身が感じたことなので、スタッフにもどんどん経験してもらい、身を持って知ってもらいたいですね。
――:森田さんの目から見て、具体的に挑戦していると感じられる事業はありますか。
e-Sportsを広げるためにリリースした『モンストスタジアム』は、当初ユーザーさんから「こんなアプリ必要ないのでは」と言われることもありましたが、我々には明確なコンセプトがあっての取り組みでしたし、一年以上かけて考えながら作り上げたものです。結果的に、「モンストグランプリ2016 闘会議CUP」を開催できるまでに成長できました。地方の大会を見ても、ユーザーさんが本当のスポーツのように盛り上がっていて、新しい第一歩を踏み出せたかと思います。
あとは『モンスターストライク』のアニメも新たな挑戦でした。アニメはYouTubeで配信していますが、これを決めたときに否定的な意見がほとんどなく、スタッフ全員が同じ方向を向いたことで実現したプロジェクトでした。さらにアニメとゲームの連動も行えているので、手応えを感じています。
――:他のメーカーですと、アニメ化や賞金制の大会となると採算の面で難しく感じることもあるかと思います。ですが森田さんの場合は、チャレンジのために積極的に投資をしていくのですね。
「攻撃は最大の防御」という言葉もありますからね。数字としての結果を求めることが優先して、どこか他社と同じようなプロダクトばかりを作っていた時期がありました。それを否定するつもりはありませんが、なかなか芽が出なかった時期を通じて、我々は他と同じことをやっても勝てないということを学びました。
そもそもSNS『mixi』はリアルな友達ともネット上でコミュニケーションを図ることを目的につくったサービスであり、我々はずっと「コミュニケーション」について真剣に向き合ってきた、いわばコミュニケーションのプロです。そこで、コミュニケーションの要素をゲームに活かしてみてはと考え、生まれたのが『モンスターストライク』でした。リリース時はフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションをしながら遊ぶというスタイルのゲームが他にはなく、大きなチャレンジでもありました。
人と違うことをやらないと、突き抜けたものは生まれてきません。多くのユーザーさんを驚かせるためには、誰にも思いつかないこと、常識では考えられないことを試みる必要があります。その文化が弊社にはすでに染み付いていると思っています。
――:違うことをやることで、新しいユーザーが付く可能性もありますからね。
今は思い切って行動できるフェーズなので、ここで手綱を緩めることなく走り続けることが5年10年の歴史を作るうえで重要だと考えています。
■フリーターから社長へ 打席に立ち続けてホームランに
――:ここまでのお話を聞いていると、現場と経営陣の距離がかなり近いように感じました。
物理的なことを言っても、私の席はXFLAGスタジオのメンバーに混じる形になっています。さらに会長の笠原もスタッフと常に一緒にいて、自分の部屋をほとんど使わないのです。あまりに使わないので、今では動画撮影専用の部屋になっています(笑)。基本的に役員は皆フラットにしていますし、私自身もスタッフが行う打ち合わせに出たりしています。なるべく普段から、どういうことを日々考えているかを話し合う機会も作っています。
――:新規事業なども、そうしたスタッフ同士の何気ない会話から生まれることもあるかもしれませんね。
ええ。こと新規事業に関しては、ラボ的なものを考えるケースと、既存の事業部ごとで考えるケースの二通りがありますが、現在は両方がバランスよく形になっている印象です。XFLAGスタジオですとアニメや3DS版、e-Sportsへの取り組み、すべてが新事業でした。事業部規模であるものの、他社さんと遜色のないレベルで新しい事業にチャレンジできています。
一方で『チケットキャンプ』においてもいろいろな取り組みを行っています。例えばサマーソニックとの協賛は当時としては画期的でした。それぞれが新しいことを思いついたら、事業部単位で出来るものは進めればいいですし、まったくの新規であればイノベーションセンター案件としてサポートします。『ノハナ』、『家族アルバム みてね』、アイドルや芸人との1:1のライブコミュニケーションサービス『きみだけLIVE』もイノベーションセンターから生まれたサービスです。
――:『チケットキャンプ』を始め、新規事業に対しても積極的に投資されています。
はい。幸か不幸か、弊社はホームランしか打てない会社ですから(笑)。フンザ社にジョインしてもらった際も、額としては大きなものでした。しかし、世間に普及させるための明確なビジョンがあり、勝てる自信がありました。そのおかげもあって、前回の決算でご説明したとおり月間流通総額が26.5億円まで拡大しました(関連記事)。
リソースの分け方という意味では、事業規模が大きいところに人が集まりがちです。しかし、私たちは「新しい文化を創る」ということをミッションと捉えていて、これは決して新しいゲームに限りません。そのため、どこかひとつに人材を集中させるといったこだわりは持っていません。
