【インタビュー】目指すは徹底したユーザー体験…『モンスト』『ブラナイ』の運営を担う企画チームの制作舞台裏に迫る


現在ミクシィ<2121>では、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。

今や『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)を筆頭に、スマートフォン向けアプリを手掛けるゲーム会社の印象が強い同社。ご存知の通りミクシィは、1997年に提供を開始した『Find Job !』をはじめ、SNS『mixi』、家族向けフォトブック作成サービス『ノハナ』、子どもの写真・動画共有アプリ『家族アルバム みてね』といった、数々のサービスを生み出しては世の中を変えてきた企業だ。
 
「新しい文化を創る」というミッションの通り、新規事業の創出と合わせて、現在も戦略的なM&Aも実施している。2015年は、株式会社ミューズコー、株式会社フンザをグループに加え、ミクシィグループとして事業領域の幅を広げている。
 
今回「Social Game Info」では、XFLAG™スタジオの企画・運用部 部長を務める多留氏にインタビューを実施。大ヒットゲームアプリ『モンスト』を含む同社の開発現場の運営にスポットをあて、語られることのなかった細かい制作舞台裏について伺ってきた。
 
 


 

■徹底したユーザー目線…『モンスト』企画チームの制作舞台裏


株式会社ミクシィ
エックスフラッグ スタジオ
企画・運用部 部長
多留 幸祐
 


――:本日はよろしくお願いいたします。はじめに多留さんの現在のポジション、携わっている業務について教えていただけますか。

エックスフラッグスタジオの企画・運用部に所属しており、『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)や『ブラックナイトストライカーズ』(以下、『ブラナイ』)の運営を担当しています。各ゲームにはPMがいますが、新機能の開発や日々の運営などが正しい方向へ行くよう統括しています。

『マーベル ツムツム』(以下、『マベツム』)については、開発や基本的なゲーム設計はNHN PlayArtさんになりますが、主にマルチプレイやバトルのプレイ感、イベント設計などについて弊社から要望を出させていただきながら、NHN PlayArtさんに仕様を良い形に詰めていただき、先日リリースすることができました。



――:企画・運用部は、プランナーが集まる部署という認識でいいのでしょうか。

そうですね。もう少し具体的に言うと、ゲームディレクターやデザイナーも含まれています。そのほかにも解析エンジニアやアニメの制作ディレクターも在籍しています。ゲーム企画に影響を与えるセクションを出来るだけ集約してる形になります。パートナー会社の人も多いので、正確な在籍人数は分かりませんが、100人近くはいます。


――:プランナー職の、おおまかな業務の流れを教えてもらえますか。

一口にプランナーと言っても、運営型のゲームで、担当や役割が多くあるため、業務の流れはいくつもあります。その中でもゲーム全体の方向性に関わることについて、一つ取り上げますと、クライアントのアップデートまでの流れになります。クライアントのアップデートについては、一番多くのスタッフがかかわる動きになるので、スピード感のある動きが出来るように流れは確立されています。アイデアは色々なところから出てきますが、アップデート開発の前に、主要メンバーを集めた“企画コミッティ”と呼ばれる会議を行い、アップデートの方向性の確認、アイデアや企画の精査を行います。

企画コミッティで精査されたいくつかの企画を、その1週間後までには仕様に落とし込んで、開発関係者を全員集めての大規模な会議を行い、開発優先度を決めます。あとは3~4週間程度で開発完了して、そしてまた次のアップデートについて動き出す、その繰り返しですね。



――:その“企画コミッティ”で、ゲームの方向性が決まっていくと。

はい。新しいことをやることは、程度はどうあれゲームの寿命やユーザーに影響が出ることもあるので、これはやる、やらないなどの意識確認して、議論して、チームで統一の納得感を持って進めてもらうことも大事です。また、新機能企画・開発進行以外にもプランナーはいろいろな業務があり、それぞれ日々別のラインで動いています。例えば、ガチャやステージに出てくる新キャラクター制作に関しては。アップデートに関係なく定期的に行っているもので、ディレクターやアートディレクター、デザイナーが集まって、次のキャラクターモチーフを決めていきます。


――:キャラクターのモチーフというと、たとえば童話や偉人などのことを指しますか。

ええ。もちろんユーザーを驚かせるようなチャレンジングなオリジナルのモチーフのときもあります。こんな特異な表現はどうだろう、とか。ただ、基本的にキャラクターの能力と別ラインでモチーフ、デザイン制作は動いてますが、アクションゲームなので、見た目と繰り出される技のギャップが大きすぎるのもいけません。ここは特に注意しながらですね。この作業も運営が始まってから約2年半の間、規模の変化に合わせて体制の微調整や制作期間は変化してますが、基本フローは変わってません。


