【インタビュー】パラメータの変化にも試行錯誤 『ファントム オブ キル』大規模アップデートにプランナーチームはどう立ち向かったのか


Fuji&gumi Gamesは、本格シミュレーションRPG『ファントム オブ キル』(以下、『ファンキル』)において、新たな企画にあたる「プロジェクトZERO」をスタートさせた。
 
本格的なシミュレーションRPGとしてリリース当初から安定した人気を獲得してきた本作。今回の「プロジェクトZERO」では、コンセプトフィルムやVR体験といったゲーム外への取り組みが高い注目を集めている。一方のゲーム本編にも、大型アップデートとして「地上編」が追加された。これまでのシステムを踏襲しつつもやりごたえのあるステージを用意。既存のユーザーにとっても未知の体験を提供している。
 
本稿では、本作でディレクション・プランニングを担当している高橋英氏と富田裕介氏へのインタビューを紹介する。現在のゲームバランスになるまでの道のりや今後の展望、さらには攻略のためのアドバイスまで、さまざまな質問をぶつけてきた。
 

「プロジェクトZERO」特設サイト


 

■タイトなスケジュールの中で生まれたやりごたえのある「地上編」




株式会社gumi Studio gg2
『ファントム オブ キル』ディレクター
高橋 英 氏(写真右)
富田 裕介 氏(写真左)


――:本日はよろしくお願いします。まずはお二人の担当業務から教えてください。

高橋英氏(以下、高橋):僕は『ファンキル』でマップの作成など、レベルデザインに関わる部分を担当しています。今年に入ってからはスキルやユニットの数字周りも全体的に見て回るようになりました。

富田裕介氏(以下、富田):『ファンキル』開発チームでは一番古くからいるメンバーでして、全体的なディレクションや進行管理を担当しています。何でも屋という言い方でもいいかもしれません。


――:今回の「プロジェクトZERO」は非常に大掛かりな取り組みですが、ここまでに至るまで、お二人はどういったフローを重ねてきたのでしょうか。

高橋:今回のアップデートのメインは「地上編」の開発であり、その中でも今泉(『ファントム オブ キル』プロデューサーの今泉潤氏)の頭にあるものを具現化することが大きな目標でした。

参加した直後、すでに今泉の中には明確なビジョンがあり、それを全員で作り上げていきました。そのイメージをどんな形でゲームに落とし込むのか、あるいは実現可能なのかを、事細かにミーティングして引き出すことが最初の業務でした。イメージが形になり、具体的に動き出したのはほんの数カ月前のことです。
 


富田:根本のゲームシステムはもともとの『ファンキル』と同じなので、ミーティングでは既存のシステムを使ったうえで、どういう遊ばせ方を提供するかを話し合っていました。その中で、新キャラクターやストーリー、それに合わせたボイスの収録もあったので、思えばかなりタイトなスケジュールでしたね。

高橋:特にストーリーはギリギリまで突き詰めて良いものに仕上げていきました。それでも展開上出てこないキャラクターも生まれてきて、そうなるとゲームバランスも変わってくるという繰り返しでした。すべて並行での作業だったので、難しさはありました。


――:ストーリーはもちろんですが、ゲーム体験としても新しいものにしなければいけなかったと思います。ここでの苦労もあったのではないでしょうか。

富田:たしかに、当初「地上編」は売り切りでの販売にして、ガチャに頼らないゲーム設計にする案もありました。最終的には無料で、幅広いユーザーに遊んでもらえるゲームバランスを提供する形にしました。

高橋:「地上編」はユーザー様が手にするユニットがある程度決まっていて、詰将棋感覚で楽しむことができます。ゲームシステム自体は同じですが、よりストイックに遊ぶことが可能です。

《「地上世界編」のゲーム概要》
世界樹ユグドラシルに分断された「天上」と「地上」の二つの世界――伝説の武器の名を持つ“キラープリンセス”と呼ばれる謎の少女達と出会い、失われた記憶を探し、共に成長していく物語が描かれる「天上世界編」――。好きなユニットを仲間にし、好きなだけ育てられる自由度の高い今までのゲームシステムに加え、 新たなゲームモード「地上世界編」が登場する。

“キラープリンセス”に加え、“キラーメイル”と呼ばれる男性ユニットが登場。悪魔が支配する弱肉強食の荒廃した世界で人類の抗いが描かれる。「地上世界編」は全てのユーザーが「同じ条件」の下、 限られたユニット、 武具、 アイテムで思考の限りを尽くして挑戦する「AP消費なし」の新ストーリーモード。

