【インタビュー】キャラクターや世界観を生み出すイグジス 大事なのは「デッサン」よりも「魅力的に描く」こと プラスアルファの提案ができることが強み


ゲームにおいても、世界観や個性を表す術として、イラスト表現は重要な要素といえる。いわゆる「美麗なイラスト」だけではない魅力がユーザーからは求められてきているのではないだろうか。

Exys(イグジス)株式会社はそういった世界観やキャラクターの個性などを生み出す事を大事にしている会社だ。クリエイター陣の制作環境にもこだわりをみせている。

今回「Social Game Info」では、同社の制作チームの最前線でイラストレーター、ゲームグラフィッカーとしての業務を担当している森本晴香氏(写真右)と安積克豊氏(写真左)にインタビューを実施。イラストレーター、ゲームグラフィッカーとして業務に携わることの魅力や面白さなどをうかがった
 
 

■プラスアルファの提案ができる信頼関係を顧客と築けていることが強み


――:よろしくお願いいたします。それではまずは現在のポジションやご担当されている内容を教えていただけますでしょうか。

森本氏:私は第2回目のインタビューに登場した比嘉と同じ案件に携わっていて、そのチームのリーダーをしています。ただ、リーダーとしての役割を果たしつつ、現場でもキャラクターのラフとか線画とかをプレイングマネージャーのような感じで描いています。

安積氏:自分も森本と同じ案件に携わっているのですがキャラクターではなく背景画をメーンに担当しています。元々はアニメ系の背景を描く会社に勤めていました。


――:そもそもお2人がゲームグラフィックを描くイラストレーターになられたきっかけとか、経緯とかを教えていただけますか?

森本氏:私の場合はイグジスが初めての会社ということで、美術系の大学から入ってきたのですが、純粋に今までやってきたことを活かす仕事をするためには何が一番良いかということを考えた時に、これからの時代はゲームかな、という気持ちがありました。それなら、フリーでやるよりも、社会に身を置いて会社の中で描いていくというのが一番流れに乗って活躍していけるのではないかと考えて、グラフィッカーとして働こうと思いました。

安積氏:自分も美術系の大学を出てまして、漠然と絵で食べていこうと考えた時にいくつか選択肢があったのですが、メディアの一線で戦っていこうと思いました。そこで純粋に絵が描けるということで、まずは先ほどお話したアニメの背景会社に入りました。そして、ゲームのコンセプトアートとかも好きだったので、今度はゲーム業界の方で働いてみたいと思い、1年くらい前にイグジスに転職しました。


――:お2人はそれぞれキャラクター、背景と担当するものが違うかと思うのですが、グラフィッカーという仕事について教えていただればと思います。

森本氏:やはり適正みたいなものはあって、キャラクターを魅力的に描ける人であったり、背景の繊細な描写とかをうまく表現できる人であったり、色使いがほかの人が持っていないようなものを持っている人というのが多種多様に居ます。そういう自分の得意分野を担当する人たちが集まって、組み合わせていくことで一枚のいい画面を作っていきます。

特にイグジスでは分業をやっているのが特徴的なので、そうやっていろいろな人を合わせることによって自分一人だけじゃない力が出せるという感じです。


――:分業ということですが、だいたいどのくらいのチームで1つの案件を担当しているのでしょうか?

森本氏:私のチームは20人ちょっとくらいで、その中でキャラクターと背景に分かれていて、さらにキャラクターの中ではラフ、線画、着彩というように分かれています。そこにリーダーが居て、専任の担当者が自分の得意分野を担当しています。

だいたい分業になるので、依頼が来るとその専任の人が担当することになります。例えば背景の場合は安積に声がかかる感じです。

安積氏:背景は、うちのチームだと今は6人が担当しています。イグジス全体で十数名いますね。

森本氏:もともとはキャラクターだけを描く依頼が多かったのですが、2年前くらいにスチルとして一枚絵の依頼を受けたくらいから背景を描く案件も増えています。


――:安積さんは1年くらい前にゲーム業界に入ったとのことですが、入ってみて感じたこととかはありますか。

安積氏:今、携わっている案件はカードイラスト系で、アニメの背景と結構似ています。決められたシーンがあって、こういう風に描いてくださいという指示を元に当てはめていきます。アニメの作品に入る時に舞台設定を描いたボードみたいなものがあるのですが、それをやっているのと近いイメージですね。