――:デザイナーが企画・運用部に所属していると、定期的な打ち合わせもやりやすそうですね。

世界観を構築するにあたって、デザイナーが様々なスタッフと密にコミュニケーションをとってほしいという思いがあったからこそですね。私自身もデザインのマネージャーとコミュニケーションは日頃からとれていると感じますし、方向性に違いが生まれないのも、このおかげです。


――:少し内部的な話にもなって恐縮ですが、多留さんは部長の立場として、プランナーの業務に対する評価はどのような形でつけているのですか。
 

企画職といってもいろいろな役割があります。特にモンストの規模になると役割が細かく分かれていたりします。スタジオの戦略や目指すべき方向性の中で、新しいアイデアや面白い遊びを考えられる人というのはもちろん評価されますが、たとえ大勢に影響を与える新しいアイデアが生み出せなくても、各役割(その人のできること)の中で人よりも魅力的にこなす、あるいは最高のコミットメントをみせるひとも高い評価を与えます。運営型のゲームでは重要なことだと思ってます。


――:先頭に立ってアイデアを出すことも重要ですが、土台となるスタッフも貴重ですからね。

運営型のゲームですと、365日24時間、運営のことを考える必要があります。ときには急遽業務をこなさなければいけない場面もあるでしょう。そんなときでもしっかりと仕事を遂行してくれると、安心して任せられます。それに、土台となるスタッフがしっかりしていれば、周りも良い意味で流されていくという循環も生まれます。ただし、強制はしません。高いモチベーションの中で自然にそういうコミットメントを発生させることが大事です。


――:企画職として仕事をするうえで、多留さんはどのような点を大切にされていますか。

プランナーやディレクターは常に遊んでもらうユーザーのこと、つまりターゲット層を考えるのは当然のことだと思います。ゲームの面白さは人それぞれで、「これが面白い!」というものは存在しません。『モンスト』の場合はまず「マルチプレイ」が軸としてあって、そこにソロプレイも付随する形で面白さが広がっています。マルチとソロの関係性を理解しながら企画を立て続けてきたから、長く遊んでいただいている今があると思ってます。


――:その考えは、『ブラナイ』や『マベツム』にも活かされているのですね。

どちらもこれからの作品であり、『ブラナイ』もチューニングをどんどんかけていくところです。私たちも日々試行錯誤しながら、しっかりと対応していきたいです。

とにかく、まずはターゲット層を見据えること、そしてターゲット層の感覚、感情を把握し、何が大事かを突き詰めることが大切ですね。理想はユーザーの気持ちに共感できればいいのですが、簡単なことではありません。逆に言えば、ユーザーの気持ちを本質まで理解でき、その上で新しい提案をできる人が理想のプランナーと言えるでしょう。これは普遍的なもので、どこの企業でも活躍できるはずです。

『マベツム』については、NHN PlayArtさんやウォルト・ディズニー・ジャパンさんに対して、弊社からは、より多くのユーザーにマルチプレイを楽しんでもらうための仕掛けについて、特に強調してコミュニケーションを取らせてもらっています。



――:ユーザーの気持ちというと、ゲームに何を求めているか、などですか。

何を求めているかを理解するにネット上やカスタマーサポート、あるいは社内からのユーザーの声の他にも、ユーザーと同じように自分たちもプレイしたり、同じ感情を持つ努力をして、「共感」を強めていかないといけません。そうしなければ、机上の空論で終わってしまいますから。自分ではセンスがあると思っていても、それがユーザーに受け入れられるかは別の話で、ロジック立てて突き詰める必要があります。ユーザーと同じ感情を知るのは、その方法のひとつです。ユーザーが「痛い!」と感じることは自分も「痛い!」と感じながら(本質的に共感しながら)、ユーザーが驚く新しい遊びの提案をできると最高ですよね。


――:そこまでしないと、見えてこないものもあると。

感覚としては体験入社、体験入学に近いですね。ソロだけでやりこんでも片手落ちで、やはりマルチプレイでやりこむ必要があります。そういうふうに、実際に『モンスト』をユーザーと同じ目線でプレイしてみると、周りの人に声をかけづらく、マルチプレイのハードルが意外と高いことが分かります。そう考えると、マルチプレイ専用のステージを作っても、ただ縛りを与えてしまうだけです。縛りを乗り越えてもらうために何をするべきかは、自分で体感しなければ分かりません。そこで、自分はもちろん一緒に遊ぶ相手にも、一緒に今遊ぶメリットを与えると、声をかけやすくなります。