ユニットは物語を進めることで加入・脱退し、傷つき倒れた仲間は戦場に復帰することはできず“ロスト”する。 仲間を守るために緻密に戦略を練り、 パラメーターを確認して、 ダメージの計算をしながら誰一人失うことなく物語を進められることができるのか? 仲間を守る使命感から生まれる緊張が物語をさらに盛り上げる。
 

 
 



――:お二人ともゲームバランスという点に注意して開発を進めていたのですね。

富田:開発現場で実際に調整を行ったのは高橋のほうですね。僕はどちらかというと、高橋に負担が掛からないよう、「天上編」のアップデートを中心に作業を進めていました。開発チームの中でも、天上編と地上編ともに円滑に進むようタスク分散をしていました。


――:なるほど。地上編のシステムについてお伺いしたいのですが、倒れた仲間が復帰できずロストするというのは、かなり思い切った点だと思います。

高橋:ロストは最後まで迷った部分です。個人的には設計段階からロストは構想に入っていたものの、「ロストはやりすぎじゃないか」という声が社内からありました。やはり今まで天上編をプレイしていたユーザー様と、なによりスマートフォンでゲームをプレイするカジュアル層がロストを受け入れられるのかが大きな懸念でした。


――:しかし最終的には実装することになったわけですが、なにか決め手になったことはあるのですか。

高橋:そこはひたすら各セクションのスタッフを説得しました。ひとつのゲームですべてのユーザー様を満足させるのは難しく、初心者と上級者、どちらかに寄せる必要があります。そこで僕は、基本的に初心者向けにアプローチしながらも、上級者の方々が自分たちでハードルを設定できることを提案したのです。そのひとつがロストであり、上級者の方は1人もロストさせずにクリアするなど、その人なりのプレイに幅が生まれます。逆に初心者の方からするとロストは厳しいかもしれませんが、ストーリーを進めればどんどん新しい仲間が加わるように調整しています。


――:仲間がロストすると、ゲームにはどのような影響があるのでしょうか。
 
高橋:ロスト以降の戦闘に出せなくなるだけで、シナリオに影響をおよぼすことはありません。

富田:クリアした後に、先に進むかやり直すかを毎回確認するようにしています。もしもお気に入りのキャラクターが戦闘不能になったときは、なんどでもやり直すことが可能です。レベルの上がり方も戦闘内容によってさまざまですし、納得のいくまで遊んでくださいというメッセージですね。どう判断するかはユーザー様に委ねられます。極端な話、最初に主人公以外のキャラクターを全員戦闘不能にして、ソロプレイに徹してもいいわけです。


――:ユーザー様からの反響はいかがですか。
 


富田:「手ごたえがあって面白い」「高難度のシミュレーションRPGを待っていた」というポジティブな意見もあれば、「難しすぎる」という意見もあります。どちらかに偏っているのではなく、ちょうど半々といったところです。

高橋:印象的だったのは、男性キャラが入ることに不安を持っている人が意外と少なかったことです。やはりもともとの作品が女性キャラメインでしたので、そう思う人が多いのではないかと思っていたのですが、いざ蓋を開けてみると、違和感なく男性キャラを受け入れてもらえたようで、安心しています。


――:ユーザー層に関してはいかがですか。

富田:年齢に偏りは見られず、若い方からファミコン世代の方まで幅広いです。リリース当初は、やはり20代から30代の方がメインになるかと思っていたのですが、コア層を中心に広がりを見せています。男女比で言えば圧倒的に男性のほうが多いです。ここは地上編を機に変わってくるかもしれません。


――:今後もアップデートを続けていくと思いますが、その中で新しい要素を追加する可能性はあるのでしょうか。

高橋:今後はユーザー様同士の繋がりを強化していこうと考えています。一人で楽しんでいただけるものはリリースからいままでつくってきましたので、今後はユーザー様同士のコミュニケーションを重視しようと。マルチ対戦などはその一環ですが、現在はギルド機能の開発を進めています。ギルド自体は他のアプリなどで体験されているユーザー様も多いと思いますが、コミュニケーションツールとしてもゲームとしても面白いものになると思います。実際コミュニケーションの機会を望むご要望は多くいただくので、それにギルドという形で応えられればいいな、と。