ただ、そういったカードイラスト以外で別の案件も担当していて、自分でこう、ゼロから生み出していくというか、設定から世界観からを一から作っていく案件もあるんです。

アニメは結構、原作もあったりするので世界観や設定がしっかり決まったものが来る感じだったので、自分から発信していくというのはすごく面白いですね。そういった部分はアニメの背景とは全然違ったやりがいがありますね。


――:外部からの依頼の案件というのは文章とかで指示がきたりするのですか?

森本氏:そうですね。ただ、画面を作っている中で、ここが寂しいなぁと思ったらこちらから提案をしたりもします。最近ですと、シナリオが送られてきて、構図とかもうちで考えて提案させていただけるようになってきました。

なので、どのシーンを使うとか、どういう角度から背景を入れるとかそういうのもイグジスから積極的に提案しています。そういう時は背景の担当者とも、「ここにこういう要素を入れたいんだけど」というような相談をしながら画面を作っていきます。


――:背景を描く時、特にゼロから生み出すような背景を描く時はどのように考えていたりするのでしょうか?

安積氏:一番多いのは、ほかのデザイナーさんの作品を見たり、映画とかを見たりして蓄積した自分の中の引き出しの中から使えそうなシチュエーションを選んで、それに担当している作品のイメージをプラスアルファして生み出していくみたいな感じです。

先方からいただいた資料をそのまま描いて送り返すと、やはり「予想通りだな」みたいになってしまうので、そこでプラスアルファの何かを提案するというのがデザイナーとしての仕事かなと思います。

そのプラスアルファが先方の意見と合致していたらすごくこちらもうれしいですね。


――:そういった提案もできるのが、御社のゲームグラフィックチームの強みということですね。

森本氏:はい。先方とも密に連絡を取ったり、気軽に相談できるような関係性を構築してきました。長年やってきてそれなりに信頼を得てきていると実感しています。何か提案した時でも『イグジスなら任せられる』というように先方に思っていただけていると感じますので、そこについては自信を持っています。

安積氏:一枚絵について言えば、プロアマ問わず描ける人は多いんです。プロとアマの違いは、納期に間に合わせることができるかとか、自分はこうしたいけど、先方はこうしたいんだろうなということを汲み取れるかどうかという部分も大きいと思います。限られた時間の中でどこまで要素を入れていくか、クオリティを上げるとともに、表現として詰め込む情報量についてはある程度のところで線を引くのがプロの仕事だと思っています。


――:キャラクターを描く時に何かインスピレーションを得るものとかはあるのですか?

森本氏:2年くらい同じ案件を担当していているのですが、そのゲームの運営には歴史があって、キャラクターも個性が際立ってきているので、ゲームをやりこんでキャラの個性を把握するところから始めます。

例えば明るく元気なキャラクターだったら、ほかの明るく元気なキャラクターとかを調べたりして、そのキャラクターはこういうポーズをしているとか、こういうシチュエーションで、こういう笑顔でとか、そういうのを参考に考えたりもします。

それと、例えば女性をターゲットにしたゲームの場合なんかは、カッコ良く、女の子が好きそうなというのを大事にするので、ファッション雑誌やアイドル雑誌とかのイケメンが登場する雑誌を見てポーズを参考にする場合もあります。


――:背景でもファンタジーとか、自分の知らない世界を描いたりすることがあると思うのですが、そういう場合はどのようにして考えていますか?