『モンスト』には色々なステージがあり、出現が短時間の限定的なものをいくつか設けていますが、こういったところにも理由があります。出現を限定的にすれば「あなたも‘今’遊ばないと」と友達に声をかけるきっかけになります。つまり、声をかけられる側にも同様のメリットがあることで声がかけやすくなります。といっても何か一つだけではダメで、そういうロジックや仕掛けをいくつも組み合わせてマルチプレイをしやすい環境を作っていかなくてはいけません。


――:ユーザー体験を理解していないと、企画を立てるのも難しいですからね。

企画を立てられても、実現はしないでしょうね。漠然と「面白そう」だけでなく、ある程度ターゲットを絞り、誰にどう楽しんでもらいたいかを考えることが大切です。

 

■エックスフラッグスタジオの企画職…求める人物像とは


――:スタッフが働く環境という意味では、どんな特徴があるのでしょうか。

『モンスト』運営チームにはコンシューマやオンラインゲーム出身、あるいは、webサービスを作ってきたスタッフ、またはまったく業界の違うスタッフなど色々なバックグラウンドを持つ人物がいます。

また、『モンスト』のように大きなプロジェクトになると、すべてのスタッフにかかる責任も大きくなります。一般的にはディレクターやプランナー、デザイナーにかかる責任が大きくなりがちですが、イベントのスケジュール管理をする人やガチャの更新をする人にも同様に責任が生まれます。大勢いるスタッフが、揃ってモチベーションを維持しているのは、どんな役割にも責任が伴っているからだと思います。



――:責任感のあるスタッフがいることは『ブラナイ』をはじめ、新作を開発する際にも活かされそうですね。

基本的なデータ構造や運営方針はXFLAGから出すゲームは同じですから、モンストの運用経験者を増やすことで、そのマインドを横展開もしやすくなるでしょう。今後も新しいタイトルを次々にリリースしていくと思いますし、『モンスト』の運用スキル、マインドはかならず役立つはずです。


――:では、『モンスト』の運用の特徴を教えてもらえますか。

『モンスト』に関しては、例えば、ゲームバランスやストレスの設計は他のソロプレイを主として遊ぶゲームよりもチャレンジングにできると感じています。私たちは『モンスト』で、ユーザーに仲間でワーキャーいいながら遊んでもらうことを望んでいます。

その中で、たとえ高難度のステージを攻略できなくても、難しさがマルチプレイ時の話題の種になってくれたり、攻略について熱く会話しながらプレイしてもらえたりするように、ユーザーのレベルに合わせてですが、どのステージもそうなるようなやや過激で歯ごたえのありすぎる設計になっているかもしれません。

それは協力プレイで楽しんでもらうゲームだからこそ、すぐクリアして終わりにないような、難易度設計が出来ていると思っています。

この微妙なゲームバランスを実現するために、企画チームの中にはステージの品質を向上させるQE(Quality Enhancement)チームがあり、ここで新たに作ったステージが面白いかを、感覚的に見てもらうのです。

このチームが実際に遊んで、ステージの難易度やキャラクターの性能などをあらゆる角度から確かめます。ステージ制作チームと隣り合わせになっているので、積極的に意見を言えるのも大きいですね。発足当初は極小数のメンバーでしたが、現在はスタッフの数も増え、体制として整ってきたところです。



――:リリース前から念入りにチェックを行っているのですね。

ステージが難しすぎれば調整しますし、逆に特定の攻略法を使うと簡単になってしまうなど、様々な角度から検証を重ねます。チェックは1回で終わらず、何度も重ねますし、QEの権限は高く、ときには一からやり直しになるケースもあるくらいです。

もちろんQEチーム以外のスタッフも、普段からプレイして意見を言うようにしています。超絶難易度のクエストが配信されたときには、多くのスタッフがすぐにプレイしていますね。また、事前にやり込むことによって、ユーザーが抱く感情を先読みすることも可能です。たとえば、ゲームに対するモチベーションが下がる瞬間を知っていれば「半年後には、世間でも同じタイミングで飽きられるな」という具合に。もちろんすべてが正解ではありませんが、運営型のゲームでは「共感」の先回りをすることも大事でだと思っています。