――:モバイルでシミュレーションRPGはまだまだ少ないですが、開発時に気を付けている点はありますか。

高橋:画面内に数字を詰め込みすぎないことは意識しています。情報量が多くなればそれだけ複雑になってしまい、テンポも悪くなります。こうなるとスマートフォンアプリ最大の長所である手軽さも失ってしまいます。運営を始めてから現在までで、表示するデータは1、2個くらいしか増やしていないです。



富田:各ステージの目的や、プレイ時間は特に意識しています。シミュレーションRPGは1プレイが長くなりがちですが、ユーザー様の中には電車の中で少しだけプレイしたい方もいます。ですから、1プレイ5分で終わるステージもあれば、長時間じっくりと楽しめるステージまでを数多く提供するように心がけています。また、時間の掛かるステージについても、「ここに気づけば簡単にクリアできる」という要素をひとつは入れています。


――:操作面については、なにかこだわりはありましたか。

富田:ストレスなく指が動くようにインターフェイスもこだわっています。画面の下部分にボタンを集約させて、アイテムなどをいつでも選択できる点もこだわりのひとつです。ただ、最近は端末も大きくなってきたので、ユーザー様ごとに自由な形でプレイしていただければと思っています。

 

■洗練されたゲームバランスは、地道な作業の繰り返しで実現


――:実際にプレイしてみたのですが、みなさんが話す通りかなり難しいですよね(笑)。攻略のうえで気をつけるポイントなどはありますか。

高橋:出撃準備画面でユニット情報を見ると、ユニットのパラメーターやスキルなどさまざまなデータが見れます。それをひとつも見逃さず、組み合わせて考えることで打開できるポイントが見えてくるはずです。天上編でも、敵と味方の配置だけをチェックして、数字の部分を見逃しているユーザー様はかなりいました。富田も言う通り、打開できるポイントは必ずひとつは用意しているので、見つけ出すことがカギになります。僕たちは、攻略のポイントに気づいた瞬間の楽しさを大切にしています。

富田:地上編では2ステージ目がいきなり難しく、すでに「クリアできない」と仰るユーザー様も見受けられます。しかし、ステージ2で言えば敵を全員倒そうとして詰まっている方が多い、というデータも出ています。本作は敵を倒す以外にもクリアの条件は存在します。それをしっかり把握し、最短距離での達成を意識すると楽になると思います。また、敵を倒す順番にも気を付けることも大切です。近距離にいる敵は防御力が高いケースもあるので、誰を倒しにいくかの見極めですね。


――:情報を把握して、慎重に手順を見極めていくのは、昔ながらの攻略法といった印象です。

富田:何度も繰り返せるので、1マス移動するごとになにが起こるのかをいろいろと試してみるのもいいかと思います。あるいは、ひとまず1周クリアしたら、2周目ではこだわりを持ってプレイしてみるのもいいですね。

高橋:天上編やほかのソーシャルゲームの場合、ステージ攻略の最適パーティと言われても、ガチャで獲得できないなどの理由で組めないケースもあるかと思います。地上編に関してはすべてのユーザー様が共通のユニットを入手できるため、不平等な要素は排除できています。どうしても難しいと感じた人は、攻略サイトをなぞるプレイでもいいと思っています。


――:ちなみに第一章をクリアすると、なにか特典がもらえるのですか。

高橋:現在は第1章の1話と9話をクリアすると天上編で使用できる姫石などの特典が貰えます。 

富田:さらに今後第二章、第三章が配信されたときには、武具を天上編に送れるなどの要素は考えています。


――:天上編とはバランスがまったく違いますし、作るうえでの難しさは感じませんでしたか。

高橋:たしかに、天上編とは作り方がまったく違います。パラメータが1変わるだけで全体のバランスが変わります。あるステージではパラメータの変更が功を奏しても、以降のステージでは逆にバランスが悪くなってしまうパターンもありました。なので、些細な変更であっても全体を作り直す作業を繰り返しました。


――:シミュレーションRPGのシステムも単純ではないですし、そこは試行錯誤の連続だったのですね。

富田:テストプレイをしては数字を1だけ直して、という作業を何度も繰り返しました。天上編よりもやりごたえがあり、なおかつ多くのユーザー様が楽しめるギリギリのラインを見つけ出すにはかなりの時間が掛かりました。


――:ストーリーも重厚で、映像の演出にもこだわりを感じました。この辺りでも、地上編ならではの苦労があったのではないでしょうか。

富田:世界観を描くことは以前から強く意識していたところです。「プロジェクトZERO」に合わせて制作されたコンセプトフィルムもその一環ですね。とはいえ、ゲーム内のイベントをすべてムービーにするわけにもいかず、会話のみで構成するストーリーパートの部分もあります。ムービーであれば動きを大きくできますが、そうでないところはストーリーパート内で、なるべくムービーに近い表現をするようにしています。 


