ゲームと学習に関する研究・開発・実践を支える学術研究ユニット「ルディックス・ラボ(Ludix Lab)」は7月13日(水)、ゲームの企画に携わる人材教育を題材したトークセッション『Ludix Lab公開研究会:「人を育てるゲームプラン」の組み立て方』を東京大学本郷キャンパスにて開催した。
今年度第1回となる本イベントでは、セガ、DeNAでゲームプロデューサーを歴任し、広くゲーム開発人材育成で活躍されている馬場保仁氏と、『ルールズ・オブ・プレイ』翻訳者で、大学や企業等でゲームデザイナー教育に長年取り組まれている山本貴光氏がスピーカーとして登壇。2人の最近の取り組みから、ゲームの企画やゲームデザイン発想のできる人材を育てる「ゲームプラン」の考え方や組み立て方について議論した。
本稿では、イベントの様子をレポートしていく。
■就労者と企業側の意識格差
会の冒頭に、主催者のLudix Lab代表である藤本徹氏(東京大学 特任講師)より、この研究会の趣旨として、ゲームプランナー人材育成の現状や教育の取り組みについて、異なる教育分野の視座から捉えることで、参加者それぞれの分野の教育活動に役立つ新たな知見を得ることや、業界の枠を超えた連携の可能性を模索する機会としたいと説明があった。
その後、馬場氏より「ゲーム業界の現状と求める人材」というテーマのもと、トークセッションが開始された。
▲馬場保仁氏
現在、常に人手不足とされているゲーム業界。毎年、全国の大学・専門学校から業界を志す学生は万単位で後を絶たないが、何故か就職難であるという不可思議な状況に陥っている。
その理由は「企業が求めているレベルと、学生のレベルの不一致」にあると馬場氏は指摘した。学校側は業界が真に求めているモノを知らない、企業側は技術やナリッジがブラックボックス化しており表に出さないことが問題だという。
なかでも日本におけるゲームプランニングはフレームワークそのものが表立っていないため、学校においてもモノや企画を考える環境が非常に少ない状態にある。そのゆえに、前述の齟齬が生じてしまうのだ。つまりは、企業と学校の両者が歩み寄り、力をあわせないといけない、そこへのブリッジが今、求められているということだ。
次に氏は、業界を志す主なリソースについて触れた。ゲーム業界を志す方の約9割を占めるのが大学生と専門学校生である。大学生はゲームについて学べる機会が圧倒的に少なく、自信がないという方が多い。
ただし、サークル活動でゲームを作る、ロボティクスやVRなどのゲームに近い知識・経験を積むなどで、業界への挑戦意欲が沸いてくるパターンもある。さらに、スマートフォンを日常的に使用し、子どもの頃からゲームに触れている世代からこそ、まったく新しいモノを生み出す可能性があると希望も示した。
また、専門学校に関しては、全国の都道府県に設立されているものの在学期間が個々で異なり、学ぶ期間の短さから質の不足状態に陥ることもあるという。だが、長期制の学校が設立し始め、学生が一般向けのコンテストへ積極的にエントリーし、大海を知ろうとケースも増えている。厳しい現状もあるなか、確かな希望の兆しもあるようだ。
これらの現状を踏まえた上で、企業や業界全体がどのように意識すべきか。氏は「育成」を前提に採用しなければいけないと結論づけた。ゲームはクールジャパンのカテゴリから除外されていることもあり、学校、業界や業界団体であるCESAの協力が急務である。また、かつて前線に居た方たちがセカンドキャリアとして教える側に周ることも重要だとしている。そのために、その橋渡しや、そもそも学校で何をどう教えるべきか、しっかりとした土台作りを今から3年ほどかけて構築していきたいと語った。
■プランナーに必要なモノ
▲山本貴光氏
山本氏のテーマは『「人を育てるゲームプラン」の組み立て方』。まずはゲームプランナーを目指す人やその家族からよく聞かれる質問を、一問一答形式で紹介した。詳細は下記の通り。
Q:ゲームプランナーというのは職業なのでしょうか。売れない芸術家みたいなものじゃないのですか?
A:基本的に会社員なのでご安心ください。
Q:ゲームプランナーになるには、どんな資格をとればよいですか?
A:今のところありませんが、資格を取ればプランナーになれるという発想自体がプランナーらしくないかもしれません。
Q:プランナーになるには、何を学べばよいですか?
A:その問いに悩む時間で作ってみましょう。作れば何が足りないかが分かります。作らないと何も分からないままになります。
Q:ゲームプランナーの育成って、正直いって、ムリじゃないですか?
A:半分はそうです。芸術家を育てるようなものだから。でも、不可能ではありません。誰もが学んで、技術として試せることはあります。
これらを踏まえて、氏は「プランナーの仕事って?」「プランナーには何が必要?」「プランナー、どう育てる?」という3つのお題を提示。
まず、プランナーの仕事とは「ゲームを考えて、作ること」であると答えた。ただし、この言葉は見た目ほど簡単なことではない。というのも、まだ存在しないゲームを頭の中で考え、他人が理解できるようにアウトプットし、説得。そして、いざ開発が始まれば制作、テスト、改善を繰り返し行わなければならない。そこには実に様々な要素があるという。
続いて、プランナーには何が必要か。氏は、大きく分けて記憶・言語・数理・心理・デザインという5つの要素が重要だと説明した。
無からゲームは作れない。アイデアは、自分の中にある知識や経験の組み合わせから生まれる。だから「記憶」が必要になる。そして頭の中にある企画を他者に伝えるには「言語」が、矛盾のないルールを構築するには「数理」が、遊ぶ人の心を動かすには「心理」が、プレイヤーの目や指の動きを誘導する「デザイン」が、という具合に各種のスキルが重要であると説明した。
ゲームを作るということは、「どんなに小さくてもひとつの世界を構築すること」であるという。
その世界においてプランナーは天地創造を行う神様であり、その世界には自分が置いた物しか存在しない。どんな物を置けば訪れたプレイヤーが楽しめるか、飽きずに繰り返し遊べるか。それを考える仕事であるとまとめた。
最後に、プランナーをどう育てるか。いくつかのFAQを紹介したあと、氏は学校側と企業側それぞれの方法論を展開。学校では、講義、制作、個人指導を通じて、立案から完成まで多くの失敗と試行錯誤を重視する。企業では一定の時間を設けて講義やワークショップを行い、制作物の評価、能力評価法の策定が重要であるという。そして、今後は好奇心や実験精神を持ちながら、ものづくりを続けられるプランナーの涵養がポイントだという言葉を送り、当セッションを締めた。
(取材・文:ライター 長戸勲)
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