また、弊社が以前から運営している『Find Job !』や『mixi』などで、人々の生活を豊かにすることもミッションのひとつです。これに共感して入社してくれたスタッフの中には、ゲーム以外の側面で新たな価値を創り出せる人もたくさんいます。私は、集まった人たちの長所を活かせる事業展開をしていければと考えています。
――:社内制度の面で特徴的なものはありますか。
福利厚生ですと家賃補助を出しているほか、Google playカードやiTunesカード、お弁当の補助、病児保育&ベビーシッター補助などがあります。コーヒーもただで飲めるのですが、さらに美味しいものとなると200円程度もらいます。私個人的にはとても美味しいと感じるので、いつも利用しています。コーヒーメーカーさんとも「どうやったら売れるか」と入念に打ち合わせをして、商品のラインナップやイラストにもこだわりを持って導入しています。
また、評価制度を導入し、チャレンジや努力をした人にはしっかりとした評価を行い、給与に反映させるようにしています。加えて成果の判断軸も存在し、賞与に反映しています。そのほか、稼いだ部署がすべてではなく、得た利益の一部を全員で分け合う制度もあります。こうした形でサポートを行い、新たな事業を生み出そうとしている人たちに「次は自分たちも」と思ってもらえるよう努めています。
――:そういえば、直近では『ブラックナイトストライカーズ』がリリースされました。森田さんはゲーム開発の直接には大きく関与はないかと思いますが、代表として本作に対してどのような印象を持っていますか。
もともと、『モンスト』に続く新作ゲームとして3タイトルが動いており、その中で一番良いものをリリースする計画でした。3作品すべてリリースすると注目が分散されてしまいますので、戦略的に集約した形です。ちなみに『ブラックナイトストライカーズ』が選ばれた理由は、『モンスト』とは違った盛り上がり方のできる要素を持っている作品だったからです。
――:事前にゲーム情報を明かさず、リリースと同時に初めて詳細がわかるというやり方もインパクトが強かったです。
『モンスト』のアプリにリンクを貼ればユーザーさんも集まりそうですが、それは本質的ではないと思っています。最初にアンテナの高い人が見つけ、リアルの友達と遊んでもらうことで広まっていかないと、わたし達が提供する価値の本質が認められたことにはなりません。また、リリース後もいろいろなチューニングをして、「いける!」と感じたらプロモーションも打って行きたいです。
――:他社さんのゲームですと、大きな広告塔を立ててゲームを打ち出す手法も多いですが、独自のやり方で売り出していくと。
これもユーザーさんを第一に考えてのことです。例えば『モンスト』のユーザーさんに、こちらの都合で広告を見せてもなかなか反応してくれないでしょう。ユーザー目線で考えたとき、現在の方法が一番だと考えました。
――:今後、ミクシィとしてチャレンジしていきたいことはありますか。
当然インターネットとスマートフォンはキーワードになってくると思います。最近のキャッチーなところですと、VRやドローンも気になります。あらゆる分野に気を配って、どんなことができるかを考えていきたいですね。
一方で、すでにチャレンジすべきことが決まっている事業もあって、『ブラックナイトストライカーズ』もそうですし、『マーベル ツムツム』もあります。ビューティーアプリ『minimo』も順調にユーザー数が伸びています。これらのサービスがもう一段ギアを上げるためには何をするべきかを常に考えていますし、できることはたくさんあります。
引き続き既存の事業を考えながら、ユーザーのみなさんの役に立てるような新しいことも生み出していきたいです。そして、実現するためにも共感できるスタッフを集め、一緒にやっていきたいです。
――:森田さんが一緒に働いてみたいと思う人、求める人材像を教えてください。
何がやりたいかは自由ですが、やりたいことに対して喜びを感じられることが大切です。そのためにも、どんなときでもやりたいことを頭の片隅に残しておけるといいですね。「好きこそものの上手なれ」の精神で、楽しんでできる人が望ましいです。仕事は時に辛いこともありますが、その先にある成果を見据え、成果のためには通らなければならない道にチャレンジしてほしい。ハードルは高いかもしれませんが、私たちとしてはそんな仲間たちと一緒に働きたいです。
私自身、大学に5年通った後、フリーターとして店舗販売員をしていました。そこから派遣登録して、出向いた会社がたまたまIT系の会社だったのです。それまではブラインドタッチもできないほどでした。
また、そのIT企業では総務から始まり、広報やディレクターなど、毎年業務が変わっていました。しかし、違う業務をこなしたからこそさまざまな考え方も身につきます。ミクシィに移ってからもアプリの立ち上げやゲーム事業、さらには人事も担当していますが、リスクよりもリターンのほうが圧倒的に多いです。スタッフにも、前向きにいろいろなことにチャレンジしてほしいですし、チャレンジしてくれればそれだけでも私は評価します。
――:本日はありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121