安積氏:主に資料を取り寄せたりして対応していますね。ただ、ヨーロッパの資料は本とかでもあるのですが、例えば東洋系ですと一般の家庭の間取りがどうなっているとか、トイレはどんな感じとか、食器はこの時代は何を使っていたのかとか、あっているのかどうかを確認することができなくて…。そこをそれらしく描けることが重要な気がします。フワッとした指示で作業が回ってくると、リアル系でいくのか、デフォルメでいくのか、ファンタジー要素を強めるのか、いろいろと考えますね。

コンセプトアートを作る時なんかは非常に絵画的な作業を必要とするので、美術的な要素や建築に関する要素も取り入れていれるんです。そういったリアルなものからデジタルなものを起こすという側面がありますね。常にいろいろなものを見ておくと、クライアントがこういう絵がほしいと言った時に、「あぁ、あの感じの絵ですね」という風に提案できたり、理解できたりします。


――:第2回のインタビューで出たお話なのですが、描くときにリアルとフィクションの表現を織り交ぜてみたいなお話がありました。実際にグラフィックを描く上で注意しているポイントなどはありますか?

森本氏:一応、人間を描く時には写真とかを撮って整合性とかを確認したりはするんですが、画面上ここに手をもう少し大きくしておいた方がカッコ良く見えるとか、ちょっと実際にはできないけど、このくらい体を反らせた方がカッコ良く見えるポーズとかはあります。

そういったものの方が人目を引きやすかったりするので、少し大げさに表現するデフォルメはあります。あまりにもデッサンが崩れるとかはない範囲で入れているという感じですが、異様にジャケットがなびいていたり、そういったところはカッコ良さ重視で描いています。

安積氏:背景を描くにはかなりいろいろと資料を集めています。例えば、遠近感を出すにしても「なぜ遠くに行くと空の色に近づいていくのか」とかを分かっていないで真似して描いただけだと、絵がおかしくなってしまった時にどうしておかしいのかということに気づけなかったりします。

すごく限定的な話になってしまうんですが、例えばアニメの背景というのはみんなキャラクターをメーンで見てて、一瞬で消えるカットもいっぱいあるので気にとめないんです。しかし、そこで明らかにおかしい背景だと気になって逆に印象に残ってしまうんです。なので、骨格からしっかりと考えていったほうがいいですね。


――:なるほど、絵を描く上で論理性が求められるんですね。

森本氏:割と頭と目でやる部分が多い印象です。だから手を動かすことも大事なんですけど、情報のインプットがすごく大事で、そのインプットをそれが何故なのかを考える時間と、理屈に基づいて自分で形にする時間も必要だと思います。

安積氏:例えば、絵の画面全体があるとして、パースを引くときに消失点や水平線を数学的に割り出すことは可能なんです。ただ、それだけではなくて、そこにプラスアルファの表現を経験則で入れていかないと機械的になってしまうので、そういう部分はデザイナーの腕の見せ所です。

街の俯瞰を描く時に一つ一つの窓や屋上を省略せずに細かく書き込めばいいというものではなく、それだとまたおかしなことになってしまうので、ここは描いてここは描かないみたいな取捨選択が必要だったりします。

森本氏:人によってはすごく真面目で、丁寧で、画面全部を埋めないと満足できないという人も居るんですけど、どこか抜いておいた方が注目どころが分かって良くなるということはありますね。何を一番見せたいのか、どこを見せたいのかということを考えながら描いた方が効率も上がるし、いい画面が作れると思います。


――:実際に自分の描いた絵をゲームの中で見た時にはどういう気持ちになられるんですか?

森本氏:感動しますね。あんなに頑張って描いたものがこんなに綺麗にリリースされたんだと。それは自分だけの力じゃなくて、周りの人が着色をしてくれていたり、背景を綺麗に描いてくれたから1枚の画面としてすごくいいものができたんだと感動します。

安積氏:見せカットという例えばアニメの冒頭シーンで町の俯瞰を見せたりするような背景メーンのシーンがゲームで綺麗に決まっていると描いて良かったなぁと思います。


――:自分の描いた絵が世に出て人の目に触れることはやはり大きな喜びだったりするんでしょうか。

森本氏:人の目に触れて、ユーザーが喜んでいるというのを見た時にさらに実感するというか、醍醐味を確認できます。作業自体楽しいんですが、リアクションが確認できたことでそれが増すという感じです。

安積氏:メディアに出て反応があるとモチベーションにつながります。

森本氏:いい反応でも悪い反応でもそうで、悪い反応だと次はもっと良く描こうみたいな感じにはなりますね。ユーザーがカッコ良いと思ってもらえるものを第一に考えなきゃなと。

生み出すことは結構苦しい部分もあるんですが、世に出た時に頑張ったものがこういう形になったんだなという喜びがあります。


――:ユーザーの反応ということですが、最近はゲームのクオリティ上昇やリッチ化が進んでいてユーザーの求める水準が上がっていたりしますか?