――:先を見据えているから、ユーザーが不満を感じるタイミングでスムーズにアップデートが入ると。
 

いやいや、そんなにきれいに共感の先回りはできないので、実際はいつも苦しみながら、正解をさがしながらですけどね(笑)。『モンスト』を愛してくれているユーザーに助けられている部分がありますし、私たちの未熟なところでもあると感じています。『モンスト』が大規模なゲームになったからといって、もっともっと長く遊んでもらえるようにまだまだ成長しなければいけません。


――:では、今後はどういった組織にしていきたいと考えていますか。

『モンスト』で体験できたことは、他の作品では味わえないことばかりでした。それは日々の業務以外に、ユーザーに対しての姿勢などの運営マインドの部分でも同じことが言えます。この精神を元にした組織づくりをしていきたいですね。

小規模のゲームだと、重要だと気づきにくい問題もありますが、『モンスト』であれば、小さく細かい部分でもユーザーに与える影響度が大きいため、成功も失敗も大きく心に刻むことができます。ただ、実際は大切な部分や運営の信頼については、大規模も小規模も関係ないんですよね。だから、モンストで身を持って体験してきたマインドを、それで終わらせず新規ゲームでも横展開していきたいです。



――:分かりました。それでは企画・運用部で求めている人物像があれば教えてください。

繰り返しにはなりますが、誰に向けて作っているのかを意識できる人。また、すでにある作品が誰に向けて作られたかを理解している人が望ましいです。さらに、ゲームが完成したことをゴールではなく過程と捉え、未来まで想定できる人であれば活躍できると思います。そこまでできると、仮に失敗しても振り返り、反省できますから。

ユーザー目線に立つことももちろん大事ですが、ユーザー目線を知っているつもりでも、ときにはそれが間違っていることもあります。その場合、間違っていることにもあまり気づかず、正しいと信じきってしまっているので、まわりの人がフォローすることもあります。議論がこじれる可能性も考えると、客観的な視点も大切ですね。



――:これからスタッフが多くなれば、意識を根付かせることも大切ですね。

2、3年前からいるスタッフと入社して間もないスタッフでは、感覚が違う場合もあります。私たちが当たり前だと思い、浸透させようとしても、相手からすれば強制と捉えられることもあります。既存のスタッフは、しっかりとした軸を持ち、コミュニケーションをしっかりとって、スタジオ内の意識を共有できなければいけません。


――:新しいスタッフを採用した場合、どのタイトルにアサインするかは決まっているのですか。

特に決まっておらず、本人の希望と、そのタイミングで力を入れているタイトルを考えながらですね。やるべき業務はどの作品も同じですが、『モンスト』はある程度形ができていて、『ブラナイ』はこれから形を作っていく段階です。

性質が少し違うので、スタッフの能力に合わせてアサインする必要があると考えています。どの作品であっても高いコミットメントを見せてくれたら評価しますし、プラスアルファのアイデアももちろん歓迎です。私たちから厳しい意見を言う機会もあるかと思いますが、どんどん挑戦してもらいたいですね。



――:これから軌道に乗る『ブラナイ』は、新しいスタッフが活躍できる余地も十分にあると思います。

ええ。新作では特に、分析する能力が重要になります。『ブラナイ』というゲームにコミットして、何を目的としたゲームなのか、ユーザーにどういうことを楽しんでもらいたいのかを分析できなければ、良い企画は生まれません。自分のやりたいことだけをするのではなく、ゲームの核を理解したうえでその魅力を最大化する企画を生むことが大事です。


――『ブラナイ』は、ユーザーの目線に立ち、じっくりとチューニングするフェーズに入っているのですね。

ユーザー目線でプレイするスタッフのおかげもあって、単純に批判が多い部分はある程度把握しています。考えがブレてしまうと修正案の数だけが増えてしまうので、チーム内から出てきた意見を信じて運営していきたいです。分かっているところは今後もチューニングを続けますし、ユーザーが本来感じてもらうべき未知の魅力をどう伝えるかも重要なミッションだと思います。


――:考えがブレないのは、成功の秘訣でもありますね。

こうすれば絶対成功する、という秘訣はわかりません。ただ、私たちには、それ以外の成功のしかたを知らない、という言い方が正しいかもしれません。過程が辛くても、それで向かう方向を変えたりせず、目標へ向かって突き進んでいこうと決めています。


――:分かりました。本日はありがとうございました。
 
(取材・構成:編集部  原孝則@hara_tatsu
(文:ライター  ユマ)
 

■ミクシィ
 


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会社情報

会社名
株式会社MIXI
設立
1997年11月
代表者
代表取締役社長 木村 弘毅
決算期
3月
直近業績
売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2121
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