――:ストーリーが重厚になれば語るべきことも増え、会話も長くなっていくと思います。しかし、増えすぎるとテンポが悪くなる可能性もありますよね。

富田:ええ。ストーリーのボリュームは、天上編とは全然違いますね。登場人物の数からして圧倒的に多いですし、テキストの量も増えました。また、世界観に合ったステージ構成にすることは事前に決まっていたため、敵から逃げるストーリー展開になったら、次のステージは目的地への到達をクリア条件にしたり、戦闘と物語の連動性も意識する必要がありました。


――:今後「プロジェクトZERO」が始まると、天上編と地上編の2ラインが動く形になりますよね。そうなると、アップデートのタイミングにズレは生じますか。

富田:理想は同時ですね。今泉が言っていたように、物語を描ききるために開発スピードを上げていきたいと思っています。今後のストーリー展開も期待してください。


――:今後『ファンキル』をどう成長させていきたいか、展望があれば教えてください。



富田:地上編は天上編と切り離れたパートになっているので、天上編を楽しんでいた人が、そのまま引き続き楽しめることを大切にしていきたいです。また、天上編もアップデートを行い、今までの資産を無駄にしないよう努力していきます。

高橋:計画としては数カ月先まであり、その時々で出来るものは全て詰め込んでいますが、新しいアイデアを思いついたらすぐに取り入れていきたいです。また今まで以上にユーザー様の声や、自分自身が面白いと考えたものをゲーム内に落とし込んでいきたいです。ストーリーで言えば、男性キャラの日常を語る場面は導入したいと考えています。天上編では女性キャラクターがメインだったので、男性の個性を深堀りする機会はいつか作りたいですね。


――:お二人が業務の中で、プランナーとして意識していることはありますか。

富田:シビアなゲームバランスやデータ設計は高橋が得意なので、僕は逆にゲーム内で、おもしろいことを盛り込むようにしています。ニコニコ生放送でネタを募集したり、許される範囲で笑えることを試していますね。ユーザー様からはさまざまな案が飛び出してきますが、その中でも一際個性的な敵デザインやスキルを採用しています。また、スキルの説明に関しても、普通は固い口調で「力が5上がる」となるところを、少しふざけた口調に変えてみたり(笑)。遊び心からくるワクワク感もあると思うので、そこは大切にしていますね。

高橋:プライベートでのインプット、仕事でのアウトプットは常に心がけていることです。音楽や映画、スポーツなどに触れるとき「なんで面白いんだろう」と考えるようにして、その面白さが『ファンキル』に入ったらどうなるかを考えています。ジャンルは違っても面白いと感じた要素を仕事にアウトプットすれば、新しいものが生まれると考えています。頭で考えた面白さより、実体験のほうが説得力もあると思います。


――:ここからは採用面についてもお聞かせください。現在、プランナー職で求めている人物像はありますか。

高橋:僕はゲームの数値化を行っているので、面白さを数値化できる人、そしてしっかり説明できる人を求めています。面白さって人それぞれで、感覚によって違ってきますよね。そこをロジカルに伝えられる人だと、現場での影響力も強くなり、仕事もしやすくなると思います。

富田:エンタメ業界なので、周りを巻き込める人というか、発言に説得力があることが重要です。ゲームを作るとき、なにをすれば面白くなるのかを伝えられたら、一緒に仕事して楽しいと思えるはずです。
 
そしてもうひとつ、ゲームを作ることが好きで、それを共有できる人です。開発現場でも、新しいスキルを実装したときや、些細なバランス調整を施したときに気づいてくれると、とても嬉しいものなんです。これができるのはゲーム作りが好きな人だけだと思うので、ぜひ来てほしいです。



――:本日はありがとうございました。

(取材・構成:編集部 原孝則)
(文:ライター ユマ)


 

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株式会社gumi
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会社情報

会社名
株式会社gumi
設立
2007年6月
代表者
川本 寛之
決算期
4月
直近業績
売上高120億6600万、営業損益50億4000万円の赤字、経常損益45億1400万円の赤字、最終損益59億3400万円の赤字(2024年4月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3903
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会社情報

会社名
株式会社Fuji&gumi Games
設立
2014年1月
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