森本氏:プレイヤーさんは本当に目が肥えていると感じるので、自分が描くキャラクターもマンネリ化しないように表情とか手付きとかに工夫を取り入れてみたりはしています。ただ、根幹の部分は結構揺るぎなくって、昔からある王道とかはそこまで変わってはこないので、そうしたものも大切にしています。

あまり古臭くはならないように、でも王道からは外れ過ぎないようにバランスは大事にしています。

安積氏:背景も流行りの絵というのは結構チェックをしていますよ。後はキャラクターのシチュエーションでリアルテイストだったり、可愛いテイストだったりとか、そういったところはシナリオを読んで判断しています。

 

■大事なのは魅力的に描くということ、演出力や構成力が成長のポイントに


――:もしゲームのキャラクターデザイナーとして働きたいと思っている人が同じチームで働くことになるとしたら、どういうことを覚えていってほしいというようなポイントはありますか。

森本氏:まずは案件のゲームをしっかりやりこんでもらって、キャラクターの個性をつかんでもらいたいです。このキャラクターはこのポーズはしないとか、そういうところをつかんでもらって、それでさらに自分の持っている個性を発揮してくれるといいかなと思います。

デッサンうんぬんよりも魅力的に描くということ、演出力とかを磨いていってくれるといいですね。ただ絵が描ければいいというわけではなく、演出とか汲み取り能力、構成力を鍛えたらこの人はもっと良くなるのになぁって思うことはありますね。逆に絵はまだ直さなきゃいけないけど、この人の持ってくるこのシーンいいよねって思う人もいます。

安積氏:背景は今は描ける人がほしいですけど…


――:なるほど(笑)

安積氏:入ってきて、吸収力がある人がいいですね。教えなくてもどんどん調べていくみたいなタイプの方が吸収できる量が違います。教えたことの8割くらいできるタイプと、また全然違うものを加味してくるタイプでは、後者の方がその提案の積み重ねで成長速度が全然変わってくると思います。

最初は多少下手でもやる気の部分は大きいのかなと。上手くなりたいというのもありますし、この作品をもっといいものにしたいという気持ちもありますね。


――:実際にこういう人材にチームに加わってほしいというようなイメージとかはありますか?

森本氏:絵を描くことが好きで、ちゃんと自分で向上心を持っている方がいいですね。頑固でも別にいいです、修正指示さえ聞いてくれれば(笑)

個性派でも全然大歓迎です。

安積氏:絵を描いて食べていきたいなという方は多いと思うんですけど、業界に入った時に食べていくというのは大変で、会社に入ってしまえばゴールというわけではないと思っています。生み出すことは苦しい部分もありますが、その苦しみを楽しむことができるといいですね。苦しんだ分、実際に作品を作り上げた時の喜びは大きいですから。

森本氏:コミュニケーションをとるのが好きな方が来てくれるといいなと思います。人と何かを一緒に作りたい、そういう方が来てくれるとうれしいです。

割と一人で絵を描いている方は多いと思うのですが、チームで描くこと、ゲームを作り上げることはクリエイターの新しいステップを登ることになると思いますので、ぜひ一緒に作りたいという方が来てくれるといいですね。


――:どうもありがとうございました。

 

今回は、制作チームの最前線で実際にキャラクターや背景のグラフィックを描いている森本氏と安積氏に貴重なお話をうかがうことができた。Exysでは、そうした現場で、ともに働く人材の採用を強化しているとのこと。特に自分で作品を生み出していけるようなアイデア溢れるクリエイターや、これからもっと成長したいと考える成長意欲に溢れるイラストレーター、漫画家など積極的な採用を考えているという。
 
(取材・文:編集部  柴田正之)


 

Exys 採用ページ



 
Exys株式会社
http://www.exys2008.com/

会社情報

会社名
Exys株式会社
設立
2008年2月
代表者
稲冨 正博
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